「きゃ〜!やだー。法師様ったら口がお上手なんだからぁ」
弥勒、日課の『私の子供をうんでくださらぬか』運動(?)の真っ最中。そこへ、真面目な顔をした犬夜叉がやってきた。
「相変わらずだなぁ・・・。おめーは」
「ふっ。これも私の定めなのです。おなごを大切にするというのは・・・。して、犬夜叉。お前、私に何が聞きたいのだ??」
「な、何で分かったんだ?!」
「お前程、分かりやすい奴はいない」
「い・・・いやその・・・じ、実は・・・」
犬夜叉、弥勒の耳元でごにょごにょと話す。
「・・・。ほほう・・・犬夜叉、お前にしては進歩した心がけだな。わかった。私にまかせなさい」
犬夜叉は少し不安そうに弥勒についていった。『あること』を教わるために。
「よいか。犬夜叉。おなごというのはな、雰囲気を何よりも大切にする生き物なのだ」
「・・・。それ、いつかかごめから聞いたことあるぞ」
弥勒、少し汗をかく。
「と、ともかくだな、男たるもの、ここぞ!というときに決めるのが肝心だ。硬派も格好いいかもしれぬがたまには、強引さも必要だ」
「・・・。で・・・。どうすりゃ・・・そのいいんだよ・・・」
犬夜叉、照れくさそうにぽりぽりと顔を書く。
「犬夜叉、突っ込んで聞くが、かごめさまとはどこまでいっておる??」
「ど、どどどどこまでって・・・(以前、人工呼吸らしきことはあるが)」
どもる犬夜叉に二人の間の進展がどのくらいか弥勒は悟る。
「その分では、口づけもまだみたいですな・・・。まぁ、桔梗様とは済みらしいですが・・・。(しかも、かごめ様の目の前で)」
犬夜叉、かなり、痛いところをつかれたらしく、黙る。
「ま、お前らしいといえばお前らしいですが・・・」
「どーでもいいから、肝心なことだけ、教えろ!!女が喜ぶことっていうか・・・」
「ふむ・・・。では、私の言うとおりにするのですぞ。まず、こうしてかごめさまの肩を両手でぐっと持つ!」
「お、おう」
いわれたまま、動く犬夜叉。、
「そして、じっとかごめさまの瞳を見る!愛おしいという気持ちを込めて!そして・・・」
その時。
ガサッ・・・。
犬夜叉と弥勒前に固まってつったている珊瑚と七宝(+肩にチビ犬)が・・・。
「・・・。お、お、オラ・・・今、とてつもなく、見てはいけないものを見ているきがするのじゃが・・・」
「ほ、法師様って本当は・・・」
珊瑚、青ざめる。
「あの、みなさん、大変大きな勘違いをされてませんか??私と犬夜叉は・・・」
お互いの肩に手を置いている状態はどう見ても危険な(?)状態である。
ばこり!
弥勒、犬夜叉に一発かまして気絶させました。
「あとは自分で考えるんだな、犬夜叉。ささ、みなさん、帰りましょう。帰りましょう」
そう犬夜叉に一言つげて弥勒は唖然としている珊瑚と七宝をつれてその場を離れた。
「・・・。自分で考えろつったって・・・」
弥勒みたいに自分の気持ちをサラリと言えたらどんなにいいか。
本当の気持ちをかごめに伝えたい。臆面もなく照れずに自分の気持ちを・・・。でも、あいつの顔を見ると、何だかじれったくてもどかしくて、つい、意地をはっちまう。
何でだろうな・・・。
犬夜叉は空を見上げる。
桔梗・・・。
忘れてはならないその存在。
そして、それをも大きく包み込む優しい存在が犬夜叉を見守っている。
かごめ・・・。俺は・・・。
「ワン!」
犬夜叉の頭によじ登っているチビ犬。
「・・・。人が思いにふけっているってのに・・・」
「ワン!」
チビ犬は犬夜叉の複雑な心を解きほぐすように犬夜叉にゴロゴロと顔をこすりつける。
「・・・。なんだおめー・・・。俺はかごめじゃねーぞ・・・」
でもこのあたたかさ・・・。
かごめ・・・俺は・・・。
犬夜叉の心は青くて優しい空の雲の様にかごめへ流れていた。
かごめは宿屋の庭でかごめがあるものをみながら、一人で微笑んでいる。
かごめは制服のポケットに入っているものを少しだす。
「・・・」
犬夜叉には内緒。
