犬夜叉はそう言った。
あたしが笑っていることで犬夜叉が喜んでくれるなら・・・。
沢山楽しいことして、沢山笑おうって思った。
でも・・・。
でも・・・
青い空と・・・。足下には沢山のタンポポが咲いて・・・。
草原でかごめと七宝が花を摘んで遊んでいる。
七宝はかごめに花輪を作ってもらおうとせっせと花々を摘む。
「かごめ〜。綺麗じゃなー♪いい匂いじゃし〜♪」
ぽかぽか陽気のせいか、七宝はいつになく上機嫌。
「かごめー♪ほら、この花も綺麗じゃなー♪」
かごめに摘んだ花をにこにこしながら見せる七宝。
かごめの笑い返した。
「・・・。そう・・・だね・・・」
しかし、七宝は曇り顔に。
「かごめ・・・。かごめのために摘んだのに・・・。嬉しくないのか??」
「え・・・?そ、そんなことないよ・・・。あたし嬉しいよ・・・」
「でも、ぜんぜんそんな顔しとらんぞ?怖い顔しとる・・・」
「え・・・?そ、そんなこと・・・」
しかしかごめは感じた。自分の中で何かが起きていることを・・・。
何か・・・変・・・。
何か分からないけど・・・。変・・・。あたし・・・。あたし・・・。
七宝ちゃん、あたしのために花摘んでくれたのに・・・。
嬉しくない・・・。
ううん・・・頭では嬉しいって考たけど・・・。
可愛く咲く色とりどりの花たちを見ても、甘い花の香りをかいでも・・・。
青い空を見ても、さわやかな風をうけても・・・。
ナニモ、カンジナイ・・・
心の中の感情が・・・カラになったような・・・。
「かごめ・・・!一体どうしたんじゃ!かごめ!!」
心配そうに自分を見つめる七宝を見ても、何も思わない。いや、思えない。
ただ、七宝が自分を見ている。
そう認識するだけで・・・。
何の感情も感じない。
自分の中の“心”が消えてしまった様に、何も感じない。
嬉しさも、怒りも何も・・・。
「し・・・。七宝ちゃん・・・。あたし・・・なに、か・・・へん・・・じゃない?」
「い、いや特には・・・。でもかごめの顔・・・。石みたいじゃ」
「い・・・し・・・?」
「そうじゃ。かたまっとる。何か・・・」
“石”
まさにそんな感じだ。表情は何もなく、ただ、固いだけ・・・。
「し・・・七宝ちゃん、あたし・・・今、笑ってる・・・よね?あたし・・・」
七宝は思い切り首を横に振る。
「え・・・」
笑えない・・・。
嬉しいはずなのに・・・。わらえ・・・ない・・・。
「かごめ、どうかしたのか!?」
笑えない・・・。ワラエナイ・・・!!
「かごめ!!」
かごめはペタリと座り込む。
「かごめぇーー!?」
かごめは途端に体の力が抜け、動けなくなってしまった・・・。
「なにぃー??かごめが笑えなくなっただとー??」
楓の小屋に戻った七宝はかごめの様子を詳しく犬夜叉達に話した。
当のかごめ本人は、目がうつろでただ、ぼんやりと壁に寄りかかって沈黙していた・・・。
「何か、わりぃーもんでも喰ったんじゃねぇのか?」
「犬夜叉 、どーしてそうお前は何でも事を簡単に言うのです。見てご覧なさい。かごめ様、明らかに様子が変でしょう・・・?」
「そーかぁー??」
ぼうっとするかごめをのぞき込む犬夜叉。
「おい、かごめ!おい!」
犬夜叉が声をかけても視線を合わせず、応えない・・・。
「くそ !こら!返事しやがれ!かごめ!俺、別に悪いことしてねーぞ!」
しかし、かごめは本当に石の様に何も反応しない・・・。
「法師様・・・。かごめちゃん、一体、どうしちゃったの・・・?」
「・・・。分からん・・・。ただ、喜怒哀楽の感情が無なって無気力な状態・・・。ということなのだろう・・・。体調によるものなのか、それとも何か大きなショックを受けての現実逃避によるものなのか・・・」
「“かなり大きなショック”・・・」
弥勒、珊瑚、七宝の3人はいっせいに犬夜叉に注目。
「な・・・。なんだよ!お、俺が何したってんだ!」
「犬夜叉、お主、桔梗とまた逢い引きしておったんじゃろーー!じゃからかごめはショックを受けて・・・!」
「ばっ・・・。んなことしてねぇえ!!」
「嘘付け、白状せい!!そしてかごめに謝れーーー!」
「してねぇってんだ!!」
七宝は犬夜叉の頭の上に乗っかってぽこぽこと叩いた。
「七宝ちゃん、やめて・・・」
かすれたような声でかごめは二人を止める。
「かごめ・・・」
「犬夜叉のせいじゃ・・・ないから・・・。ちょっと・・・つかれただけだから・・・。みんな・・・心配・・・しないで・・・。休めばきっと元に・・・戻るから・・・」
かごめはそう言ってうなだれる様に、横になってしまった・・・。
「かごめ・・・」
犬夜叉は眠るかごめを心配そうに見つめる。
かごめの言ったとおり、ただ、つかれているのなら休めば良くなるはず・・・。
犬夜叉達もきっと大丈夫だろうと思った。
しかし・・・。
「かごめ・・・ちゃん、今日もすごく天気良いし・・・。ちょっと散歩しない??」
無言で首を横に振り、珊瑚の申し出を断るかごめ。
「のう、かごめ、ほら、オラ、こんな面白い草をみつけたのじゃ♪ほら・・・」
必死に猫の形をした葉を見せても何も応えない、見ようともしないかごめ。
「かごめ様、如何でしょう。皆で花見でも・・・」
といいながら、かごめにセクハラしている弥勒・・・。しかしそれすらかごめは無反応・・・。
「こ・・・。これはなんて重症なんだ・・・。しかし私の手が勝手に・・・。はッ・・・」
弥勒、背後に凄まじい殺気を感じる。
振り向くと仁王立ちしている犬夜叉と珊瑚が・・・。
「あ、あのお二人ともこれには訳が・・・」
「問答無用・・・!!」
ドカバキドカドカ!!
