真っ暗闇。前も後ろも見えない。確認できるのはお互いの声だけ。

かごめは恐る恐る歩く。

「ね・・・ねぇ・・・。犬夜叉。ちゃんとそこにいる??」

「いるにきまってんだろ。かごめ足下きおつけろよ」

「う・・・。うん・・・きゃっ」

「かごめ・・・!」

転びかけたかごめの腕をつかむ犬夜叉。

「てめぇ・・・!言ってたさきから・・・」

「ご・・・。ごめん・・・」

犬夜叉はかごめの手をしっかり握った。

「これで・・・。大丈夫だろ・・・」

「う・・・うん。ありがとう」

しっかりかごめをエスコートする犬夜叉。

暗闇でお互いの顔は見えないけど、確かにかごめが、犬夜叉がとなりいる・・・。

かごめもぎゅっと握り返した。

少しずつ前に進む・・・。どれだけ進んでいるのかさえわからない。

「かごめ」

「なあに?」

「いや・・・。そこにいるかと思って・・・」

「大丈夫。ちゃんといるから」

「お・・・おう・・・」

声だけでも安心する。

暗闇でも一人じゃないことを確認して・・・。

いつも隣に・・・。

「かごめ・・・」

「・・・」

返答がない。

そういえば握られていたはずの手が・・・。

「かごめ!おい!返事しろ!!」

「・・・」

「かごめ!!!」

ない。かごめの声も。手の感触も・・・。

「かごめ!!どこにいるっ!!」

犬夜叉は叫ぶ。

「かごめ!!!」

“クックックッ・・・”

闇の奥からあの憎き声が聞こえてきた・・・。

「な・・・奈落か!!」

うっすらと、くぐつの奈落の姿が浮かんだ。

「そんなにかごめに会いたいか。犬夜叉よ」

「てめえ!!」

犬夜叉は鉄砕牙を抜いた!!

「ふ・・・。かごめなら・・・お前の目の前にいるではないか」

「!?」

奈落の指さす方向に確かにかごめの姿が・・・。

「かごめ!!」

かごめの匂いがする・・・。

「犬夜叉!!」

確かにかごめだ。

「どうした。犬夜叉。かごめはあそこにいるぞ?」

「う・・・うるせえッ!!その前にてめぇをぶった切ってからだ!!」

ザシュッ!!

鉄砕牙はくぐつを真っ二つに破壊した!

「くくく・・・。悪かったな・・・」

「!?」

「かごめとの時間を邪魔をして・・・。これからじっくりと二人で愛でも語らうがいい・・・。くっくっくっ・・・」

「奈落ッ!!」

意味深な言葉を残し、奈落の声は消えた。

犬夜叉はかごめの元へ走ろうとした。

「かごめ・・・!」

「犬夜叉!来ちゃだめ!!」

「!?」

ドン!!

犬夜叉は何かに正面からぶつかった!

「な・・・なんだこれは!!」

ドンドン!!

透明な分厚いガラスの壁が犬夜叉とかごめの間をさえぎっている!!

周りはただ、黒い空間に、二人・・・。

向こうにはかごめの姿だけが見える。まるでスポットライトの様にかごめだけに光があたっている。

「かごめ・・・!!ケガはねぇか!!」

「うん・・・」

「畜生・・・!!こんなもんふっとばしてやる・・・!!」

犬夜叉は鉄砕牙をかざし、かごめをぶち破ろうとした!

ザシュッ!!

「風の傷!!」

風の傷を壁に向かって放ったが、跳ね返って犬夜叉に当たってしまった!!

「うっ!!」

「犬夜叉!!」

犬夜叉は倒れ込む。

「大丈夫!?犬夜叉!」

「うるせえ!!こんな壁・・・。うっ・・・」

犬夜叉の腕に激痛が走った。

「お願いだからやめて・・・。あんたが傷つくのをここから見てろっていうの!?」

「けどここの壁をぶっこわなさいとお前は・・・」

「・・・」

うつむいたままかごめスッ立ってガラスの壁の側まで来た。

「かごめ・・・」

かごめは透明な壁にスッと手を当てた。

犬夜叉もそっとかごめの手に重ね合わせる・・・。

壁は冷たく、まるでこおりの様・・・。

「こんなに近くにいるのに・・・。犬夜叉が・・・」

「そうだよ・・・。だからこの妙な壁をぶっこわ・・・」


“犬夜叉・・・”

