人魚姫 第2話    孤独を包むぬくもり
  
人魚姫 第2話    孤独を包むぬくもり    作:露乃
『王族としても人魚としても大切なのは知ろうとすることや他者を思いやる心だ。 お前も桔梗も姫さんなんだから忘れるなよ。』 そんな蒼龍の言葉が忘れられない。 1番大切なことほど見逃しやすい。 そんな現実はどちらの世界でも変わらない。 あたしはめぐまれた場所に生まれているから、 他の者達からは綺麗ごとだと思われるかもしれないけど・・・・・ あたしは信じていたい。 希望が、光がないと思う者達もただ気付いていないだけで、 大切なものはすぐ側にあるんじゃないかなって。 たとえ、それが消えてしまっても本当になくても、いつか光は見えるものだと・・・・・・・・・。 そしてそれを見つけるのはその人の選ぶ道次第で、どんな場所でも、優しさは存在していると。 もし、それに気付かなくて独りきりでいても いつか誰かの優しさに触れれば、癒されるものだと・・・・・。 「それじゃあ、行ってくるね。かごめちゃん、琥珀。」 家の前でかごめ達に言う珊瑚はいつもより身軽な服装をしていた。 そしてその隣には珊瑚の父の姿もある。 「家のことは頼んだぞ。」 かごめと琥珀の後ろにいる珊瑚と琥珀の母は微笑みながら頷く。 「ええ。あなたも、珊瑚も気をつけて。」 珊瑚と父は少し向こうの町から魔物退治の依頼を受けた。 今回は2人が行くことになったのだ。 「雲母もいるし、心配ないよ母上。何かあったら伝書鳩で知らせてね。」 「じゃあ、父上、姉上。怪我せず帰って来て下さい。」 「それは琥珀、あなたじゃない?一昨日森近くで毒蛇にかまれたじゃない。 私はむしろあなたが心配よ。」 「は、母上っ!」 くすっとかごめは思わず笑ったが、本当に大変だったのだ。 そこまで猛毒ではなかったからよかったが、あの時はとても大騒ぎになった。 「行ってらっしゃい!珊瑚ちゃん、お頭!」 珊瑚達は依頼された町へと旅立って行った。 (よし!がんばらなきゃ!) 今日も少しでも世話になってる分、 手伝いをしようとするかごめの姿は微笑ましく、 珊瑚の母は微笑み、琥珀、かごめと共に家の中に戻った。 あれからもう4日ほど経っていたが、犬夜叉にかごめが会う機会はなかった。 確かに口が悪く腹が立つとは思ったのだが、 あんなことを聞いた後では少々気にかかる。 「かごめちゃん、手が止まってるわよ。手伝いましょうか?」 「え?あ、だいじょうぶです。やらせて下さい。」 かごめは四苦八苦しながら、ただいまお菓子作りに挑戦中。 「ダメよ。もう少ししっかりとかき混ぜなきゃ。 珊瑚達を驚かせたいんでしょ?」 珊瑚達が行ってから2日経っている。2人は今日帰ってくるのだ。 「〜はい。」 珊瑚の母の指導を受けながら必死に作っていく。 (あたしにはやっぱり無理かも・・・・・・。) そんな思いを抱いたりはしたが、何とかお菓子は完成した。 「ど、どうですか?」 クッキーというお菓子は焼けたものの、 形が少々ぼろぼろでかごめはかなり自信がない。 珊瑚の母はそれを口にいれ、食べている。 「・・・・・・・・かごめちゃん、大丈夫! 形はあれだけど、味は私が保証するわ!」 「おいしいですよ。かごめさん。」 「ホ、ホントですか!?よかった〜。」 いつの間にか琥珀もおいしそうに食べていてくれる。 かごめもクッキーというものを食べた。 かごめは初めてこお菓子を食べたのだが、結構おいしい。 「これなら、珊瑚達もきっと喜ぶわ。」 「はい!」 「でも・・・・・・ちょっと作りすぎたかもね。」 「あ・・・・・・・・。」 