人魚姫 第4話 人魚の居場所 作:露乃「ど、どうして・・・・・・・?」 (何で蒼龍が、ここにいるの?) 一瞬幻かとも思ったけれど、違う。今、目の前にいるのは間違いなく蒼龍だ。 「別にそこまで驚くことでもないだろう。俺ら清龍族は陸と海を自由に行き来してるからな。」 「た、確かにそうだけど・・・・・・どうしてここが分かったの?」 「まあ、とある2人の協力を得てな。お前もよく知ってる奴だぜ。」 「え?それって・・・・。」 頭を捻るが、かごめにはそれが誰なのか全く分からない。 沙夜達かとも思ったが、それは有り得ない。 沙夜達は大臣家の者であるし、桔梗は姫だ。陸に来れる筈がない。 「一体、誰なの?全然分からな・・・。」 「ったく、まさか1人で陸に来るなんてとんでもないことしたな。 かごめ。聞いた時はすっげえ驚かされたぜ。」 「・・・・・・久しぶり・・・・・かごめ・・。慣れない陸・・・・・・平気だった?」 かごめが声のした方向に振り向くと、そこにいたのは2人の人物。 「神楽さんと・・・・神無ちゃん!?」 懐かしい人物がそこにいた。 18歳の神楽と10歳の神無。清龍族の2人の姉妹だった。 「よお、2年ぶりってとこか。久しぶりだな、かごめ。」 「・・・・元気、してた?・・・・・・かごめ・・・・・・。」 「2人とも・・・・・・すっごく久しぶり!2人こそ元気なの?」 「まあ、この陸で気ままにやってるさ。今はこの町に落ち着いている。 力を石に封じてな。人間も結構おもしろいぜ。」 神楽、神無の2人は2年前に海を出て陸に旅に出たのだ。 神楽は清龍族の掟や集落がどうも嫌いだったらしく、妹の神無と共に海を離れた。 「この間、歌姫の名前がかごめっていう話を聞いてもしかしたらと思って広場に行ったら、お前と犬夜叉達がいた。」 神楽の言葉にかごめは俯いた。 「・・・・・・・・・・・。」 「かごめ。お前は昔から陸に憧れていた。それは俺も、桔梗も知っていた。 だから王様を説得して1ヶ月待ってもらったんだ。だがな、もうお前は帰るべきだ。 お前だって自分でも、2ヶ月も陸にいられるとは思っていなかっただろう?」 蒼龍はかごめを見据えて言った。 「・・・・・・うん。」 (分かってる。・・・・・・・分かっているわ。) ――国のみんなは・・・桔梗達はどうしてるかな。 この砂浜に来るといつもそんなことを考えた。 陸に来て、国のことを忘れたわけじゃない。 大切な友達や仲間達の住まう場所。 生まれ育った大切な場所は何よりも守っていきたいものの1つだ。 「かごめ。お前は確かに姫に見えないが、アクアリーナの第2王女で人魚なんだ。 人魚のいる場所は陸じゃない。桔梗も、沙夜達も、みんなお前の帰りを待っている。 帰るんだ。俺と一緒に海の世界へ・・・・。」 蒼龍はその手をかごめに伸ばす。けれど、かごめは反応しない。ただ、 差し伸べられた手をじっと見つめている。 「・・・・・・・かごめ・・・・・どうしたの?」 神無がかごめの顔を覗き込むように側に来た。 (あたしは・・・・・・・。) ――どうしてだろう。 蒼龍に手を差し伸べてもらうのは初めてではないのに、国に帰りたくない訳でもないのに・・・・・・。 『お前が歌姫だあ?・・・・・・ま、せいぜい恥かかねえよぉにな。』 『何よその言い方!いいわよ、あんたがびっくりするような歌姫になるんだから!』 (・・・・・・最後のお祭り・・・・かな。) かごめは町のある方向へ目を向ける。 何も分からない自分にいろいろなことを教えてくれた人達の住む町。 ・・・・・・ここに来れて本当によかったと思う。 だから、せめて最後に・・・・・・。 ――――思い出を作りたい。 みんなと最初で最後の祭りを・・・・・・・楽しみたいの。 「もう少し、待って欲しいの。」 「は?」 「明後日に町でお祭りがあってあたしは歌姫をやるの。だから・・・・・祭りが終わる時まで待って欲しい。」 かごめは蒼龍から目線を外し、海を見る。 とても広く深い海。潮の香りが心地良い。風がかごめの髪をなびかせる。 「蒼龍。あたしは自分が人魚で、王族だって言うことを忘れたわけじゃない。 