第2話 |
朝になり、犬夜叉の様子も少し落ち着いたがかごめの事はわすれたままだった。 弥勒達は犬夜叉に今までのあらましを説明したが、やはり、かごめの記憶だけがなくなっていた。 「すまねぇ・・・。思い出せねぇ・・・」 「どうして・・・そんなに簡単に忘れちゃうのよ!あんなにかごめちゃんを必死に守っていたのに・・・」 「・・・。もういいよ・・・。珊瑚ちゃん・・・」 「だって・・・!」 「あたしは大丈夫だから・・・。犬夜叉が無事だっただけで・・・。それにこれ以上、犬夜叉を混乱させたくないから・・・」 「かごめちゃん・・・」 「すまねぇ・・・」 本当に申し訳なさそうにかごめを見る犬夜叉。しかし、返ってそれが辛い。本当に犬夜叉の中には自分がいないことを実感する。 「俺は・・・。お前を守ってたって・・・。俺とお前はどういう・・・」 『どういう関係だったか』 そんなの・・・説明しようがない・・・。自分は犬夜叉のそばにいたい・・・。 “お前に側にいて欲しい” そう言われた・・・。 「犬夜叉は仲間をとても大切にしているから、奈落との戦いですぐドジッちゃう私をいつも犬夜叉が助けてくれていたの。ね!珊瑚ちゃん、弥勒様!」 「えっ。あ・・・う、うん・・・」 「・・・。すまねぇな・・・」 「や、やだ、謝らないでよ。犬夜叉が悪い訳じゃないんだから・・・」 “すまねぇな・・・”やめて、そんな他人行儀な言い方・・・。 いつもみたいにカリカリした犬夜叉じゃない。 いつもみたいな・・・。 「そ、それより、もう少し休んで・・・。まだ・・・熱がさがっていないから・・・」 「ああ・・・。本当にすまねぇ・・・」 だから謝らないでって・・・。 かごめはそう何度も心でつぶやく。これは奈落の罠。犬夜叉から自分を離そうとする罠。そう言い聞かせるが、犬夜叉はかごめを見ていない。犬夜叉の瞳の中には自分は映っていないと実感する。 「ともかく犬夜叉。おまえは一日も早くケガを治すことだ。いつ、奈落が襲ってくるかわからなぬからな・・・」 切なそうなかごめを見ていて珊瑚は改めて奈落に対して深い憎しみを募らせたのだった。 その夜、眠れないかごめは珊瑚と辺りを散歩していた。 「やっぱり眠れなかったんだね」 「珊瑚ちゃん・・・」 少し薄曇りの夜空をぼんやりと眺める二人。 「・・・。かごめちゃん、この花・・・なんて言うか知ってる?」 「え?」 かごめの足下に咲いている小さな紫色の花。珊瑚は1本摘む。 「可愛い花だね・・・」 「わすれな草って言うだよ」 「わすれな草?」 「この小さな花を見て、心配事は忘れなさいって意味が聞いたことがあったけど、逆にね、あなたのことは忘れないって別れる相手に渡したりしていたんだよ。戦なんかで別れたりする男女が想いを込めて・・・」 「あなたのことは忘れない・・・」 わすれな草を見つめている珊瑚はきっとその想いを琥珀にむけているだろう・・・とかごめはおもった。 「・・・。たとえ琥珀が今全てを忘れていても・・・。琥珀は私のたった一人の弟だって事は変わらないから・・・。絶対に!かごめちゃんもそうでしょ?たとえ、今、かごめちゃんの事を忘れていても・・・」 「珊瑚ちゃん・・・」 たとえ、もし、この先、犬夜叉が自分のことを忘れたままでも、犬夜叉の側にいたい気持ちは変わらない。 それは絶対だ。何よりも確かな気持ち。 自分が犬夜叉を忘れたわけではない。犬夜叉と一緒にいる今の自分が何よりも確かで信じること。 かごめもわすれな草を1本摘む。 「ありがとう。珊瑚ちゃん。何だか元気・・・でた。