犬夜叉達がこの村にいてから3日目が過ぎた。かん太はその間、ずっと珊瑚と弥勒の側を離れず、特に珊瑚にはべったりだった。
「どーでもいいが弥勒・・・。いつまでもこのままって訳にはいかねーだろ?」
「お前に言われなくてもわかっていますよ。犬夜叉。しかし、あーも珊瑚や私を両親だと思いこんでいるのですから、無理矢理いなくなる訳にもいきませんし・・・」
そうだ。かん太はまだ、声が戻っていなし、戻るまでずっとここに居るわけにもいかない・・・。
「そうよね・・・。突然いなくなるなんて2重のショックだし・・・。せめて・・・お母さんとお父さんとの楽しい思い出でもできれば・・・」
「思い出ですか・・・」
かごめの一言で何かを思いついた弥勒。
弥勒は境内で遊ぶ珊瑚とかん太の元へ行き、ある事を提案した。
そして、珊瑚にある事を耳打ちし、珊瑚も納得した顔をした。
弥勒に気付いたかん太は抱きつく。
「かん太、お前は確か、木登りができないかったな」
「?」
かん太を抱き上げて弥勒は境内の一番太い木を見せた。
「かん太は大きくなったら漁師になるんだよな」
かん太は元気よく頷く。
「なら、かん太、漁師はな、あの木を上れるくらいの根性と力がなくちゃいけねぇんだ。だから、おとうと練習するぞ」
かん太はもう一度木を見て怖がった。
「かん太、あんたは男のでしょ。あんな木の一本や二本、のぼれなくてどうするの!」
「・・・」
「かん太は強くなっておかあを守ってくれるんじゃなかったの?!」
珊瑚の真剣な顔にかん太はしぶしぶ首を縦にふる。
そして、かん太の木登りの特訓が始まった。
「それ、かん太、ここまでおいで!」
珊瑚が先に木のてっぺんまで登って下のかん太に手招きする。
そして、弥勒が下から、かん太を上へと押し上げる。
しかし、まだ、怖がっているのか、かん太は手に力が入らない。
「そら!どうした。かん太!そんなことじゃあ、漁師にはなれんぞ!」
「そうよ!かん太!がんばって!」
二人の応援にかん太は勇気をだして、少しずつ登り始めた。
ズザザザ・・・。
かん太は何度も落ちる。しかし、その度、弥勒はかん太を支え、珊瑚が手を伸ばす。
上を下で両親が自分を支えてくれていると思うかん太。
何度も落ちるけど、何度も登ろうとする。
そんな様子を犬夜叉とかごめは少し離れた場所で見ていた。
「でも、なんで、かん太を元気づけるのが木登りなんじゃ?・・・」
「かん太君、お父さんとお母さんに木登りができるようになるって約束してたって、お民さんが言ってたんだって。だから弥勒さま・・・」
「やはり、弥勒は不良法師ではなかったのじゃな」
「けっ。格好つけやがって」
「なによ、あんた、最近ひがみっぽくなったんじゃない?はー・・・でも、こうしてみると本当にあの三人、、本当の親子みたいねぇ・・・。いいなぁ。私も将来あんな風になりたいなぁ・・・」
夢見る少女、かごめ。
「え・・・」
犬夜叉はなぜだかドキリとしてかごめを見た。
「・・・。なによ。何で見るのよ?」
「べ、べつに何でもねぇよ!」
「気になるじゃない!」
「何でもねえつってんだろ!」
そんな二人を見た七宝がポツリ。
「ケンカがたいない夫婦になろじゃろな・・・」

かん太の木登りの特訓は夕方までかかっていた。
かん太は傷だらけのなりながらも何度も何度も上へと目指すがどうしても落ちてしまう。
「あきらめないで!かん太!おかあはずっとここで待ってるよ!」
「おとうはずっとここおりますぞ」
かん太の脳裏に戦で炎に包まれたあの日の風景がよみがえる。
火の中の自分を必死で助けようとしたおとうとおかあ。
『かん太!あんたは私達の分も生きるの!頑張って生きるのよ!』
おかあの最後の言葉。
かん太は最後の力をふりしぼるように手にぐっと力をいれて、登り始めた。
「よし!その調子だ!かん太!」
かん太は木の上の珊瑚の手を目指す。
あそこのたどり着けば・・・きっと見つかる。きっと会える・・・。おっかあとおっとうに・・・。
そして、かん太は珊瑚の手までたどり着き、そのまま珊瑚の腕の中へとのぼっていく。
「かん太!よくやったね!」
珊瑚はありったけのきもちでかん太を抱きしめた。
「がんばったな!かん太!お前も立派な男になったな」
弥勒が笑顔でそう言った。
かん太は晴れ晴れとした顔で元気に頷く。
「ほおら、かん太、夕日がきれいだよ・・・」
大きな太陽が珊瑚とかん太を赤く照らす。
そして、陽がおちていった。

