シャイン
〜小さなお姫様と魔法使い 「・・・。やっぱり私には似合わんなぁ・・・」 一恵に勧められてかった白のワンピース。 鏡の前であわせてみるが光は胸元が広く開いているのがちょっと気になるらしい。 「そうだ。レースでもつけてみれば・・・」 押入れからミシンを取り出してきた。 ミシンを使うのは久しぶり。 光は登世子から裁縫や家事全般、大体のことは押さないときに 叩き込まれた。 人の目が気になった自分の洋服を買いに行くことができなかった 光は自分の服は大体、自分でつくってきた。 ガガガ・・・ 慣れたてつきで 白いレースを胸元あたりに縫い付けていく 「・・・ちょっとお姫さま気分ってカンジ?」 鏡の前でワンピースをあててみる光。 その光の本棚にはディズニーのビデオが並ぶ。 ・・・かなりのFANなのだ。 (・・・柄じゃないけど・・・) 一番最初に見たディズニー映画がシンデレラ。 光は魔法できれいになったシンデレラより、 シンデレラに”魔法”をかけた魔法使いに憧れた。 シンデレラに自信をくれた魔法使いに・・・ 「これを参考にして・・・。晶子ちゃんの私は”魔法使い”なるのだ! うっし!」 スケッチブックに描いたデザイン画をもとに 買ってきた生地を縫い始める。 「これぞ”晶子ちゃんシンデレラ計画”」 ガガガガガ・・・ ミシンを鳴らす水里。 『晶子ちゃんシンデレラ計画』 事の始まりは一昨日水里と晃が依頼をうけた家での出来事だった。 相変わらず入る仕事といえば晃の知り合いや老人ホームからの 依頼が多い。 それも有償ボランティアという形で 報酬ははっきりいってアルバイト程度の金額だ。 それでも 光も晃も満足感を充分感じている。 こうして、カットしを終わりて家族の人に 『お茶飲んでいってくださいな』 と誘われる。 そんな人とのかかわりがなによりもの”報酬”だと感じる・・・ 「え?お孫さんが・・・?」 「ええ・・・。すっかり落ち込んでしまっていて・・・」 家の主婦は麦茶を二人に差し出して、心配気な顔で話す 主婦の話によると小学校4年生になる娘がアトピーのことで からかわれすっかり元気がないという・・・ 「お洒落するのが大好きな子だったのに・・・。今では 全く洋服にも興味もしめさなくて・・・。私、どうやったら あの子が元気になるか必死で・・・」 主婦の話は・・・ 光はやはり自分の子供の頃と重ね合わせて聞いてしまう・・・ 晃も敏感に光の心の動きを感じていた。 「そんな時、真柴さんたちのホームページを晶子が見ていたんです」 「うちのホームページを?」 「ええ。『ひとりのいろりばた』っていう掲示版をじっくり あの子は見ていました」 自分が作ったHPを見ていてくれた子がこんな近くにいたなんて・・・ 光の心には驚きと嬉しさがじわっとわいた。 「だから・・・。あなた方ならあの子をなんとか元気にしてくださるんじゃないかって・・・。 お願いです。あの子に笑顔を戻すのを手伝ってください・・・!」 主婦は畳に頭を擦りつけ二人に土下座した。 光は慌てて主婦の手をとり起こす。 「お、お母さん、そんな、頭を上げて・・・。わかりました。私たちでできること・・・ 一生懸命考えます。ね、晃!」 「ああ・・・。晶子ちゃんが笑顔になれるよう考えます。だからお母さん、お母さんがまず 笑顔でいてください・・・。ね・・・?」 晃も主婦に静かに歩み寄り優しく言葉を駆けた・・・ 「ありがとうございます。よろしくおねがいします・・・」 主婦は深々と二人に頭を下げ、頼んだのだった・・・ 二人は事務所(晃の生家)に戻り 晶子を元気にする方法を考えた。 「どうやったら晶子ちゃんを元気に出来るか・・・。でも 簡単なことじゃないよな・・・」 ため息をつく晃に対して光は・・・ 「晶子ちゃんの夢は・・・”お姫様になること”だよね」 「ああ。そうお母さんは言ってたな」 「・・・。ヨシ!叶えよう!それ!」 「え・・・?」 「名づけて晶子ちゃんシンデレラストーリー計画!」 光は頷く。 何かひらめいたらしい。 「晃も魔法使いになっておくれね」 「・・・魔法使い・・・?」 