BELIVE
〜お前を信じてる〜

「だめだだめだ!!妖怪や妖怪の味方する人間はこの村に入ってじゃだめなんだ〜!!」

七人隊を追う途中、立ち寄ったとある村。

今晩宿を頼もうとしたが、入り口で一人の少年に止められてしまっていた。

「一歩も入れないぞ!!」

犬夜叉の足にしがみついて止める少年。

犬夜叉はひょいっと少年の首根っこをつかんだ。

「おいこらガキ。てめぇあんまりぎゃーぎゃー騒ぐとその口塞ぐぞ」

「犬夜叉、おすわり!!」

「ぐえッ!」

大人しくなったのは犬夜叉だった。

少年をそっと抱っこするかごめ。

「ねぇ・・・。どうして入っちゃ行けないの・・・?教えてくれるかな・・・?」

「・・・。ふん!妖怪と連んでる女となんか話したくないね!!」

「修太朗!!」

向こうから村の女が少年を迎えに来た。

「これ・・・!修太朗!あんたって子はまた旅の人に・・・」

少年はかごめから離れると、思いきりアカンベーをして走っていってしまった。

「全く・・・。あの子きたら・・・。あ、皆さんどうぞ。今晩は私の家に・・・」

犬夜叉達は女の家に迎えられたのだが・・・。

夕飯が終わり、土間で犬夜叉達は少年・修太朗の事を叔母から聞いていた

「修太朗は私の姉の子なのですが・・・。姉夫婦は妖怪に殺されてしまったのです・・・」

つい1ヶ月ほど前・・・。

もともとこの辺りには妖怪自体少ない土地柄だった。

しかし何故か急に妖怪達が増え、この村も襲われ、焼かれた。

その時、修太朗の両親も殺された・・・。

「あの・・・。急に妖怪が増えたとおっしゃいましたね・・・」

「はい・・・」

「ねぇ・・・法師様、それってやっぱり・・・」

「ああ・・・。奈落の影響だな・・・」

奈落の凄まじい邪気の影響であちこちで凶悪な妖怪がうまれたり蘇ったりした・・・。

「優しかった修太朗はあんな風に荒れてしまって・・・」

となりの部屋から出てこようとしない修太朗。どうしても犬夜叉達とは食事したくないと意地をはっていた。

「けっ・・・。親のいねぇガキなんていくらでもいるぜ。自分だけが可哀相っておもってんじゃねーのかよ」

「犬夜叉!」

かごめは犬夜叉をいさめる。

犬夜叉の言葉に修太朗の叔母は険しい表情になる。

「確かに・・・。でも貴方達妖怪には言われたくないわ・・・!修太朗の気持ちも分かるんです・・・。妖怪達は何かといえばあたし達人間を虫けらみたいに殺したり挙げ句に食料にしたり・・・。妖怪全部が“悪”だなんて言わないけど、今まで何人の人間が犠牲になってきたことか・・・!!」

修太朗の叔母はひざの上の拳をぐっと握って話す。怒りを抑えながら・・・。

しかし、そこへ犬夜叉は火に油を注ぐ事を言う。

「ふん・・・。妖怪だけのせいにすんじゃねぇよ。人間同士だって殺し合いぐらいするじゃねぇかよ。戦とかいってよ・・・」

修太朗の叔母は犬夜叉きっと睨み付け、声を荒げた。

「じゃあ貴方は、どうなんです!?貴方だって妖怪でしょう!!その長い爪で今まで何人の人間を傷つけてきたんです!!」

「な、何だよ!てめぇ!何が言いたいんでい!!」

「貴方が傷つけてきた人間達の事を一度でも考えたことがありますか!?殺されなくてもいいのに殺されてしまったもの達の痛みが分かりますか!?食べられた人間の気持ちが分かりますか!?その爪に傷つけられた痛みが痛みが・・・。何にも関係ないのに命を絶たれた者の気持ちが・・・ッ!!残されたものの気持ちが分かりますか・・・ッ」

