巡る恋歌
霞姫様
3
北国というのはその名の如【ごと】く、東国や西国に比べて寒い国だ。
夏でも海の水は冷たく、真冬にはそこらじゅうが凍り付いてしまうほどの寒さだ。
そのため北国にはあまり人は見られず、いくつかの山里にちらほらと人が居る程度であった。
「秋といえどもここは北国。やはり寒さは厳しいですな。」
と、ひとりの法師が口を開く。
法師を仲間にふくんだ一行は今、北国の地の土をふんだばかりであった。
一行は想像を絶する北国の寒さにただ身震いするばかりである。そんな一行をさしおいて、
犬夜叉は・・・
「ったく・・・。これだから人間は。これっぽっちの寒さで何寒がってやがる。」
半妖である彼は元々体の造りが違う。北国の寒さでも微動だにしないのだ。
「犬夜叉、あんたとあたしたちは違うのよ。あんたは半妖だから大丈夫でも、
あたしたちは寒いのよ。」
まるで幼子【おさなご】が親に食って掛かるような口ぶり。
寒い寒いと口々にしながら先にたち、ずんずんと進んでゆくかごめ。
「ほんっと。たまにはあたしたちのこと気遣ってほしいくらいだよ。」
つられて珊瑚も口をとがらせて言う。
法師も同感とでもいうように首を振り、うんうんと頷【うなず】く。
幼い七宝でさえ、このわからずやめというようなしたり顔で犬夜叉を見る。
そんな一行に圧倒され、思わずびくびくしながら後ずさりしてしまう犬夜叉であった。
深い、深い、山の中を歩いていくうちに、一行は大きな湖に出た。
その周りには山里・・・といえるほど家の集まりがあった。
しかし人が住み、生活している様子はなく、辺りに漂う木々の香りと湖の色があまりの静けさに
不気味とさえ感じるほどであった。
人が住んでいる気配もない山里に不思議というものを感じながらも一行はその山里周辺を
見回ってみた。だが、やはり人はいず、この山里は滅【ほろ】んだ山里と化していた。
周りが少し荒れていることから法師はいくさや妖怪の被害がこの辺りにも及【およ】んだのでは
ないかと推測した。
人間同士のいくさと妖怪が跋扈【ばっこ】する戦国の世。
このような山里があってもおかしくはない。ましてや北国の山の中の里。滅びても仕方がないと
いう状態だ。
「辺りが暗くなって来ましたね。今日はこの山里に止まらせてもらいましょう。」
法師の言葉に反対する者はいなく、今日はここで疲れを癒すことにした。
―だが、彼らはまだ知らなかった。
この山里に隠された、悲しい過去を。
〜一言〜
私は長編小説を書いたことがない。と思い、挑戦した小説です。一話完結小説はも良かった
んですが、やはりこういうものにも試みないと、と思いました。
「巡る恋歌」 これまでにない壮絶かつ、広大なものを書きたいと思い、数週間前からこつこつと
書いていた小説でした。ゆっくりとですが、これからも次の話をまた、こつこつと書いては投稿し
たいと思います。
2004.10/18