「うわ〜!!犬夜叉がきたあ!!」

「逃げろーーーッ!!」

犬夜叉の姿を見たとたん、子供達は逃げる。

恐ろしい顔をして。

犬夜叉は何もしていない。

しかし、最近、この辺りで妖怪が人間を襲っているせいか村のものは犬夜叉の姿を見れば皆逃げた。

「けっ・・・。なんだよ・・・。何だよ!!前はオレの事バカにしたり、今度は逃げたり・・・!!!」

涙。悔し涙。

仲間にもいれてくれず、今度は化け物扱い・・・。

悔しい悔しい悔しい・・・!!!

犬夜叉は心底、強くなりたいと思った。

見返してやろうと思った・・・!

そう、母に話す犬夜叉。しかし、母は・・・。

“強くなるというのは自分の力を見せつけるためではないのです。犬夜叉。誰かのために・・・力を使う事が強いということなのです・・・”

わからない。犬夜叉は分からなかった。

唯一、自分を認めてくれる存在の母が・・・。

認めてくれるのは母一人で充分・・・。そう思ってきたのに・・・。

少しやけになっていた犬夜叉。そんな犬夜叉が一人の人間の少年と知り合う。

名は将太という。

突然、犬夜叉の目の前に現れた。

「オラ・・・。妖怪になりたいんだ!!」

と、犬夜叉に土下座する将太。

犬夜叉は面食らった。

人間皆がきっと自分を嫌っているに違いないと思っていた犬夜叉に頭を下げて頼み事をする人間。

しかも、「妖怪になりたい」だなんて・・・。

(きっとこれは人間がオレを捕まえようとしている罠だ。そうに違いねぇ・・・)

と、最初のうちは無視していた。しかし、将太は何度も犬夜叉に頭を下げる。

「お願いします・・・!オラ・・・。強くなりてぇ・・・!!オラ・・・。オラのことバカにした奴らを見返したいんだ・・・!!誰にも負けねぇために・・・!!」

「・・・」

将太の言葉は今の自分そのものだった。

ただ、強さが欲しい・・・!

皆を認めさせるために。

犬夜叉は将太をじっと見て言った。

「・・・。そんなに強くなりてぇのか」

「うん!!」

「・・・。んじゃ・・・。ついてこい」

「はい!師匠!!」

犬夜叉は将太に手を差し出した。

犬夜叉はこの時、初めて母以外の人間に触れた。

“人間って・・・。あたたかい・・・”

母以外の人間すべてが憎み始めていた犬夜叉。けど・・・ 。


それから、将太と犬夜叉は共に強くなるため、“修行”した。

ある時は険しい山を登り、ある時は木に登り・・・。

勿論犬夜叉はひょいひょいと軽やかに登る。

将太は必死についていこうとしたが、さすがに勝負にはならない。

「だらしがねぇやつだな。強くなりたんだろう?」

「・・・。犬夜叉は充分強いじゃないか。どうしてみんなに虐められてばかりいたんだ?どうしてやりかえさなかたんだ?」

「・・・。オフクロが・・・。絶対に人に傷を負わせちゃいけねぇって・・・。うるせぇからよ・・・」

「・・・。ふ・・・ははははは・・・!!」

「な、どうして笑うんだ!」

「さすがの犬夜叉もおっかあには弱いのか・・・。ふはははは・・・!!」

将太は思い切り笑った。犬夜叉は面白くない。

「悪い悪い・・・。でもいいな・・・。オラ・・・。おっかあいねぇから・・・」

「・・・」

人間を嫌いな筈なのに。友達なんていらないと思っていたのに・・・。

犬夜叉は自分でも不思議なくらいにその言葉が出た。

「どうせ・・・みんな一人だ・・・。でも・・・。ダチくらいはいるだろ・・・」

「・・・。うん!そうだな・・・!」

“ダチ”

そんなものが自分にできる筈もないと思っていた。犬夜叉。

でも・・・。もしかしたら・・・。俺も・・・。俺にも・・・。

そう・・・信じかけていた・・・。


けれど・・・。

そんな微かな期待が・・・粉のように割れてしまう事を犬夜叉はまだしらなかった・・・。


「ま、待てよ・・・。犬夜叉・・・」

今日も木に登る練習をしていた二人。

犬夜叉は木のてっぺんから将太を待っていた。

「早くこい。ほんとに人間て体力ねぇな・・・」

「だって・・・。うわあああ・・・!!」

将太の突然の大声が下からした。

「どうした・・・!!」

見るとなんと・・・!!

グワアア・・・!!

狼の姿をした妖怪が将太に襲いかかろうとしていた・・・!!

「将太!!」

「犬夜叉!!」

犬夜叉はジャンプしてすんでの所で将太を助けた。

「大丈夫か!?」

「う・・・。うん・・・。でも・・・。すげぇな・・・。犬夜叉。強い・・・」

「んなこと言ってる場合か・・・!お前はここで寝てろ!!」

犬夜叉は将太を寝かせると妖狼に立ち向かう。

この時、犬夜叉の脳裏に母の言葉が浮かんだ。

“人のために使う力が本当の強さなのですよ・・・”

(本当の・・・。強さ・・・)

「危ない犬夜叉!!うぐッ!!」

「将太ッ!!!」

犬夜叉をかばって将太の背中に妖狼の爪が深く切り刻まれた・・・!!

「い・・・ぬ・・・」

「将太・・・!!!」

「オレ・・・。つよく・・・なったか・・・?」

「しゃ、しゃべんな・・・」

将太の腕の力がパタっと・・・。抜けた・・・。

「将太・・・!?将太・・・!!!!」

将太は完全に意識を失っていた

グワウウ・・・。

妖狼が犬夜叉に迫ってくる・・・!!

