人魚姫 第5話     海に還る最後の祭り





この町の祭りでは昼間に旅芸人達の芸があり、とても大きな市が開かれる。

昼にかごめは犬夜叉達と一緒に市をまわったり、旅芸人の芸を見て楽しんだ。



――1日はあっという間に過ぎてしまった。

(・・・・・・・・・・・できれば、もっと長い1日であって欲しかったな・・・・。)

今日が陸で犬夜叉や珊瑚ちゃん達と一緒にいられる最後の日なのに・・・・・・・・・・。


「かごめちゃん、大丈夫?」
「え?」
かごめの着替えを手伝っていた珊瑚の母が心配そうにかごめを見ている。
「あ、大丈夫です。」
「そう?じゃあ、もう行きましょう。犬夜叉君や弥勒君、きっと驚くわ。」
かごめと珊瑚の母は部屋を出て外に行った。










「珊瑚・・・・・・・。」
「な、何さ。」
この祭りの歌姫や舞姫達の舞台の裏に犬夜叉達がいた。
珊瑚や他の舞姫達は普段とは違う綺麗な衣装をその身にまとっていた。

「・・・・去年も美しかったが・・・・・今年もまた綺麗ですよ。」
「な、何言ってるのさ//いつも女の子をそうやって口説いてるわけ?」
「失礼ですなー。私の本心ですよ。」
「けっ。どうせ、いつも言ってんじゃねえのか?」
その時、七宝が何処からか来て問いかけた。

「かごめはおらんのか?」
「ああ、かごめなら珊瑚達みてえに着替えに行ったぜ。にしても、たかだか着替えにいつまでかかって・・・・・。」
「悪かったわね。女の子はいろいろと大変なのよ!」
いつの間にか犬夜叉達の側に来ていたかごめは犬夜叉の言葉を遮るように言った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

犬夜叉達の間で一瞬、時間が止まった。

「みんな、どうしたの?」
かごめは歌姫の衣装に着替えていた。
歌姫の衣装に髪飾りや耳飾りなどの装飾品が輝いていて、かごめはとても綺麗だった。

かごめは犬夜叉達が固まっているので、不思議に思うがそこで珊瑚の母が言う。
「あなたがあんまり綺麗に変身したから、みんな驚いてるのよ♪」
「かごめちゃん・・・・・・・・・すっごく綺麗!似合ってるよ!」
「おら、びっくりしたぞ!」
珊瑚と七宝の言葉にかごめは照れながらも言った。
「え?そ、そうかな。2人ともありがとvあたし頑張るね!」

「本当によくお似合いですよ、かごめさま!犬夜叉、お前も何か言ったらどうです?女子がこんなに美しく着飾っているんですよ?」
「あ・・・・・・・・・ま、まあいいんじゃねえか?」
顔をそらし、言う犬夜叉にかごめは首を傾げる。
「?どうしたのよ、犬夜叉。あんた何か変じゃない?」 
「何でもねえよ!いちいち気にすんなっ。」
かごめは気付かなかったが、弥勒達は気付いていた。

「・・・・・・・かごめさまも鈍いお方ですな。」
「そうだね。あいつ単純だから、見ればすぐ分かってもよさそうなのにね。」
珊瑚と弥勒は互いに笑っている。犬夜叉の顔は少し赤かった。
「さ、かごめちゃん、珊瑚。もう時間よ。頑張りなさいね。」
「「はい!」」










歌姫の歌や舞姫達の舞が始まる。
辺りにかごめの・・・・・・歌姫の歌声が響き始め、舞姫達が美しい舞を舞う。

歌いながら、かごめは今までの日々を振り返る。

(ここに来てから、いろいろなことがあった・・・・。)


