〜憂鬱なホスト〜
ホスト。
女を喜ばすことが仕事。一時の夢を売っている。
女受け顔はしているし、まぁ、結構しゃべりも上手い。
自分らしい仕事だと俊也は思う。
それなりの自信を持ってる。
一応これでも某国立有名大学院生。周囲の尊敬も仰いでいる。
でもなんだか・・・。満たされない気持ちはなんだ。
空虚な気持ちは何だ。
・・・なんなんだ・・・
※
田部井俊也。店での名前はTOSHI。
ホストクラブ『シルキー』の1ホストである。
そこら辺のサラリーマンの半年分の給料を一ヶ月で稼ぐほどの人気ぶり。
外見は派手でプレイボーイ風だが
「・・・お前らで使え。今月・・・キツイんだろ」
後輩ホスト達の家賃の面倒もみるなど、外見とは違う、真面目な一面も持ち合わせた
俊也。そのギャップがまた、男心も、そして女心をもくすぐるらしい。
夜の顔と昼の顔。
昼の顔は某有名国立大学の大学院生。
『TOSHI。あんたのこと・・・マジになったかもしれない・・・。
YUKI』
(・・・くだらねぇ)
この間、一晩だけ相手した女子大生からのメール。
俊也はすぐに削除した。
(何がマジの恋愛だ。吐き気がする)
多数の女と付き合いはあるのに本命がいない。
いや・・・
(そんなもん作ったら、毎日事件沙汰だぜ。ストーカー
の予備軍作ってたまるか)
”貴方のこと・・・癒して上げたい”そんな女が最近増えている。
俊也の一番嫌いなタイプだ。嘘の不幸な生い立ちを信じて一人で”純愛ブーム”してる。
(家で勝手に純愛ドラマでも見てやがれ)
巷に溢れる純愛という言葉に疑問を抱く。
(ま・・・。オレの仕事もある意味”擬似純愛”なのかもしれねぇけど・・・。
あくまで擬似だ)
本気になるのも苦痛だし、本気になられるのも面倒。
”恋愛も仕事も程々に”
これが俊也のモットーだ。
そんな俊也の一日の終わりは朝方3時過ぎ・・・
世の中はまだ夢の中の時間だ。
「・・・有紀・・・」
今日も仕事が終わり、一眠りしようと還って来た俊也。
待っていたのは昨日のメール主、有紀だ。
「・・・俊也・・・」
マンションの郵便受けの下に座り込んでいた。
俊也は有紀を無視してエレベータに乗ろうとする。
「俊也・・・!」
有紀は俊也を追いかけ、コートを捕まえて離さない。
「・・・俊也・・・。どうしてメールくれないの・・・?」
「・・・」
「私・・・ずっとずっと待っていたのに・・・」
一日で100件もメールを送りつけてきた有紀。
すでにこいつは尋常じゃないと俊也は警戒してメールアドレスを
変えていた。
「・・・ねぇ・・・私・・・好きなのに・・・」
「・・・。アンタ誰だ。オレはストーカー狂いの女なんてしらねぇな」
俊也は少し乱暴に有紀の手を離した。
「俊也・・・。俊也のことは私が一番理解してあげられるの・・・。
だから心を開いて・・・?」
(マじかよ)
有紀の妄想さに俊也は恐怖を感じた。下手な対応をすれば
何をしでかすか分からない。
(・・・どうすっかな・・・)
焦る俊也の前に・・・
(ん?)
郵便受けに新聞を入れる光の姿が目にはいった。
(・・・。いい”役者”みーつけた・・・)
「ごめんよ。有紀・・・。オレ・・・忘れられない女がいるんだ」
と言って俊也は光の腕を引っ張って有紀の前につれてきた
「な・・・ちょっとあんた、何すんだ!」
(悪い。ちょーっと協力して)
光の耳元で囁く。
光は何が何だか分からない。
「嘘・・・。俊也は本気で人を好きになれないって・・・」
「いや・・・。それが本当に愛せる人をやっと見つけたんだ・・・。
この人だ」
(!??)