「本当にいいの?弥勒さま」
かごめはリュックに荷物を詰める。
「ええ。かん太はもう大丈夫です。ひとりでも、両親を亡くした哀しみを乗り越えられるでしょう・・・」
弥勒達は今夜、この村を出ることにした。
この先で妖怪が出たという噂を聞いたからだ。
「せめてお別れぐらい・・・」
「ううん。かごめちゃん。このまま何も言わずに行った方がいいの。かん太にも私達にも・・・」
「珊瑚ちゃん・・・」
「おい、そろそろ、行くぞ」
「では、お民さんもお元気で・・・」
「はい・・・。法師様も・・・」
弥勒、お民の手をきちっと握ってのお別れ。
「いつまでにぎってんのよ」
珊瑚は何度もかん太の家を振り返る。
「かん太・・・」
その時、向こうからかん太が必死に走ってくる。目に涙を一杯ためて。
「かん太!」
そのまま珊瑚に飛び込む。
「かん太・・・」
「・・・。ごめんね・・・。私達・・・本当はかん太のおとうでもおかあでも・・・」
「い・・・いってしまうの?」
「かん太・・・あんた口が・・・」
「ご・・・ごめんなさい・・・オラ・・・オラ・・・本当はもうずっと前からしゃべれたんだ・・・。でも・・・でも・・・しゃべらなかったら、おとうとおかあが、きっとここにいてくれるって思って・・・」
「気付いていましたよ・・・。でも、私達は行かなければならないんです・・・。それにかん太・・・。お前はもう、一人でも大丈夫。木登りができたのですから」
「また・・・会える?また・・・一緒に・・・木登りして・・・くれる?」
「ああ。今度はおとうとおかあとかん太の三人で一緒にのぼうろうな」
弥勒は自分の法衣でかん太の涙をぬぐってやる。
すると、かん太は珊瑚の耳元でポツリと言った。
「さよなら・・・。珊瑚おかあさん・・・。オラを忘れないで・・・」
「え・・・」
今度は弥勒の元へ行き、
「さよなら・・・弥勒おとう・・・。オラ・・・立派な漁師になるから・・・」
「かん太!」
そしてかん太は走って家と戻っていく。もう、後ろを振り向かずに・・・。
「かん太君・・・」
珊瑚はかん太の後姿をいつまでも見ている。
「何だか・・・私達の方が勇気を貰ったきがしますな・・・」
弥勒、感動のナレーションのごとく、しみじみ言う。
「弥勒が言ってもちいっとも感動せんのじゃ」
「日頃の行いが悪いからな」
「そんな事ないわよッ!」
珊瑚、思いっきり力を込める。
「少なくとも・・・この三日間の法師様は・・・かっこよかったわよ・・・」
照れてる珊瑚。
「珊瑚もこの三日間は・・・本当の母親みたいで素敵でしたよ・・・」
「法師様・・・。ひゃっ!」
弥勒の右手が珊瑚にセクハラを・・・。
バキッっ!
セクハラ法師、退治の巻。
「やっぱりこの展開か・・・」
犬夜叉とかごめはあきれ顔でそうつぶやいた。

♪でっかいたいようしずむ。おっかあとふたり、おとうをまつ。
おとうはなんびきさかながとれたかな。おとうのせなかはでっかいぞ。たいようよりもでっかいぞ。
おかあのにおいはやさしいにおい。さくらのようなやさしいにおい。
ずっといっしょにいるんだね。いるんだね。
おとうとおかあ、おらのたからもの、たからもの・・・♪
珊瑚と弥勒の耳にこの子守歌がいつまでも響いていた。

FIN
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お初のミロサン(?)です。案外、弥勒様はいいパパ(?)になるかも・・・。と思いながら書きましたが、でも女癖が治らなかったら、珊瑚ちゃんはちょっと苦労するかも?(笑)