そんなこんなで光が考えた『シンデレラ計画』。 ジジジ・・・ 朝方までミシンをかけて光はあるものを縫った 「できた・・・!」 ドタタタ・・・。 「母さん・・・。ちょっとこれ見てくれないかな」 朝食の支度をしていた登世子に縫ったドレスを見せる光。 「きゃあーー♪かわいいじゃん!!」 ぬっと髪の毛をセット中の一恵が光の後ろからドレスを覗き込む。 「ふむ・・・。なかなかいいできばえじゃないか。光」 縫い目や裏をめくって細かいところまでチェックする登世子。 「よかった・・・」 「にしてもお姉ちゃん流石だね〜。洋服一晩でつくりあげちゃうなんてさー」 パンの耳をくわえたままドレスをマジマジみる光。 「当たり前だよ。洋裁の技術を光に叩き込んだのは アタシだよ。一恵。あんたも既製品ばっかり着てないで ボタンつけぐらいできるようになれってのったく・・・」 制服の袖口のボタンが取れ掛かっている。 「お姉ちゃん、お願いできる?アタシ、髪の毛セットしなくちゃいけないから!」 「うん。いいよ。じゃあ貸して」 「ありがとー♪」 調子のいい一恵。ちゃっかりブレザーを光をあずけ、自分は洗面所へ・・・ 「ったく・・・。あの子は相変わらず世渡り上手なんだから・・・」 それに比べて。 ちくちくとボタン付けをする光・・・ (・・・その素直な不器用さが私は愛しいのさ・・・) 赤の他人のために 夜なべして服をこさえたり、見合わない仕事に遣り甲斐を感じたり・・・ 「・・・何さ。母さん・・・」 突然、頭を撫でられる光。 「何でもない。さ、朝ごはんにしようか・・・」 穏やかな笑顔で微笑む登世子。 娘の成長を感じた、登世子の朝だった・・・ 「凄いな・・・。これ、光が作ったのか?」 「うん・・・。ちょっとまだ粗い縫い目もあるんだけど・・・」 ピンクのチェック模様。 ワンピで、スカートの裾はリボン風にフリルにしてみました。 「服の裏側は通気性がいい綿生地なんだ。これなら汗も吸い取るし 着心地もいいと思って・・・」 「・・・いいや。可愛いドレスだよ。晶子ちゃんが喜ぶといいな」 「うん。で、あと髪のセットを”カリスマ美容師 真柴 晃”の 出番なんだけど・・・」 晃はくすっと笑った。 「おまかせあれ。可愛い可愛いシンデレラを仕上げて見せましょう」 「お願いします。魔法使いさん」 二人の魔法使い。 果たして、小さなお姫様を笑顔に出来るだろうか・・・? 日曜日。 「晶子。起きて」 ベットに塞ぎこむ晶子を母が起こす。 「プレゼントがあるの」 「え・・・?」 母が指差す方を晶子が見ると・・・ 「わぁ・・・っ」 目の前にビデオで見た同じ色の 同じ模様の フリルのワンピースが・・・ 「お母さん、これ・・・」 「光お姉ちゃんに作ってもらったのよ」 「光お姉ちゃん・・・?お姉ちゃんってあのおばあちゃんの 髪を切りにくる床屋さんのこと?」 ガチャ・・・ 「晶子ちゃん、こんにちは!」 光と晃がそっと部屋に入る。 晶子はびっくりして布団に潜り込んでしまった。 「あ・・・。ごめん。急に来たりして驚くよね」 光は静かにベットの横に腰を下ろした。 「・・・はじめまして。私、横山光っていいます。こっちのお兄ちゃんは 晃。今日、私たちが来たのはお母さんにたのまれて 、晶子ちゃんを”お姫様”に来たんだ」 「お姫様・・・?」 布団からちろっと顔をだす晶子。 「そう・・・。今日一日、どうか、私たちとデートしてくださいませ。 お姫様」 光は足をついて、晶子に手を差し出した。 「・・・お姫様って・・・。私・・・。可愛くなれるの?」 「ハイ。可愛いお姫様にワタシが変身させてみせましょう」 晃も足をついて、晶子の手をとった。 「・・・。お母さん・・・」 「晶子。お天気もいいし・・・。今日一日楽しんでらっしゃい・・・。 ね・・・?」 「うん・・・」 母を押され、晶子はようやくベットから出た。 「それではお姫様のメイクアップ開始でございます・・・!」 光は晶子にワンピースを着せて、鏡の前でくるっと一回転。 スカートがふわっとなびく。 「とってもよくお似合いですよ。