あたしが誰にも言わずにここに来たのは陸の世界を1度でいいから見てみたいと思ったから。 そして・・・・・。」 強い風が砂浜に吹く。 それでもかごめの声はかき消されることなく蒼龍達の耳に届く。 「知らない世界を・・・・・・いろいろなものをもっと知りたいと思ったの。 あたしは王族として生まれた。王位継承者の草太や、桔梗と一緒に国を守っていかなきゃいけない。 国を守る者なら、いろいろ知っているほうがいいじゃない。」 かごめの瞳はどこまでもまっすぐに海を見ていた。 その瞳には包み込むような優しさと強い意思が秘められている。 「あたしは海が大好き。大切な仲間達が住む世界が好き。 ・・・・・・・・・必ず・・・・・・帰るわ。アクアリーナに。だから・・・・・・・待っていて?」 「だが・・・・・・・。」 かごめの言葉に蒼龍は未だ何かを言おうとするが、そこで神楽達が言う。 「まあ、いいじゃないか。かごめには姫としての自覚も充分あるし、少しくらい遅れたってさ。」 「・・・・・・・・かごめに、何かないように・・・・・鏡で見てる。かごめは・・・・・・大丈夫。」 神無は鏡を出す。神無の鏡は様々なものを見る力があるのだ。 「・・・・・・・・・・・分かった。じゃあ俺は海でお前が来るのを待ってる。必ず来いよ。」 「うん!・・・・・・・蒼龍、迷惑かけちゃってごめんね?」 「別に構わないさ。本当にお前は周りを困らせるのが好きだよな。じゃあ明後日の夜に会おう。」 ――明後日の夜。 その言葉はかごめにはとても重かった。何故そう思うのか、かごめ自身分からなかった。 「じゃあ・・・・・・明後日に・・・・・・。」 かごめの心とは裏腹に周りの景色は全く変わらず太陽は空で輝いていた。 「あ?かごめはいねえのか?」 祭りが明日に迫った日の午後に犬夜叉は広場に来たのだが、かごめの姿はそこにはない。 「犬夜叉。かごめちゃんなら今日はいないよ。」 「丁度いいところに来てくれましたね、犬夜叉。お前は何か知りませんか?」 珊瑚と弥勒の突然の問いに犬夜叉は訳が分からない。そこで、側にいた七宝が言った。 「何やらかごめが元気ないようなんじゃ。おぬしは心当たりないか?」 「元気ねえって・・・・・・・・あいつが?」 犬夜叉は最近空を見上げて何か考えていたかごめの姿を思い出す。 「・・・・・・・・・・それって何時からだ?」 「昨日、家に帰ってきた時から。かごめちゃんに聞いても、何でもないとしか言ってくれなくて・・・・。 一体どうしたのかさっぱり分からないんだ。」 珊瑚は顔を俯かせる。 かごめは記憶喪失ではあったけれど、いつも笑顔だったので戸惑っているのだ。 (・・・・・・・・昨日、何かあったのか?) 考えても、分からない。昨日会った時は何も変わった様子などなかったのに・・・・・・。 「・・・・・あそこに行ってみっか。」 「は?・・・・・・・って犬夜叉、どこに行くんじゃ!?おい!」 七宝の言葉を無視して犬夜叉は広場から離れた。 「・・・・かごめの一大事じゃと言うのになんて奴じゃっ。」 七宝は犬夜叉の消えた方を見て呟く。 そんな七宝を横目で見ながら弥勒が珊瑚に言った。 「・・・・やはりあいつはかごめさまが心配なんですな。」 「え?・・・・・どういうことだい?弥勒。」 「私が言わなくても分かるでしょう?珊瑚。」 珊瑚は何も言わず、ベンチに座り込む。ただ、何か不安げな瞳を弥勒に向けた。 「珊瑚?」 「あたし・・・・・犬夜叉が変わってきたことはすごく嬉しかった。かごめちゃんには感謝してる。 かごめちゃんが来たことであいつは変わった。でも・・・・・2人が一緒にいるのを見ると不安なんだ。」 「何故です?いいではありませんか。」 珊瑚が言いたいことがよく分からず、弥勒も珊瑚の隣に座る。 「かごめちゃんが自分の記憶を取り戻して、ここから離れてしまったらどうなるんだろうって。」 「!?」 「かごめちゃんは自分の意思でここに来たわけじゃない。ずっとここにいるかなんて分からないじゃないか。 だから・・・・・。」 