第12話・マモリタイココロ
@

カンカンカン!!


ベットでねむる犬夜叉の耳元で、すさまじい音がする。

「んだよ・・・。うっせーな・・・」

「ほれほれ。起きなさい!犬夜叉!あんた、仕事でしょー!!」

鍋のふたをおたまで叩く。

なかなか起きない。かごめに背を向け、寝返りをうつ。

カンカンカン!

更に激しくたたく。

「起きなさーい!!」

「うるせえ!朝っぱらからなんだよ!!」

黒のTシャツの犬夜叉。ようやくお目覚め。


「おはよう。犬夜叉君。はいどうぞ!」

「ん?」

何故かトンカチと釘を持たされた犬夜叉。

「朝の一働きしましょうねv」


「は?」


トントンカンカン。


かごめの部屋のドアの一番下の金具がゆるんでいる。

釘をくわえた犬夜叉が


金槌で打ち込む。


「だいぶ前から緩んでたんだけど、今朝ドア開けたら完全に取れちゃって」

「だからってなんで俺がいちいち・・・」

「文句言わない!大工見習いは黙って与えられた仕事をこなしなさい。うふふ・・・」


ふてくされた顔をしながらも犬夜叉、あっという間に取れてしまったドアを治してしまった。

キィ。

パッタン!

治ったドアを何度も開け閉めするかごめ。

「ありがと!犬夜叉!」

「へん!こんな程度のモン、目つぶってって治せらぁ・・・。ふう・・・。それにしても暑っチィ・・・」

「犬夜叉・・・。汗・・・」

かごめはポケットからピンクのハンカチを取り出し、犬夜叉の額から流れる汗をそっと拭う。


「・・・」

犬夜叉、かごめにフキフキしてもらう。

「犬夜叉がいてくれて助かった。ありがと・・・」

「・・・。お、おう・・・」


なんともまあ、朝からうだるような暑さだが、犬夜叉とかごめの様子を珊瑚はドア越しにひょこっと顔出して見ております。


「何。あのラブラブオーラは・・・。一体昨日のキャンプで何があったのかな。あの二人・・・」

「そうですな。桔梗の一件であんなにぎくしゃくしていたのに・・・」

「ん?」


シャカシャカシャカ。

歯ブラシをくわえたパジャマ姿の弥勒が背後に出現。


「なっ、み、弥勒さま!どこで歯、磨いてんのよ!」

「やあ。珊瑚おはよう。今朝もいいお尻ですな・・・」

「!!」


弥勒の右手が朝から悪さを・・・。


ビッタン!!

弥勒の頬に見事な手跡の花が咲きました。

「ふんっ!」

バタン!

怒った珊瑚に閉め出される弥勒。

「珊瑚・・・。ふっ。照れ屋なのだから・・・」

寝癖でパジャマ姿、歯ブラシくわえて気取る弥勒。

その様子を見ていた犬夜叉とかごめは・・・。


「弥勒さまって意外に『一途』なのかもねぇ・・・(汗)」

「そうだな・・・」


何時も通りの騒がしい楓荘の朝。

しかし・・・。


カシャッ。

カシャッ。


カメラのレンズがかごめの姿を捉える。

カシャッ。


無精ひげの中年の男が電柱の影から楓荘2階に黒いカメラが向けている。


何度もシャッターを切って、かごめと犬夜叉の姿を映していた。


「驚いたなぁ・・・。一瞬月島桔梗本人かと思ったぜ・・・」


煙草をくわえ、さらにかごめを集中的に撮る。


「月島桔梗と瓜二つの女か・・・。面白くなってきましたねぇ・・・。月島桔梗を巡る恋愛模様も。ククク・・・」


不敵に笑いながら、中年の男はかごめを取り続ける・・・。


「日暮かごめか・・・。クク・・・」



『児童保育科第一教室』


そのプレートが架かった教室からかごめが携帯のメールを見ながら出てきた。


「あ、珊瑚ちゃんから来てる」

『ねぇかごめちゃん、今日、探してた写真集本屋でみつけたよ!帰ったら速攻見せに行くね!』

「やった!珊瑚ちゃん偉い!!よかった!あの写真集見つかったんだーー♪」

あるカメラマンの写真集がずっとかごめは探していた。

既に何年も前のものだったので絶版されたかもしれないと思っていた。

「さ、早く帰って珊瑚ちゃんにお礼しなくちゃね♪」

かごめは軽い足取りで大学の門を出た。

同時に公衆電話の陰に隠れていた髭面の男も歩き出す。

コツコツコツ・・・・。

誰もいない夕暮れのガードレールを歩くかごめ。

もう一つ足音が聞こえる。

かごめは不気味に感じ足を速めた。

同時にもう一つの足音も速くなり・・・。

そして。

「日暮かごめさんですね・・・?」

と肩をポンと叩かれた・・・。

恐る恐る振り向くかごめ・・・。

カシャ!