犬夜叉の着物をぐっとつかんで訴える修太朗の叔母・・・。

悲痛な叫びが叔母の瞳から流れ出す・・・。

ハッと我に返った叔母は涙を袖で拭った。

「す・・・。すみません。あなた方のせいではないのについ・・・。私は修太朗と一緒に隣の部屋で寝ます・・・」

パタン・・・。

襖が静かに閉まった・・・。

シーンとする土間・・・。

「犬夜叉・・・」

心配そうに犬夜叉を見つめるかごめ。

「・・・」

沈黙の犬夜叉に総まとめするように弥勒がつぶやく。

「今まで・・・。我々のこの闘いのせいで幾つもの村や人々が犠牲になったのは事実だな・・・。修太朗の両親も奈落の邪気で活発になった妖怪に襲われた・・・」

「うん・・・。忘れちゃいけないね・・・。そういうこと・・・。法師様・・・」

しんみりと真面目に語る弥勒と珊瑚。

重たい空気が流れる。

奈落を倒すためだとはいえ、自分達が立ち寄った村が襲われたことは今までも何度もあった。

その度にともらっては来たが・・・。

七人衆が蘇り、今もどこかで何の関係もない人々がその手にかかっているかも知れない・・・。

重たい空気と共に夜は過ぎていくのだった・・・。


夜中・・・。犬夜叉は一人抜けだし、近くの小川をぼんやり見つめていた。

「・・・」

自分の手。

この爪で・・・。

“貴方はその自分の爪で傷つけてきた人間達の事を考えたことがありますか!?”

修太朗の叔母の言葉が犬夜叉の胸につっかえていた。

勿論、自分が好んで誰かの命をあやめた事などない。

ないが結果的にそうなった事はある。

そう・・・。

妖怪の血に支配されたとき・・・。

野盗とはいえ、その手で狩ってしまった・・・。

「くそ・・・!」

ポチャン・・・。

胸にもやもやが溜まって・・・。

こんなときにかごめに側にいて欲しいとつよく思ってしまう・・・。

けど・・・。かごめはいない。

ふっと辺りを見回してしまう犬夜叉。

かといって「かごめ、俺、今辛いからそばにいてくれ」などと、言えるはずもなく・・・。

「かごめ様はこないぞ。犬夜叉」

「なっ・・・。弥勒!!」

あきれ顔の弥勒。お前の気持ちなどお見通しだぞという顔をしている。

「お、俺は別に・・・」

「待ってもかごめ様は来ない」

「なんでだ!!はっ・・・」

犬夜叉思わず本音がぽろり。

「ったく・・・。お前はちっとも成長しとらんなぁー。単純な性格の癖にすぐ内にこもる・・・。かごめ様は今頃、すすだらけになっておられるぞ・・・」

「どーゆことでい!!」

弥勒は今、かごめが何をしているのかを犬夜叉に説明した・・・。


布団で珊瑚と七宝がすやすやとねむっている。しかしかごめの姿は床になく・・・。

「ふう・・・。みつからないなぁ・・・」

村のはずれの焼き焦げた家の残骸の中を懐中電灯を片手に何かを探すかごめ。

「何やッてんだ!かごめ」

「あ・・・。犬夜叉。丁度よかった。あんたも探してよ・・・。って何人の顔じろじろ見てんのよ!」

懐中電灯の灯りごしにかごめの顔が映る。

顔はすすだらけで真っ黒。

「くく・・・。お前、自分が今、どんな顔してんのかわかってんのか??くく・・・」

「何よ!あんた!笑ってないであんたも探してよ!!」

「探すって・・・。この中にある櫛を探すか!?」

「そうよ!・・・。あれ?あんたなんであたしが修太朗君のお母さんの櫛探してるって知ってるの?」

「・・・べ、別にいいだろ!それよか探すぞ!かごめ」

「う・・・。うん」

二人屈んで焼け跡を探す・・・。この焼け跡は元々は修太朗の家だった。

かごめ達が探しているもの・・・。それは修太朗の母の形見の櫛だった。

ベッコウの櫛・・・。

弥勒がさっき犬夜叉に言った。


“今、かごめ様は修太朗の母の櫛を探している”

“櫛?”

