あなたのためにできること
〜私は強くなる〜
第3話・絶叫・・・
永延と続いた森を抜けを抜け、『白糸山』がかごめの前に立ちはだかっていた。

「うひゃ・・・」

剣山の様に尖った山頂。それは『山』というより、巨大な岩と言った方がいいだろう。

雲母があれば、ひとのりでいけそうではあるが・・・。

「・・・。なんの!登ってやれないことはない!えいっ!」

ガシッ!!

がごめ、岩にしがみつくが・・・。

ズザザザ・・・。

見事にすべったかごめ。

「・・・。やっぱしよね・・・はは・・・」

為すすべなし・・・。

「ワン!」

「あれ・・・。ワンちゃん・・・。あんた、どこ、いってたの?」

子犬はかごめのズボンをくいくいとひっぱってどこかへ連れて行こうとしている。

「?どうしたの」

かごめは子犬に導かれるままついていくと、小さな鳥居があった。その奥に・・・祠が・・・。

「あれ・・・ワンちゃん・・・?どこ・・・!?ワンちゃん・・・」

かごめがハッとふるかえると辺りの景色は一変、闇に飲まれた。

何もない、ただ、闇の空間。

「ど・・・どうなってるの・・・!?」

その時突然、かごめの目の前に一本の階段が現れた。

先の見えない長く細い階段。

「・・・要するに・・・登ってこいってことなのね・・・。よーし!」

かごめは気合いを入れると一段一段登り始めた。

一方、その頃、かごめの姿を見失った犬夜叉。白糸山の前で必死にかごめの匂いを探すが・・・。

「畜生!かごめの匂いが途切れた・・・。一体、どこいったんだ・・・」

かすかに感じる妖気・・・。それはこの山の頂上の方からだ。

「・・・。あそこにいるかもしれねぇってことか・・・」

犬夜叉は頂上を目指し、上がっていった。

それぞれに、違う道を歩き始めたかごめと犬夜叉。

その先には心の『試練』が待っている・・・。

そして、二人の様子を、あの子犬がじっと岩陰から見ていた・・・。


「はあ・・・。ふう・・・」

行けども行けども、闇。自分が前へ進んでいるのか、どこにいるのか全くわからない。

「・・・。もう・・・っ!!一体、どこまで続いてるのよ!この階段・・・!」

体の疲れがかごめを苛つかせる。

それでも、前へ、前へ進むかごめ。

楓が言っていたっけ・・・。

白糸の滝への道は、自分の気持ち次第で楽にもなり、反対に辛く苦しい道になると・・・。

「・・・」

足が痛い。体が重い。

薬草で治ったはずの擦り傷の傷口が開いてきている。

痛い・・・。痛い・・・。

長い深い森を抜けて、ここまで来たけど・・・。

なんで・・・。何のためにあたしはこんな思いをしてるんだろう・・・。

誰のため?

自分のために・・・。

どうして?こんな苦しい思いする理由がないじゃない・・・。

そうよ・・・。だって・・・。


“だって、犬夜叉は桔梗を選んだのに・・・!”


「違うっ!!」

ハッと気がつくかごめ。

一瞬、意識が飛んだ気がした・・・。

ドクンドクン・・・。

脈が速くなる・・・。

「何・・・今の・・・あたし・・・」

まぎれもなく、耳からきこえた声は自分の声。

「・・・」

あれは・・・幻聴だったのか・・・?

「・・・。とにかく・・・早くここをぬけなくちゃ・・・っつ・・・」

治った筈の頬の傷がいつの間にかまたついている・・・。

「どうして・・・」

“どうして・・・。あたしがきずつかなくちゃならないの?”

「・・・え?」

“あたしが傷つく理由なんてない・・・”

“そうよ・・・。あたしが苦しむことはない・・・。大体・・・アタシは何のためにここ(この時代)にいるの・・・?”

「や・・・やだ・・・何これ・・・」

ドクンドクン・・・。

「何だか・・・気持ち悪い・・・」

“何にもいいことなかった・・・。何度も殺されそうなって・・・。二股かけられて・・・何であたしが・・・戦国時代の悲恋の後始末しなくちゃならないの。あたしはただの現代の受験生・・・。”

「うるさい・・・」

かごめの全身に悪寒と吐き気が襲う。

“犬夜叉はあたしは桔梗の変わりじゃないって言った・・・けど・・・そんなのは嘘・・・”

「うるさいってば・・・・っ!」

“犬夜叉が・・・桔梗に求めたことをたまたまあたしで埋めてるだけ・・・”

「違う・・・そんなの・・・」

どこから聞こえてくる声。

この闇の向こう・・・?

違う・・・。この声は・・・

“そう・・・あたし・・・”

自分の声。いつも・・・感じていた、不安、疑い、不信・・・。

“ずるい・・・。犬夜叉・・・。あいつの優しさ一つ一つの裏に桔梗がちらつく・・・。甘えてるだけ・・・。都合のいいときにあいつは・・・あたしに甘えてるだけ・・・!”

「やめてよ・・・」

きこえてくる自分の声。自分の奥にある・・・黒い部分の声・・・。

“あたしは・・・桔梗の魂を運ぶためだけにこの世界にやってきた・・・。それだけの存在・・・”

「やめて・・・う・・・」

違う・・・!そんなこと・・・!。聞きたくない・・・!

立っていられない程の吐き気・・・。かごめは自分の身を守るようにうずくまる。

“なんで・・・あたしばっかり・・・こんな・・・こんな思いばっかり・・・。どんなにあいつのために何かをしても・・・。何もない・・・。応えてくれない・・・”

「嫌・・・」

“あたしは四魂のかけらを探すだけの存在・・・。あいつがどんなに優しくしくれても・・・あたしは嫉妬する・・・桔梗への嫉妬で埋め尽くされてる・・・”

「やめてよ・・・お願いだから・・・」

“そんな自分が大嫌い・・・。嫌い・・・嫌い・・・嫌い・・・大嫌い”

「嫌・・・」

“体がちぎれそうに切ない。痛い・・・。もう嫌・・・こんな想い・・・嫌・・・”

「嫌・・・もう嫌・・・やめて・・・」

“もう・・・嫌・・・何もかも・・・楽に・・・なりたい・・・。死んで・・・”

「いやああああーーーーッ!!!」

闇に・・・絶叫し・・・かごめは倒れた・・・。