第6話
崖を降りていく犬夜叉。

果てしなく深い。

「畜生・・・。どこまで続くんだ・・・」

と、犬夜叉が立ち止まった先の崖と崖の間に青い小さな花が見えた。

「・・・。あったぞ!!これだ!!」

手を伸ばす犬夜叉。

「くっそ・・・。届かなねぇ・・・」

犬夜叉の脳裏にかごめの笑顔が浮かぶ。

「・・・。うおおおおお!!」

犬夜叉はぐっと花を一束掴んだ。

「よし・・・!取ったぞ!後はこいつを一郎太って奴の所に持っていくだけだ!!待ってろよ!かごめ!!」


一方楓の小屋。

かごめの血は大分止まってきてはいるが、まだ、完全には止まらない。熱も出てきたようで苦しがっている・・・。

「かごめちゃん・・・。やっと犬夜叉が元に戻っ たっていうのにこんな事に・・・」

「・・・」

昨日の切ない夜の事が思い出される。

桔梗の名を呼ばれながら犬夜叉の側にずっといたかごめ・・・。

「でもオラ・・・。あんな犬夜叉はじめてみた・・・あんな取り乱した犬夜叉を・・・」

“頼む・・・頼むから、かごめを助けてくれ・・・っ”

「犬夜叉も辛いのでしょうな・・・。なにせ、奈落の毒のせいとは言え、かごめ様をその手で・・・。それもこれも奈落は計算済みで・・・」

「奈落・・・っ!!絶対に・・・奈落を許せないっ!!絶対に!!」

珊瑚は怒りをあらわにした。それは弥勒も七宝も同じだ。

「・・・。どうしました。楓様・・・。浮かない顔をして・・・」

「いや・・・。犬夜叉に行かせたのは間違いじゃったかも知れない思ってな・・・」

「何故です?」

「一郎太は・・・。大の妖怪嫌いなんじゃ・・・。いや、憎んでいると言ってもいい・・・」

「?!どういうことですか?!」

「一郎太に惚れていた女が妖怪に殺されたからじゃ」

「!」

弥勒は驚愕した。

「なぜ楓様がそこまで・・・ご存じなのです・・・?」

「・・・」

楓は少し間をおいてから言った。

「・・・。遠い昔のワシはあいつの許嫁じゃったんじゃ・・・」

弥勒、珊瑚、七宝、一歩引いて驚く。

「・・・。何じゃ。その、とてつもなく珍しいものを見る様な目は」

「楓さまにもそんな時代があったのですね・・・」

「楓も一応はおなごじゃったのじゃな・・・」

「お前らな・・・。とにかく・・・あやつは元々の頑固者。犬夜叉の奴、怒らせたりはせぬとよいが・・・」

4人全員、絶対に怒らせるだろうとその時同時に思った。


崖の一番上に古い一軒家がある。

人が本当に住んでいるのかと思うくらいにあばら屋だ。

「・・・。ホントにここにいんのかよ・・・」

犬夜叉はとりあえず、中に入ってみるが・・・。

「おーい!誰かいねぇのか・・・!」

中は荒れ放題だが、薬師が使う道具、すりこぎ、天秤などがあった。

「・・・。いねぇのかよ・・・」

「誰だ」

「!!」

背後に眼帯をしてつり道具を持った老人が一人立っていた。

「おめぇが一郎太って奴か?!」

「だったら何だ。半妖の小僧に呼び捨てにされる言われはねぇな」

「なっ・・・」

「見りゃわかるわい。お前こそ何しに来た?」

「・・・。この勿忘草を・・・調合してくれねぇか」

「・・・。知らんな」

「なっ何だと?!」

老人は犬夜叉を無視してごろんと寝ころんで酒を飲み始めた。

「は〜。今日はイワナの塩焼きがつまみじゃ」

「おい!!てめえっ。酒なんて飲んでんじゃねーよ!!こっちは急いでんだよ!!」

「・・・。ワシは薬師はやめたのじゃ。それにワシは妖怪なんぞに協力するきはねー。とっと帰えるんだな!昼寝の邪魔だ」

「なっ・・・。てめえっ・・・。こっちが下出にでてりゃあいい気になりやがって・・・。どうしてもしねぇっつうなら、力ずくでも・・・」

犬夜叉は老人の着物をぐっとつかんだ。

「・・・。ふん・・・。力ずくか・・・。尚更する気がなくなったな・・・。言っておく、ワシはこの世で一番お前みたいな自分勝手な小僧が一番嫌いなんじゃ」

「んだとこのクソじじい・・・」

「力ずくで相手を従わせようとする・・・。お前みたいな奴がな」

「・・・」

犬夜叉の脳裏に楓の言葉が浮かぶ。

“人に頭を下げられるか・・・?”