みんなといろんな話をしたり、広場で子供達に歌を歌ったり・・・・・たくさんあった。

慣れない陸の生活だったけど、珊瑚ちゃんもみんなも優しくて・・・・・今ここにいるんだよね。


――もうここにはいられないけど、ここに来て・・・・・・・・本当に、本当に・・・・・よかった。







犬夜叉は舞台の中心で歌うかごめを見ていた。


――今日のかごめの歌はいつもと違う気がする。

自分の思い違いとも思ったが、犬夜叉にはかごめの歌がどこか寂しげに聞こえた。
「犬夜叉。お前はかごめさまをどう思っているのです?」
「どうっていきなり何言い出してんだよ。」
突然問いかけてきた弥勒の目はあまりに真剣だったので、犬夜叉は戸惑う。

「かごめさまはよく分かりませんが何か・・・隠しているように思うのです。それが何かまでは分かりませんが、どちらにしてもかごめさまはいつここを離れるか分かりません。記憶が戻れば、元の場所に帰ってしまわれるかもしれない。」

「・・・・あいつが何か隠してるって・・・・どういうことだよ。」
「それは私の推測に過ぎません。とにかくかごめさまに言うことがあるなら、早く言った方がいいと思いますよ。」

犬夜叉はその後何も言わなかったが、拳を強く握りながらかごめの姿を見ていた。









歌姫と舞姫達の舞台が終わりを告げた。たくさんの人達の歓声が辺りで響く。
かごめと珊瑚は舞台から下りてすぐに犬夜叉達の側に駆け寄ってきた。
「やっぱり、2回目とはいえ舞台に立つのは緊張したよ。」
「でも、うまくできてよかったねっ。珊瑚ちゃん。」
かごめは衣装を着替えずにそのまま着ている。

音楽が響き始め、人々が踊りだしていく。祭りの最後のイベントだ。


このまま穏やかに祭りが終わると誰もが思っていた。けれど、祭りの最中に1つの知らせが犬夜叉達に舞い降りることになる。
「お頭、大変です!」
他の大人達と話していた珊瑚の父親に討伐隊のメンバーの1人が駆け寄る。その様子を犬夜叉達も見ていた。
「・・・・・・・・・何なんだ?」
「どうしたのかな?」
犬夜叉達は気になったので、お頭の側に行く。

珊瑚の父に駆け寄った男は、周りの者達に気付かれぬように小さな声で討伐隊の仕事の始まりを告げた。


「それが・・・・・海に大きな魔物が2匹確認されました。徐々に港に・・・町に接近しているとっ。」
「!?」

「こんな日に出るなんて・・・・・あたし達は運がないみたいだね。」
犬夜叉達は顔を見合わせて頷く。
「よし、じゃあさっさと片付けてくるか。」
「ですな。」
「せっかくの祭りの邪魔はさせないよ。」
犬夜叉、弥勒、珊瑚は手荷物をしまい、珊瑚は髪を高く結い上げる。
「みんな!でも海って・・・・・。」
もうすぐ日が傾いてくる。それに海となれば、魔物を倒すのはかなり危険が伴う。
「魔物なんざ一発でしとめてやるさ。」

「・・うん。・・・・・・・・・みんな、気をつけて・・・・・・。」
かごめは引きとめたかったが、頷いた。
本音を言えばついて行きたいのだが邪魔になるかもしれないのでそれはできない。
「ああ・・・・じゃあ、行くぜ!」
犬夜叉達は港へと走り出した。







かごめは犬夜叉達が去った方向を見つめる。

――こんな祭りの日に魔物が出るなんて・・・・・・・。

「っ・・・・・・どうして・・・?」
胸がざわめく。どうしようもなく心が落ち着かない。

何故こんなに・・・・・・・。
「・・・・・・・・不安になるの?」

(犬夜叉達は強いから大丈夫だと思えるのに・・・・。)


・・・・・・・・・・・海?


『じゃあ俺は海でお前が来るのを待っている。必ず来いよ。』


(・・・・・・・・・・2匹の魔物って・・・・・・まさか・・・・・!)

「・・・・・・・・・・・蒼龍・・・・・・?」
血の気が引いていくのが自分でも分かった。かごめの手が震え出す。
(違う・・・・・よね?)

