そして、暗闇を一本の光の矢が舞った!!
「ぐふうううッ!!!」
その矢はかごめの姿をした邪気に命中し、浄化した!
同時にあたりは一点、激しい崖の光景に変わった・・・
そして犬夜叉は崖の先に片手でしがみついた状態に・・・!
下をみるとそこは激しい流れの川が・・・。
「ぐはっ・・・」
犬夜叉の片手が痛み、ふっとゆるんだ瞬間!
「犬夜叉!!つかまって!!!」
やわらかくてあたたかい両手が犬夜叉の右手をガッとつかんだ!
青空を背に・・・。
身を乗り出して犬夜叉の右手をつかむかごめがみえた・・・。
「かご・・・め」
「犬夜叉!!早く左手も・・・。う・・・」
両手で、必死に犬夜叉の体を持とうとするが重い・・・!
「ぐ・・・」
犬夜叉はかごめの力を借りてなんとか崖からはい上がった。
そして力尽きたようにその場に倒れ込んだ。
「犬夜叉!!」
かごめは犬夜叉を抱き起こす。
「犬夜叉・・・しっかりして・・・!今、弥勒さまたちさがし・・・!!」
かごめの頬にそっと手をあてる犬夜叉。
犬夜叉の血が少しついた。
「お前・・・。本物のかごめか・・・?」
「え・・・」
この匂いは本物だ。
この桃色でやわらかい頬はかごめ・・・。
「犬夜叉。それより血が・・・」
「だいじょぶだ・・・。こんなもん・・・」
「犬夜叉・・・」
かごめはそっと犬夜叉の頭をひざにのせた。
かごめのやわらかいひざのふわふわした感触が、犬夜叉の傷の痛みを和らげる・・・。
「犬夜叉・・・。あんた何でこんなけが・・・」
「おまえこそ・・・。一体どこにいたんだ・・・」
かごめは、制服のスカーフで犬夜叉の額を拭いた。
「途中まではあんたと一緒にいたのはわかったんだけど・・・。突然に犬夜叉の手が離れたの。そしたら怖くてあっちこっち歩き回ってたら・・・。犬夜叉の言葉が聞こえた・・・」 「声って・・・」 “俺はお前と一緒にずっと笑っていたいんだ・・・!!” 「・・・」 一番照れくさい台詞を聞かれて犬夜叉ちょっと焦る。 「そしたら傷だらけのあんたがいて・・・。ねぇ・・・。あんた誰と何を話していたの?」 「・・・」 偽物のかごめと・・・。 “もし・・・。鬼蜘蛛がいなくて奈落が生まれなくて・・・。そしたら犬夜叉と桔梗は信じ合えていたなら・・・。私は・・・。今のあたしは・・・。今のあたしは・・・生まれてなかったんだだよね・・・” 気になる。気になって仕方がない。知るのが怖いけど、かごめに尋ねたい。 「なに?」 「お前・・・。後悔・・・したことある・・・か?」 「何を?」 「この・・・。時代に来たこと・・・。そして俺と・・・会ってしまったこと・・・」 「・・・。どうしてそんな事・・・聞くの・・・?」 犬夜叉は起きあがり、険しい顔でかごめに尋ねる。 「どうしてって・・・。だってよ・・・。俺と出会ってしまったばっかりにおまえはお前の生活狂っちまってるし、危ねぇことあるし・・・それに・・・それに・・・」 “桔梗の事で苦しい思いをさせている” そう続くはずなのに言葉が途切れてしまう。 「だから・・・。!!」 犬夜叉の言葉をさえぎるようにかごめの細い人差し指が犬夜叉の唇にあてられた。 「それ以上言うと怒るわよ」 「だけど・・・ッ!」 「後悔なんてするはずないでしょ!!でも、努力しなきゃって思うことならある。弓をもっと上手にならなきゃって思うよ。あたしコントロールよくないから・・・・。もっと犬夜叉の助けになりたいから・・・。もっと練習しなきゃだめだけどね。えへへ・・・」 かごめは弓をひくまねをしてそう言う・・・。 舌をぺろっと出して、無邪気に笑う。 その笑顔が・・・。 犬夜叉の心に 染みる、染み渡っていく・・・。 恋しただろう・・・。