光、状況が把握できない。
「・・・嘘・・・!!その場しのぎの嘘でしょう!??」
「嘘じゃない・・・。オレは・・・。こんな顔でも健気にこうして
生きている彼女の生き方に心底惚れてしまったんだ・・・」
(なっ)
光、ようやく状況が分かってきた。
(利用されてんのか、私!しかも強烈に失敬に・・・)
「だからオレのことは忘れてくれ・・・」
「嘘・・・。俊也を理解できるのは私だけよ!!」
光に掴みかかり、有紀は光の体を揺さぶる。
俊也は割ってはいり、光を自分の後ろに下げた
「何もできなくていい・・・。彼女がオレのそばにいてくれるだけでいいんだ・・・。
君にそれができるかい?オレのことが本当に好きなら・・・。身を引いてくれ・・・。
それが本物の愛情だろ・・・?」
(・・・気障な台詞。彼女と別れるためにとはいえ・・・。彼女だって
乗せられるわけな・・・)
光は怒る気にもなれず、ただ呆れ・・・。
「・・・本物の愛情・・・。そうか・・・。そうよね・・・。ごめんなさい。
私ったら自分の感情ばかり優先して・・・」
「いいんだ・・・。君の幸せを願っているよ。有紀。さようなら・・・」
「さようなら・・・俊也・・・」
(おいおい。乗せられてんのか・・・(汗))
光は呆れ、そして俊也と有紀の純愛シーン(?)ただ傍観・・・
それはそれは綺麗な涙を流しながら、有紀は悲恋のヒロインを演じたまま
マンションを後にした・・・。
大理石のマンションの玄関に光と俊也の二人。
光は飛び散った新聞の束を拾う。
「・・・。すまなかったな。あんたまで巻き込んじまって」
「・・・」
光は完全無視。
「怒ったか?当然だよな。オレは相当酷くあんたを利用した。
ふふ。なんなら、ぶってもいいぜ。目玉腫れるぐらい・・・」
俊也はわざとらしく光に頬を見せて、指差した。
「・・・」
パフ・・・。
(・・・。寂しい奴だな。こいつ・・・)
光は平手の代わりに朝刊を俊也の手に乗せた。
「・・・。私の仕事は朝刊を配ること・・・。それだけです」
光は軽く会釈して出て行こうとする。
俊也が呼び止めて光が振り向いた。
「おいっ・・・本当に怒ってねぇのかよ」
「・・・。一日の始まりが・・・。あんたを怒るなんて・・・。エネルギーの
無駄ですから。じゃあ・・・」
顔色一つ変えず
光は立ち去る・・・
(・・・。微動だにしねぇな。あの女・・・)
普通の女なら、平手の一発ぐらいあってもいいものを・・・
薄暗い道路を一人自転車を漕いでいく後姿・・・
(こんな寒い中を・・・。ご苦労なことだな。けどそれより・・・)
光の火傷の痕がない方の横顔・・・
少し凛として見えた・・・。
(・・・。面白いキャラ見つけたかもしれねぇな・・・)
俊也はその後、光が勤める新聞配達所に電話をかけ、名前と住所を聞き出した。
シャワーを浴びた俊也。
缶ビールを片手に携帯を眺める。
(横山 光・・・か)
光がいつか俊也に渡した苺のキャンディ。
(いい暇つぶしになりそうだな・・・)
悪戯な笑みを浮かべてキャンディを口にする俊也だった・・・。
その朝の出来事を光は晃に話した。
「・・・光はそれで黙って帰ってきたのか!??」
かなり興奮する晃。
「あ、いや・・・。なんか相手にするのも疲れたし」
急須におちゃっぱをいれ、ポットのお湯を注ぎいれる光。
「だからって・・・。クソ・・・。酷すぎる・・・っ。光にそんな・・・っ!!!」
「晃。落ち着いてくれ。あんな奴に怒るのも虚しいだろ?はい。お茶」
「・・・けど・・・」
光はやっぱり話さなかった方がよかったと思った。
こういう話をすればきっと晃はまた、自分を責めるから・・・
「光はホントに強くなったな・・・」
「・・・強くなんてないさ・・・。ただ・・・。一日一日を頑張るだけ」
「ああ・・・」
光の笑顔が眩しい。でもその分・・・
光を”無理に”強くさせている原因が自分だと・・・痛感する。
(光・・・)
パソコンに向かう光。
パソコンで予約状況を確認する。
最近はHPの反響が出てきたのか、メールでの予約がいくつか
はいってきていた。
「・・・えっ・・・。田部井って・・・」
”俊也・・・!”
郵便受けの名前が浮ぶ。
「光。どうかしたのか?」
「あ、うん。このメールなんだけど・・・」
『可愛い横顔の新聞配達員の横山光さん。オレの髪、切りに来てくれない?
お願いしマース。田部井俊也』
「・・・なんで私の名前知ってんだ・・・。それにここのことも・・・」
そのとき、光の脳裏に昨晩、一恵から聞いた証言が過ぎる。
”あのね。経った今、すごいイケメンの人からおねえちゃんのこと
根掘り葉掘り聞かれたんだ。ふふ・・・”
(・・・って嬉しそうに話してたっけ。一恵の奴・・・。何しゃべったんだ)
「光・・・。田部井ってコイツがどうかしたのか?」
「うん・・・。コイツが今話してた・・・奴」
「!?」
「・・・どうする晃・・・。たぶん、ただの悪戯だと思うけど・・・」
晃は怒りを抑えきれない。
光を自分の都合に利用してまたこんな・・・。
こんな幼い悪戯を・・・
「行ってやろうじゃねぇか。光」
「え」
「・・・そいつに一言言ってやりたいことがある・・・」
晃の強張っていく顔・・・
(光を馬鹿にする野郎は許さない・・・)
光は不安げに見つめていた・・・。
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