お姫様」 晶子は恥ずかしそうに笑う。 「ではお次はヘアースタイルです」 ピンクのリボンで結んだブラシで晶子の髪を静かに梳く・・・ 髪の地肌も弱い晶子。ムースやスプレーは一切使わず、 ドライアーとブラッシングだけで 晃は晶子の髪をまっすぐにそしてうまく毛先をカールさせていく・・・ そして一つに束ね、耳もとだけ少し髪を残し、 バックで白い花の髪留めできっちりまとめた。 「お姫様。少しばかり目を閉じてください。最後の魔法をかけます」 「魔法?」 「はい・・・」 晶子はドキドキして目を閉じる。 「いいですよ」 そして目を開けると・・・ 「ワァ・・・っ」 パールのイヤリングと髪には白い小花の髪留めで出来上がり・・・ 「どうでしょう。お姫様。お気に召しましたでしょうか?」 「うん!ねぇ。とってもすてき!なんか私じゃないみたい・・・」 晶子は鏡の前で何度もくるっとまわって 自分の姿を確かめる・・・ 「さて。したくは出来ました。お姫様。これからが本番です」 「本番・・・?」 「ハイ。私たちと今日一日、デートしてください。こちらです」 晶子は光たちに導かれ玄関に出ると・・・ 「し、白い馬車だぁ!」 白のちょっとレトロな外車のミニカー。 レンタルしてきました。 「かぼちゃの馬車は用意できなかったので、ローマの休日風の 車を選んできました。ささ、お姫様お乗りくださいませ」 光は晶子の小さな手をとって 助手席に乗せる。 運転手は晃。 「ねぇねぇ。お姉ちゃんたち・・・。一体どこへ連れて行ってくれるの?」 「ハイ。『ホワイトランド』という場所でございます」 「ホワイトランド!??えっ。ホント!??」 「ハイ」 ホワイトランドとは、今人気ナンバーワンのレジャーテーマパークだ。 特に女の子たち人気で今やっているイベント『プリンセスワールド』 という童話の中のお姫様をメインにしたパレードや アトラクションが大人気。 晶子は前からホワイトランドに行きたいと母親に言っていた。 だが父親がなかなか休みをとれず、行けずに居た。 「思い切り、お姫様気分を味わってきましょう。お姫様」 「はぁあい♪♪」 晶子の元気のいい返事に 光と晃の顔も綻ぶ・・・ 平日のホワイトランド。 休日よりは人数はまばらだが、それでもやはり超人気スポットだけあって 親子連れや遠足で来ている子供達が目立つ。 「さぁて。何から乗りますか?今日一日、パスポート券 買ってあるからどのアトラクションも優先的に先に乗れます」 光は晶子の母親からちゃんと今日遊ぶ分だけの お金を預かってきている。 「えっとね。えっと・・・!やっぱり最初は『ユニコーンのメリーゴーランド』!」 「じゃあ参りましょう〜!」 光と晃に手をつながれ、小さな姫は大ジャンプ。 『ユニコーンのメリーゴーランド』 「きゃあ〜!!」 普通のメリーゴーランドより上下して回って スピードも速い 晶子は光たちに元気に手を振る 「おひめさま〜。落ちないようにしっかりつかまっててくださいねー!」 光も振りかえす ピンクのリボンをひらめかせて 晶子は楽しそうにメリーゴーランドを満喫。 それから。 「・・・。あ。もしかして。光って。高いところ、苦手?」 「そっ。そんなことないさ。高いところは平気だ」 だが光の膝はガタガタ足が震えている。 「・・・光魔法使いはやっぱり高いところが苦手みたいだな。ほおら」 晃はわざと観覧車を揺らした。 「わ、わぁあああ・・・っ!!」 一番天辺の星の形をした観覧車から光の雄たけびが木霊する・・・ それから3人は全てのアトラクションを回り、 終わった後は夕日が見え始めていた。 「さぁて。お姫様。今日の”メイン”です」 『シンデレラストリート』 シンデレラ城へ続く一本道にガードマンがたつほど、 人が集まる。 「もしかして・・・”ナイトパレード”見られるの!??」 「ハイ。それもはい、こちらの特等席で」 カーブして一番パレードを一望できる場所にキティの敷物を敷く光。 「それから晶子姫。名前を呼ばれますのでちゃんと返事してくださいね」 「?」 何のことかと首を傾げる晶子。 そうしているうちにパレードは始まった。 