シャイン 〜みんな輝いてる〜 第26話 正義の代償A 「誰か!!誰か警察呼べ!!」 額を少しだけ切った沢田が大騒ぎし、光は警察で事情をきくために 連れていかれた。 話を聞いた一恵の会社の社長は話を大事にしたくはないと 沢田に穏便に対応するよう促した。 沢田も被害届けは引っ込めることにして・・・ 光は警察から厳重注意ということで放免になったのだが・・・。 「お姉ちゃん!」 血相をかかえた一恵が車で光を迎えに来た。 「・・・。ご迷惑をおかけしました」 深々と頭を下げる光。 警官に頭を下げるその背中を・・・。 一恵は居た堪れない気持ちで見ていた・・・。 (お姉ちゃんが悪者みたいじゃないの・・・) 「一恵・・・」 「お姉ちゃん・・・。どうして・・・」 「・・・ごめん・・・。一恵のことが気になって・・・。 でも逆に迷惑かけたみたいだ・・・」 「何いってるの何・・・」 ハンドルを握る一恵の手に涙が落ちた・・・ 「ごめんな・・・。何も・・・気がついてやれなくて・・・。 ずっと・・・我慢してたんだな・・・」 「・・・。お姉ちゃん・・・」 そっと・・・一恵の涙を拭う・・・ 「・・・ごめん・・・。本当に・・・。ごめん・・・」 「お姉ちゃん・・・。・・・なんでおねえちゃんが謝るの・・・。 なんで・・・」 「ごめん・・・。ごめん・・・」 妹のためのとはいえ・・・ 騒ぎを起こしてしまった自分が許せない・・・ 「お姉ちゃん・・・」 「・・・ごめん・・・」 「お姉ちゃん・・・」 光の優しさと・・・ 今まで耐えていたものが一恵の中でごちゃ混ぜになって・・・ 涙になって流れ出す 「・・・ごめんな・・・。ごめんな・・・」 光はそんな一恵の髪をずっと撫でていたのだった・・・。 それからこの一件は暫く近所にも噂が流れた。 「なんで光ちゃんがけーさつのご厄介にならなきゃいけないのよ!! 悪いのは一恵ちゃんの会社のセクハラじじいでしょーが!!」 こんな意見で盛り上がる主婦達もいれば 「女の癖に男に食って掛かるなんて・・・。警察沙汰にまでするなんて おっかない子だな」 少し怪訝に噂するものも・・・。 そんな噂を聞いて一恵は自分を責めて・・・。 「会社・・・。辞める」 「え!?」 「・・・これ以上・・・。このこと大事にしたくないの。 お母さんにもおねえちゃんにも迷惑がかかる・・・」 「・・・そんなのは絶対に駄目だ!!」 ドン! 光はテーブルを叩いて声を上げた。 「騒ぎを起こした私が言う筋合いもないけど・・・。 一恵が会社を辞める理由はないんだから・・・」 「でも・・・。正直私ももう、あの会社には居ずらいし・・・」 「・・・。どうしても辞めるって言い張るなら仕方ない・・・。 でもその前にはっきりさせておかないと気がすまない。 有耶無耶にだけはしたくないんだ・・・」 箸を握り締める・・・。 「だから・・・。辞表だすの・・・。 一恵・・・。もう少し・・・。待ってくれ。頼む・・・」 「・・・わかった・・・。でもお姉ちゃん。もう 無理はしないで。会社には自分でちゃんと抗議するから・・・」 (一恵・・・) 光の想いに一恵は一旦、書きかけだった辞表を 机の置くに閉まった。 光は一連のことを晃にも話した。 「・・・光が全部背負うことないとオレは思うけど・・・」 「違う・・・私はだた・・・怒りの感情に流されただけだ・・・。 一恵のためじゃない・・・。昔のことを思い出して・・・」 「一恵を守りたかったのに・・・。余計に傷つけた・・・傷つけた・・・っ」 ドンドンと床を叩く光・・・。 「光ッ」 晃は光の手を止めてぎゅっと握る・・・。 「光は悪くない・・・。光は悪くない・・・。 絶対悪くない・・・!」 「・・・ごめん・・・。感情的になって・・・。晃にぶつけちゃって・・・」 「・・・オレにぶつけてすっきりするならどれだけでも ぶつけていいよ・・・。オレは・・・オレは光が傷つくことだけが 嫌なんだ・・・」 「晃・・・」 「・・・大丈夫。これでも多少は打たれづよくなったんだ・・・。 一恵が仕事を失うことに比べたらどうってことない。 どうしても一恵が辞めたいって言ったとしても・・・。 せめて本当のことをうやむやにだけは・・・」 確固たる決意をひめて光は話す・・・。 「明日・・・社長さんの家に行って来る」 「行くって・・・」 「うん・・・」 (”多少”は多少だろ・・・?) 光は我慢する。 本当に心が痛いときは我慢する 「かごめ・・・。俺も一緒に行くよ」 「え!?