”ごめん・・・光。ごめん・・・” 何度謝罪の言葉を聞いただろう。 昔のことは”昇華”しようと思うのに 謝罪の言葉が晃から絶えることはない。 ねぇ。晃。 もういいんだよ・・・。 謝罪をされると逆に辛い。 晃を私が過去のことで縛っているように思えて ・・・辛い。 謝られても、晃の傷も私の傷が消えることは無い。 ねぇ晃。 ”ごめん”はもう・・・ いらないんだよ・・・※「・・・と。晃。来週の予定表コピーしておいたよ」 「ああ・・・」 コピー機から印刷物をとりだす光。 窓に視線をやるとあめが振り出していた・・・ (・・・。傘持ってきてよかった・・・) 印刷したものをファイルして棚にしまう。 「晃、ファイルしておい・・・」 ガタタタタ・・・!! ディスクに向かっていた晃が突然倒れる・・・。 「晃!?」 晃に駆け寄る光。 「う・・・」 晃は体を九の字にしてぶるぶる震えて・・・ 光は晃の額に手を当てる。 (・・・す、すごい熱・・・!) 「ハァ・・・う・・・ハァ・・・」 息も荒く苦しそうだ・・・。 「と、とにかく寝かせないと・・・っ」 光は仏団がある和室に布団を敷き、晃を寝かせた。 「晃・・・。待ってて!今、氷まくら持ってくるから・・・」 光は台所に行き、水枕をさがした。 「ああもう!!どこに何があるかわからない!!いいや!とにかく 冷やすもの・・・!それと体温計!!」 光はビニール袋に氷をつめ、濡れタオルを急いで作る。 「う・・・」 晃の額にぬれタオルを置き、首に下に水枕を置く・・・ そして熱を測ると・・・ ピピッ 「・・・。うわ・・・。39.4度・・・って・・・」 「う・・・」 苦しそうにもがく晃。 「あ、晃・・・!だ、大丈夫!??そ、そうだ。た、タクシーよんで 病院に・・・」 光が携帯でタクシーを呼ぼうとするが・・・ 「・・・大丈夫・・・だ・・・」 晃が止めた。 「で、でも・・・っ。そんな苦しそうなのに」 「・・・。隣の部屋の・・・冷蔵庫に・・・に・・・薬が・・・」 「薬?わかった。待ってて・・・」 光は急いで冷蔵庫の中にあった薬袋と水を持ってきた。 (・・・。解熱剤・・・。こんな薬で大丈夫なのかな・・・) 「晃。ほら・・・。薬・・・」 光は晃の上半身を起こし、薬を飲ませる・・・ 「・・・ゲホ・・・ッ」 コップの水を飲まそうとするが咽(むせ)る晃。 「ゆっくり・・・。一口ずつ飲んで・・・」 光は晃の背中を静かにさする・・・ 薬を飲ませ、再び寝かせる・・・。 「・・・。すまない・・・。光・・・」 「謝らなくていいから・・・。それより本当に病院いかなくていいのか・・・? 熱高いし・・・。肺炎とかになってたら大変だよ」 「・・・。大丈夫・・・。眠ればきっと・・・。それより・・・光が・・・」 「苦しそうにしてる晃をほおって帰れるわけ無いよ。 今夜はそばにいるから・・・」 「光・・・」 「そばに・・・。いるよ。だから眠って・・・」 ”そばにいるよ・・・” その言葉は・・・ 晃の心にすうっとしみこんで・・・。 深い安堵感に包まれる・・・ 晃の瞼は静かに閉じていった・・・ (晃・・・) 雨音が・・・ 激しくなって・・・ 「・・・というわけで、今日、帰れそうにも無いんだ。バスの最終も ないし・・・。心配しなくていいから。じゃあね」 登世子に一応連絡をいれる光。 それを聞いていた一恵・・・。 「お姉ちゃん、もしかしてお泊り!??」 「妙な言い方すんじゃないよ。真柴さんが熱出したんだってさ」 「ふーん・・・。でも何も泊り込むこと無いじゃない。お姉ちゃんに酷い目に 遭わせた男なのに・・・」 ドン!と一恵の前に湯飲みを置く登世子。 「一恵。いいかい。人間ってのはね。”許す”って ことができる人間が幸せになれる生き物なんだ。それに・・・。 元から光の中には”恨み”なんてないさ・・・」 「お母さん・・・」 光の専用の湯のみをじっと見つめる登世子・・・。 (光・・・。あんたの思うとおりに生きな・・・。器のデカイ 人間になっておくれ・・・) 恨みや怒り。 そんなものを抱えながら生きるほど 光は弱くない。 寂しい心じゃない・・・ 光の湯飲みを優しく撫でる登世子だった・・・ 「・・・ハァ・・・ハァ・・・」 晃の額の汗をたおるで吹く光・・・ (解熱剤・・・。まだ効いてないのかな・・・) 大分息がおちついてはきたが 熱はまだ下がらず・・・。 「・・・。すごい汗・・・」 光はひたすら晃の額の汗を拭う。 (・・・。晃・・・。疲れが溜まっていたんだな・・・) 一緒にいて全く気がつかなかった。 光はただ、晃が指示したことをこなしていただけ。 「・・・ごめ・・・ん。ひか・・・」 晃のうわごと・・・ 「ひかる・・・ごめ・・・ごめんなさい・・・」 (晃・・・) 救いを求めるように・・・ 光の手を求める晃。 「オレのせい・・・で・・・オレの・・・せいで・・・」 光はその手をそっと握った。 「ごめ・・・ごめん・・・ごめ・・・ん・・・」 (晃・・・) 晃が今見ている夢・・・ 夢の中で自分に謝っているのだろう・・・か・・・ 「ごめん・・・光。ごめん・・・」 何度も聞いた晃の”ごめん・・・” 痛々しいほどに 贖罪の意識が伝わってくる。 重たい・・・ 贖罪・・・ 逆に光の方が・・・ 申し訳なさを感じてしまう程に・・・ 「・・・!」 (あ・・・晃・・・) 汗なのか・・・ それとも・・・。 晃の目筋からひとすじ流れ・・・ 枕が濡れた・・・ 「晃・・・」 汗か涙か・・・ 光はその雫をタオルでそっと拭う。 (晃・・・。晃の”ごめん”は・・・重いよ・・・。何だかとっても・・・) 「・・・重いよ・・・」 晃の手の温もりは優しいけれど・・・ 涙と贖罪の言葉は ・・・重かった・・・。 朝。 光は一睡もせず、晃の様子を見ていた。 カーテンを開けると、庭が朝露が太陽に反射して光っている。 (朝だけど・・・。晃の熱はどうかな・・・) 額に手を当ててみると、大分熱さは和らだように感じるが・・・ 「・・・光・・・?」 「あ、晃・・・。気分どう・・・?」 「ああ・・・。大分楽になった・・・。それより光は・・・。」 「私の事はいいよ。晃、顔、まだ赤いよ。熱、測ってみよう」 PP! 体温計の数字ではまだ38度近くある・・・ 「やっぱ病院行った方がいい・・・。病院に行って、点滴打ってもらおう。 それに薬も市販のものじゃなくて抗生物質とかきちんと処方してもらって・・・」 「光」 「ん・・・?」 「・・・ずっと・・・。一晩中いてくれたのか・・・?」 光は電子体温計をケースにしまい、コップに水を注いで晃に手渡す。 「・・・え、うん・・・。雨も降っていたし・・・」 「・・・そうか・・・」 晃は嬉しそうに笑みを浮かべる・・・ 「・・・光・・・」 「ん・・・?」 「・・・ありがとう・・・」 「・・・」 まっすぐで優しい眼差しで・・・光を 見つめて・・・ 「本当に・・・本当に・・・。ありがとう・・・」 「・・・。別に・・・」 光は目を逸らす。 ”ごめん・・・光・・・” あの涙とは余りにも 差があって・・・ 戸惑う・・・ 「・・・光・・・?」 「え、あ、いや・・・。なんでもない・・・。ああ、そうだ。晃。 汗すごいかいたなら着替え置いておいたから 。タンスから勝手に持ってきた・・・ごめん」 「いや・・・。光がいてくれてよかった・・・」 「・・・いいって・・・。お礼なんて」 「・・・嬉しかった・・・」 「・・・。ホントにいいから・・・。わ、私、何か朝食つくってくるよ・・・」 光は晃の笑顔から逃げるように 廊下に出た。 (光・・・) 手のひらに残ってる・・・ (光の手の温もり・・・) 奥に仕舞い込んだ”想い”が引き出されそうだ・・・ 光に握られていた自分の右手が・・・晃には・・・ ・・・宝物のように大切に愛しく思えた・・・ シャイン目次