絆を探し求めて
〜白い羽根が舞うころ〜

最終話 たどり着いた絆
「・・・よし・・・!」 かごめは自分の頬を叩き、緊張感を高めた。 そして杖を静かに地面に置いて右足を引きずって 登り始める・・・。 (かごめ・・・?一体何する気だ・・・?) ご神木の天辺からかごめを見下ろす犬夜叉・・・。 「痛・・・」 右足に力を入れると鈍い痛みが走る。 骨が神経に障るせいだ。 (・・・痛いってことは・・・。生きてる証拠。もっと頑張れる) 生きている。 明日がくるって 好きな人に会えるって 希望がわいて だから頑張れる 「はぁはぁ・・・。一回目・・・」 息も荒く・・・ 一回上がり下り・・・往復するごとに かごめは石を一つ目印においていく・・・。 ”100回君の足で登って大切な人の所へ・・・” (・・・100個の石がいるね・・・) 「はぁはぁ・・・。10個目・・・」 小石を階段の頂上に置いてはまた下る・・・。 右足の痛みがだんだんと激しくなってきても・・・。 (かごめ・・・!?何やってんだ・・・!そんな足で・・・っ) 犬夜叉はもう見ておられず、かごめの元へかけおりようとしたが・・・ (!?・・・う、動けねぇ・・・!?) 結界を張られたように犬夜叉の体は動かない。 (くそ・・・っ。なんなんだよ!!これも・・・これも、風馬の仕業か!??) かごめの苦しそうな様子は見ていられない。 たまらない。 (ここでかごめを見守ってろってのか!??見守るってのは こういうことじゃねぇだろ!??) だが・・・犬夜叉はもがけばもがくほど動けずに・・・。 「はぁ・・・痛・・・。はぁ・・・」 ご神木の元に犬夜叉がいることも知らず・・・ かごめは黙々と階段を登る・・・ 登っては下り 下りては登り・・・。 「・・・30個目・・・」 小石をたてに置いていく・・・。 右足の痛みは指先が痙攣するほどに痛み・・・。 それでもかごめは両手をつかって 四つんばいになってでも上がる 登る 上がる・・・。 (かごめ・・・!!) いたたまれないかごめをどうにかしたいのに 飛び出していって抱きしめたいのに・・・。 (なんでだよ!!こんなの拷問だろ!!) 白い羽根に訴える。 かごめを楽にさせて欲しいと ・・・かごめにあわせて欲しいと・・・。 「・・・きゃあッ・・・」 ガタタ・・・! (かごめ・・・!!) 階段の真ん中辺りからズルズルっとかごめは転げ落ちた・・・! (かごめ・・・!!) 声も出ない。 転げ落ちたかごめに声も・・・ 「・・・イタタ・・・」 蹲るかごめ・・・。なんとか起き上がるが・・・。 頬に泥がつき、 ひじは擦りむき血が・・・。 「・・・。この程度の傷・・・。あっちにいたとき 毎日つけてたものね・・・」 かごめは傷口を押さえながら立ち上がる・・・。 ポツ・・・。 非情にも 雨が降ってきた。 かごめの傷口を凍みらせるために降るようにさえ・・・。 かごめは靴も靴下も脱いで素足になった。 かごめの右足の踝は赤く腫れてきて・・・。 「・・・もうひとぶんばり・・・!」 痛む右足の代わりに 両手で岩を登るように四つんばいになって上がっていく。 (・・・もう一息・・・。最後まで・・・。最後まで・・・) 階段を上がり終えたら 何かが起こるのか。 起こらないかもしれない。 でも 何かが 何かが掴めそうな 生まれそうな気がする・・・。 「・・・50個目・・・。よし・・・あと半分・・・!」 服はずぶ濡れ、足は泥だらけ・・・。 階段に流れる雨のしずくは時々血が混じって赤く染まり・・・。 (かごめ・・・。なんでそこまで・・・どうして・・・) 今すぐにでも助けに出たい。 でも動けない。 (見守るって・・・見守るってこういうことなのかよ・・・。 これじゃあ・・・ただの高みの見物じゃねぇかよ・・・) 聞いているか?白い羽根。 どうしてここまでかごめに頑張らせる。 どうして助けたらいけないんだ・・・ 動けない体がもどかしい。 せめて声でもでればいいのに・・・! 「・・・70個・・・目・・・」 頂上に並べられた小石。 赤くかごめの血でそまった石もあって・・・。 「・・・あと・・・30往復・・・。もう少しだ・・・」 得られるもなど 何もなくていい 自分が頑張れたこと それで十分・・・。 「はぁ・・・はぁ・・・」 体も冷えてきた・・・ 足の痛みも感覚がなくなってきて・・・。 (・・・でもまだ・・・踏ん張れる。最後まで・・・最後まで・・・) 自分でも分からない。 