で、でもさ・・・」 「行かせてくれ・・・」 「・・・。わ、わかった・・・。ありがとう・・・」 (・・・。あ、晃に押し切られてしまった・・・) 少し過保護とも思える晃の想い (・・・。自惚れるわけじゃないけど・・・。 晃・・・。私が晃を雁字搦めにしてる気がやっぱり時々するよ・・・。 晃の大切な時間を犠牲にしている気が・・・) それに甘んじていていいのか・・・。 微かな疑問が光の中に生まれつつあった・・・。 翌日。 「・・・いかにも社長の家って感じだな」 大理石の門。 3階建てで、隣の大きな車庫には外車が2台とまっていた。 光達は応接間に通され・・・ (・・・定番な(汗)木彫りの熊と観光見上げの堤燈の数々・・・(汗)) 晃は応接室を繁々と眺めていると 黒い重たいソファにどすっとオールバックの髪型の社長が 座った。 「・・・いつも妹がお世話になっております」 顔を上げた光に一瞬、怯んだ 「・・・あ、いや。こ、こちらこそ・・・」 (・・・。顔に出やすい社長さんだな。ちょっと失敬だけど(汗)) 見かけの割にはなんとなく弱腰の社長。 光はさっそく本題に入った。 「私が部長さんにしたことは・・・。弁解できません。 でも、妹のことを有耶無耶にだけはしたくないんです。 社長さんは妹がいやな目にあっているということは知っていらしたんですか?」 「・・・いや・・・。ま、まぁ・・・。女子社員から色々 苦情はちらほらと・・・」 社長は光の目を一度もみようとせず、ぶつぶつと話す。 「知っていたのにずっと何も対応なさらなかったんですか?」 「いや・・・。まぁ・・・。部長にも一度注意はしたことは あるんですがね、その・・・証拠がないっていわれると・・・」 「・・・。証拠証拠って・・・。証拠なら私妹の同僚から聞きました。 正義感の強い妹が半泣きで・・・会議室から出てきたって・・・」 光は煮え切らない社長の態度に段々興奮してきて声が 荒くなってきた。 「・・・。ま、まぁ・・・あ、あの落ち着いて・・・。 あの、ま、まさか裁判にしようとかそういうことはお考えではないでしょうね?」 「は!?」 社長の心配する点は別・・・。 光は全く自分がいいたい点が通じていないことを悟った。 「・・・そうなると・・・。そのお互いにデメリットしかないでしょうし・・・。 ね?お姉さん。妹さんのことはちゃんと対応しますから」 「対応ってどんな対応です!?部長が謝罪することが 先決でしょう。それから妹の濡れ衣を晴らしてもらわないと 私は・・・私は・・・ッ」 光は湯飲みのお茶をぐいっと一気飲みして 気持ちを落ち着かせた。 (お、落ち着け・・・。感情的になったら駄目だ・・・) 「・・・部長にはそれ相応の反省を促します・・・。 ただ・・・。なんというかその・・・。彼にも家庭があるので 辞めさせるわけにもいかず・・・」 「・・・反省を促すだけじゃ・・・。ちゃんと謝ってください 謝らせてください」 「・・・そ、そう言われましても・・・」 ドン!! ずっと黙っていた晃が突然口を開く。 「・・・あんた本当に社長か・・・? 社長なら自分の会社のトラブルぐらい自分で解決しろよ」 「な、なんだ。君は・・・」 「・・・このご時世・・・。セクハラ問題は誠意をもった対応して おかないと後々痛い目に遭うのはお宅ですよ? この業界・・・ほら、高瀬会長は公明な人柄で有名ですしねぇ・・・」 「!?」 社長の表情が一変した。 「・・・。わ、わかりました・・・。榊部長の処遇については 厳しいものにします・・・それから妹さんのことについても・・・」 「・・・」 「今回のことは私の監督が行き届かなかった・・・。 申し訳有りませんでした。 これからこのようなことが無い様・・・心から勤めさせていただきます」 深々と、オールバックの頭が光に下げられた・・・。 (なんだ・・・?。気持ち悪い。突然豹変して・・・) だがとりあえず・・・、問題の部長の解雇と 一恵に対する謝罪を社長に約束させた。 社長の家を出て車に乗りこむ二人。 「・・・晃。”高瀬会長”って・・・。誰なんだ?」 「・・・経済界の重鎮・・・ってことな。少し卑怯な手だったかも しれないけど・・・。煮え切らない社長には効くと思って・・・」 「・・・」 お偉方の名前を出して社長を動かした・・・。 光は少し不満そうな表情を浮かべた。 (やっぱり光は納得いかないか・・・。 光は社長の心からの誠意がほしかったのに・・・) 「・・・ごめん。光・・・。