後編

総合病院だけあって、日曜日だというのに外来の患者がたくさん来ていた。

(病院についたのはいいけれど・・・。彼女らしい人物は見あたらず・・・)

純平はともかく受付で、聞いてみることにした。

「あの・・・。この病院に『高橋るみ』って人、入院とかしてないか調べてもらえませんか?」

「少々お待ち下さい」

事務員がパソコンでカチカチと調べている。

(・・・。病院に呼び出されたって事はやっぱり入院してるとかだろうな・・・)

「あの・・・。該当する方は入院患者じゃないですね」

「そうですか・・・。どうもすみません・・・」

いなかった・・・。

がっくりした純平は帰ろうと、病院を出ようとしたとき・・・。

「吉岡・・・純平さん・・・ですか?」

振り向くと、中年の女性が立っていた

(・・・。も、もしかして・・・)

女性は、純平に近寄ってきた。

(・・・。そ、そんな・・・。ま、まさか・・・。こんな『オチ』って・・・)

「こ、こんにちは」

「こ、こんにちは・・・」

「あ、あの・・・。高橋・・・です。高橋るみの『母』です」

「えっ・・・。お母さん?ああ、そ、そうですか・・・ 。ああ、なんだ・・・」

かなりホッとした純平。

「あの・・・」

一瞬母親は哀しい顔をした。

「一緒に来ていただけますか。るみは・・・。庭の方にいます・・・」

「あ、は、はい・・・」

純平は母親に言われるまま、病院の庭にある一本の桜の木の前まで案内された。

「あの・・・。どういうことなんですか?るみさんは・・・」

「・・・。そこにいます」

「そこって・・・」

母親は、指さした方向は、桜の木。

「あのう・・・。一体、どういう事なんですか。るみさんは・・・」

母親の顔がひどく哀しくなった。


「るみは・・・。るみは・・・。その桜の木の下です・・・」

「?」


(さ、桜の下って・・・どういう・・・)


「るみは・・・。2ヶ月前に・・・。永眠しました」


「!!!」


2ヶ月前・・・。2ヶ月前と言ったら、ちょうどるみからの手紙が途絶えた頃だった・・・。


まさか・・・。


まさか・・・。


亡くなっていたなんて・・・。


純平は驚きとショックで頭が混乱した。


「じゃ・・・。じゃああの、この前くれた手紙は・・・」


「私が書きました・・・。どうしても貴方に渡したいものがあって・・・」

そう言うと母親はバックから、ピンクの便箋をとりだした。

るみの便箋だ。

「るみが亡くなる前に最後に書いた貴方宛の手紙です・・・」

『吉岡純平様』。

いつもの綺麗な字だった・・・。

「娘・・・。るみは・・・。小さい頃から病院を入退院していました・・・。心臓の病気で・・・。家に退院するのは年に数回でした。そんな時・・・。るみは貴方を見つけた・・・」

「え・・・?」

母親は桜にそっと手をあて、語り語り続ける。


「るみがちょうど16の頃のこと・・・。そのころ、るみは遠く離れた親友と文通していたんです。るみにとっては何よりもの心の支えだった。だから退院して家にいるときは、ポストを覗くのが楽しみだったんです」


そういえば・・・。純平が今の配達区域になったとき、配達にくるたびにポストを覗きに来ていた女の子がいたような・・・。


「でも、親友とも疎遠になってきていて、返事もなかなかこなくなっていた・・・。そんな時、おちこむるみに言ってくれたんです」


『手紙っていうのはね。相手の返事ばかり期待しちゃだめなんだ・・・。自分が相手に何を伝えたいか・・・。

それが大切なんだよ。大丈夫。君が心を込めて書いた手紙なら、きっと友達は読んでくれているよ。郵便屋のオレが言うんだから間違いないさ』


(そんな気障っぽい事を言ったのか・・・。オレは・・・)