愛しただろう・・・。 「犬夜叉、あたし・・・。胸張って言えるよ。この時代に来て、犬夜叉と出会ったこと、すごく嬉しいって・・・。あんたの側にいることがすごく嬉しいって、誰にだってどこにいたって言えるよ!」 “あんたのこと、好きになってすごく嬉しい”って・・・。 かごめは背筋を伸ばし、犬夜叉をまっすぐにまっすぐに見つめる。 その姿に・・・言葉に“後悔”という気持ちは全くない。 照れることもなくまっすぐに、まっすぐに・・・。 「あんたに嫌われたってあたしはそばにいるから。だから、覚悟してね・・・!」 銀色の前髪に、そっと触れるかごめ。 犬夜叉はその手を思いきり両手で握りしめた・・・。 「ばかやろう・・・。俺が・・・。俺が・・・。お前を嫌うなんてことあるわけ・・・ねぇだろうが・・・」 嬉しくて。嬉しくて・・・。 情けねぇ・・・。幻のお前が言ったことが不安だったんだ。 お前はくれる。俺が弱気になりそうなとき、俺が不安な時、ありったけの笑顔と元気を・・・。 甘えているのかも知れない。かごめの優しさに。ずるいかもしれない。 でも・・・。でも必要なんだ。どうしてもこの手が、ぬくもりが。 そんな想い込めて・・・。犬夜叉はかごめの手の頬に何度も触れさせる。何度も、何度も・・・。 だからかごめは・・・。犬夜叉の前髪が触れてくすぐったい・・・。 「どうしたの・・・?子供みたいに・・・」 「う・・・。うるせえっ」 かごめがそばにいる嬉しさを素直に言葉にしたいのに。 どうして上手く伝えられないんだろう。 その自分の不器用さがもどかしい。 「かごめ・・・。その・・・。あの・・・。俺も言えるぞ・・・。胸張って・・・」 「何を・・・?」 犬夜叉は鼻の頭をぽりぽりかく。 「そ、その・・・。お前と会えて・・・嬉しい
って・・・」 「ありがとう。犬夜叉」 「お・・・。おう・・・」 かごめは犬夜叉のそっと肩に顔を寄せる。 「痛くない?このままでも・・・?」 「けっ・・・。お前が寄りかかってどうにかなる体じゃねぇ。どれだけでも支えならぁ・・・!」 「うん・・・。そうだね・・・。犬夜叉強いもんね」 「あったりめぇだ」 かごめがそばにいるから・・・。 崖の上の二人。崖の下の川は激流だが、その飛沫は太陽の光に反射してキラキラと光っている。 上を見あげれば、紺碧のキャンパスに綿菓子のような真っ白な雲が浮かんで・・・。 切なさがこみあげてくる。 でもかごめの本当の声は光の中にあった・・・。 “胸を張って言えるよ。犬夜叉に出会ってそばにいられて嬉しいって” 光の中に、 かごめが・・・いつもいる。 犬夜叉を照らして・・・。 一方その頃・・・。弥勒と珊瑚にも・・・。哀しい闇が待っているのだった・・・。
切なくて切なくてどうしようもない事をかごめと・・・。
“好きになってごめんね・・・.。そばにいてごめんね・・・”
不安になるくらいに寂しくて切なくて涙が出そうなかごめの言葉。
例え奈落の罠であったとしても、もしかしたらかごめが心のどこかでわずかでも思っていることなのかもしれない。
目の前にいるかごめが本物。
尋ねずにはいられない・・・。
「かごめ・・・」
まるで冷たい氷の洞窟に一筋に射した太陽の光の様に、やわらかく、優しく、照らして・・・。
この笑顔に何度助けられただろう。励まされただろう。癒されただろう。そして・・・。
そう・・・。誰にでも言える。
たった一つのかけがえのない宝物を見つけた様に・・・。
闇の中で聞いたかごめの言葉が不安だった。
俺が強くなれるのは・・・。
一面、闇だった空間はいつの間にか、眩しい太陽が辺りを照らしている、
“好きになってごめんね。そばにいてごめんね・・・”
闇の中で聞いたかごめの言葉。