「きゃああ!」

突然、フラッシュがたかれかごめはまぶしく手をかざす。

「あ、あなた、誰!」

「おおっと。これはすいません。驚かせてしまって。貴方が“ある人”に余りにもよく似ていたもんですから。私はこういうモンです」

髭面で、カメラを持った男はちょっと小汚いGパンのポケットから名刺を取り出した。

『週刊・センゴク・カメラマン富樫達夫』

と書いてあった。

(週刊センゴクっていったら有名人のゴシップ記事なんかで有名な・・・。それに富樫達夫って・・・?どこかで・・・)

「あの・・・。そのカメラマンさんが私に何の御用ですか?」

かごめは名刺を突っ返した。

「いやね・・・。さっきも言ったんですが、貴方、ある有名美人バイオリニストとそっくりなんですよねー。ね、よく言われるでしょ」

富樫という男はかごめの顔をじろじろ 舐めるように見た。

「・・・。何が言いたいんですか?」

「俺ねー。とんでもなく面白い写真を撮ったんですよ。ほら・・・。これ」

「!!」

目の前に見せられた写真は・・・。

なんと犬夜叉と桔梗の抱擁する様が映っている・・・!

「日暮さん、ここに映っているのは貴方じゃないですよね。そう。月島桔梗。正真正銘の・・・」

・・・。かごめは思わず写真から視線を逸らした。

「まぁ、月島桔梗が生きているんじゃないかって噂はあったんでね。密かにね、坂上樹が何か知ってるんじゃないかっておっかけてたんですよ。まさかこんなドラマチックなシーンがとれるなんて思いませんでしたよ」

富樫は不敵にニタリと笑う。

「・・・。いや〜。言い写真が撮れました。決定的瞬間です。カメラマン魂が震えましたよ」

「・・・。な、何が言いたいんですか・・・」

「この写真、いくらで編集部買ってと思います?いくらかな〜」

富樫は写真をカゴメの顔の前でひらひらさせた。

遠回しに、『金銭を要求している』とかごめは思った。

「・・・。あたしはこの世で脅しす様な人をと人をけなす様な人が一番嫌いなんです。絶対に許せない!」

毅然としてかごめは言った。

「正義感たっぷりな貴方も魅力的だな〜。俺はどちらかと言うと月島桔梗よりあんたの方が好みだねぇ」

富樫はかごめの手にやらしく触れようとした。

パン!

それをかごめは払いのける。

「触らないで!!」

「はいはい。分かりました。今日はこの辺で退散しますがね。この写真がどうなるかは貴方次第って事で・・・。ご連絡くださいね。これ、俺の携帯の番号デス。んじゃまた後日・・・」

男は名刺はもう一枚、かごめのバックのポケットにスッと入れるとニタニタしながら去っていった・・・。

「・・・。大変だわ・・・。あんな写真が雑誌に載ったら・・・。犬夜叉も桔梗も大変な事に・・・」

犬夜叉は・・・。

バイオリンを奏でられなくなった桔梗を支えようって決意した・・・。

そんな時に大きな騒ぎになってしまったら・・・。


かごめは富樫の名刺をギュッと握りしめた・・・。

(あたしがなんとかしなくちゃ・・・!あたしが・・・)


“富樫達夫”その名前にかごめは見覚えがある。


かごめがアパートに戻るとドアの前に一冊の写真集が置いてあった・・・。

『かごめちゃんが前から探していた写真集見つけたから置いておくね!珊瑚』

メモをはさんで・・・。

カサ・・・。袋から取り出すとその写真集のタイトルが・・・。

『マチノフウケイ 撮影・富樫達夫』

「!そうだ・・・。この人だ・・・」

タイトル通り、何気ないでもどこか懐かしい街の風景を詩と共に載っている写真集。

かごめはこれをずっと探していた。

「・・・。やっぱり・・・あたしがなんとかしなくちゃ・・・。なんとか・・・!」


かごめはポケットに入れられた名刺を取り出し・・・。


番号をかけた・・・。


「もしもし・・・。日暮です・・・。写真のことでお話があります・・・」