顔を俯かせた珊瑚に何を言えばいいのか弥勒は迷ったが、珊瑚の肩を引き寄せて言った。 「大丈夫ですよ。」 「ちょっ、弥勒・・・・・。」 「確かにそうですが、今すぐにかごめさまがいなくなるわけでありません。 それに・・・・・・・・・・・かごめさまの記憶喪失の件については気になることもありますしな。」 「え?」 弥勒はそれ以上何も言わない。珊瑚も聞こうとはしなかった。 不安に思う心を包むように肩にある弥勒の手の温かさは心地よかった。 (ありがとう・・・・・・弥勒。) 口に出さない代わりに珊瑚は弥勒の肩に頬を寄せた。 2人はしばらくの間そのまま寄り添い合っていた・・・・・・・・。 (あいつはたぶん・・・・・・・・・あそこにいる。) 犬夜叉が行ったのは森の側の砂浜だった。かごめがよくここに来るのを犬夜叉は知っていた。 何度かかごめと一緒に来たこともあった。 そしてたどり着いた砂浜にいたのは捜していた少女1人だった。 「かごめ・・・・・・・・・・・。」 「え?犬夜叉、どうしてここに・・・・・・。」 かごめが振り向くと犬夜叉はすぐ側まで来ていた。 声をかけられるまでかごめは犬夜叉に気付かなかった。 「こんなところで何してたんだ?」 犬夜叉はかごめの隣に座り込む。 かごめは海を見ながら言葉を返す。 「ちょっと・・・・・・・考え事・・かな。」 かごめは微笑んではいたけれど、どこか寂しげな雰囲気だった。 「この間より辛気くせえ顔してるな。おめえ、昨日何かあったのか?珊瑚達が心配してたぞ。」 かごめの肩がびくっと動いた。図星だ。犬夜叉はさらに続けて言う。 「・・・・・・何が原因かは知らねえが、どうしたんだ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・。」 かごめは聞かれても答えられない。答えられるわけないのだ。 犬夜叉達には言えない、 未だ隠していることは言ってはいけないとかごめは分かっているからだ。 犬夜叉は無理に聞き出そうとはしない。 「ま、あんまり考えすぎるなよ。 おめえの頭でそんなに考えても答なんざそう簡単にはでねえだろうしな。」 「なっ・・・・・・犬夜叉。あんた他に言うことないわけ?」 (あれ・・・・・・・・・?何か・・・・・。) この間と状況が似ている気がする。と、いうことは・・・・・・・・・。 「ありがと。この間も今日もね。」 「・・・別に俺は何も言ってねえ。」 犬夜叉は少しかごめから顔を逸らした。 (ホントに素直じゃないんだから。) さっきよりも少し気分が軽くなった気がする。 犬夜叉は、本人は否定するかもしれないがやっぱりお人好しだと思う。 分かりづらいけれど優しさを彼はもっている。 けれど、明日のことや別れを告げずに犬夜叉達の町を出ることを考えると、どうしても心が完全に晴れることはない。 ――何も言わずにみんなと別れて本当にいいの? そんな疑問を抱いていたからかもしれない。犬夜叉にこんなことをかごめが言ったのは。 「・・・・・・もしあたしが人魚で、海に帰らなきゃいけないって言ったら ・・・・・・・犬夜叉はどうする?」 「!?お前何をいきなり・・・・・・。」 「いいから答えて。」 (何でそんなこと聞くんだよ?) ――かごめは一体・・・・・・何が言いてえんだ? 「・・・・・・・・・分かんねえけど、そんなこと考えたくねえのは確かだ。」 「そっか・・。」 「・・・・・・犬夜叉。『人魚姫』の物語はどうして悲恋で終わっちゃったのかな?」 「は?そりゃあそうだろ。人魚と人間だぜ? 住む世界が全く違うじゃねえか。人魚と人間なんて無理だろ。根本的に違うからな。」 「・・・・・・住む世界が違うから・・・・・。」 かごめは犬夜叉の言葉を繰り返すように呟く。 (・・・・・よく分かるわ。それは・・・・。) 全然違う陸の世界。人魚は決していられない場所。(薬を飲めば別だけど。) ・・・・・・・・・それでも、あたしは・・・・・・・・・・・。 「かごめ?」 犬夜叉はかごめの横顔を覗き込む。 (・・・・・・・・何て顔してんだよ・・・・・。) あの時以上にかごめの瞳は遠くを見ているように見えた。 