ここまでする必要はないって 分かっているのに やり遂げたい 「・・・痛ぅッ!!!」 激痛が走る だがかごめはあきらめない。 (・・・もう少し・・・。あと少し・・・) 「・・・95個め・・・」 100回往復し切れたら 往復しきってみせる ・・・自分のために・・・ 犬夜叉のために・・・。 (くそ!!!頼む頼むから・・・!!) 何度も心の中で叫ぶが動かない。 よろよろをさせて階段を下りるかごめ・・・ 今にも滑って落ちそうで・・・ (くそ!!なんでだ・・・っ!!なんでだッ!!!) かごめを一人頑張らせて何がある。 意味がある・・・!? もどかしい 助けたいのに助けられない 「・・・あと1往復・・・」 最後の一往復・・・ かごめは地面に手をついて 這いつくばって登る・・・。 (あと少し・・・。あと少し・・・) 手を伸ばして 伸ばして・・・ ・・・たどり着く・・・ 「・・・100個・・・目・・・」 真っ赤に染まった小石を・・・ 震える手でおくかごめ・・・。 そしてついに 倒れこんだ・・・ (かごめーーーッ!!!!) 「かごめーーーーーッ!!」 心の叫びが 一途な声色に変わる 「かごめ・・・!!!しっかりしろ!!」 「・・・犬・・・」 朦朧とするかごめを抱き上げる・・・ 「犬・・・やしゃだ・・・。夢・・・かな・・・」 「夢じゃねぇよ・・・」 犬夜叉は火鼠の衣をかごめに着せた・・・ (こんなに冷たくなって・・・) 「・・・もう・・・冷たいお前なんて抱き上げたくねぇよ・・・」 「犬・・・夜叉・・・」 包んだかごめの体・・・ 犬夜叉の手は震えていた。 冷たいけど ちゃんと生きてるぬくもりは微かに・・・。 「・・・かごめ・・・。なんでここまで・・・、ここまですんだ・・・」 「・・・だっ・・・て・・・」 「途中でやめたって・・・。ここまでしなくたって・・・」 雨に濡れた腫れたかごめの踝が痛々しく・・・ はねのちからだったとしても 跳ね除けてかごめを助けに出ることもできたはず・・・ 「かごめ・・・。すまねぇ・・・オレ・・・そばにいたのに・・・」 かごめは微かに顔を横に振って否定した。 「・・・かったの・・・」 「え・・・?あんま・・・もうしゃべるな・・・もういいから・・・」 「・・・自分の力・・・で・・・たどり着きたかった・・・」 「かごめ・・・」 「犬夜叉に・・・辿りつきたかったの・・・」 羽根の力ではなく。 自分の心で 会いたかった人に 会いたかった人の胸に 「・・・私・・・。ちゃんと・・・帰れたか・・・な・・・?」 「ああ、帰れたよ・・・」 「・・・よかった・・・」 かごめはふぅ・・・っと息を抜いた・・・ 頑張って頑張って ぱんぱんに張っていた糸を 緩めるように・・・ 「・・・会いたかったよ・・・ずっと・・・」 「ああ・・・」 冷えた体を温めたい・・・。 ぎゅっと抱きしめる・・・ 想いをこめて 抱きしめる・・・ 「・・・会いたいって・・・。気持ちが私をずっと支えてくれてた・・・」 「・・・かごめ・・・」 「・・・幸せだったよ・・・。寂しくても・・・私・・・」 「かごめ・・・」 姿が無い 匂いがない 寂しさはあったけど 会いたいと願う力をくれた 何よりも強い力を くれた・・・ 「・・・あ・・・。羽根・・・」 ひらひら・・・ 数枚の白い羽根が 雨と一緒に降ってきて・・・。 「・・・。また・・・。離れ離れになるのかな・・・。ふふ・・・」 「さぁな・・・。でももう離れない・・・。こうしてる 限り・・・」 「・・・うん・・・。心は・・・離れたりしない・・・。 繋がってるよね・・・?」 強く強く身を寄せ合う。 たとえ、また体は離れても 心は離れることはない 雨は止まない・・・。 でも冷たい雨じゃない・・・ 一人じゃないから・・・。 かごめの意識がなくなっていく・・・ (・・・またサヨナラしても・・・。また・・・会えるね・・・) 白い羽根が何度舞い降りて 別れても (・・・会いたい気持ちがある限り・・・私は犬夜叉にたどり着けるから・・・) 遠のいていく意識の中 (犬夜叉・・・。また・・・会おうね・・・) 犬夜叉の姿が薄れていく・・・。 同時にかごめの意識も・・・。 ”もう・・・。白い羽根はいらないよ・・・。君にはもう・・・” 微かに聞こえた 声・・・。 (・・・犬夜叉・・・) 今度はいつ・・・会えるのだろう・・・。 白い羽根が舞い頃・・・ それが目印・・・。 会いたいと強く願えばきっと・・・。
FIN
・・・エピローグ・・・ 絆を抱きしめてへ・・・