「なっ・・・」


二人の間に・・・突然桔梗の姿が映った・・・。

「き・・・桔梗・・・!」

うつろな表情の桔梗の姿すうっと消えた。

「な・・・奈落の仕業だな!!」

「・・・」

重ね合わせていた手を静かに離すかごめ。

「かごめ・・・?」

「こんなに近くにいるのに・・・。目の前に犬夜叉がみえるのに・・・。犬夜叉のところへ行けない・・・。側にいるのに遠い・・・。きっとこれがあたし達の本当の距離なのかもしれないね・・・」

「何言ってンだ・・・」

側にいても、側にいても、遠いものが確かにある。

桔梗の事・・・。

それから・・・。

「側にいても生きてる時代が違う・・・。生きてる時間が違う・・・。それぞれにそれぞれの場所があって・・・。すっごく遠いよ・・・。遠くて長い時間だよ・・・」

その遠くて長い時間を超えて、犬夜叉と出会ったけど・・・。

それは・・・。

それは・・・。

「今更何わけの分かんないこと言ってンだよ!!今はそんなこと言ってる場合じゃ・・・」

「今更って何!?あたしにとってはずっと心の中で考えてきたことなのよ!!」

かごめは興奮して怒鳴った。

犬夜叉はかごめのその怒りように驚き、かごめを見つめた。

「そりゃ・・・。犬夜叉には分かんないよ・・・。あたしとあんたの間には500年っていう長い時間が・・・それがどんなに・・・。遠いか・・・」

「でも俺は『今』お前と一緒にいるじゃねぇか!!それでいいじゃねぇかよ!!」

「よくないよ・・・。あたしがよくないよ!!だって・・・もし・・・。四魂の玉がなかったら・・・。無くなったらどうする!?あたしは現代に帰れないし、それよりなにより・・・。あんたと会えなくなるって思うとすっごく怖い・・・。あたしとあんたを結んでるものが無くなったらっていつも考えてた・・・」

かごめと犬夜叉を結ぶもの。それは四魂の玉。

この戦いの元凶の四魂の玉。

それが500年という月日を越え二人を出会わせ、そして今、繋いでいる。

それが無くなったら・・・。

いや・・・。二人を繋いだものは・・・四魂の玉ではなく・・・。

四魂の玉を抱えて眠った美しい巫女という存在・・・。

「ねぇ。犬夜叉・・・。もし・・・。50年前に鬼蜘蛛がいなかったらってどうなってたかな・・・?」

「え・・・?」

「もし・・・。鬼蜘蛛がいなかったら・・・奈落が生まれなくて・・・。そしたら・・・二人は信じ合っていられたんだよね・・・」

「かごめ、お前、何が言いたいんだ・・・」

「・・・。四魂の玉がなかったら・・・。二人は幸せになっていたのに・・・。そして今のこの 今のあたしはうまれなかった・・・。あたしの心もなかった・・・。あたしなんていなかったんだから・・・・」

「バカ言うな!!!」

今度は犬夜叉の怒鳴り声が静かな空間に響いた。

しかし、かごめ悲しい悲痛な表情で話し続ける。

「バカかもしれない・・・。でも・・・。でも・・・。あたしって・・・もしかしたら四魂の玉を運ぶためだけに生まれ変わっただけなのかもしれない。たったそれだけの存在なのかもしれない・・・。そんな疑問が湧いては消えて湧いては消えて・・・。桔梗と犬夜叉を見る度にそうかんがえちゃうのッ・・・!そしてそんな事考えてしまう。自分が嫌で嫌でしょうがなくなってっ・・・。あたしは・・・」


かごめの肩が激しく震えている。


止めようとしても出てくる涙。


こんな事は言いたくないのに。


言いたくないのに・・・!!


暗闇が不安だからか後ろ向きな感情だけが心を支配する。


心の闇がかごめ覆って重たく重たくする・・・。


「お前・・・。ずっとそんな事かんがえてたのかよ・・・!そんなこと・・・!!だったらお前をずっと守ってる俺はどうなるんだよ!!お前を守りたいって俺は・・・っ」

「ごめん・・・。犬夜叉・・・。ごめん・・・。ごめん・・・ッ!あんたにこんな事言いたくないのにごめんごめん・・・」

「何でお前が謝るんだ!お前が・・・」


謝る方は俺なのに。俺がかごめにそんなことを言わせているのに・・・っ!