大切な、もの。
かごめはそう思いながら、しまった。
「か〜ご〜め〜えええええ!!うわーーーん!!」
チビ犬と遊びに行くといって出ていった七宝がお慌てで帰ってきた。
「ど、どうしたの?!七宝ちゃん」
「チビ犬が・・・チビ犬がおらんのじゃああ!!」
「えっ。チビ犬ちゃんが?!」
「さっきまで、近くの林でオラと遊んでおったんじゃ・・・。でも、気がついたらおらなんだ・・・。かごめ!犬夜叉と探してきてくれ!」
かごめにすがりつく七宝。
かごめはすぐに犬夜叉の所へ行って頼んだ。
「ねえ。探しに行きましょう!まだ、あの子、歩けるようになったばかりなのに・・・」
「けっ。なんで俺が・・・」
犬夜叉、昼間のチビ犬のあたたかさを思い出す。
「・・・。しゃーねな・・・。かごめいくぞ!おい、どうしたんだ」
「やけに今日は素直ね・・・」
「いかねーのかよ!」
「行くわよ!」
かごめは犬夜叉の背中に乗り、チビ犬がいなくなった林の中へ探しに行った。
「チビ犬・・・」
心配そうに七宝が部屋に戻ってみると・・・
「ワン!!」
「ち、チビ犬ーーー!お前、どこにおったんじゃあ・・・!」
「ワン!」
「チビ犬なら、ずっとここにおりましたぞ。七宝。そういえば、犬夜叉とかごめ様はどこへ行かれたんです?」
「チビ犬を・・・探しに・・・」
七宝はかなり、あせった。
「今から犬夜叉達に伝えにいかねば・・・」
と、チビ犬が部屋を出ようとしたとき。
ゴゴゴゴゴ・・・。
どんより曇り空の間から雷の音がまるで、七宝をいかせまいといわんばかりに鳴りだした。
「どうした?行かないんですか七宝」
「・・・。犬夜叉達の事じゃ、だいじょうぶじゃろう・・・」
そういう七宝の足は震えている。
「・・・。まぁ、そうですな、今度こそは二人切りになれそうですし・・・。それにしてもこれは一雨きますぞ・・・」
そう言って弥勒はすだれごしに空を見上げた。
そしてその後すぐ、大雨がすごい勢いで降り出した。
雨の中、林の間を走っている犬夜叉とかごめ。
「キャー!!犬夜叉!どこかで雨宿りしましょうよー!!」
「うっせーな。こんくらいで・・・。ぴーぴー言うな!!」
と、その時、かごめは林の奥に小さな空き家を発見する。
「ねえ!あ、あそこの空き屋で、雨宿りしましょう!ねえ!」
「ちっ・・・」
二人は空き家に降り立つと、早速中へ入って、やっとのことで暴雨から逃れた。
「・・・。誰か居ますかー・・・っていう雰囲気じゃないわね」
中は暗くて荒れ放題で蜘蛛の巣が張っている。天上は雨漏り状態。ぽたりぽたりと水滴が落ちてくる。
空き家のまん中にはいろりがある。
「しばらく雨をしのぐだけだから・・・。ってくしゅん!」
ふたりともびしょ濡れ。
「着替えはリュックの中・・・。我慢するしかないかな・・・」
その横で犬夜叉はぬれた着物をしぼっている。
「かごめコレ着てろ」
「え?」
犬夜叉はバッと上着を脱いでかごめに渡す。
「まだ、ぬれてっけど、かごめの着物が乾くまで着てろよ」
「・・・。うん。ありがとう。犬夜叉」
「けっ」
そう言って後ろを向いてごろんと床に寝そべる犬夜叉。
「・・・。犬夜叉」
「何だよ」
「見ちゃだめよ」
「バカ言うなっっ!!」
パキ・・・。火の粉が天上にまで舞い上がる。
まん中のいろりに火を焚く。
犬夜叉の上着を着たかごめは制服をひにあてて乾かしていた。
「・・・ふふっ。犬夜叉の匂いがする」
「ん?なにわらッてんだよ」
「いや、だって前にもこんなこと、あったなっておもって」
「あー?」
「ほら、桃果人と闘った時・・・こうやってあたし、あんたの着物、着てたし」
人間に戻ってしまった犬夜叉が命がけでかごめを守った。
まだ、ついこの間なのに、ずいぶん、昔にそして懐かしく感じる。
「そんなこと、あったけな。あんま、おぼえてねーや・・・。ん?なんだコレ」
床に一枚の紙切れが。犬夜叉は物珍しそうにそれを拾った。
「?!何でこんなかに俺がいるんだ?!」