「貴方の言葉通り、親友からまた手紙が来ました。家の事情があって出せなかっただけなんだって・・・。それからです。るみが貴方の事をきっと気になり始めたのは・・・。日記にこうありました。」

“素敵な郵便屋さんを見つけた!ちょっと気が弱そうだけど、とても大切な事を教えてもらったの”

「・・・。るみが貴方と文通していたことは私は今の今まで知りませんでした。るみが亡くなった後、るみの日記を見ていたら、その手紙がはさんであったんです・・・。そして貴方との文通のやりとりも・・・」

最後の手紙・・・。

この中に、るみの最後のメッセージが入っている。

純平はギュッと手紙を握った。

「貴方と文通したこの半年の間・・・。るみは本当に生き生きしていました・・・。貴方からくる手紙が宝物と言っていた・・・。『恋』をしていたんですね・・・」

それは自分も同じだ・・・。

手紙の中で、何の変哲もない郵便屋の日常に、彼女は一つ一つ、受けとめてくれた。

丁寧に・・・。大切に・・・。

いつのまにか、自分も顔も知らない彼女に、惹かれていた。

会いたいと何度思ったことか・・・。でも・・。

会うとこの今の関係が壊れると思った。

手紙の上だから、自分も素直になれた。きっと彼女もそうかもしれないと・・・。

「でもるみは・・・。自分の寿命は知っていたんですね。2ヶ月前、手術の直前に・・・。これを貴方に渡して欲しいと・・・。桜の咲く頃に・・・。るみはずっと貴方といつかこの桜を一緒に見たいと思っていたみたいです。日記にそうありました・・・。だから・・・。私はるみの遺灰の一部を・・・。この桜の木のしたに埋めた・・・。季節はずれだけど・・・。るみ、吉岡さんが来てくれたのよ。る・・・」


