第25話 正義の代償@ 怒れ。 自分は正当だと誇れ。 怒れ!怒れ! 正当な怒りなのにどうして認められないんだ。 どうして負を被るんだ!! おかしい!!おかしい!!おかしい!! どうして・・・。一番傷ついた人間が二重の痛みを被らなければいけないのだろうか・・・ ※ 「・・・か、一恵・・・。どうしたんだ!?」 会社から帰って来た一恵の様子がおかしい。 スーツが雑に乱れ、ブラウスがしわだらけ・・・ 体を震わせて涙目で・・・ 「一恵・・・。何があったんだ・・・。そんな 切羽詰った声だして・・・」 「・・・。言えないの・・・」 「え・・・?」 「言えないの・・・っ」 バタバタバタ!バタン! 一恵は階段を駆け上がっていってしまった・・・。 「一恵・・・!」 尋常な様子じゃない。 服装を乱して帰って来るなんて (・・・変な奴に襲われた・・・。いやでも ”言えないの”って・・・) 光の胸に深い不安が過ぎった。 翌日。 一恵は会社を休んだ。 いままで休んだことがなかった一恵が・・・。 (会社で・・・。何かあったのか?) 勘が働いた光はすぐさま一恵の会社の上司に会いに行った。 「・・・妹に何か変わった様子はありませんでしたか?」 「さぁねぇ・・・。真面目に働いてくれてたと思いますけど?」 一恵の上司の沢田という50過ぎの男。 脂ぎった顔でたばこをふかす。 「本当にありませんでしたか?人間関係で悩んでいたとか・・・」 「知りませんよ。部下のプライベートまでは・・・」 「・・・。そうですか。分かりました。じゃあもし何か思い出したら・・・ すぐ連絡ください」 光は自分の携帯の番号のメモを渡して部長室を出た。 (感じの悪い上司だな) 「あ、あの・・・っ」 立ち去る光を一人の女子社員が呼び止めた。 屋上。 深刻な顔でその女子社員はある一件を話し始める・・・。 「・・・なっ・・・」 光の顔色が一変した・・・ 女子社員が話たのは・・・ ”横山さんはずっと・・・。沢田部長から・・・ 体の関係を迫られていました・・・” 光の全身が震えだす・・・。 「・・・でも横山さんはいつも気丈に・・・突っぱねていたんです・・・。 正義感が強くて・・・。でもこの間・・・。残業の時に・・・」 会議室に鍵をかけられ・・・ 携帯電話も壊され・・・ 逃げ場もさえぎられ・・・ 「・・・押し倒されたんです・・・。私・・・。偶然忘れ物 取りに戻ったとき目撃して・・・。横山さんは逃げ出したんですけど・・・」 そして沢田はこの女子社員を脅してきた・・・ 『クビになりたくなかったら・・・今日見たことは忘れるんだ・・・。 オレはこの業界に顔が利く・・・。再就職先までつきまとって お前の親も人生も滅茶苦茶にしてやる・・・』 「・・・そんな・・・ッ」 光は怒りで体が熱くなって・・・ 手が震えだす・・・ 「・・・私・・・。もうどうしたらいいかわからなくて・・・。 でも誰かに聞いて欲しくて・・・」 女子社員は泣き出す・・・ 「・・・。話して下さってありがとうございます・・・」 「お姉さん・・・」 「心配しないで。涙を拭いて・・・。 貴方から聞いたとは絶対に誰にも言わないから・・・。 後は私が・・・。私が姉として妹を守ります・・・。」 光は女子社員にハンカチを手渡す・・・ そして今にも爆発しそうな怒りをぐっと押さえて 再び部長室へと戻った・・・。 「なんですか。まだ何か?」 (・・・こんなクソ男に・・・。一恵が・・・ッ) ”鍵を掛けられて・・・。押し倒されて・・・” ジワリジワリと湧き上がる 怒り・・・。 気の強い一恵が あんなに・・・ 恐怖を植えつけられるなんて・・・! 「・・・謝れ」 「は?何にです?」 「昨夜・・・。一恵にしたことにだよ」 光の言葉に沢田の顔が少し変わった。 「・・・何のことだか・・・分かりかねますけどね」 「うるさい・・・。土下座して一恵に謝れ・・・。そして会社辞めろ」 「はぁあ?おい・・・。あんたさっきから 訳のわからんこと言って・・・」 「大人として・・・。ちゃんと責任取れ・・・。 大人として・・・!!」 光の凄みに・・・。沢田は少し慄いている・・・ 「・・・ふっ。馬鹿なことを・・・。誰がアンタの言うことなど信じる? 証拠もないのに・・・」 「証拠・・・?そんなものいるか・・・。ああそうか・・・。 なら一恵のスーツからベタベタ アンタの指紋でも出れば警察にいけるか・・・?」 沢田の顔がいっぺんした・・・。 具体的な証拠にうろたえたのか・・・。 「・・・おい・・・。あんまりふざけたこと言ってると 痛い目にあうぞ・・・?俺の知り合いに威勢のいいチンピラが いるんだ」 「痛い目・・・。へぇ・・・。痛い目ってなんだ? 私を殴るのか?」 ぺッ 沢田は光の顔めがけて唾を飛ばした。 「・・・アンタの顔殴りたいなんて・・・。手が腐る」 「・・・」 今すぐにでも沢田の頬に一発入れたい衝動に駆られたが 光はぐっと抑えた・・・。 暴力は振るったもの勝ち・・・ (私が食って掛かることを挑発してるんだ) 冷静に冷静に・・・光は必死に自分に言い聞かせる。 「・・・。とにかく・・・。妹に謝ってください・・・。 そしてちゃんと責任を取ってください。そうして下さるまで 私はここから動きません」 光はその場に正座して座り込んだ。 「・・・化け物に座り込まれちゃ迷惑きわまりねぇな。 そうだ。警察に電話して引き取ってもらうか」 「・・・お好きにどうぞ」 ガッ!! 沢田の足が光のお腹に一発はいった。 「てめぇふざけてんじゃねぇぞ!!これ以上 馬鹿な真似するなら妹のあの写真、ネットに流すぜ・・・?」 (写真・・・?) 沢田は携帯を取り出して待ち受け画面を光に見せた。 (・・・なッ・・・) そこには・・・ 胸元が肌蹴け・・・ 恐怖でいっぱいの一恵が映って・・・ 光の脳裏に蘇る・・・ 高校生が携帯で光を映してネットに流した一件を・・・。 「・・・こういうの好きな男はわんさかいるぜ? 名前と住所のせりゃ・・・どうなるかなぁ・・・」 沢田は勝ち誇ったように光に言い放つ。 「どうだ・・・。黙ってかえりゃ・・・。多めにみてやる・・・」 「・・・そんな訳・・・ないだろ」 「あん?」 「そんな訳にはいかないっていってんだ!!!」 光は沢田の胸倉をつかんで携帯を取り上げようとした。 「消せ!!それを消せ!!」 「わッやめろッ」 窓越しに責め合う二人。 「わッ!!!」 ドサササ!! 「ぎゃああぁあああ!!」 会議室に沢田の悲鳴が響き渡る。 沢田の額が少し切れ、血が流れた・・・ 「ぎゃぁああああ!!人殺しッ!!!誰か!! 誰か警察呼んでくれーーー!!」 沢田は大げさに叫んで部長室を飛び出した (・・・私・・・。私・・・) 光は呆然として・・・ ただその場に立ち尽くしたのだた・・・ シャイン2TOPページ