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シャイン
〜許さない!〜


キ・・・。 俊也のマンションの前に車を止める。 メイクバックを持ち、固い表情の晃・・・ (晃・・・) 晃の中の罪悪感は、光を嘲笑う他者に対して、すごく攻撃的になる。 光はその晃の攻撃性が不安だった。 「・・・ここか・・・」 青い分厚い玄関ドア。 インターホンを光が押す・・・ 「あ。来てくれたんだ。早速。開いてるから入っていーぜ」 俊也の部屋のインターホン口の映像。 (ん?隣の男は誰だよ。あー・・・コイツたしか・・・) ガチャ・・・ 「お邪魔します・・・」 光が先に玄関にあがり、長い廊下をゆっくり入っていく・・・ (うっ・・・) 広いリビング・・・天井にはシャンデリアのような豪華な装飾の ライト。 だが・・・。脱ぎ散らかした洋服が散乱し・・・ 飲み干した缶ビールも・・・ 「あ。いらっしゃーい・・・。オレ、今チョードシャワー 浴びたんだ。あ、光ビール飲むか?」 (ひ、光?!?よ、呼び捨てかよ!!) 心の中で突っ込む光だが・・・ 晃の顔が引きつっている・・・ 「あれれー・・・。後ろの君。見たことあるぜ?確か・・・ ”イケメン美容師”とかなんとかって雑誌で見たことあるぜー??」 缶ビールを飲みながら晃のじろじろ舐めるように 眺める。 「なーんだ。オレ、てっきり光がオレに色々してくれんのかと 思ったのになぁ・・・」 光の肩にポンと手を乗せる俊也。 「・・・っ」 晃の顔がさらに引きつり・・・ 拳に力が入ったことに光は気づく・・・ 「・・・。お前・・・。どういうつもりでこんな・・・」 「どういうつもりって・・・。べつにィ?髪伸びたからさー きってもらおーかとも思って」 「・・・なら他当たれ」 光の腕を掴んで玄関に向かおうとする晃。 立ち止まって俊也を振り返る。 「・・・だがその前に・・・。光に謝れ」 「えー?何をー・・・?あ!この間のことか」 「・・・謝れ」 「そんな怖い顔しなさんなって・・・。確かにオレが悪かった。 光の顔を使ってうるさい女を追っ払ったんだからな。光、ごっめーん」 ふざけた態度で光に手を合わせて謝る俊也。 だがその顔はヘラヘラ笑っている。 「お前・・・っ!!ふざけてんじゃねぇッ!!!」 晃の右手の拳が上がろうとしたが光が止める。 「光・・・」 光は晃をなだめるように優しく微笑む。 「ちょっと。人ンちでいちゃついてんじゃねぇ。それよりおい。 オレは客だぜ?さっさと髪、切ってくれよ。金ならほれ」 俊也は財布から万札を数枚出して、床に落とした。 「・・・。お前をカットするハサミも時間もない。いいか、金輪際、光に 近づくな。関わるな・・・!!」 「・・・おい。お前さ・・・。もしかしてこんな女にお熱なのか?」 「・・・やかましい!!!」 晃はもう我慢できないと、俊也の襟を掴んだ。 「趣味わりぃな・・・。ま、確かに”珍味”な女で暇つぶしのゲームのコマには 持って来いだけどさ。コイツにマジになる男なんているのか?」 俊也は晃をわざと挑発するように暴言連発してする。 光にはそう見えた・・・ 「・・・かわいそうに・・・。あんな痕さえなけりゃ、結構見栄えのいい 顔してんのにさー・・・。仕事だって新聞配達なんて夜しかやれねぇ仕事しか ねぇ。泣けるはなしだなぁ。う、う」 「・・・この・・・」 晃の拳が震えだした・・・ 「なぁ。光。よかったら俺んちの家政婦にでもなるか?給料はいいぜ? それで金溜めてさー美容整形でもしろよ」 「黙れ・・・!!!」 ガ・・・ッ!!!! とうとう晃の拳が俊也の頬に激しく打ち付けられた。 殴り飛ばされた俊也・・・ 一瞬、”待ってました”というような余裕の笑みを浮べたのを光は 見逃さない。 「あーあ・・・。ちょっとー。オレってさ。 顔が商売道具なんだなー・・・。傷つけてくれちゃって。けーさつ よぼーかなー・・・」 「ああ、好きにしろ!!オレはひかねぇぞ!!」 晃は完全に興奮してまた殴りかかりそうな勢い・・・ 「でもオレもめんどくさいこと嫌いだから。慰謝料払ってくれよ。 そうだなぁ・・・。光をちょーだい」 「・・・。冗談はヤメロ・・・。オレを怒らせて何が楽しい」 「えー・・・。楽しいよ。オレ、暇だから」 「・・・暇だから・・・光を持ち出して遊んでるのか・・・?そんなの・・・。 弱い人間がすることだ・・・」 ”弱い人間だ・・・” 俊也の耳の奥に響く・・・ 「・・・オレが弱い・・・?へぇ・・・。じゃあてめぇは強いってのか? じゃあ、その強さってもんを・・・見せてもらおうじゃねぇか・・・!!」 突然、俊也の形相が変わり、今度は俊也が晃のジャケットの襟を掴んだ。 「・・・おう、イケメン美容師さんよ・・・?オレに説教こきやがって・・・あん?? 慰謝料置いてけよ。一発殴らせろ」 「・・・わかった・・・。オレの殴って気が済むなら・・・。