生まれ、出会ってくれてありがとう1
〜甘い匂いと太陽〜

前編

生まれ、出会ってくれてありがとう。

君と出会えて本当の自分に出会えた。

自分が好きになれた。強くなれた。

ありがとう。

生まれてきてくれて。

ありがとう。

僕と出会ってくれて・・・。


「ハッピーバスデー!!草太ー♪」
こちら日暮家台所。
今日は草太の誕生日ということで、テーブルの上には、大きいケーキ。8本のローソクが揺れている。
草太がろうそくを消そうと息を吹こうとしたとき。
「おいてめー!何やッてんだよ!!」
怒鳴り声と共に犬夜叉登場!
その勢いでろうそくの火は消えてしまった。
「何すんのよ!犬夜叉!あんたのせいで火、消えちゃったじゃない!」
「しらねーよ!それより、おせーじゃねーかよ!!夜には帰るって言ってやがったくせに!!」
「まだ、7時じゃないの!!どーしてあんたはそうせっかちなの!!あたしから離れたくないからって!」
「誰がだ!誰がっ!!」
ウオッホン!
夫婦ゲンカ(?)は、かごめママの一声で、収まる。
「あの・・・。今、僕の誕生日してたんだけど・・・」
今日の主役は草太くん。
「ごめん。草太・・・。あ、犬夜叉あんたも一緒にケーキ食べましょ」
こうして、犬夜叉も加わりあらためて、草太は火を消す。
犬夜叉は不思議そうにろうそくの火を見つめていた。
「おめでとう!草太!!」
拍手と共に各自プレゼントを渡す。
それもまた、犬夜叉はなぜ、拍手するのが不思議だった。
そしてかごめは犬夜叉にもケーキを与える。
ケーキは初めての体験の犬夜叉。フォークも使わずにかぶりついた。
がつがつと子供のようにほおばる犬夜叉。どうやら気に入ったらしい。
しかし、犬夜叉、口のまわり、クリームだらけ。
「もー・・・。べたべたじゃない・・・。ほら、ちゃんと拭かなきゃ・・・」
ゴシゴシ。そう言いながらタオルで犬夜叉の口のまわりを優しくふくかごめ。
「う、うるせー。子供扱いすんな」
「充分子供でしょっ!ほら、動かないで。綺麗にしとかなきゃ・・・」
じ〜いいいいっ。かごめファミリー、まるで新婚さんの様な二人をじっくり見学。
その視線に気づいた二人は照れまくりました♪
「今日、僕の誕生日なんだけど・・・。お姉ちゃん達の結婚式にしてもいーよ!」
「おお!それはええの!祝いじゃ祝いじゃー!」
かごめおじいちゃん、もう、酔いまわってます。
「まあ!おじいちゃんたらー♪」
かごめファミリーが盛り上がってる真ん中で、お若いお二人さん、照れてもじもじしていました★
「けっ・・・(照れ犬)」
「・・・」
かごめのなんとも愉快でおおらかな家族達。当たり前に自分の家族の様に接してくるかごめの家族達。犬夜叉は決して居心地は悪くなかった。
あったかくってやさしくて・・・。
まるでかごめそのものだ。
ずっと包まれていたい・・・。


「けっ。また、べんきょーかよ」
「仕方ないでしょ!宿題あったの忘れてたんだから!」
数学の課題が出ていたのをすっかりお忘れだったかごめ。机にかじりついています。
ちょっとつまんない犬夜叉です。
「なー。かごめ」
「なーに」
「あのよー。はっぴーばーすでって何だ?」
「誕生日おめでとうってことよ」
「たんじょーびって何だ?」
「生まれた日のことよ」
「何でそれでうまいもん喰うんだよ」
「・・・」
「なあ、かごめ」
「ああ!もう、うるさいな!勉強できないでしょ!」
「なんだよ!」
かごめ、一旦、お勉強中止。そして犬夜叉かごめの気を引くのに大成功した模様です。
「あのね、こっちの世界では、自分が生まれた日にみんなでお祝いしようっていう習わしがあるの。この世に生まれてくれてありがとうって」
「へぇ・・・」
どうして、うまれてきただけで「ありがとう」なのだろう・・・。
不思議だ。自分は生まれてきたことをずっと否定されきたのに・・・。
でも、もし、自分の誕生を祝って欲しいとしたら・・・。それは・・・。
犬夜叉はチラッとかごめを見る。
「?なに?」
「な、なんでもねーよ!俺、先寝るぞ!」
犬夜叉、ごろんとかごめベットを早くも占領。
「ちょっと!それ、あたしのベットなのよ!二回も占領しないでよ」
「うるせー。おめーはべんきょー早く終わらせろ!」
「・・・。ふうんじゃあ・・・犬夜叉」
「何だよ」
「一緒に寝る??」
「ばっ・・・バカ言うなーーーー!」
犬夜叉、かなり照れているが、内心はかなり嬉しいと見える。
「さ。冗談はこの辺で。勉強。勉強」
かごめ、お勉強再開。
「人からかってんじゃねーーーっ」

ありがとう・・・。そんな風に言ってくれる人が欲しい。
一番側にいる人に。



次の日。かごめ達が帰ると楓の小屋に、一人の少年が楓の診療を受けていた。

「あれ・・・?珊瑚ちゃん、あの子・・・どうしたの?」
「うん・・・。実はね・・・」
昨晩、楓の村の入り口に子供を抱きかかえた母親が、血だらけで立っていた。
どうやら妖怪に襲われ、子供をかばったらしい。瀕死の重傷で楓に「子供を頼む」と託し、息を引き取ったのだった。

