ああ、絶対に夢なんだ。
たとえ夢でも嫌だ・・・。
例え夢でも・・・。
こんな夢は・・・ッ!
静かな朝。雀すら鳴いていない。
寒いくらいに静かな朝・・・。犬夜叉がゆっくりと目を覚ます。
「ん・・・。なんだ・・・。もう朝かよ・・・」
気がつけば、そこは楓の小屋だった。
(あれ・・・。いつのまに帰ってきたんだ・・・?)
首を傾げる犬夜叉。
誰かが・・・泣いている。
「うっ・・・」
珊瑚が七宝をぎゅっと抱きしめて。
「!?な、何泣いてんだおめーら・・・」
その横で、黙ってうつむく弥勒と楓。
悲しい気持ちが小屋の中を締め付けて重たい。
その空気に犬夜叉は恐ろしく不安になった。
「お、おい・・・。一体どうしたってんだ・・・。そうだ!かごめ・・・。かごめはどうした!?」
「・・・」
誰も応えない。なぜ。
どうして!
「かごめはどこにいるんだよ!!かごめは・・・ッ!?おい弥勒・・・ッ!!」
弥勒はゆっくりと口を開く。
「お前の・・・すぐ後ろに・・・」
「!!」
犬夜叉はかすかに・・・自分の背後にかごめの匂いを感じた。
言いしれぬ不安を押さえて犬夜叉はゆっくりと振り返る・・・。
犬夜叉の・・・頭からつま先まで一瞬にして凍った。止まった・・・。
そこに、
確かに、
かごめは・・・いる。
だが・・・その顔は見えない・・・。見えるのは・・・。
白い・・・真新しい白布(はくふ)をかぶったかごめだった・・・。
全身に・・・吐き気が走る。
「・・・。な・・・なに趣味のわりぃジョークやってんだよ・・・。おい・・・。悪趣味も程がすぎる・・・」
犬夜叉の言葉に誰も・・・返さない。
「ばっ・・・。バカ言ってンじゃねぇよッ!!!おいッ!!!何とかいえよ!!!」
誰も言わない。応えない・・・。
「ば・・・んなことあるわけねぇだろう・・・。馬鹿なこと・・・」
ガクガクと恐怖で震える手と足を必至に絶えながら犬夜叉はゆっくりと・・・かごめに近づく。
「な・・・なんだこりゃ・・・。妙なもんツラにかぶせやがって・・・。おい・・・かごめ・・・」
白布をとる犬夜叉の手。震えが・・・止まらない・・・。
布をとると・・・安らかな、幸せな顔をしたかごめが、いた。
「な、なんだよ・・・。眠ってるだけじゃねぇか・・・。まだ起きないだけだ・・・ろ?おい、かごめいい加減にめぇさませよ・・・。おい・・・」
犬夜叉はかごめの手をグイッと引っ張る。
「・・・!!」
冷たい・・・。氷の様に冷たい手・・・。
触れたその手は・・・。
温もりが、
ない。
大好きだったあの、温もりが・・・。
ない。
ない。
ない・・・!
「お・・・お・・・っ、おっ・・・俺をだまそうったってそうはいかねぇぞ・・・。おいッ・・・。起きろッ!かごめ!!」
かごめの体を激しく揺らして起こそうとする犬夜叉。
しかし、目覚めない。
動かない。
起きない・・・ッ!
「ふ・・・ふざけんじゃねぇぞッ!!!おいッ!!目ェ覚ませって言ってンだろ!!おいッ!!かごめッ!!!起きろったら!!頼むから起きろッ!!かごめぇえッ!!!」
激しく激しくかごめの体を揺らし、叫ぶ犬夜叉。
しかし、かごめは応えない。動かない。
「犬夜叉!!」
叫ぶ犬夜叉の腕をつかんで止めに入る弥勒。
「犬夜叉・・・!もうよせ・・・ッ!!かごめ様はもう・・・」
「うるせぇええ!!!かごめが・・・かごめが死ぬわけないだろうッ!!!離せぇええッ!!!」
弥勒の静止をはらってかごめを起こそうと暴れる犬夜叉。
「落ち着け!!犬夜叉・・・ッ!!」
「やかましいッ!!俺はかごめに手紙を渡すんだ!!!かごめを起こして手紙を渡すんだよッ!!渡さなきゃならねぇんだよッ・・・!!どけッ!!離せぇええッ!!!」
「犬夜叉・・・ッ!!」
犬夜叉を止める弥勒。しかし、その弥勒もやりきれない思いで歯をぐっと噛みしめる・・・。
「離せぇええッ!!かごめ、起きろ!!!起きろって・・・!!!俺、お前に渡すもんがあるんだよ!!!かごめ、目ェ開けろ・・・。頼むから・・・。頼むから・・・」
犬夜叉の叫び声が・・・珊瑚や七宝、楓達の胸をしめつけ
痛い。
「起きろぉおーーーーー!!」
叫んでも
「かごめえええッ!!!」
叫び続けても・・・。
「嘘だ、嘘だ、嘘だあああああーーーーーー!!!!! 」
応えない。
何も。
誰も・・・。
それでも叫ばずにはいられない。呼ばずにはいられない。
喉が枯れても、
切れても、腫れても
たとえ、声をうしなっても・・・。
愛しいその名を・・・。
叫ばずにはいられない・・・!
「うわぁあああああああッ!!!!嫌だぁあああーーーーーッ!!!かごめぇええええーーーーーーー・・・」
“犬夜叉・・・”
犬夜叉の絶叫に・・・優しい匂いと声が・・・
静かに・・・。
消えた。