俄然、奈落を倒そうってきもちになった」 「そう!その意気だよ!」 二人がそう誓い合ったせいか、薄曇りのそらはいつしか、黒い雲は晴れていた。 だか、その夜空に1匹の長く白い妖怪が楓の小屋の方角へ飛んでいく。 「あ・・・あれは桔梗の死櫂虫?!」 桔梗が犬夜叉に会いに来た?! かごめと珊瑚はすぐに小屋へと戻った。小屋の前まで来ると既に小屋から、白い、光りで包まれており、大きな結界を張っていた。 小屋の中にいたはずの楓と弥勒、七宝は結界の外へといつの間にか出されていた。 「楓おばあちゃん!みんな!大丈夫?!」 「かごめ・・・犬夜叉が・・・桔梗ねえ様に・・・」 「・・・」 かごめはすぐさま結界へと入っていった・・・。 桔梗の死櫂虫達が眠る犬夜叉を包む。 そして、その美しい巫女姿の桔梗は静かに犬夜叉の髪に触れた。 「・・・」 奈落の言っていた事は本当だったのか・・・。桔梗はそれを確かめにきたのだ。 「犬夜叉・・・。起きろ・・・。私だ・・・」 「う・・・ん・・・」 朦朧とした犬夜叉。それでも桔梗に気がいたのか、その名を呼ぶ。 「き・・・桔梗か・・・?」 「そうだ・・・。私だ・・・」 桔梗は静かに犬夜叉の横に座った。 「桔梗・・・」 「犬夜叉・・・。お前は・・・本当にかごめを忘れたのか・・・?」 「かご・・・め?」 無反応な犬夜叉。 「・・・。やはり本当らしいな・・・。奈落め・・・相変わらず姑息な事をする・・・。だが・・・」 “お前はいずれワシに感謝する・・・” 奈落のセリフがよぎる。 「ふん・・・。誰が感謝などするものか・・・。しかし・・・。今の犬夜叉の瞳には・・・私しか映っていないのだな・・・?」 「・・・」 薬のせいなのかもしれない。犬夜叉の瞳はどこか遠くを見ていた。 その先に見えるもう一人の少女。 かごめ。 桔梗はかごめがいることに気がついているのか、必要以上に犬夜叉と語らう。 かごめはそれを一部始終、見ていた。いや、見せられていたのかもしれない。 全身に嫉妬という醜い感情が走る。 犬夜叉が桔梗を見つめるたびにその衝撃の度合いは大きくなる。 ズキン、ズキン・・・。 痛い。胸が。体が・・・。 何度こんな思いをしたことだろう。 そのたびに嫉妬する自分に嫌悪になってそして傷ついて・・・。 けれど・・・。不思議だ。心は確かにいたくていたくてたmらないのにその奥は・・・不思議なくらいに冷静な自分がいた。 なんだろう。痛みで心が麻痺しちゃったのかな・・・。 「犬夜叉・・・。今は傷を治せ・・・。私はいつもお前を見ているのだからな・・・」 「桔梗・・・」 犬夜叉は桔梗の名を呼びながら再び深い眠りにつく。 そして・・・二人の女が対峙する。 「・・・。桔梗・・・」 かごめと桔梗は複雑な面もちで見つめ合う。そして、桔梗は静かにかごめに矢を向けた。 「・・・。今の犬夜叉はお前を忘れている。ここでお前をひと思いにやれば犬夜叉は・・・」 桔梗の鋭い矢がかごめを襲おうとしている。 しかし、なぜだかかごめは怖くなかった。 いや、むしろどこか、落ち着いた気分だ・・・。 「どうした・・・。怖くないのか・・・」 かごめは静かに微笑する。 「なぜ・・・笑う?」 「・・・。さあ・・・。自分でも分からない・・・。でも・・・桔梗は奈落の罠にひっかかる様な人じゃないと思うから・・・」 「・・・」 桔梗の弓に力が入った。 「・・・。犬夜叉のためならば・・・愚かな女になれると言ったら・・・?」 「・・・」 その冷たいまでに美しく、哀しい目が、桔梗への嫉妬心を溶かしていく。不思議なまでに・・・。 