そのかわり、 光にかかわらねぇって約束しろ・・・」 晃は静かに目を閉じて歯を食いしばる・・・ 「まぁカッコいい男ですこと・・・。じゃあこのムカつきを 晴らさせていただきましょーかね」 俊也が拳を振りかざし思い切り頬めがけた・・・ 「晃!!」 ガ・・・ッ!!!! 「!!」 俊也の拳は・・・晃をかばった光の頬にモロに命中・・・ 床に倒れこむ光・・・ 「光!!!」 光に駆け寄る晃。だが光は 切れた唇から血が流れて・・・袖口で拭き取り、立ち上がる 「ったく・・・。男ってどうしてすぐ殴りあうかな・・・。殴り合いなんて 自分の力を誇示したいだけなのに。ったく」 光を心配し青ざめる晃に対して、光は余裕で口元を袖口で拭いながら 立ち上がった。 「・・・お、お前・・・なんで・・・」 女に殴られたことは何度もあるが女を拳で本気で殴ったことは・・・ 「・・・。田部井さん・・・。晃は大切な仕事のパートナーだ・・・。 晃が怪我したら・・・。晃を待ってる人たちが困る・・・。いや・・・。 私が一番困るんだ・・・。大切な人だから・・・」 「・・・」 「晃は私の夢・・・。だから晃を半端に傷つける奴は・・・許さない・・・。 絶対に許さないんだよ!」 ドン!! 光は床を思い切り拳で叩いた・・・ 「・・・。私の顔は・・・こんなですけど・・・。嫌なことばかりじゃないですよ・・・。 あんたたちには笑いのネタでも・・・。私はこの今の自分が好きだから・・・」 (光・・・) 晃はハンカチを取り出して光の口元を拭う。 「ありがと。晃・・・。晃・・・。帰ろう・・・。もうここにいる理由はない・・・。 いたくない・・・」 「光・・・」 光は晃の手を握り、出て行く・・・ だが最後に振り向いて呆然とする俊也 「・・・。何に満たされないのか知らないけど・・・。 他人で満たされようと思っているうちは・・・。みつからないと思うよ。 じゃあね・・・」 パタン・・・ ドアの音が・・・虚しくリビングに響く・・・ (・・・) 光の頬を殴った手・・・ (なんか・・・。痛てぇ・・・) 血が少し付いて・・・ (なんか・・・胸ンとこも痛てぇ・・・) 罪悪感に似た・・・ この気持ち・・・ ”絶対に許さないんだよ!!” 男も女も殴ったことは何度もあるのに・・・ なんでこんなに嫌な気分になるんだ・・・ 「・・・光・・・。アイツは・・・」 床についた光の血・・・ 指でなぞる・・・ (光・・・。お前は・・・) 光を殴った俊也の右手は・・・ずっとじんじんと・・・ 痛んだ・・・ 「・・・絆創膏もっててよかったぁ」 リュックから絆創膏を取り出して自分の口元と額に貼り付ける。 「・・・晃。どうしたんだ。黙り込んじゃって・・・」 運転席の晃。 押し黙って怖い顔をしている・・・ 「光・・・。どうしてオレをかばったんだ・・・」 「どうしてって・・・。体が勝手に動いた。それだけだよ」 「それだけって・・・!お前は女なんだぞ!??男に殴られに 出るなんて・・・!」 「大事な誰かを守りたいって思うことに男も女も関係ない!!」 「光・・・」 ”大事な誰か・・・” そのフレーズが憤る晃の心を静めていく・・・ 「・・・ごめん・・・。でも・・・。あの男は晃がムキになるのを 楽しんでて・・・。それを止めたかったから・・・」 「光・・・」 「でもやっぱり殴られるのは嫌なものだよな。やっぱり痛いし・・・」 「・・・光・・・っ」 気持ちが止められなくなった晃・・・ 光を抱き寄せてしまう・・・ 「・・・。もう・・・。絶対誰にも傷つけさせない・・・。オレも 誰かを傷つけない・・・」 「晃・・・」 「だから・・・。もう無茶だけはするな・・・。無茶だけは・・・」 光を抱きしめる晃の腕に力がはいり・・・ 体を密着させる・・・ 「・・・光・・・光・・・オレが・・・守るから・・・」 「・・・」 押さえ込んでいた気持ちが 晃の腕から光に伝わっていく・・・ 「・・・嬉しかった・・・。オレが光の夢って・・・言ってくれて・・・」 光の言葉一つ一つに 耳を傾けていて・・・ 心が躍り、そして不安になり・・・ 光への想いが溢れていく・・・ だが・・・。 光は静かに・・・。晃の腕から離れた・・・ 「ごめん。晃・・・私、不用意に抱きしめられるの・・・。苦手なんだ・・・」 「・・・!」 晃はハッとした。 光に・・・見えない線引きを・・・またされた気がした。 溢れてくる想いに蓋をされた・・・ 「あ、ご、ごめん・・・」 「ううん・・・。晃・・・。そろそろ行こうか」 「あ、そ、そうだな・・・」 盛り上がった自分の気持ちを 再び押し戻す。 アクセルが重い・・・ 暫く車の中は無言で・・・ 「・・・お、音楽でもかけるか」 「うん。あ、私、ミスチルがいいな」 「よし。じゃあそうしよう!」 当たらず触らずの会話に変わって・・・ 光も晃も・・・ 奥にある想いを・・・ 散らして・・・消したのだった・・・ シャイン目次