犬夜叉、珊瑚、弥勒のお仕置き終了。
「全く・・・!油断も隙もないんだから!このスケベ法師が!!」
「はは・・・。すいません・・・。しかし、冗談はさておき・・・。かごめ様、かなり深刻ですぞ。犬夜叉」
「・・・」
周りが騒いでもかごめは一体どこを見つめているのかさえ分からない。ただ、人形のように俯いたまま座っている・・・。
「おい・・・!かごめ!!お前・・・。ホントにどうしちまったんだ!!どっか痛てーなら痛てーって何とか言えよ!」
「・・・」
犬夜叉は乱暴にかごめを揺らした。
「おい!かごめ!!」
「いぬ・・・やしゃ・・・」
かごめは犬夜叉を見ているつもりだが、視点がさだまらない。
人形のようなかごめ。
石の様なかごめ・・・。
犬夜叉は、たてもたまらず、
「・・・。くそ!!かごめ、ちょっと来い!!」
と、強引にかごめをおぶって出て行ってしまった・・・。
「法師様、犬夜叉にまかせちゃっていいの・・・!?」
「・・・。荒治療も有りかもしれませんな・・・」
「荒治療って・・・」
「犬夜叉とてバカではありません。無理な事はしないでしょう」
「そうかのう・・・??」
「・・・」
3人、ちょっと不安気・・・。
「犬夜叉がバカでは無いことを祈りましょう・・・」
「ほら・・・。かごめ、この場所好きだっていったろ・・・?」
犬夜叉はかごめを山の中の小さな滝まで連れてきていた。
滝の水しぶきで できる虹がかごめは好きだと言っていたのを思い出したのだ。
「・・・」
しかし、虹はできていない・・・。
かごめは無表情でただ、立っている・・・。
「かごめ・・・。お前、ここ好きだって言ってたじゃねぇか。一体、どうしちまったんだ・・・。かごめ!」
「・・・。ごめん・・・。いぬや・・・しゃ・・・。心配掛けて・・・。ごめん・・・」
オウムの様にそう繰り返すかごめ・・・。
「何でお前が謝るんだよ!」
「ごめん・・・。ごめん・・・」
かごめはそうつぶやきながら水の側へゆっくりと歩く・・・。
「かごめ・・・?」
水をじっとのぞき込むかごめ・・・。
水には自分の顔しか映っていない・・・。
犬夜叉の側にいるときはいつも笑っていようって思っているのに・・・。
犬夜叉と二人きりで、ここに来るの事が本当は涙がでるくらいに嬉しいはずなのに・・・。
ワラエナイ、笑えない、笑えない・・・!!!
どうして、どうして、どうして・・・ッ!!
もどかしさとイライラが渦巻いているはずなのに、それすらどこかに置き忘れた様に何もかんじない・・・!!
どうして、何で、何故・・・!!
“俺、お前の笑顔が好きだ”
“俺は泣いたり笑ったりしちゃけないんだ・・・”
笑わなくちゃ・・・。どんなことをしても笑わなくちゃ笑わなくちゃ・・・。
水に映る無表情の自分の顔・・・。
かごめは自分の頬に両手をあて、無理矢理笑顔を作ろうとした。
「かごめ・・・。お前、何やッてんだ!」
「笑う練習・・・。こうしてれば、いつかは笑えると思って・・・。ね、犬夜叉、私、笑ってるでしょ・・・?ね、ね・・・」
かごめは無理に口を笑った形にしようとする。
「ね、ね、犬夜叉・・・。ほら・・・」
異様な程までに笑おうとするかごめ。犬夜叉はかごめの姿が痛々しくて、痛々しくて・・・。
「ば、バカ野郎!!」
犬夜叉はかごめをそっと抱きしめた・・・。
「ごめん・・・。犬夜叉・・・。わらえなくて・・・」
「そんなこと・・・どうでもいい・・・から・・・。謝るな・・・」
「ごめん・・・ごめん・・・」
感情のない“ごめん”
でも、無機質な言葉の方がかごめの苦しい心が伝わって・・・。
「ごめん・・・。あたしの笑顔が消えちゃった・・・」
哀しみも苦しみも・・・。
涙すら出なく・・・。
ただ、かごめは犬夜叉の腕の中で謝り続けるのだった・・・。