どこか寂しげで、儚げでな表情。 かごめが本当に隣にいるのか、犬夜叉にそんな不安を呼ばせるくらい今のかごめは遠かった。 「おい、かご・・。」 犬夜叉の言葉を遮るようにかごめは犬夜叉を見つめて言った。 「・・・・でもね犬夜叉。・・・・・悲恋じゃない『人魚姫』の伝説もあるんだよ?」 「・・・・は?それってどんな話だ?」 「犬夜叉には教えなーい。」 「あのな。」 ――<好奇心旺盛な人魚の娘は薬を使い、人の足を得て陸に旅立つ。 陸でのさまざまな出来事の中で1人の青年に恋をする。そして・・・・・・・・・・。> 海の国の者なら誰でも1度は聞く言い伝え、伝説だ。 昔からこの伝説が、物語が好きだった。陸に憧れたきっかけにこの話も入っているかもしれない。 「犬夜叉はやっぱり・・・・・・優しいね。」 「んなっ、何言ってやがるっ//誰が・・・・・。」 「あ、照れてる。犬夜叉ってばかわいいv」 「〜〜おめえな〜〜。」 犬夜叉の反応を完全に楽しむかごめの様子に犬夜叉は怒ると同時に安堵感を覚えた。 もう先程のかごめの表情はどこにもなかったからだ。 (今だけはこうしていてもいいよね?) 答など返っては来ないけど、別れの時は近いと分かっているけれど今はもう少しこのままで・・・・・・・。 かごめは犬夜叉の肩にもたれかかる。 「!?おい、かごめ?」 「犬夜叉は・・・・・・・あったかいね。」 犬夜叉の、彼の側は居心地がいい。よく分からないけど、温かくて、鼓動が少し早くなる。 桔梗達や珊瑚達とは違う感じがする・・・・・・・・・。 (何なのかな。この気持ち・・・・。) 明日で別れだと思うと・・・・・・胸が痛い。 最初から分かっていたはずなのに・・・・・どうして? 胸の痛みがいつまでも消えないよ・・・・・・・・。 いくら考えても分からない。 でも、こうしてると・・・・・・・・。 「なんかこうしてると安心す・・・・・・・・・・。」 かごめは目を閉じて、何も言わなくなった。 「か、かごめ?って・・・・・。」 (・・・・・・・・・・こいつ、寝てやがる。) 可愛らしい寝息を立てて、かごめは眠っていた。 「ったく、仕方ねえな。」 ――本当に不思議な少女だ。 こんな穏やかな気分になったのは何年ぶりだろう? 半魔である自分に平気で話しかけてきて、喜怒哀楽が激しくて、笑顔が・・・・・・まぶしい。 隣にあるぬくもりがこの上なく大切で・・・・・ずっと側にあってほしいと思う。 (俺もすっかり・・・・・・・・腑抜けになっちまったな。) そう犬夜叉は思ったが、嫌な気分ではない。 こうも、気持ちよさそうに眠られたら、調子狂うぜ。こいつは・・・・・・・・。 側で眠るかごめは、ただ無防備に犬夜叉の肩に頭を乗せて眠っている。 「家まで・・・・・・連れてってやるか。」 眠っているかごめを起こさぬように犬夜叉はそっと抱えて町に歩き出す。 眠るかごめを見る犬夜叉の目はどこまでも優しいものだった。 あとがき 第4話はかなりお気に入りですv 2話もお気に入りですけど、こちらも好きです。 とうとう出てきました!神楽と神無!この2人、始めに考えていた時は出す予定は全くなかったのですが、 サンデーを立ち読みしているうちに神楽が好きになり、この間とても衝撃を受けたので登場させることに。 第3話でできなかった犬かごをいれました。念願の犬かご!第3話ではできなかった分嬉しさ倍増です。 それにミロサンも今回少しだけどいれてみました♪いかがでしたでしょう? あっ、ここで早速謝らなければいけないことがあります(涙)。 3話でかごめが弥勒を『弥勒君』と呼んでいる部分がありますが、 本当は『弥勒さま』です。始めに小説を書いていた時、 弥勒とかごめは互いに<さん>、<君>付けで呼ばせていたのですが私はそれにあまりにも 違和感があったので原作と同じにしたのです。 人魚姫、どの話も長くなっていますが、一応短縮するように努力しているんですよ。 何故長くなってしまうのでしょうね〜。文才がない私の小説ですが、心優しい人達はぜひ最後までお付き合いしてください♪