第3話 |
切ない夜が明け、犬夜叉の体力はすっかりもとに戻っていた。しかし、やはり記憶は・・・。 救急箱から、色々と薬を出す。 ずっと付きっきりで看病していた。 犬夜叉はかごめをじっと見る。 不思議だ。 覚えていない、記憶にないに、この少女が自分のそばにいることが全く違和感を感じない。 というより、『当たり前』にも思える。 「?どうしたの?犬夜叉?私の顔に何かついている?」 「べ・・・別に・・・」 桔梗に似ているこの少女。しかし、桔梗とは全く別人だとなぜだかはっきりそう感じる。 「な・・・なあ・・・。一応・・・かごめ・・・って呼ぶけどよ」 「・・・。『仲間』じゃないの。そんなにかしこまらないで」 仲間・・・。 自分でいっておいて、胸がチクっとする。 だけど・・・今は、犬夜叉を混乱させたくない・・・。今は・・・。 「昨日の夜・・・。ここに桔梗がきてなかったか?」 チクッ。かごめの胸にまた小さな痛みが走った。 「つ・・・。どうして?」 「いや・・・。夢だったのかホントだったのかわかんねぇから・・・。あ、いやしらねぇならいいんだ・・・」 「・・・」 “来ていたよ”と言ってあげたいけど、やっぱり言えない。 昨日の事は“夢”にしておいてほしい・・・。 「ねえ!犬夜叉。あんた、もう、体全然平気なんでしょ?だったら、ちょっと外、遊びに行こうよ!!」 「あ〜?何で行かなくちゃなんねぇんだ。俺は今すぐにでも奈落を探しに・・・って何だよ」 かごめ、犬夜叉をじ〜っと見て、いつもの『合言葉』を。 「おすわり!」 「ぐえっ!!」 「どう?遊びに・・・行く?」 「お・・・おすわり?おい、おすわりって・・・」 「さあ〜!行こう!行こう!」 つぶれた犬夜叉を引っ張っていくかごめ。 「・・・。おすわりって一体なんだ〜!!」 穏やかに流れる川。 川の水がキラキラと太陽に反射している。 かごめは靴を脱いで浅瀬に足を濡らした。 「わ〜。気持ちい〜!ねー!犬夜叉もおいでよ!」 「けっ・・・。んなガキっぽいことできっかよ」 岩の上でつんとすねる犬。 「ったく。そういうピリピリした所は前と一緒なんだから・・・」 そう。犬夜叉は変わってない。私が好きな犬夜叉はここにいる。 「わ〜。綺麗な石・・・」 透き通った水の中の小石をいくつか拾う。 「きれ〜・・・。犬夜叉!色んな石があるよ!」 「ふん・・・。何ガキみたいな事いってんだか・・・」 水に濡れた小石を太陽に当てて見つめるかごめ。 濡れた小石とかごめの澄んだ瞳がキラキラと輝いている。 「・・・」 「ほら、犬夜叉、この小石なんてあんたに似てるね〜」 「似てねーよ!!」 「うふふふ・・・」 柔らかな髪をなびかせて、自分に向けられるあの笑顔・・・。 「・・・」 心の黒い部分をふわりと包んでくれそうなあの匂い・・・。 俺は知っている。このずっといつも側にあったこの笑顔。 俺は知っている・・・。 でも・・・。思い出せない。その存在を・・・。 「どうしたの?何か考え込んじゃって」 「い・・・いや何でもない。なあ」 「なあに?」 「俺・・・。やっぱりあんたの事・・・知ってるのかも知れない。でも、どうしてもあんたと過ごした時間が思い出せないんだ・・・」 「・・・」 「何だかこう・・・。わけわかんねぇんだけど、あんた見てたら・・・何が何でも思い出さなきゃなんねぇって気になって・・・」 「・・・。思い出さなくていいよ」 「え・・・」 かごめは川の中から上がって、犬夜叉の隣に座った。 「思い出さなくていい・・・なくした時間なら、また、これから作ればいい」 「かごめ・・・」 「それにあたし、嬉しいの」 「嬉しい??」 「だって・・・。また、ゼロから犬夜叉との思い出が作れるんだもの・・・。新しいアルバムに一枚一枚写真を貼るみたいに・・・」 「・・・」 この全身があたたまるこの笑顔・・・。思い出したいという気持ちが犬夜叉の中で一層強くなる。 「ねえっ」 「え?」 かごめは犬夜叉に手を差して再び川の中へと誘う。 「行こう!」 「・・・。