第32話 私は逃げない A 大学の学食。 おかずはかごめの大好きなクリームコロッケなのに一向に箸がつけられていない。 「かごめちゃん!かごめちゃん!」 箸をもったまま動きが止まっているかごめ。 「かごめちゃんッ!!」 「!」 珊瑚の一声にハッと我に返るかごめ。 「どうしたの?かごめちゃん」 「あ・・・。う、ううんなんでもない・・・」 ”何でもなくないよ” 珊瑚はそう思った。 「あ、今日はクリームコロッケか♪おいしそ」 かなりわざとらしく食べ始めるかごめ・・・。 そして二人の耳に隣のテーブルの女生徒の話し声が聞こえてきた。 「ねーね。そういえばさ、”坂上樹”ってどうなったんだろーね」 ガシャンッ。 「あ・・・やっちゃった・・・」 コーンスープをこぼしてしまうかごめ。 「か、かごめちゃん大丈夫!?」 「ごめんね。珊瑚ちゃん・・・」 ポケットティッシュでスープを拭き取るかごめ。 どう見てもかごめの様子がおかしい・・・。 多分樹絡みの事だと察知した珊瑚は・・・。 「ちょっと来て!」 「えッ?さ、珊瑚ちゃん!?」 珊瑚はかごめの手を引っ張って、大学の裏庭のベンチまで連れて来た。 「珊瑚ちゃん・・・どうしたの?」 「それはこっちの台詞だよ!かごめちゃんの方こそ何があったの?坂上樹と・・・」 「!」 かごめの反応に珊瑚はさらに核心し、突っ込んで訊ねる。 「・・・何って何も・・・」 「・・・水くさいよ!あたしには話してほしい。かごめちゃんの悩んでる姿みてられないんだ。こっちが切なくなってくるんだよ・・・」 「珊瑚ちゃん・・・」 真剣な珊瑚の目に・・・。
「・・・それって駆け落ちのお誘いじゃないさーーー!!」 かごめは珊瑚の大声にあわてて口に手をあててた。 「シー!声大きいよ」 「ご・・・。ごめん・・・。でも・・・。坂上樹がそんな事をかごめちゃんに・・・。びっくりだよ。でも何か流石アーティストって感じ・・・。ドラマチックと言うか何というか・・・」 「・・・」 約束の日まであと一週間だ。 ただ、かごめは困惑。 「・・・それでかごめちゃん・・・。どうするつもりなの・・・?」 「どうするって言われても・・・。それに樹さん・・・きっと本気じゃないよ。きっと」 「本気じゃないって・・・。どういう事?」 「・・・。盗作疑惑で色々あったでしょ・・・。すごく疲れた顔してた・・・。だから・・・あんな事いったんだと思う・・・」 ”私と遠いところへ行きませんか・・・” 本当に疲れ切った声だった・・・。
「そんな・・・。疲れてたって・・・。少なくとも、かごめちゃんへの気持ちがなかったらそんなこと・・・」
「でももしかしたら本気かもしれないよ・・・。かごめちゃんの優しさに惹かれたんだよ・・・。かごめちゃんの笑顔は本当に人を癒すから・・・」
「わかるってどうして・・・」 かごめは静かに立ち上がり、二、三歩歩いて・・・。
「・・・なんでだろうね・・・。わかるの・・・」
・・・というか。 「かごめちゃんの気持ちを聞いてない!」 ダンベルをグッと握りしめる珊瑚。 かごめが樹をどう思っているかという点に気がつく珊瑚だが。
あのかごめの微笑みが珊瑚の脳裏に浮かんだ。 「・・・。やっぱりかごめちゃんは犬夜叉の事・・・。だからこそ・・・犬夜叉も樹さんもまだ月島桔梗を想ってるってわかるんだ・・・」 なんで?どうして・・・?
同じ女として珊瑚にもかごめの気持ちが・・・。
ゴト・・・。 珊瑚は静かにダンベルを床に置いた・・・。 「ふわぁ〜・・・。ヘックショーイ!!」 左隣・犬夜叉の部屋からから大きなくしゃみが。 渦中の中心人物。かごめの切ない微笑みの元凶・・・。 「・・・ 。何か腹立ってきた・・・!」 ドカ!!