「・・・。そういうう事だったのかよ・・・。楓のばばあ・・・」

老人はがばっと起きあがる。

「楓?!貴様、楓の知り合いか?!」

「ああ。そうだ。それがどうかしたのかよ・・・」

「いや・・・。ともかく・・・ワシは調合などせんからな・・・。少なくとも人に物を頼むときは頭を下げるぐらいものじゃろう・・・ってお前、何してる」

犬夜叉はあぐらをかいて老人に頭を下げた。

「・・・。頼む・・・!。どうしても・・・どうしても・・・助けたい女が・・・いるんだ・・・頼む!」

犬夜叉、初めて深く、深く頭を下げた。

「・・・。知らんな・・・」

「俺は・・・調合してくれるまで・・・ここをテコでもうごかねぇっ!!」

「ふん・・。勝手にしろ・・・」

老人は再び床にごろんと寝転がって、犬夜叉に背を向けて酒盛りをし始める。

「ぜってえに・・・うごかねぇえ!!」

(待ってろかごめ・・・。必ず薬、持って帰るからな・・・!!)


バチバチ・・・。囲炉裏の火が小さく燃えている。

老人はさっき釣ってきた魚を塩焼きして食べていた。

「イワナは塩焼きが一番だ」

その横で犬夜叉はどんと座ったまま動かない。

「たく・・・。しつっこいガキだ・・・」

「言っただろ。俺は絶対にうごかねぇって!!何が何でも薬をもってかえらなきゃならねぇんだ!!」

「・・・。そうかい」

外は大分薄暗くなってきた。

犬夜叉、気持ちが焦る。出血が止まらないかごめ。

今でも自分の両手にはかごめの血の匂いがしみつている。

(かごめ・・・)

「おい」

「んだよ」

「・・・。惚れるのか。その『助けたい女』ってのに」

「んなっ・・・」

犬夜叉、ちょっぴり照れる。

「ふん・・・。青いな・・・。『惚れた女のために』ってか・・・」

パチ・・・。囲炉裏に薪を入れ、火を強くする。

「そんな簡単な事じゃねぇ・・・。俺のせいで・・・いや、俺がこの手で・・・」

かごめの苦しむ顔。かごめの血。・・・。かごめの手がストンと力が抜けた瞬間の恐怖・・・。

全て自分のふがいなさがかごめをこんなめに・・・!

犬夜叉は奥の歯にぐっと噛んだ。

「・・・。男ってのは情けねぇ生き物でな・・・。なくしてからその大切さに気がつくもんなんだよ・・・」

「?」

「・・・。これは昔いたバカな男の話だ・・・。その男には惚れた女がいてな・・・。一緒に添い遂げようと思っていた。だが、その女は男の申し出を断った」

“ワタシは死んだねえ様の代わりにこの村を守っていかなければならん。色恋などしておる暇などない”

「若かった俺はてっきりその女に裏切られたと思い込んで俺は・・・やけっぱちになっちまった」

「・・・」

「そのせいで・・・一番大切なものを見失っていた・・・。ずっと男の側にいて支えてくれた女がいたことを・・・。やけになっていた男のためにその女は毎日薬草を取りにいていた・・・。そして命まで・・・失ってしまった・・・」

“あなたはあなたらしく生きて欲しいただ、それだけです”

「薬草をとりに言ったあいつは・・・。妖怪に・・・いや・・・。妖怪にやられたんじゃねぇ・・・。その男のふがいなさがその女をころしたんだ・・・!!」

バキッ!

老人は荒々しく薪を折って火に入れる。

老人の言葉が犬夜叉の胸に突き刺さる。まるで・・・今の自分に言われている様に・・・。

「・・・。その男ってのはもしかして・・・」

「酒がまわっちまったみてぇだな・・・。つまんねぇ話しちまった。ただ、言えるのはな・・・。なくしてから気づいても全て遅いってことだ・・・」

「俺は違う・・・。絶対に大切なものはなくさねぇっ!」

「なぜそう言い切れる・・・?」

「・・・」

かごめの笑顔が浮かぶ。

「・・・。何よりも・・・俺が必要としているから・・・」

「・・・。ふん・・・。やっぱまだまだ青いな・・・」

「だから頼む!かごめを・・・いや、俺を助けてくれ!!」

真剣な眼差しで犬夜叉は老人に言った。

「・・・。やっだね」

「んなっ・・・俺がこれだけ頼んでるつーのに・・・」

老人は何やら懐から小さな紙に包んであるものをぽいっと犬夜叉の前に投げた。

「・・・?何だよこれ」

「薬の調合法が書いてある」

「!」

「ワシはもう調合はできねぇ。としのせいでこっちの手はいかれちまってる・・・」

「ジジイ・・・」

「早く行け。楓ならばできるはずだ」

「すまねぇっ!」

ガタン!

犬夜叉は紙を懐に入れると大急ぎで楓の小屋へと向かった。

「楓のやつめ・・・。わざわざあんな若造を使いによこすなんて・・・」

老人はフッと笑みを浮かべてこういった。

「・・・。楓・・・。どんなばばあになってるか・・・。さ、ワシは夕飯だ夕飯だ」

森の木をの間を猛スピードで走り抜ける犬夜叉。

(待ってろかごめ・・・。今すぐに助けてやるからな・・・!!)

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