第一話
ココロ、イタイ、イタイ・・・。
ココロ、イタイ、イタイ。
たみちゃんのココロがひめいをあげています。
いたくていたくていたくてひめいをあげています。
たみちゃんのあだなは
「ぶつぶつがえる」です。
クラスメートのたけしくんがかってにつけたあだなです。
どうして、
「ぶつぶつがえる」とつけたのか、そのりゆうをいうのはとてもつらいですが、たみちゃんのおかおが、ふきでものが
たくさんできていてかおがカエルににているからです。たみちゃんはアレルギー体質できせつのかわりめになるとふきでものがいっせいにできてしまうのです。
かゆくて、かゆくてよるもねむれないくらい につらい。ちがでることもあります。
皮膚科の病院にいっておくすりももらっていますが、なかなかなおりません。
「たみちゃんのかおみてるとキモチワルイ」
「たかの菌、うつるよ、うつるよ」
高野というのはたみちゃんの名字です。
その、たみちゃんは毎日お風呂にもにもはいっているし、顔も髪の毛もちゃんとあらっています。
たみちゃんはもっとお風呂にはいらなければいけないの、と思って、なんどもなんどもお風呂にはいりました。
そのせいで、手はふにゃふにゃにふやけてしまいました。
給食の時間。たみちゃんは今週給食当番でした。
たみちゃんは牛乳係でみんなのつくえに牛乳をくばりました。
一生懸命に。しかし、たみちゃんが配った牛乳だととわか ると・・・。
「ゲー・・・」 いったい、なにが
「ゲー・・・」なのでしょう?
でも、とても嫌な顔ををしてみんないいました。
たみちゃんまた、自分がどこか汚れているのかととてもとてもかなしくなりました。
でも、たみちゃんが自分を消したくなるくらいにつらかったのは4年生のときの
「ハンカチ事件」です。 ある日、休憩時間にたけしくんがじぶんのはんかちをとりだし、なぜだかたみちゃんの机にすこしだけハンカチをふれさせました。そしてこう言ったのです。
「いまからゲーム、するぞ!タナカ菌のついたハンカチなげるからな!」 そう言って、たけしくんはそのハンカチをまるでゴミを投げ捨てるみたいにみんなになげ たのです。
「きゃーそっちいったよー!」
「いやー!こっちになげないでー!」
みんなはそう言いながらも楽しそうにいや、なんともおもしろおかしい顔をしてなげあいました。 たみちゃんはまるでじぶんがなげられているようなきがして、からだががくがくしました。
こわいのかくるしいのかわからない。
ただ、このときほど、たみちゃんは消えてしまいたいとつよく思ったことはありませんでした。
神様。どうしてわたしがこんなにつらいおもいをしなければいけないの?
それとも、やっぱりわたしが悪いのですか?
なにか、わるいことしましたか?
がっこうの先生はわたしにもわるいところがあるといいました。
お風呂にもたくさんはいっているし、ても洗っています。
神様、もう、たえられません。なにもかもぜんぶ、けしてしまいたい。
消えたい。つらいこと、もう、いや。ココロが、からだがイタイ、イタイ、
おなかをまもってもふとんにはいってやすんでもいたくていたくて泪がとまらない。今はもう、涙もでない。ただ、イタイだけ、イタイだけ・・・。
たみちゃんはもう、辛くて辛くて辛くてくるいそうでした。
そんなたみちゃんにようごのミチコ先生がこえをかけてくれました。
「たみちゃん、どうしたの?どうしてそんなろうかでにちいさくなっているの?」
「・・・」
たみちゃんはいまはもう、なにもはなしたく ないし、ききたくもないきもちでした。
「たみちゃん、保健室でいっしょにおちゃにしましょうか」
養護のミチコ先生はそういって、保健室にたみちゃんをつれていきました。
保健室にはだれもいませんでした。
「はい、これをのんだらからだがとてもあたたまるからね」
ミチコ先生はあったかいホットミルクをいれてくれました。
とてもあたたかい。マグカップをとおしてたみちゃんのこころとからだにあたたかさがつたわりました。
「・・・。たみちゃん、おはなししたくなったらおはなししてね。先生、それまでずっとずっとまつからね」
「・・・」 たみちゃんは迷いました。もう、つらいことをおもいだすのはからだをまっぷたつにきりさくくらいにつらいからです。でも、その いっぽうで、だれかにきいてほしくてたまらないきもちもありました。
「・・・」
3十分たち、1時間達・・・。ミチコ先生はずっと待っています。
「・・・」
もしかしたら、ミチコ先生だったら、わたしの味方になってくれるかもしれない、とおもったたみちゃんはぽつり、ぽつりといままでのことをはなしはじめました。
はなしているあいだ、また、つらいことがおもいだされましたが、ミチコ先生はじっとはなしをきいてくれました。
「・・・。もう・・・わたしはでんちぎれ・・・。ミチコ先生・・・。やっぱり、わたしがわるいの?」
「・・・」
「ミチコ先生?」
「・・・」
ミチコ先生はうつむいたまま、とつぜん、
たみちゃんのりょうてをにぎりました。
「・・・。ごめんなさい・・・。たみちゃん・・・先生、ぜんぜんしらなかった・・・。たみちゃんがそんなにつらくてくるしくてたまらなかったなんて・・・。ごめんなさいごめんなさい・・・」 ミチコ先生はそういってなきながらたみちゃんにあやまるのです。たみちゃんはなぜ、先生がなくのかがわからず、ちょっととまどいました。
「せいせい・・・。どうして先生がなくの?先生はなにもわるくないよ・・・」
「ううん。ちがうの。そうじゃないの。たみちゃんのこころのいたさが先生にもつたわってたくさん、たくさんつたわって・・・」
「・・・」
先生がわたしのはなしをきいてないてくれた。
先生がわたしのためにないてくれた。 先生がわたしのために・・・。
「・・・」
こんどは、たみちゃんのめからぽろぽろとなみだがこぼれおちました。
もう、かれたはずのなみだが。
とまりません。とまりません。
まるで、おもいものをおろしたようになみだがこぼれおちます。
「たみちゃん、ずっとなくの、がまんしてたんだよね。たくさん、たくさん、ないてもいいんだよ。とってもつらかったんだもんね。とてもくるしかったんだもんね・・・」
ミチコ先生は、ちいさくふるえているたみちゃんのちいさなせなかをやさしく、やさしく、つつみこむようにさすってくれました。
「たみちゃん、おかおをみせて。たみちゃんのこんなかわいいおかおしているのに・・・。
たみちゃんはよごれてなんていない。
よごれているのはたみちゃんにいやなことをいうひとたちのココロだよ。たみちゃんはとてもきれい。
たみちゃん、たみちゃんはなんにもわるくないからね。先生はぜったいにゆるさない。
たみちゃんにひどいことをするひとたちを。たみちゃんがゆるしても先生はぜったいにゆるさない・・・」
ミチコ先生はたみちゃんのなみだをじぶんのそでぐちでぬぐいながらそういいました。
たみちゃんは、うれしいのかかなしいのかわからないけど、どっときもちがわきだして、ふっとちからがぬけました。そしてそのままねむってしまったのです。
「たみちゃん・・・。ゆっくり、ねむってね・・・」
ココロ、イタイ、イタイ。
ずっとイタイ、イタイ。
すこしだけ、イタイの、とんでいった。
ほんのすこしだけ・・・。