当然、珊瑚は犬夜叉がその音に驚いただろうと思った。 しかし。 「ぐお〜・・・」
しかし、珊瑚の”鉄拳”は次の日別の形で犬夜叉に落とされるのだった・・・。 ここは新興住宅街。 春に完成の新築ラッシュであちこちから木の匂いがしてくる。 「おーい。犬っころ。お前にお客さんだぞー」 ヘルメットをかぶり作業着姿の犬夜叉が屋根から降りてくると、そこには珊瑚が・・・。 「珊瑚!おめぇ、何で・・・」 「話がある。顔かしな」 二人は近くの駐車場で話をすることにした。 「何だよ。話って。あんま時間とれねぇんだよ」 「ごちゃごちゃした事は言わないよ。単刀直入に言うよ」 「おう。早く言え」 犬夜叉は持っていたコーヒー缶の栓を開けた。
カラン・・・ッ
珊瑚はそれだけ言うとすたすたと去っていった・・・。
「おーい。犬っころ。そろそろ時間だぞ・・・。あれ?」 犬夜叉の仕事仲間が犬夜叉の顔の前で手を振ってみるが反応なし。 「・・・。完全に栓がとんじまってる・・・。別れ話でもされたんか?若いのう・・・」 仲間の声にも聞こえず犬夜叉はただその場で突っ立っていた・・・。 ※ そしていよいよ日曜日・・・。朝から楓荘にはなにやら緊張感がが漂っていた。 約束の時間が来た。 ガチャ・・・。 ブーツを履き、白のコートをきたかごめ。 小窓から、珊瑚と犬夜叉がこっそりのぞく・・・。 すると なにやら大きな紙袋を持っている・・・。 (あ・・・。あの荷物はなんだ・・・!?ま・・・まさかかごめの奴・・・)
「・・・。よし・・・!」 何かを”決意”するように気合いを入れるかごめ。 (な、なんだよ!その”よし!”ってのは・・・!!) 焦って、ちょっと目をそらしたしたが、かごめの姿はもうない。 「いねぇッ!?」 水玉のパジャマ姿の犬夜叉が慌てて出て、二階からかごめを見つけるが既に自転車に乗り走っていった・・・。 「かごめ・・・」 あの紙袋・・・。 何かを決心したような顔・・・。 犬夜叉は呆然と立ちつくす・・・。 「何ぼうっとしてんのさ!追いかけないの!?」 珊瑚が呆れ顔で出てきた。 「・・・俺が・・・。出る幕じゃ・・・」 ボソッといじいじとそう言う犬夜叉に珊瑚はカチンと何か切れた。 「だああああ!!いつもはデカイ態度なのに土壇場で何、いじいじしてんのさ!ほら・・・先回りしてこい!!」 「痛!!」 珊瑚は犬夜叉の襟をつかんで道路に放り投げた。 「・・・いつまでかごめちゃんの心振り回せば気が済むの・・・。坂上樹にしてもあんたにしても・・・。かごめちゃんに心癒されたとかって言うけど・・・。甘えてるだけじゃない・・・。甘えっぱなしなわけ!?ずっと・・・ッ!かごめちゃんを逃げ場所にするな!!かごめちゃんが必要ならちゃんと捕まえてなよ!!わかってんの!!」 「珊瑚・・・」 「ほら!早く行けーー!!」
「わかった、わかったからやめろって・・・」 「かごめちゃん・・・。絶対に連れて帰ってこいよ・・・!」 犬夜叉は深く一つ頷いて公園に向かって 確かに走っていった・・・。
サク・・・。 犬夜叉が公園に行くと・・・。 ブランコの横の白いベンチの前に樹とかごめが立っていた。 犬夜叉は公園の外のフェンスからそっと隠れた。
「かごめさん・・・。来て・・・。くれたんですね・・・。僕はてっきり・・・。来てくれないかと思ってました・・・」 「・・・」 微笑むかごめ・・・。 かごめは紙袋をそっとベンチに置いた。 「樹さん。まだ・・・。時間在りますよね。雪だるま、つくりましょう!」 「えッ?」 「早く!手伝ってください!」 何を思ったかかごめは突然、雪をかき集め、丸く仕始めた。 「かごめさんあの・・・」 「早く作らないと雪溶けちゃいますから。ね!」 雪玉を押し転がしながら雪玉を大きくするかごめ。 樹は首をかしげながらも一緒に雪だるまをつくる。 (・・・あいつら何やってんだ・・・?) 犬夜叉も不思議そうに見ている。
胴体に頭の部分の雪玉を乗せる。 そして小石が目で枯れ葉が口・・・。 顔に埋め込んで・・・。ゆきだるまのできあがり。 「ふう・・・。ちょっと不格好だけどまあいいか。ふふ・・・」 「あの・・・。かごめさん・・・」 「樹さん。私の実家がある街はね山間だから雪がいっぱいで・・・。子供の頃よくこうして雪だるま作ったんです・・・。子供頃・・・私も色々辛いことがあって・・・。誰にも言えなくて雪だるまに言っていたんです。でも雪だるま、にいくら何言っても返してくれなくて・・・。当たり前なんですけど」
誰にも言えない、自分でも嫌になるような気持ちをぶつけた・・・。
「私・・・。哀しかった・・・。本当に跡形もなくなくなってて・・・。私が嫌なことばっかり言ったから消えちゃったのかなって・・・」
哀しかった・・・。
「・・・。頭を上げて下さい・・・。きっと・・・断れるって思ってました・・・」 「え・・・?」 樹は紺のコートのポケットにスッと両手を入れる。 「突然”一緒に逃げよう・・・”なんて言われて行くような人じゃない・・・。分かってけど・・・。でも言わずににはいられなかった・・・。何もかもに疲れていた。・・・貴方に・・・側にいて欲しかった・・・」
あまりに居心地が良くて。 「逃げちゃ・・・いけませんよね・・・。分かってるんです・・・。分かってるんですが・・・。はは・・・。やっぱり断れると分かっていたけど・・・。ハハ・・・」 痛い・・・。 ”私には犬夜叉しかいないッ!”