犬夜叉は無理矢理拳をあげ、壁に打ち付けようとした。

「やめてぇ!!」

かごめが止めた・・・。

今まで聞いたことのない程の大声で・・・。

「こないで・・・!!あたし・・・。こんな嫌なあたし犬夜叉に見られたくない・・・。だからそばに来ないで・・・ッ。お願い・・・。お願いだから・・・。おねが・・・い・・・」

両手で顔を覆って、泣き崩れるかごめ・・・。

自分の顔を隠すように・・・。


長い髪が乱れ、でも小さな背中は激しく震えて凍えて・・・。

かごめは長い髪をかきむしるように床にうずくまった・・・。

そして、犬夜叉は胸がしめつけられるような事を耳にする・・・。

「犬夜叉・・・。好きになってごめんね・・・。そばにいてごめんね・・・。あたしがそばにいなかったら桔梗の事だけ守れるのに・・・」

痛いくらいに悲しい笑顔。

切れそうに痛い哀しい笑顔。

犬夜叉の胸に突き刺さった。その笑顔が・・・。

俺が苦しめている。俺の我が儘がかごめを。幼さがかごめを苦しめている。

泣くな・・・。泣くな・・・。頼むから泣くな・・・ッ!!

「泣くなぁあああッ!!!」


ドカッ!!

ドンッ!!

犬夜叉は二人を阻む影に体ごと体当たりした・・・ッ!

「犬夜叉・・・ッ!」

「泣くなよ・・・。かごめ・・・。お前に謝られたら俺は・・・。どうしたらいいんだ!!お前に謝られたらお前が離れていく気がしてたまらねぇんだよ!!!」

ドカッ!!

ドンッ!!

犬夜叉は何度も何度もぶつかっていく!!

壁には犬夜叉の血が飛び散って・・・。

「やめて!!犬夜叉!」

「やめねええッ!!ぶっこわすまでやめねぇッ!!」

「犬夜叉!!」

ドン、ドカ!!

犬夜叉の赤い着物が赤く染まっていく・・・。

しかし、犬夜叉は痛みなど忘れてぶつかっていく・・・。

今、かごめと分かれたら、離れていたら心が、心までが離れてしまいそうで・・・。

奈落の罠かもしれないと頭の隅でよぎっても、

目の前の哀しい笑顔のかごめは見ていられない。

抱きしめて、その涙を拭いたい。

犬夜叉は透明な壁の向こうのかごめだけにまっすぐに、まっすぐに向かっていく!

「ぐはッ!!」

激しく倒れる犬夜叉!

「犬夜叉・・・!!」

「かごめ・・・。時間も時代も関係ねぇッ!!例え時代が違っても・・・。生きてる時間が違っても俺は・・・!」

俺は・・・ッ!

ふらつく体を押し、犬夜叉は起きあがり・・・。

「俺は・・・。かごめ、お前にそばにいてほしい・・・。一緒に笑っていたいんだ!!!うおおおおッ!!!」

最後の力を振り絞って壁に大激突した!!!

ガララ・・・ッガシャーーーーンッ・・・ッ!!!

割れた破片が飛び散って・・・。暗闇に雪のように空に舞った・・・。

キラキラと・・・。

「う・・・。かごめ・・・」

「犬夜叉・・・!!」

かごめが犬夜叉に駆け寄る。

「犬夜叉・・・!!」

「かごめ・・・」

やっと・・・。かごめの所へこれた・・・。犬夜叉はかごめの手に触れた・・・。

「!?」

冷たい・・・。ひどく・・・。それに・・・。

匂いがしない・・・!!

「おま・・・え・・・」

「犬夜叉・・・。あたし嬉しい・・・。あたしのために体を張ってきてくれたんだね・・・」

怪しく微笑むかごめ・・・。

姿はかごめでも目の前にいるのは・・・!!

「てめぇ・・・。ぐっ・・・!!かごめじゃねぇな!?」

犬夜叉は胸の傷を抑える。

「ふふふ・・・。犬夜叉・・・。どうしたの?どうして離れるの・・・?あたしのそばにきてくれたんでしょ・・・?」

不適に笑い、犬夜叉に近づくかごめ・・・。

「ぐはっ・・・!」

深手の犬夜叉は動けない!!

「犬夜叉・・・。一緒に行こう・・・。闇に・・・」

「な・・・!?」

グラッ・・・!!

犬夜叉の体が激しく揺れ、足からどんどん奥のみえない穴に引きずり込まれていく!!

「ね・・・。一緒にずっと・・・」

「く・・・くそッ!!!!」

あり地獄の底の様な闇・・・!

体は動かズルズルとはまっていく・・・!

その時・・・!

「犬夜叉ーーーー!!」

聞き慣れた・・・愛しい声が聞こえた・・・。


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