光の気持ち、踏みにじるような真似して・・・」 「・・・。いやいいよ。晃がいなかったら きっとあの社長のこと私・・・。また殴ってたかもしれない」 「・・・光・・・。ごめん。ごめん・・・」 ”光に嫌われたくない” 晃の”ごめん”はそう言っているようで・・・。 「・・・あ、い、いや晃、いいんだ。私こそごめん。 晃の機転には感謝してる。私のために晃の気持ちは分かるから・・・ って、あの、私のためになんて・・・う、自惚れもいいとこだけど・・・ッ」 光は慌ててフォロー。 「そ、それに・・・”誠意”って言っても・・・。 私も半分自分の感情を納得させたいだけだったんだ」 誰のための誠意だったのだろう。 自分は正義のヒーロー気取りで社長の家に乗り込んで 優劣感に浸っていただけではないだろうか。 光の中で自問自答が生まれる。 「・・・光・・・」 「・・・。難しいな。晃・・・。一体何を信じて どう行動すればいいのか・・・。誠意を信じるって・・・難しいな・・・」 時代劇のように単純な悪代官と正義感溢れる 奉行だけの世の中だったらどんなに簡単だろう。 だが世の中は善を信じてもそれが自己満足であったり 貫こうとしても誰かを傷つけたり・・・。 青い空のように 澄み切った心になれないのはなぜだろう・・・ 「・・・晃・・・。少し空が見たいな・・・」 「わかった。どこでも何時でも光に付き合うよ」 「ありがとう。晃・・・」 けれど自分の側に居てくれる人は 信じたい 清清しい心で・・・。 その後。 社長と沢田部長、そして弁護士が光の家を尋ね、深々と頭を下げて 謝罪した。 沢田部長は自主退職を約束し、一恵に対しても 慰謝料を払うと提示してきた。 だからこれ以上、大事にはしないでくれと社長は頭をこすり付けて 光と一恵に頼み込んだ。 「お金なんていりません。社長。それよりもうこんなことが ないように・・ちゃんと対応してください。それから何でも お金で解決しようとしないでください。傷ついた方の心を察する 心を持ってください・・・」 一恵の言葉に、大の男3人、何度も何度も頷いて 聞き入っていたが・・・ 光は社長たちの態度を少し醒めた気持ちで見ていた。 (どこまで本気か分からない・・・。大事になりたくないだけなんだろう。 でも・・・。信じるしかないんだ・・・) 疑ってばかりな自分はいやだ。 人を疑うことに慣れたくはないから・・・。 結局、一恵の退職金を上乗せする、他の女子社員にも全員謝罪して回るということで 話し合いは落ち着いて終わった。 裁判でも起こしてそれこそ光が望んだ”誠意”を 貫けばよかったのかもしれない。 だが現実で誠意を貫くには お金がかかる。 お金がかかってでも本当は貫くことが 本物だろうと光も一恵も思ったが・・・。 「私が少しだけ”お触り”されたことで 庶民の血税使うなんて申し訳ないでしょ?ね、おねーちゃん」 ぺろっと茶目っけに舌をだして笑う一恵・・・ 笑顔が痛々しく感じる。 「一恵・・・」 「いいの。私の気持ちはもう治まったから・・・。 他の女の子達に謝ってさえくれたら・・・」 けれど裏腹に 一恵の目には涙がにじんできた・・・。 「あ・・・。やだ・・・。なんの涙だろ。これ・・・。 なんか・・・。力・・・ぬけちゃった・・・」 「一恵・・・」 光はばっと自分のセーターを一恵に差し出した。 「な、何?」 「思う存分泣いていい。これ、綿100%だから 吸水性たっぷりあるから・・・ほら」 「・・・」 真顔でセーターを脱いで差し出す光・・・。 「ぷっ・・・あはははは!」 「あ!?な、なんで笑うんだ!??」 「だって・・・。めん100%って・・・。あははは!」 笑いを狙った言葉じゃないから 余計に可笑しくて 嬉しくて・・・。 「・・・あー。お姉ちゃんの不意打ち天然には 負けるー。あー。笑ったー!」 「不意打ち・・・て、天然って・・・。私は生麺のうどんじゃないぞ」 「あはははは!うどんかぁ。お姉ちゃんうどんなのかぁ ふふふ!」 例え世の中から後ろ指指されても 味方になってくれる家族が居る。 (それ以上の・・・。幸せはないね・・・) 「あー。笑いすぎたらおなかへっちゃったぁ。 おねーちゃん。うどんつくって!」 「あー?仕方ないなぁ。卵入れる?ねぎ?」 「卵!」 うどんのいいにおい。 緊張しっぱなしだった二人の姉妹の心を癒す・・・。 見せ掛けの誠意。 偽りの正義。 沢山の偽りばかりがあふれるけれど 信じられる絆がきれることはきっとないから・・・ シャイン2TOP