七人衆を追って海辺まできた犬夜叉達。しかし

昼間の七人衆との闘いで皆、疲れた様で、今晩は海岸の古い漁師小屋に泊まることにした。

ザザン・・・。

波の音は、眠りを妨げるほど大きくはない。

でも・・・眠れないかごめ。

寝袋の中で、何度も寝返りをうつ。

眠れない。

胸が・・・痛くて。

犬夜叉のあの背中が、脳裏に焼き付いて。

眠ってしまえば忘られるのに。

何もかも。

「・・・」

かごめは・・・夜の海が見たくなった。

一人で。

かごめは、そうっと寝袋から出ると、物音をたてないように夜の海に出かけていった。

しかし、物音をたてくても、この男にはかごめがいないことなど、においですぐ気がつく。

「かごめの奴・・・。こんな夜遅くにどこへ行く気だ・・・?」

犬夜叉、尾行開始・・・と思ったら、犬夜叉は着物の襟をぐいっと引っ張られた。

「なにすんでい!珊瑚!」

「一人にしてあげな。今は。あんたってホントに気が回らない男だね!無神経もここまで来たら、悪だよ」

「な、なんだとーー!珊瑚。おめーケンカうってんのか!」

ケンカ売っているのは犬夜叉の方にも見えるが・・・。

「昼間、あんなとこ、見せられたら、誰だって一人になりたくなるでしょう。なのにあんたったらかごめちゃんにひっついて・・・」

「だ、だれがひっついてる!誰が!かごめの行く所がたまたまおれと同じってだけのことでい」

犬夜叉のその鼻高々に言った台詞に、珊瑚の何かがぷつっと切れた。

「あたし・・・。犬夜叉がかごめちゃん命這って守るとこはすごく・・・格好いいと思う。でも・・・」

「でも何だよ」

「結局あんたは今も昔も自分の気持ちしか見てないよ。かごめちゃんが一人になりたいって言ってるのになんで尊重してあげないの。桔梗とのことでかごめちゃんの気持ちが離れるのが恐いから?ふざけんじゃないよ!かごめちゃんにどこまで甘えれば気が済むの。いつまでも二股続くとおもってんじゃないよ!ふんっ!おやすみっ!」

珊瑚は腹にためていたことを全部ぶちまけるだけぶちまけると、布団ガバッとかぶった。

「な・・・っ」

犬夜叉、言い返すひまなし。

「情緒不安定なおなご程、恐いモノはないぞ。犬夜叉。今はそっとしておくべきだ」

頃合いを見計らったかのように弥勒、登場。

しかし、有る意味、珊瑚の情緒不安定の源は弥勒じゃないかと犬夜叉は思った。

「なんで俺ばっかりせめられなきゃならねぇんだ!!俺が何した!」

「・・・。してるでしょう。思いっきり」

「ひとのこと言えるか。てめえ」

ボカ!!

弥勒、一発で犬夜叉静かにしました。

「まぁ。私の事はおいといて。珊瑚の言うことも一理ある。犬夜叉。お前とて一人になりたい時だって有るだろう。その時、かごめ様は無理にお前に側におられたか?」

「!」

犬夜叉は言い返せない。確かにそうだ。

かごめは・・・。誰かに側にいて欲しいときにちゃんといてくれて、自分が一人になりたいと思っているときは・・・。

そっと遠くから見ていてくれた。


どんな時も・・・。

「お前が悲しいときは一緒に悲しんで、お前が不安な時は、共に不安を感じられて・・・。いつも相手の気持ちを何より尊重して行動されているのだ。かごめ様はそういうお方だ。お前一番・・・。よく知っているのではないか?」

「・・・」

わかっている。

分かっている。

自分のせいで、かごめが苦しんでいる。

・・・。いや、分かっていない。分かろうとしなかった。

かごめがあんまりも・・・

優しくて。その優しさが心地よくて・・・。

その優しさが少しでも離れてしまったら・・・。

「じゃあ・・・。俺は・・・どうすりゃいいんだ・・」

「かごめ様と同じ事をすればいい」

「・・・。かごめと同じ事・・・?」

「相手に“考える時間”を与えるという優しさも知れ。犬夜叉。遠くから見守るり続けるという想いも有ることを」

「遠くから見守る・・・。遠くから・・・」

「そうだ・・・。ふっ・・・。そういう想いこそ本当の愛というもの・・・。ふっ・・・」

おとことおなごの事ならまかせなさいといわんばかりな弥勒。

「遠くならいいんだな?遠くから見てりゃいいんだな・・・。わかった!」

何かを思いきり勘違いして、犬夜叉は自分に酔いしれている弥勒を無視して砂浜へと向かってしまった。

「・・・。あいつに真実の愛など説いてもわかるまいな・・・。ふ。ま、あいつらしいが・・・。ふ・・・」

「へぇー。真実の愛ねぇ・・・。じゃなくて真実のセクハラじゃない・・・?」

弥勒、いつのまにやら右手がさんごの胸元に・・・。

「ふ。珊瑚。照れなくてもいいさ。さあ、私と共に真実の愛を育みましょう!」

ビッターン!

バシッ!

真実のセクハラ法師弥勒、珊瑚の鉄拳により就寝。

「一人で育んでな!ふんっ」

虫の居所が悪い珊瑚。いつもより倍に弥勒に喰らわせ、やっとおやすみになりました。

その様子をみていた七宝。

「今夜も騒がしい夜じゃ・・・。ふう」

一番大人な?な七宝が見上げた夜空。

その夜空の下で・・・。

切ない思いを抱えたかごめはぼんやり砂浜を歩いていた・・・。

そして、確かに“遠く”の岩陰からかごめをこの男は見つめている。

「近くじゃなくて・・・。“遠く”ならいいんだな・・・。かごめ・・・」

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