「かごめ、どうしたんじゃ?顔色が悪いぞ。」
「七宝ちゃん・・・・。」
かごめの様子がおかしいのに気付いたのか、向こうにいた七宝が駆け寄って来る。
かごめは少し自分を落ち着かせようと手を握り締めるが、その時聞こえた他の討伐隊のメンバーの言葉は、かごめにとって残酷なものだった。

「お頭が俺らはここに待機してろってさ。しかし、海にいた魔物は大きな蜘蛛に青い龍。港に来る前に倒せるかどうか・・・・・。」
「お前、不吉なこと言うなよ。お頭達なら大丈夫さ。」

――青い龍・・・・・・・・・・・・。

「かごめ?」
七宝が不思議そうにかごめを見上げる。しかしこの時のかごめには七宝の言葉は聞こえてはいなかった。
「っ・・・・・・・蒼龍!」
かごめは港の方へと走り出した。
「か、かごめ!どこに行くんじゃ、かごめー!」
走り出したかごめを七宝が追いかける。
「港に行っては駄目じゃ、かごめ!」
七宝が後ろについて来ているのはかごめにも分かったが、今のかごめには七宝を気にかける余裕はなかった。


(・・・・・・・っ・・・・お願い・・・・・・・どうか間に合って!)

ただひたすらにかごめは港へと・・・・・走った。










「あれか・・・・・・・・・・。」
珊瑚の父は海にいる魔物2匹を見据える。1匹は大きな蜘蛛だ。
糸のようなものを時折だしては青い龍を攻撃している。

珊瑚達はみなそれぞれの武器をだしている。だがここからでは魔物達に攻撃することはできなかった。

「けっ。この鉄砕牙の風の傷でさっさと片付けてやるぜ!」
犬夜叉は剣を構える。魔物達はこちらに気付いていない。

鉄砕牙の『風の傷』の射程距離まであと少しだ。
「犬夜叉。決して船を破壊するなよ。もう一隻やられたからな。」
お頭はため息をつく。実は犬夜叉達がここに来た時には船一隻がすでに破壊されていた。おそらく龍が蜘蛛に放った攻撃が当たってしまったのだろう。
「分かってらぁ!」

射程距離まで・・・・・・・・・・・・あと少し。










――港が見えてきた。
 
かごめの視界の中に海の上で魔物と戦う蒼龍の姿が映った。
(よかった。間に合っ・・・・・・・・!?)

「犬夜叉!」
弥勒の合図に犬夜叉は鉄砕牙を振り下ろす。
「おうっ。行くぜ、風の傷!」

「っ駄目!逃げて蒼龍ーー!」
かごめは声が戦っている蒼龍に届かないかもしれないと思いながらも、必死に叫んだ。


「!?」
蒼龍の視界にかごめの姿が見えたかと思うと犬夜叉の風の傷がすぐ側まできていた。
(なっ・・・・・・しまった!)


ザッパーーーン!
水しぶきが上がる。犬夜叉の風の傷をまともに受けた蜘蛛の魔物は断末魔と共に沈んでいく。

そこに龍の姿は・・・・・・・・・・・もう何処にもなかった。

「・・・・蒼龍?・・・っ・・・・・蒼龍ーーーーーーー!!」


『本当にお前は周りを困らせるのが好きだよな。』


かごめの悲痛なその声は静かに揺れる海に響いた。



Next
 〜続く〜




 あとがき

・・・・・苦労しました。第3話以上のスランプでした。第6話と一緒に平行して書き直しを何度も・・・・何度もっ、やりました・・・・。本当は第5話と第6話の話は2つに分けるつもりはなかったのですが・・・・・短縮するのにめちゃくちゃ苦労しました。はあ〜。始めはあったのですが、話数の都合でできなかった昼のエピソード・・(涙)。ちゃんと書きたかったな〜〜。

第5話いきなり急展開になってしまいましたが、これが私の精一杯です。第5話、私としてはいまいちになってしまいましたが、次もぜひ見てください。