第4話
冷たい目。かごめを見る犬夜叉の目・・・。奈落の毒によって、かごめの記憶を消され、そして、今、かごめをも手にかけようとしている。

犬夜叉はかごめにじりっと近づく。

「犬夜叉!目を覚まして!犬夜叉!!」

「・・・」

「無駄だ。ワシの毒は絶対に消えはせぬ。ワシを倒さぬかぎりな・・・」

「奈落・・・っ!!」

全身に奈落への怒りが走る。

いつも・・・いつも・・・人の心を弄ぶことしかできない愚かで・・・そして卑怯な男!!

かごめは奈落へ弓を向けた。

「ふっ・・・。ワシを殺す前にかごめ、お前は犬夜叉にやられるぞ?」

「・・・。かまわない・・・。あんたを倒せるなら!!」

かごめの弓は確実に奈落を狙った。しかし!!

バキッ!!

「キャ・・・!!」

しかし、犬夜叉は弓をぐっと握り、そしてへし折った!!

「犬夜叉・・・」

「・・・」

「犬夜叉!!目を覚まして!お願い!!・・・キャア・・・ッッ!!」

犬夜叉は両手でかごめの首をぐっと掴む!

「い・・・ぬ・・・」

無表情の犬夜叉・・・。何の迷いもなく何の感情もない・・・。

「やめ・・・て・・・」」

かごめは必死にその犬夜叉の手を離そうとするが、びくともしない。

逆にもがくほど、かごめの首を締め付ける。

鋭い爪が、かごめの首を深く食い込み、血がにじみ出ている・・・!!

「いぬ・・・や・・・しゃ・・・。おねがい・・・。やめて・・・」

痛い・・・。苦しい・・・。

息ができない・・・。

けれど・・・何より痛いのは・・・奈落の毒によって操られた犬夜叉・・・

そんな姿、見たくないよ・・・。

犬夜叉・・・。

かごめは苦しみながらも自分の血のついた片手で、そっと犬夜叉の頬に触れた。

そして、犬夜叉に、優しく・・・語りかける・・・。

「犬・・・夜叉・・・。あた・・・し・・・。あんたこと・・・わすれ・・・ないよ・・・」

「・・・」

「あたしは・・・わすれ・・・ない・・・。たとえ・・・あんたが・・・わすれても・・・あた・・・しのたい・・・せつな・・・ひ・・・と・・・」

ポタ、ポタリ・・・。

地面に涙と血が混ざって落ちた・・・。

「・・・」

かご・・・め・・・?

透き通った涙。清らかな涙。

犬夜叉はそっとその涙に触れる・・・。

「・・・」

そして、自分のそのかごめの血のついた両手を呆然と見つめた。

血・・・。この血匂い・・・。

この血の匂いがするたび、大切な何かを失うという恐怖感と不安が全身を襲った・・・。

『大切な何か?』

この血・・・。何より大切な人の血の匂い・・・。大切な・・・。

犬夜叉はその『匂い』を確かめるためにかごめの血がべっとりと付いた手を口元へやった・・・。

ゴクリ・・・。

そして口に含んだ・・・。

「・・・」

その匂いは犬夜叉の全身を『優しい匂い』が包み込む・・・。


“犬夜叉・・・!”


笑うかごめ。


“おすわり!”


怒るかごめ・・・


“ずっと・・・一緒にいる・・・”


そう約束したかごめ・・・


“犬夜叉!”

“犬夜叉!”

いつも・・・そばにいた・・・大切な・・・


俺の・・・


俺の・・・


『かごめ』


その時、犬夜叉の中で何かがはじけた!

「か・・・か・・・かごめぇーーーーーーーーっっ!!

やっと・・・やっと・・・その愛しい少女の名を呼んだ犬夜叉。しかし・・・すぐ目に飛び込んできたのは、自分の手の中にある変わり果てた・・・かごめの姿だった・・・。

「か・・・かご・・・め・・・」

首から、おびただしい血が出ている・・・。

いつかみた悪夢が蘇る。血だらけのかごめ。動かないかごめ・・・。

「かごめ!!しっかりしろ!!」

「・・・。いぬ・・・やしゃ・・・」

犬夜叉の呼びかけにかろうじて応えるかごめ。

「かごめ・・・!」

「あんた・・・もとに・・・戻っんだ・・・。よかっ・・・た・・・」

「かごめ・・・俺は・・・」

「いいの・・・それより・・・今は・・・奈落を・・・たおして・・・」

「かごめ・・・」

犬夜叉はかごめの体をそっと横にする。

「犬夜叉貴様・・・なぜ、元に戻った・・・?」

奈落はかごめのチラリと見る。

「・・・。そうか・・・かごめの血か・・・」

(かごめの血がワシの毒を完全に消したということか!?このかごめの力は一体・・・?!)

「ふ・・・。面白くもない・・・。もう少し余興を楽しみたかったものを・・・。貴様らの色恋沙汰に決着をつけてやろうというのに・・・」

「・・・。さっきから・・・ぐだぐた言ってンじゃねぇよ・・・。てめぇの声聞くだけで・・・耳が腐るってんだあああああーーーっ!!」

ザンッ!!

犬夜叉の怒りの爪は岩を砕いた!!

「ふ・・・。まぁいい・・・。どのみちかごめは助からんだおろうからな・・・。言っておくが犬夜叉・・・。ワシの毒とはいえ、お前はかごめを手にかけようとしたのだ・・・。愛しい女をその手でな・・・」

「うるせってつってんだろうがああああああーーーっ!!」

犬夜叉は鉄砕牙を抜き、風の傷を放った!!

ガガガガガ!!ザン!!

風の傷は奈落の傀儡を粉砕した!!

しかし、奈落の声がどこからともなくする。

「今日の所は見逃してやろう・・・。しかし、犬夜叉・・・。かごめの命は助かるかな・・・?フハハハハ!!」

憎きその奈落の声はそのまま、風の中へと消えていったのだった・・・。

「かごめ!!」

すぐさま、犬夜叉はかごめの元へと駆け寄る。

「いぬ・・・やしゃ・・・」

「すまねぇ・・・かごめ・・・俺は・・・お前をこの手で・・・っ」

奈落の言葉が犬夜叉の胸を突き刺す。

「・・・。もういいから・・・。あたし・・・あんたが元に戻らないのなら・・・このまま死んでもいいって・・・すこし・・・思っちゃった・・・」

「ば・・・ばか言ってンじゃねえよっ!!俺は・・・っ」

「いぬ・・・やしゃ・・・」

かごめの首から血が止まらない。

「もう、しゃべんじゃねぇ・・・!!」

「犬夜叉・・・」

かごめは犬夜叉がそこにいるのを確かめるようにそっと手を握った。

「本当に元に・・・もどったん・・・だ・・・ね・・・」

「かごめ・・・」

「おかえり・・・なさい・・・いぬ・・・や・・しゃ・・・」

パタ・・・。

「!!!!!」

かごめの手が軽くなった・・・。

「かごめ・・・?」

「・・・」

応えない。

「かごめ・・・?」

応えない。目を開けない。

「かご・・・かご・・・」

動かない。

かごめえーーーーーーーーーーーっっ!!!!!!

犬夜叉の、悲痛な叫び声だけが空に、響いた・・・。

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