“そうだ・・・。さっき、かごめ様が修太朗の叔母上と話しているのを耳にしてな・・・”

かごめは修太朗の叔母にこう尋ねた。

『何か、修太朗君が元気になる方法はありませんか』

叔母は修太朗の母の形見の櫛があればもしかしたら・・・と、応えたのだ。

しかし、焼けた家の跡の中から見つけるなど到底可能性は低い。

それでもかごめは何かせずにはいられなかった。

自分ができることを必死に探して・・・。

夢中で探す。顔をすすだらけにして懸命に・・・。

犬夜叉はそんなかごめを見つめる・・・。

“かごめ様はな、お前が元気になるためには修太朗の笑顔が必要だと感じ、櫛をさがしておられるのだ。それがお前はどうだ?こんな所でうじうじしててよいのか??”


弥勒のそう言われ、ここに来た・・・。

自分の気持ちしか見えない自分。

辛いことがあるとまわりに八つ当たりしたり、反対に自分の殻に閉じこもったり・・・。

いつもそんな自分の側でじっと見つめてくれていたかごめ。

辛いことがあっても、きっとかごめの笑顔がそばにあると思えば乗り越えられる・・・と思った。

それが自分にとって“当然”になってしまっていた・・・。

でもかごめは違う。いつも誰かのために何かしたいと思っている。

それは自己満足的なおごりではなくて・・・。

「ふぅ・・・。絶対見つけなくちゃ!ね!犬夜叉!」

「・・・。お・・・おう・・・」

制服も真っ黒にしてかごめは必死に探す。何も得られなくても、何も望まなくてもかごめはいつも一生懸命。

自分のためじゃなくても、誰かのために、必死になる・・・。

どうしてそうなのか。どうして・・・。

「・・・。ん・・・?」

何か固く、茶色いものを見つけたかごめ。

かごめは袖口ですすを拭く。

するとすすで汚れてはいるがそれは間違いなくべっこうの櫛だった。

「あった・・・。あったよ!!犬夜叉!!やったぁ!!」

かごめは犬夜叉に抱きついて喜ぶ。

「こ、こら・・・!ひっつくな!!」

しかし顔は嬉しそうな犬夜叉。

「あ・・・。ごめん・・・。つい・・・。ぷ・・・うふふ・・・。あんたその顔・・・」

「なんでい!!」

犬夜叉の目の回り、まあるく見事に黒縁の犬の様になっております。

「てめえ!笑ってんじゃねぇよ!かご・・・」

「うふふ・・・。犬夜叉の顔真っ黒。うふふ・・・」

かごめが笑ってる。

かごめが笑ってる。

かごめが自分に笑いかけている・・・。


チクチクした心が


もやもや重い気持ちが


ふわふわ柔らかくなる。


かごめが・・・笑っているから・・・。


「??んもー。そんなにあたしの顔、可笑しい?じっと見つめて・・・」


「べ・・・別になんでもねぇよ・・・」

改めて・・・。この笑顔がすぐ側にある事の深さとありがたさを・・・。感じる・・・。

救われる・・・。すべてが・・・。

「でも・・・。櫛なんかであのガキの機嫌がなおるのか・・・?」

「そう信じたい・・・。ね?犬夜叉」

「・・・。まぁあ・・・な・・・」

かごめが信じるなら・・・。

信じてみたい・・・。

妖怪に両親を奪われた修太朗。幼い少年の笑顔をもう一度戻ることを・・・。


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