悲しみの果てに 前編 |
犬夜叉一行が森の中を歩いていると、一人の僧が声を掛けてきた。 「もし?弥勒ぼっちゃんではありませぬか?」 「え?あなたは・・・。北海法師ですか?!」 弥勒とその北海という僧は知り合いらしく、握手をして再会を喜んだ。 「いや〜。しばらく見ない間に色男になりおって!」 「いやいや・・・」 「お?そっちの美しい方々はお前のこれか?」 男は小指を立てて聞く。 「いえいえ。そんな、まあ、いずれはそうなるかも・・・」 「なっ。何いってんのよ!ちょっと!!」 かみつく珊瑚。 「ほほう。これはこれは威勢のいい女だな。ちなみにそっちの犬と狐はなんだ?」 「なっ。誰が犬だ。コラ!」 切れそうな犬夜叉をかごめがなだめる。 「オラは七宝じゃ!ついでにそこでむすっとしているのが、犬夜叉じゃ」 「ついでって何だ!ついでって・・・」 「ははは・・・。随分と楽しい仲間達じゃねぇか、俺はは北海(ほっかい)。弥勒の親父の弟子でな。こいつとはガキの頃からのつきあいでな。おい、お前ら・・・よかったら、今夜の宿は俺のの寺に来いや。積はなしもあるからな・・」 「はい。お世話になります」 弥勒は快く返事をした。しかし・・・珊瑚と犬夜叉はなんとなく、不信感を抱いた。 寺の前まできたが、犬夜叉と珊瑚鳥居のまえで止まった。 「何だかさぁ・・・。怪しくない?あの僧・・・。ねぇ、犬夜叉、あの僧から、奈落の匂いってしない?」 「今のところな・・・。でも、いつもみたいに操られてるのかもしれねぇ・・・。なあ、弥勒、用心に越したことはねぇ、どっか他で宿をとらねぇか?」 「そうですか。しかし、私は積もる話しもありますし、ここでお世話になります。では」 弥勒はなぜだか、声を怒鳴らせた。そして、ひとり、寺へと入っていった。 「あ、待ってよ!法師様!」 (何だか法師様、いつもと様子がちがう。いつもだったら、誰より警戒するのに・・・) 弥勒が心配な珊瑚。もしかしたら、奈落の罠かも知れない。珊瑚は弥勒を追って寺の中に走っていった。 「珊瑚ちゃん!待って!私達も行く・・・」 かごめの腕を掴んでとめる犬夜叉。 「やめとけ。かごめ」 「どーしてよ?二人心配じゃないの?」 「・・・。弥勒の奴、きっと何か考えがあるんだろ。俺らは寺の外で見張ってりゃいーだろ」 「ふうん・・・」 「な、なんだよ・・・」 「デリカシーのないあんたも少しは気を使うようになったのね」 「けっ。そんなんじゃねーよ」 「うふふふ・・・」
犬夜叉の気遣いの先に、弥勒にとっては辛く、哀しい結末が待っていることはまだ、この時、犬夜叉もかごめも知らなかった・・・。 「なんのなんの、北海法師にはかないませんよ。おなごの扱いには。はっはっはっ」 豪快な声を挙げて笑う。なんともきままに酒を酌み交わし、昔話に花を咲かせている。珊瑚は話の中には入れずにただ、夕食に箸をつけていた。 (こんな楽しそうな法師様はじめてだな・・・) 「で、お嬢さん、あんたが弥勒の本命さんかい?」 「なっ・・・。べ、別にそんなんじゃ・・・」 「ふはははは!照れておるわ!可愛いのう〜。で、いつ、子を産むんじゃ?」 「なっ・・・何いってんのよ!!」 「冗談じゃ冗談じゃよ。お前さんの顔を見れば接吻もまだと顔に書いてあるぞ。はっはっはっ・・・」 「・・・」 格好の酒のネタにされている珊瑚。この兄弟子にして弥勒あり、と実感した。 「あたし、風に当たってきます!」 バタン! 荒々しく引き戸を閉めて出ていった珊瑚。 「あら・・・怒らせちまったな・・・。すまん。弥勒、久しぶりにお前にあって気分がいいから調子にのっちまって・・・」 「大丈夫ですよ。珊瑚は・・・。それより・・・北海法師・・・。今日、会ったのは偶然じゃないですね?私を・・・訪ねてきたのですね?」 弥勒はとっくりを持って男にしゃくをする。 「・・・。けっ・・・相変わらずカンはするどいな。ふ・・・そうよ。お前の気配を追ってきた・・・。お前に・・・最初で最後の大仕事を頼もうとおもってな・・・。お前しかできねぇんだ・・・」 「私にしかできぬ事?」 男はぐいっとさかずきの酒を飲み干した。 そして、何か重大な決意をしたかのように弥勒に『最初で最後の大仕事』を弥勒に告げた・・・。 ガシャン・・・。 弥勒の手から、とっくりが落ち、床に破片が散らばった・・・。 青ざめた顔の弥勒。 「・・・。そ・・・そんな・・・。そんなことできるはずが・・・」 「すまねぇな・・・。でも、お前にしかできないんだ・・・それに・・・もう・・・時間がねぇ・・・」 ろうそくの灯に、男の影が障子に映る。 しかし・・・その影は一瞬、鬼のような姿に変わったのだった・・・。 |