「てめぇ・・・。よくも・・・っよくもォオオオッ!!!!」

ザッシュッ!!!

グワアア・・・!!!

幼い犬夜叉の爪が・・・妖狼を真っ二つに引き裂いた!

初めて・・・。妖怪を手にかけた瞬間だった・・・。

自分の爪をじっと見つめる犬夜叉。

(オレ・・・。オレは・・・)

生々しい感触が残る。

「将太・・・!」

犬夜叉がハッと我に返って将太に駆け寄ろうとしたとき。

「き・・・きゃああああああ!!!」

騒ぎに気づいた村人達がその場にいた。

「ひ・・・人殺し・・・ッ!!!」

「ち、違・・・俺じゃ・・・」

犬夜叉はそれ以上言えなかった。

ケガをした将太・・・。

自分のせいで将太が・・・。

「化け物め・・・!!!村人を襲っていたのはやはりお前だったか!!!」

「化け物め・・・!!!!」

そう叫んで村人達は一声に犬夜叉に石を投げつけた・・・。

「出ていけ・・・!!!化け物ッ・・・!!!」

「そうだそうだ・・・ッ!!出ていけーーーーーッ!!!」

機関銃の様に石を投げつけられる犬夜叉・・・。

“違う!!俺じゃない!!”と叫びたい。

でも・・・。将太は自分のせいで・・・っ。

もう・・・。将太とは会えない・・・。

まだ、幼く体の小さい犬夜叉。

もっと小さく背中をまるめて犬夜叉はその場を・・・離れた・・・。

まるで子犬の様に小さく震えながら・・・。


犬夜叉は、母の所へ向かった。一目散に向かった。

母のあの温かな胸の中をめざして。

やっぱり・・・。無理なんだ・・・。

俺は・・・人間じゃない・・・。

でも妖怪でもない・・・。

下手に人間を信用して・・・。傷つけて・・・。

もう・・・。こんなのは嫌だ・・・。

オフクロだけでいい・・・。

オフクロさえわかってくれたら・・・いてくれたらそれでいいんだ・・・。


オフクロオフクロ・・・。


オフクロ・・・ッ!!!


張り裂けそうな気持ちで、犬夜叉は母の元へと走った。


しか・・・し・・・。


幼い犬夜叉の前に。床に横たわる動かぬ母。

「犬夜叉。お前の母もういない」

犬夜叉には一瞬意味がわからなかった。

ただ、眠っているだけに見えた。


「ははさ・・・ま・・・?」

掛けより、手をにぎる犬夜叉。

「つ・・・冷たい手・・・」

「オフクロ・・・オフクロ・・・!!!」

揺らしても揺らしても動かぬ母・・・。

「そんなの嫌だよ!!オレを一人にしないでくれよ・・・ ッ!!オフクロぁあ・・・ッ!!」

優しかった母。あたたかかった母。

悲しい時、抱きしめてくれた母。

今も母に抱きしめてもらいたくて走ってきたのに・・・。

動かない。抱きしめてくれない・・・。

「オフクロぁああああ・・・・ッ!!!!!」

犬夜叉は声が切れるほどに泣き叫んだ・・・。


そんな犬夜叉に追い打ちをかける・・・。

「出ていけ。お前のような半妖等わが一族にはいらぬ」

「わっ・・・」

まだ、幼い犬夜叉を母の一族は、いとも簡単に追い出した。

ドンドンドン・・・!!!

「オフクロ、オフクロ・・・ッ」
ドンドンドン・・・!!

何度も門をたたく犬夜叉。

「オフクロッ・・・!」

小さい手をこすりつけて叩く・・・。

しかし、何度叩いても母と呼んでも応えはなく、高い高い門が犬夜叉の前に立っていた・・・。

ジャンプをすれば、越えられるかもしれない。

もしかしたらこんな門くらい破れるかも知れない。

でも・・・。母はもう動かない・・・。

行ったとしても・・・。

動かない・・・。

犬夜叉はとぼとぼと歩き始めた・・・。


裸足の犬夜叉。

雨が・・・降ってきた・・・。


妖怪は寒さなど感じないはずなのに・・・。

足が凍る程に冷たい・・・。

俺は・・・妖怪でもない・・・。

真っ暗な暗闇を・・・。犬夜叉はとぼとぼと歩く・・・。

あてもなくあてもなく・・・。

どこへ行ったらいいのか・・・。

自分の還る場所が無くなってしまった・・・。

初めて自分にもできるかもしれなかった友も・・・。

唯一のより所だった母の胸の中も・・・。


もう・・・。ない・・・。

妖怪じゃない。人間じゃない。妖怪じゃない。人間じゃない・・・。


じゃあ、俺は・・・

俺は・・・。


ドコヘイケバイイノ・・・?



ドサッ・・・。

小さな体が・・・雨の上に倒れた・・・。

冷たい雨が・・・どんどんと犬夜叉の体の上に降る。


寒い・・・。寒いよ・・・。

オフクロ・・・。

寒い・・・。

ドコカ・・・アタタカナバショへ・・・。

“犬夜叉・・・!!”

声がする。

聞いたことのない優しい声・・・。母とは違う・・・。

“犬夜叉・・・!!”

降ってくる雨に小さい手を必死に伸ばす。

なぜだか分からないけど・・・。あの“声”を知っている気がして・・・。

“犬夜叉・・・!!”

あの声の向こう・・・。とても大切な“誰か”が待っている気がする・・・。

とても大切な・・・

“犬夜叉、犬夜叉・・・!”


あの・・・雨の向こうには・・・。


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