「樹さん・・・。私には音楽業界の事は分からないけど・・・。きっと樹さんの音楽、待ってる人達がいると思います。私もその一人です・・・。だから・・・。元気出してください・・・!ねッ!ガッツ!!」
とても力強く・・・。
「え・・・っ」 グイッ・・・。
温もり・・・。 ワンワンワン・・・ッ。
見ると、フェンスの向こうに犬夜叉の姿が見えた・・・。
かごめはバッと樹から離れた・・・。
「あの・・・私・・・。私は・・・」
「・・・」 「・・・」
身が引き締まるような緊張感が漂う・・・。 「樹・・・。てめぇ、かごめに・・・」 樹とかごめの抱擁現場を目撃し、頭に血がぼっている犬夜叉。グッと樹の肩をつかむ手がコートに食い込む。 しかしその手をスッとかわし、口をひらく樹。
樹は背伸びしていった。 樹ののほほんとした態度に少し拍子抜けの表情を浮かばせる犬夜叉。 「こういうのを”修羅場”って言うんですかね?僕はそういうドロドロしたのは苦手なんです。僕は振られた・・・。つまりはそういう事です」 「樹さん・・・。あの・・・」
「な・・・。何だよ」
「僕はかごめさんにもらった勇気で頑張っていきます。仕事もイチからやり直します・・・。そして桔梗を守ります。桔梗がもう一度バイオリンを弾けるように・・・」 「樹・・・」 「でも・・・。かごめさんへの気持ちも育てていこうと思います。犬夜叉さん、貴方はこれから・・・どうしていきますか?」
「かごめさん、本当に色々すみませんでした。でも・・・。気持ちに偽りはないです・・・じゃあ僕はこれで失礼します・・・」
ブランコに座る二人・・・。
犬夜叉は革ジャンのポケットからガムを取り出した・・・。
「うん・・・」
甘い香りがした・・・。
「え?」 「その荷物・・・」
「これ・・・?クリーニングした洗濯物よ。ほら」 「な、なぬッ!?」 紙袋の中身は、クリーニングされたかごめのセーター類だった・・・。 「何よ。あんたこれ見てあたしが樹さんと駆け落ちするとでも思ったわけ?」 「ま、紛らわしいんだよッ。だ、大体珊瑚の奴が・・・」 犬夜叉、慌てて言い訳するが後の祭り。 「ふふふ・・・。全く早とちりなんだから・・・」 「う、うるせえッ。紛らわしいモン持ってんじゃねぇよッ。ったく・・・」
「お、お前な・・・。ドラマチックって・・・」
かごめはブランコを強く漕いでジャンプして降りた・・・。
かごめの瞳が・・・。 「えへへ・・・。なんかセンチになっちゃった。変なの・・・。変なの・・・」
やっぱりあったくて・・・。
「かごめ・・・」
すいません。ちょっと盛り上がりにかけたような気もするのですが。でも、かごちゃんは強い意志を秘めた子ですから簡単に「私も自分の恋に疲れたので逃げます」なんて言わないような気がしまして。それにしても男の人というのは女性に『癒されたい』のでしょうか。それも素敵だけど女だって癒されたい気も・・・。自分は当分かごちゃんに癒されています〜♪
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