「今の犬夜叉は・・・桔梗が好きだった犬夜叉じゃないでしょ・・・」 「・・・」 「自分の好きな人の本当の姿は絶対に見失わないよ・・・。絶対に・・・」 「・・・」 「かごめさまーーー!!」 外から弥勒達の声がした。桔梗はそのまま、静かに楓の小屋をあとにしていった。 そのすれ違いざま、かごめは桔梗につぶやいた。 “また・・・いつか・・・” またいつか・・・。その先の言葉は何なのか。何を言おうとしたのか・・・。分からない。でも・・・。桔梗の哀しい瞳がかごめの心に残った。 「う・・・」 犬夜叉が再び苦しみだした。かごめは冷たい水でしぼった手ぬぐいを犬夜叉の額に置く。 「犬夜叉・・・」 「き・・・桔梗・・・」 必死に探すようにその名を呼ぶ。 かごめは犬夜叉の手をそっと取った。 うっすらと犬夜叉の瞳は開いている。 そこには、桔梗がいる。しかし・・・何かが違う。 握られた手の温もりは限りなく優しく、そして温かい。 「桔梗・・・」 「大丈夫・・・。犬夜叉・・・。あたしはここにいるから・・・」 その優しい声に体の痛みが和らぎ、そして安らぐ・・・。 「あたしはここにいるから・・・。ゆっくり眠って・・・」 少女が泣いている。誰にために泣いているんだ。その透き通った涙が犬夜叉の顔にポタリと一粒落ちた。 「あたしはここにいるから・・・」 犬夜叉はかごめに手を握られ、ゆっくりと再びまぶたを閉じた。 「あたしは・・・ここに・・・いるから・・・ずっと・・・いるから・・・」 自分を桔梗と呼ぶ犬夜叉。 突き刺さるほどの切なさと犬夜叉の側にいたいという強い想いがかごめの瞳から溢れる。 初雪のように綺麗でそして透き通った涙。 かごめはさっき珊瑚と摘んできたわすれな草をそっと犬夜叉の枕元に置く。 「あんたが忘れても・・・私は忘れない・・・絶対に・・・ 。だから・・・大丈夫・・・大丈夫だからね・・・」 それでも、かごめの瞳から涙が止まらなかった。 そんな切ない気持ちがを弥勒達にも伝わる。 「・・・。かごめちゃんが・・・可愛そすぎるよ・・・。弥勒様・・・」 「・・・。言うな・・・。珊瑚・・・。今は・・・」 珊瑚は切なさに耐えられなくなって弥勒の肩に寄りかかる。 「・・・。犬夜叉の馬鹿者め・・・」 七宝も俯いたままそれ以上なにも言わなかった。 「桔梗姉さま・・・」 楓もただ、そうつぶやくだけ。 “あたしは・・・ここに・・・いるから・・・ずっと・・・いるから・・・” その言葉をそっと包み込むように小屋の前に生えているわすれな草が哀しく切なく揺れていた。 ・・・だああああっ!!辛かった・・・(>_<)。ちょうど、第2話をあの衝撃の日に書いていた途中だったので、もう、アニメの後は、一切書けませんでした・・・。桔梗とキーボード打つのも辛くて・・・。今でも、こんないっちゃんしんどい山場のシーンだったので、こらえこらえ、書きました。 あ、もう、ラストは犬はこんな甘いセリフいわねーぞ!っていうぐらいに甘いこと連発させますんで、ご安心下さい!!サンライズになんて負けないぐらいに・・・!! かごめちゃん・・・きっと犬とのことで、女性的に成長してきた思います。桔梗と犬の事をふまえた上で一緒にいるわけですから、もう、太っ腹!!です!ついでに管理人は出っ腹です・・・(T.T)。そんな覚悟した二人ですから、あっしはどの絆よりも深いとおもっております。結末がどうであれ、一緒にいるって決めたんですから!!18巻・・・確かに犬かごにとっては過酷すぎる内容ですが、でもあれがあったからこそ一層犬かごの絆が深まったのではないかと思います。 |