ちっ・・・仕方ねぇな・・・」 かごめの手をしっかりと握った犬夜叉。 そのまま二人は川の中へ入っていった。 「はい!犬夜叉!」 バシャン! 「ぷ・・・。なにしやがんでぇい!」 「ほれ、もう一発!」 バシャン! かごめ、勢いよく犬夜叉に水をかける。 「あ、こら、バカ、よせってのに!!」 「キャハハハ・・・」 かごめは久しぶりに声を出して笑う。 笑える。 犬夜叉が自分を忘れていても、犬夜叉が私の側で生きている、それだけで嬉しい。 ・・・。ううん。本当は辛い。本音は思い出して欲しい。でも・・・。 でも、私が今一番大切なのは、『今』 過ぎた記憶と時間はまた、つくればいいって、犬夜叉あたしね、そう思ったの。 そうしたら・・・。大分楽になった・・・。 「わっぷ・・・!かけすぎだかごめ!水!」 「あはははは・・・。ごめんごめん。つい、夢中になって・・・。でも犬夜叉、気持ちよかったでしょ?日の当たる場所で過ごすのって・・・」 「・・・。お、おう」 「また、いつか来ようね」 「ま、まあな・・・」 「あ!わすれな草!」 土手にわすれな草が群生している。 かごめは一本摘んだ。 「これ、わすれな草っていうの。犬夜叉にあげる」 「?」 かごめは摘んだわすれな草を犬夜叉の着物の襟の間にはさんだ。 「?何の意味があんだ?」 「内緒★」 “わすれな草はね、相手にあなたを忘れないって想いを込めて渡すんだって” 犬夜叉が私を忘れても・・・。あたしはきっと忘れないから・・・。 「さ、そろそろ帰ろ。みんな待ってる」 「そうだな・・・。!」 その時、犬夜叉はあの一番憎い奴・奈落の匂いを感じた。 「どうしたの?犬夜叉」 「・・・。かごめ。気をつけろ。奈落が近くにいる!」 「!」 犬夜叉はごく当たり前にそして無意識的に、かごめを自分の後ろにやって、守ろうという体勢になる。 「・・・」 かごめは少し、嬉しかった。 「奈落!近くにいるんだろ!でてきやがれ!!」 どす黒い邪気が川の向こうの森から近づく。 そして、奥から奈落の傀儡がすがたを現した!! 「フフ・・・。健気な愛だな犬夜叉。お前の中のかごめの記憶を消してやったというのに・・・」 「・・・。てめえっ・・・!!」 「ところで、桔梗はお前の元へ来たか?せっかくお前達のお膳立てをしてやったというのに・・・。お前はつくづく二股が好きな男だな」 「なっ・・・」 バシュ!! かごめの矢が奈落の傀儡に向かって放たれた! 「奈落・・・。あんた程『卑怯』って言葉が似合う奴はいないわ!!」 「ふ・・・。かごめよ。お前もいい加減に二股かけられるものうんざりだろう・・・。ワシが協力してやろうではないか・・・」 「うるさいわね!今度は外さないわよ!!」 「かごめ!気おつけろ!!」 「フフ・・・。犬夜叉よ。ワシの毒はまだ消えてはいないぞ・・・」 「?!」 奈落はスッとその傀儡の中から手をだし、パチンと指を鳴らした。 「うっ・・・」 犬夜叉の体の中で、何かがドクンとはじけた。 「犬夜叉?!」 「う・・・ぐ・・・ぐ・・・」 犬夜叉はうずくまって苦しみだした。 「ふ・・・。かごめ・・・。昔のあの場面の再演といこうではないか・・・。ワシはここからじっくりと眺めさせてもらおうとしよう・・・」 「何訳のわかんないこといってんのよ!!あんた、犬夜叉に何したの!?」 かごめは犬夜叉をそっと抱きようとしたが・・・! バシッ!! かごめの手をはねのける! 「い・・・犬夜叉・・・?」 「ウ・・・ウ・・・」 犬夜叉の目つきが変だ。 まるで意志のない人形の様な虚ろな目・・・。 「犬夜叉よ、お前の望みはなんだ?桔梗と共に逝くことであろう?そこにいる女はそれを邪魔しているのだ・・・」 「桔梗・・・」 犬夜叉の脳裏に昨夜の桔梗の姿が浮かぶ。 「犬夜叉!!目を覚まして!」 「どうした犬夜叉。その女をやれば桔梗にすぐ会えるのだぞ・・・」 かごめの後ろに桔梗の姿見える。 「犬夜叉!!」 そして犬夜叉は静かに・・・その鋭い爪をかごめに向けようとしていた・・・。 |