河原でごろんと寝そべっていた犬夜叉の上で村の子供達が指さしている。
「うるせえッ!てめえらあっちへ行け!!」
怒鳴る犬夜叉。前ならば怖がってすぐ逃げていってしまった子供達だが、かごめを通して知り合ったおまつと会って以来、すっかりなつかれ(?)ている。
「かごめおねーちゃんの犬にしては行儀がわりぃな。つんつん」
男の子が棒で犬夜叉をつんつんとつっつく。
「オイ、こら、てめえ、俺をなんだと・・・っていて!」
おまつ、犬夜叉の耳をぴっぱる。
「かごめおねーちゃんも大変だよね。こんな乱暴な犬の世話しなきゃいけないなんて」
「ホントよねぇ。でも手がかかるほど可愛いっていうし・・・」
言いたい放題言われています。犬夜叉。さすがの犬夜叉の爆発寸前・・・。
しかし、子供達の方が一枚上手。おまつはうしろを指さし、
「あ、かごめおねーちゃんだ!!」
とかなりわざとらしくさけんだ。
「か、かごめ!?」
犬夜叉、おまつが指さす方にあわてて振り向く。
しかし、かごめの姿はどこにもなし。
その隙に子供達は、逃走!!
「あ、こら、てめえらッ!!まちやがれ!!」
「何してるの?犬夜叉」
子供達を追いかけようとした犬夜叉の背後からかごめがぬっとでてきた。
「か、かごめッ!お前、どこっから出たんだ!!」
「失礼ね!化け物みたいにいわないでよ!それにしてもあんた、またおまつちゃん達相手にムキになってたのね。相変わらず短気なんだから・・・」
「うるせえッ!!俺はもともと こーゆー性格でいッ!けっ!」
あらら犬夜叉、とうとうすねてその場にねそべってしまいました。
「う・・・ふふふ・・・」
「わ、笑うんじゃねぇよ!お前まで・・・」
「ごめんごめん・・・。でもさ、あんたすごくいい顔してるよ。昔より柔らかくなっていうか・・・」
「けっ・・・。バカ言ってンじゃねぇよ・・・」
誉めても拗ね顔な犬夜叉。でもそれは照れ隠しだってことはかごめは知っている。
そんな時、犬夜叉がすぐ近くに感じてかごめは嬉しい。
自然と・・・。犬夜叉を見つめるかごめの瞳は慈しみに満ちた優しい目になる。
大切な人が、穏やかな気持ちなら、私もすごく気持ちが穏やかになる・・・。
「ねぇ」
「な んだよ」
「犬夜叉の子供の時って・・・。どんなだった・・・?」
「あ?」
「きっと、今と同じですぐ怒ってムキになっていつもピリピリした拗ねた子供だったんでしょうね・・・」
犬夜叉はぼうっと怒りもせずしてかごめの話を聞いている。
「手の付けられない暴れん坊で・・・」
だんだんと犬夜叉のまぶたがおもくなってきた・・・。
「でも・・・。ホントは寂しがり屋の甘えん坊で・・・。聞いてる・・・犬夜叉?」
かごめが振り向くと犬夜叉はねむり、一匹のモンシロチョウが犬夜叉の鼻にふらりと止まった。
「・・・」
一匹のモンシロチョウが犬夜叉の鼻で休憩中・・・。
なんとも緩やかな時間に感じるかごめ。
限られたこんな穏やかな時間。
永遠に続いて欲しいと願うのは儚い夢かもしれないけど、だからこそ、大切に過ごしたい・・・。
かごめは犬夜叉の寝顔を見つめながらそう思った。
そしてその犬夜叉は・・・。
遠い、幼き頃への記憶の旅に出ていた・・・。
「あっち行け!!半妖めッ!!」
「きゃあ!!近寄らないでッ!!あたしも妖怪になっちゃう・・・!!」
子供達が真ん中にいる銀髪の少年に小石を投げつけている。
「誰がお前なんかと遊ぶかよ!!気持ち悪い!!」
罵声を浴びせながら子供達は容赦なく小石を投げる。
投げつける。
銀髪の少年はただ小さくなって飛んでくる小石から身を震えながら守っていた。
「犬夜叉!!」
向こうから、美しい犬夜叉の母が駆け寄った。
「やべッ!大人だ!逃げろッ!!」
子供達は逃げ出した。犬夜叉の母はすぐさま地面に縮こまる犬夜叉を抱き起こす。
「犬夜叉・・・!大丈夫?」
「オフクロ・・・う・・・」
母の顔をみて安心した少年・犬夜叉は母に抱きついて大泣きした。
「こらこら・・・。男の子が泣くんじゃありませんよ。どれ。傷を見せて」
見ると、顔から血が出ている。唇も少し切れていた・・・。
我が子の痛々しい傷に母の心も同じ痛みが伝わる・・・。
犬夜叉の母や優しく着物の袖口で血を拭いた。
「ははしゃま・・・。みんなオレのこと・・・。気持ち悪いって・・・。半妖だって・・・」
「・・・犬夜叉」
「オフクロ・・・。オレ“人間”嫌いだ!!半妖ってだけなのに・・・!!オフクロ・・・オレ・・・一体、どっちなの?人間?妖怪?」
犬夜叉は擦り傷だらけの手で目をこすりながら話す。
我が子のこの問いに犬夜叉の母は応えが見つからない。
自分が妖怪の男と恋をし、そして自分が望んで産んだ子。
我が子が“半妖”という重たく複雑な運命を背負うことを覚悟で産んだ。しかし・・・。母親が思っていた以上に・・・現実は冷たく辛いものなのだった・・・。
その冷たい現実に我が子を守りきれない自分に犬夜叉の母は自責の念を募らせる。
「オフクロ・・・?」
犬夜叉の母はそうっと我が子を抱きしめる。
変われるものならば、辛いさだめの我が子と変わってやりたい。でもできない。
だから、こうして“母はお前が一番好きですよ・・・”
と思い切り心から抱きしめてやりたい・・・。
温かな母の胸。ゆりかごの様に心地よくて・・・。
犬夜叉は赤子の様に母に甘えた。
(オフクロさえ、そばにいればいい・・・。友達なんかいらない・・・。オフクロ・・・)
母と子が抱きしめあう・・・。
そんな当たり前な事も犬夜叉にとっては何より支えだった。
しかし・・・。これが最後の抱擁になろうとは犬夜叉はまだ知らない・・・。