ヒラッ・・・。


うすべにいろの花びらが一枚・・・。


母親の手のひらに落ちた・・・


純平が見上げると一番てっぺんの枝に・・・一つだけ・・・。


咲いている・・・。


桜の花が・・・。


「るみ・・・!」


母の声に応えるように、ひっそりと花を咲かせている・・・。


その娘の思いが伝わったのか母親は、そっと桜の木を撫でた・・・。

涙を必死にこらえながら・・・。


そして純平は・・・。


「はじめまして・・・。吉岡純平です。郵便配達員やってます・・・。はじめまして・・・」


花にむかってつぶやいた・・・。


何度も・・・。


夕方。

河原のグランドで子供達が野球をしている。

純平は土手の草原で、るみの最後の手紙を読んでいた・・・。


『拝啓。

吉岡純平様

もしかしたらこの手紙を貴方が読む頃はわたしはもう、この世の中にはいないかもしれません。

最後の手紙になるかもしれません。

だから・・・。どうしても伝えたい。

私の気持ちを・・・。素直な私の気持ちを・・・。

最後の手紙は・・・。

ラブレターです。
私から貴方の・・・。


吉岡純平さん。

貴方をずっと想っていました。貴方が私を知らないころからずっと・・・。

貴方の素敵な一言で、私は勇気をもらいました。そして手紙のすばらしさを教えてもらいました・・・。

自分で手紙を書いていて、少女漫画みたいだなって思いながらも、手紙の中では私は私らしくいられた・・・。

この手紙を貴方が読んでくれていると思えただけで、私は明日が来るのが本当に楽しみになった。

明日っていう日がこんなに大切だって思えたんです・・・。

貴方からくる返事・・・。嬉しかった・・・。

子供の頃から、病院と家しか私の世界じゃなかった。

家族以外の人とこんなに深く関わったことはなかった・・・。

貴方を好きになればなるほど・・・。ずっと生きていたいと思った・・・。

死にたくないと・・・心底思った・・・。

貴方の声が聴きたい。

貴方と一度で良いからデートしてみたい・・・。

どんどん欲張りになった・・・。

でも・・・。どうやらそれは叶いそうにもありません・・・。哀しいけれど・・・。

だから・・・。この手紙に私の想いのすべてをを、託します・・・。


吉岡純平さん、貴方が好きです。


私と出会ってくれてありがとう・・・。

できることなら・・・。貴方と一緒に桜を見たかった・・・ 。私が大好きだった桜を・・・。


貴方は私の永遠に初恋の人です・・・。


貴方がこれから先、素敵な恋をしますように願っています・・・。

最後に・・・。


本当にありがとう。私に素敵な時間をくれて・・・。


貴方と手紙の中で交わせた言葉、そして時間は

一生、私の宝物です。


高橋るみ』


「あー・・・!この兄ちゃん、ないてっぞ!」


野球をしていた少年達が、うつむき泣く純平をのぞき込む。


「大人が泣いたらー!変なのー!!」


指さす少年達。


純平は少年達にからかわれても、涙が止まらなかった。


ポタリと落ちる。


るみの写真の上に・・・。


自分の知らないところで、こんなに自分を想っていてくれた人がいた。


そしてその人と、短い時間だったけど、一度も話したこともないけれど、深くそして尊い時間を一緒に過ごせた・・・。

手紙という紙の上で・・・。


そしてその人はもういない・・・。


その人からの・・・。


手紙はもう二度と・・・。


来ない・・・。


哀しいのか、切ないのか・・・。

心がぐちゃぐちゃ。


それでも・・・。握られた最後の手紙からは・・・。


微かに桜の匂いとそして、温かなぬくもりが確かに・・・伝わった・・・。


切ない想いと一緒に・・・。


ブロロロ・・・。


住宅街を走り抜けるのは郵便配達員のバイク。

颯爽と春の風を感じて・・・。


コトン!


いつもと変わらず、純平は配達物を手際よくポストに入れていく。


前までは、ただ、人が出したものを配達する、ただそれだけだと思っていた。自分の仕事を。


でも、今は違う。


沢山の配達物がある。その中には人の想いがたくさん詰まった手紙がある。それを届けているのだ。


とてもそれが誇らしいと素直に思える・・・。


配達の途中、河原を通った純平。


今年は桜の木がとても綺麗に見える。


できることなら、この桜を一緒に見たかった・・・。


桜の好きな彼女と・・・。


「おおっと。いつまでも感傷的になってちゃいかんな」


純平が自転車にまたがったりこぎ始めた!

ガシャン!!

誰かとぶつかってしまった・・・。

「いたたた・・・」

起きあがろうとしたとき、純平はハッとした。

「あの・・・。大丈夫ですか?」

目の前には、るみとそっくりな少女が自分に手をさしのべていたのだ・・・。


一時、純平は少女に見とれてしまう。


「あの・・・あたしの顔に何かついてますか・・・?」

「いえ、あ・・・あの・・・。だ、大丈夫です・・・」

焦る純平の態度に少女はにこっと笑った・・・。


桜の様に・・・。


優しく・・・。


『貴方が素敵な恋をしますように・・・。願って・・・』


桜の花びらが風に舞う。


新しい出逢いを祝うように・・・。

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FIN

・・・。全く持って一昔前の時代遅れで少女漫画的やんす・・・(汗)。でも好きなんです!!王道物が・・・!!ビバ!!王道!!

いや、そうじゃなくて・・・。今はパソコンでへっぽこノベルあくせくとかいていますが、パソコンなどまだ、こんなに流通していない自分は、とにかく手書きでした。それはもう、乱筆で、暗号を解読するようなものでした。でも、無我夢中で書いていた。部屋をそうじしていたら、その原稿がどこからともなく発見した次第で・・・!自分で読み返しても、今も拙いですが更に拙い出来。だけど、『書きたい』という気持ちは今も昔も同じで・・・。

サイトを開いてから二次創作ばかり書いてオリジナルがなかなか書けなくなっていたので、初心に返るつもりで今回書いてみました。・・・。何が言いたかったのか分からなくなった・・・(悩)
ともかく、呼んでくださった方、本当に有り難う御座いました!!