「きゃああ。綺麗・・・」 プリンセスワールド。 童話の中のお姫様の衣装を着たダンサーたちが大きな動く舞台で 華麗な踊りを魅せる。 暗い闇の中、きらきら光るネオン。 人魚姫、マーメイド号の船がきらびやかに電飾が輝く。 晶子はうっとりじいいっと見入って・・・ (ホントに好きなんだな・・・。お姫様が・・・) 小さい頃の自分を想い出す・・・ 綺麗な服をきて 素敵な笑顔をふりまく・・・ 女の子なら誰でも憧れる。 お姫様。 でも光がドレスを着ても周りの大人達は”引きつった笑い”。 無理して『可愛いね』といわれているのが子供心にもわかった。 ”お姫様より魔法使いさんが私は好き” 目立たないけど、魔法使いはお姫様に”自信”という名の魔法をかけてくれた。 だからお姫様は輝いてる。 光はお姫様を輝かせることが出来る魔法使いが大好きなんだ。 「・・・あ。晶子姫、もうすぐ貴方の名が呼ばれます」 「え・・・?」 丁度晶子たちの目の前を、 かぼちゃの馬車が通る 白馬が晶子たちの前で止まった。 (え・・・?) 晶子は驚き、光の後ろに恥ずかしがって隠れる。 かぼちゃの馬車から、魔法使いの格好をしたおばあさんが登場。 「高原晶子さんですね?お迎えにあがりました。舞踏会に参りましょう」 「え?え?」 「姫、さ、どうぞ・・・」 光がひょいっと晶子を抱き上げて馬車に乗せる。 このパレードでは、予約しておけばかぼちゃの馬車に乗って シンデレラ城まで行くことが出来る。 だが予約をとるのは難しく、半年以上も前からでないと 無理なほどだ。 「光お姉ちゃん・・・」 「今日最後の魔法です。お城で待っております。とうぞ、ごゆるりと 来てくださいね」 魔法使いのおばあさんが杖を振るとパタン!と ドアがしまる・・・ 「さぁて。かぼちゃの馬車は次の今宵選ばれたプリンセスの元へ迎います その奇跡のぷりんせすは誰かーーー・・・」 パレードは再び続く・・・ 拍手と笑い声と共に。 晶子はかぼちゃの馬車の窓から光に手を振っている・・・ 「光・・・。それにしてもよく予約がとれたな・・・」 「え?ああ。ちょっと係員に”念入りに”頼んだから・・・」 バキっと光は腕を鳴らす・・・ (それって頼むというより脅かしたんじゃ・・・(汗)) 「ふっ。光魔法使いは本当に逞しいな」 「・・・。余計なお世話ですー。あ、晃、先にお城に先回りしてくれよッ。 写真撮影が待ってるんだから」 「ハイハイ」 光の満足そうな表情に 晃も嬉しくなる。 ネオンより、パレードより光の笑顔が晃には輝いて見えた・・・ 「やれやれ。うちのお姫様は完全におねむですな」 最後にシンデレラ城で撮った王子さまとの写真撮影。 写真を抱いて小さな姫は光の腕の中で眠る。 「お姫様。おうちに着きましたよ」 スースー寝息をたてる姫をだっこし、光たちは門の前で待っていた 晶子の母親に晶子をそっと委ねた。 「光さん、晃さん、今日は本当にありがとうございました。晶子のこんな 穏やかな寝顔みたの久しぶり・・・」 母親は晶子のおでこをそっと撫でた。 「お母さん。あとはお母さんの”魔法”で晶子ちゃんを見守ってあげてください。 きっと、晶子ちゃん、自分で前を向いて歩いていけます。きっと・・・!」 光の言葉には力がこもる。 自らの経験がそうさせるのか 相手にも伝わりやすくて・・・ 「じゃあ、失礼します。おやすみなさい」 こうして光と晃の”一日魔法使い”は終わった。 「・・・本当に晶子ちゃん、元気になってほしいよな・・・。いやきっと なるよ。俺はそう信じて・・・」 スー・・・ 助手席の光から寝息が・・・ (・・・光・・・) 晃はジャケットを脱ぎ、光にそっとかけた・・・ 「・・・俺にとってのお姫様は・・・光だけだよ・・・」 サラ・・・ 光の前髪を晃の指先が流す・・・ 「・・・お疲れ様。優しい魔法使い・・・」 優しく呟く晃・・・ それに応えるように光は寝言を・・・ 「・・・あきこちゃん・・・かわいいお姫様・・・むにゃ・・・」 「夢の中でも魔法使ってるのか。ふふ・・・」 晃はしばらく光の寝顔を見ていた・・・ シャイン目次