「そう・・・。そんな事があったんだ・・・」
「うん・・・。子供の方のケガはたいしたこと、ないみたいなんだけど・・・目が・・・見えてないの」
「!?」
少年の歳は8歳ぐらい。草太と同じだ。
「お前・・・。名前はなんというのだ?腹はへっているか?」
「うっ・・・ひっく・・・」
弥勒が優しく声を掛けるが、少年はうつむいたまま涙が止まらない。
「ずっとあんな調子なの。ま、最もスケベな法師様相手だからだと思うけど、目が見えないっていうより見ようとしないみたい。心のに受けた傷のせいかもって・・・楓おばあちゃんが言ってた・・・」
食事も一口も食べない。楓も珊瑚もとても心配している。
「けっ。なんでぇ。只の弱虫じゃねぇか!俺が一発渇いれてやらぁ!」
拳をはーとあたためるが当然、かごめの
「おすわり!!」
で鎮座しました。犬夜叉。
「うっ・・・うっ・・・おかあぁあ・・・おかあはオラを捨てたんだ!うわーん・・・!」
「あらら・・・。どうしますか。困りましたねぇ。犬夜叉の扱いに慣れている私も子供相手は・・・」
「んだどてめえっ。誰が子供だってだれが・・・」
「(2回目の)おすわりしてなさい!」
「ぐえっ・・・!」
暴れる犬夜叉を押さえたかごめは、何やらリュックからごそごそと出している。
「これは昨日の残りなんだけど・・・」
「かごめちゃん、それ、何?白っぽい・・・」
「どの時代も小さい子は好きよね」
「?」
ラップに包んであるそれをかごめは少年の所へ持っていった。
「うわーん・・・おかあ・・・おかあ・・・」
そして、大声で泣く少年の口の中に『それ』を一口ほおりこむ。
「んっ!?」
「どう・・・おいしい??」
「・・・」
もぐもぐもぐ・・・ごっくん。
少年は泣きやみ、こくんと頷いた。
「よかった♪まだ、あるよ。食べる?」
「うん」
少年はとてもうまそうにそれをほおばる。
「ほら、ゆっくり食べてね。クリームつている」
かごめは少年を膝の上にそっとのせて、制服の袖で少年の頬についたクリームを拭く。
「おお。さすがかごめ様。犬夜叉同様、子供の扱いになれていらっしゃる。どころで、一体、何を食べさせたんです?」
「けーきってやつだろ。甘くてガキがすきそーなくいもんだぜ」
「・・・。犬夜叉お前、何故、甘いと知っているのだ?お前もたべたのか。そして、かごめ様にあの様に口元をふきふきされたのか(ああ、なんて羨ましい)」
「されたのじゃな」
「されたのねぇ」
弥勒、七宝、珊瑚。ケーキをほおばる犬夜叉を透視するように想像する。
「ばっ・・・。んなことされるかっ!!」
少年はぺろりとケーキを平らげた。
「・・・。これ・・・なんて言う食べ物?」
「ケーキっていうの。あたしが作ったのよ」
「・・・」
少年はかごめに抱きついた。
「甘くて・・・いいにおいがする・・・。お姉ちゃん・・・。お姉ちゃんの顔は見えないけど・・・。おかあと同じ匂いだ・・・」
「そう・・・?」
「うん・・・」
小さな少年の体をそっと抱きしめ返すかごめ。
少年はとても安心した顔をしている。
「あーっ。いいなー。オラもオラも・・・!」
七宝もかごめの胸の中へ。一片に二人の子持ちなったようだ。
その光景が面白くない男ひとり在り。
「けっ・・・ガキ相手に・・・」
「何、子供相手に妬いてるの。あんたねー少しは大人になりなさいよ。少しは大人な法師様を見習って・・・」
見習えない法師がここに在り。かごめの胸の中へと・・・。
「嗚呼、私も私もかごめ様!」
ドカッ!!
珊瑚の鉄拳、見事命中したり。見習えない法師様、一足お先にお休みしました。
「ともかく・・・。あの子のココロの治療はかごめちゃんが担当ってことね・・・。犬夜叉・・・。あんたならあの子の気持ち分かるんじゃない?かごめちゃんの『いい匂い』を一番知ってるんだから・・・」
「けっ・・・。んなもん知るかよ・・・」

知っている。誰より知っている。傷つき、触れて欲しくない部分も包み込んでくれる心地よさとあたたかさと優しさと・・・。
そして誰より憧れる。いつも感じていたいと思ってしまう。

「ねぇ。あなたの名前、まだ聞いてなかったね。あたしはかごめっていうの」
「陽太・・・」
「陽太くんか・・・いいなまえだね。あれ・・・陽太君??」
安心しきった顔で、少年も七宝も眠ってしまった。
「ゆっくり眠ってね・・・。七宝ちゃん。陽太君」
ずっと母の胸の中へ帰りたかった少年陽太の寝顔は、何だか草太に見えてくる。かごめは静かに陽太の髪を撫でた。
(絶対・・・見えるようになるからね・・・!)
かごめのそんな気持ちを察するように犬夜叉は静かに穏やかにかごめの背中を見つめていたのだった。


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