拾ったその艶々しい紙の中には自分姿が。
「あ、それは・・・!」
かごめ、犬夜叉からその紙をばっと取り返した。
「かごめ、それ、何だ?」
「写真ていうのよ」
「写真?」
「自分の姿を映し出せる紙みたいなものよ」
「へえ・・・。でもなんでお前がもってんだよ。こんなもん」
「だって・・・だってこれ持っていればいつも犬夜叉と一緒だって思ったから・・・」
「・・・。バカヤロ・・・・」
くすぐったい。ぎこちない。
二人は俯いて同時に照れる。
「・・・」
「・・・」
犬夜叉はさっき弥勒から教えてもらった事を少し思い出していた。
“おなごは雰囲気を気にする”
(今、その『雰囲気』ってやつなんか?弥勒・・・。俺には・・・やっぱりわからねぇ・・・)
「かごめ」
「ん?」
「俺もお前のその『写真』ってやつ、欲しい。笑ったかごめを見ていたい。だからいつか・・・くれよな」
「うん・・・」
でも、やっぱり、本物がいい。
ふたりでいるからこんなにあたたかいんだ。
そう思いながら、かごめは犬夜叉の肩にもたれかかり、犬夜叉はしっかりと支えふたりはそのまま眠っていった。
「あれ、お子様達は眠ったのか」
七宝とチビ犬は遊び疲れたのかぐっすりと熟睡中。
「・・・」
静かになった部屋の中。珊瑚は急に弥勒と二人きりだということを意識した。
「あれ。どうしました?珊瑚。急に黙りこくって」
「べ、別に・・・」
「そうですか」
(・・・。やだ・・・。何か急にドキドキしてきた・・・。べ、別に今に始まったことじゃないじゃない・・・)
「珊瑚」
突然呼ばれた自分の名に珊瑚はビクッ反応する。
「な、何?」
「お前はどう思う?俺たちは・・・。奈落を倒せると思うか?」
「??どうしたの。法師様。急に」
弥勒が自分のことを『私』ではなくて『俺』と言った。
いつもの弥勒ではないと感じる。
「倒せるか?じゃなくて倒すんでしょ!絶対!弥勒様は風穴の呪いを解くため・・・私は琥珀を救うため・・・。それぞれ理由は違うけど、目的は一緒。だから今まで闘ってきたんじゃないの。それを・・・」
珊瑚は弥勒のその今まで見たことのない寂しげな表情にいっそう、ドキドキしてきた。
「・・・。あはは。そうだな。珊瑚の言うとおりだ。この激しい雨のせいかな・・・。なんとなく不安になってしまったらしい・・・」
「なっ・・・なによ・・・。急に弱音はかないでよ・・・。なんか調子狂っちゃうじゃないの・・・」
「ふっ。そんな珊瑚も可愛いですな。どうです?ここは一つ、私の不安を珊瑚がだきしめていやして下さぬか?」
「・・・。何バカなこと言ってンの!」
いつものペースにもどった弥勒に珊瑚は少しはらがたった。
(もう!からかってんだ!法師様私のこと・・・)
「痛っ!!」
「法師様?!」
弥勒は急に風穴の手を痛がりだした。
心配そうに弥勒に駆け寄る珊瑚。
「う・・・」
「だいじょう・・・きゃっ!」
のぞき込む珊瑚は手をぐいっと引っ張られて弥勒の腕の中へ。
「ちょ・・・ちょっとなにすんのよ・・・っ」
「ふ。ひっかかったな。珊瑚」
「なっ・・・」
また、からかっているのかと一瞬ムッとしたが、なぜか、つかまれた肩をふりはらおうとは思わなかった。
「どうした?珊瑚・・・なぜ、怒らないのだ?」
「・・・。雷・・・あたしも怖いし・・・」
「・・・。そうか・・・」
「・・・。今日は・・・特別に・・・許す・・・」
「ありがとう・・・」
いつも、本音の見えない弥勒。
他の女ばっかり追いかける弥勒。
もしかしたら、今、こうしているのも本音じゃないかも知れない。けど・・・。
今だけは・・・。私を見て欲しい。
今、こうしているのが本音だって思いたい。
信じたい。
ところで、しきりの向こうのお子様達は・・・。
(子供はこういった場面では寝たふりをしなけらばな!おい、チビ犬、鳴くのではないぞ!)
(フガッ!)
七宝とチビ犬は声を出さないようにと口をふさいで、静かに静かに寝たふりをしていたのでした。