実は珊瑚の母も久しぶりなのでと言って自分で も別の種類のクッキーを作ったのだが、 2人の作ったクッキーは合わせると少々量が多かった。 「弥勒さんに持ってたらどうですか?母上。」 「そうね。後はあの子、七宝君に持っていきましょうか。」 2人の会話を聞いていたかごめはふと犬夜叉を思い出した。 最初に自分を見つけてくれたのは犬夜叉であったが、 会ってからわりとすぐにケンカもしてしまい、 よく考えればお礼も言ってない。 「あの・・・犬夜叉にも持って行っていいですか?」 珊瑚の母は思わぬかごめの言葉に目を丸くする。 「え?構わないけど、犬夜叉君の家への道は分かるの?」 「たぶん、大丈夫です。行ってきます!」 かごめは笑顔を見せて、家から出て行った。 扉を開けて珊瑚の母は少し心配そうに言う。 「ホントに大丈夫かしら。 あそこはあの子には少し距離があるのに・・・・・・・・・。」 「大丈夫だよ母上。かごめさんなら夕暮れまでには戻るだろうから。」 琥珀の言葉で珊瑚の母は扉を閉めた。 「え〜っとこっちだったよね。確か。」 森の中をかごめが歩いている。 1人で森を歩くなど初めてなので少々不安を感じていた。 でも、それだけではなく・・・・・。 (何だろう・・・・・。近くに何かいる?) ――海でも感じたことがある。 これは・・・・・・・・・・・。 バキバキッ。ガシャ―ン! 木の倒れる音。 「何!?今のは・・・・・・。」 (犬夜叉の家の方向?) ダッとかごめは走り出そうとしたが、木の根にひっかかり、転ぶ。 「った〜〜いたた・・・・いきなり走れないんだっけ。」 かごめは足に不便を感じながらも再び駆け出した。 「この野郎ぉ!」 かごめが駆け出して行きついた先にいたのは一匹の魔物と犬夜叉だった。 他にも死骸らしき残骸がある。 どうやら犬夜叉は深手を負っているらしく、上着は血で濡れていた。 か ごめはとっさに指輪の石から弓と矢を取り出す。 この石には様々な物を入れることができるのだ。 陸でもこれは使われている。 「犬夜叉!」 「なっ・・・・・・バカ!何でここに・・・。」 かごめの姿に犬夜叉は気付き、声を上げる。 魔物もかごめの姿に気付き、かごめに爪を向けてきた。 「かごめ!!」 「当たって!」 かごめの矢は魔物の足を貫いた。魔物の足は吹き飛び、魔物は悲鳴をあげる。 「ぎゃああああああ!」 「な・・・・・・。」 かごめが持つのは弓矢。あんな矢1つでこんな・・・・。 「これで終わりだ!」 犬夜叉の鉄砕牙が魔物を切り裂き、魔物はその姿を灰にして消えた。 「・・・・・う〜ん、少し外しちゃった。」 海とは違う場所だからだろうか。 かごめは海の時と比べて矢を少し外してしまった。 この時犬夜叉はかなり驚いていた。 (こいつ・・・・・・・・・・・。) ただの矢一本で魔物の足が吹き飛ぶなんてことはありえない。 ならば、かごめは・・・・・・・・・・。 「・・・・お前、巫女だったのか・・・・・。」 「え?巫女って・・・・・・犬夜叉!あんたひどい怪我じゃない!」 「そんな大したモンじゃねえ。俺に構うな。 早く帰らねえと日が暮れるぞ。とっととお前は帰れ!」 「なっ、何よそれ!そんな怪我してるあんたをほっとけるわけ・・・。」 かごめの気遣いを無視して、歩き始める犬夜叉に言った言葉は途中で止まった。 犬夜叉が振り向いた時の瞳があまりにも冷たかった。 「さっさと帰れ!」 ――どうしようもなくそれが悲しかった。 「犬夜叉の・・・・・バカ!」 かごめは犬夜叉に背を向け、走り出した。 ――信じらんない! せっかく人が・・・・・・人じゃないけど、心配してるのにっ。 かごめは帰ろうと歩いていたのだが、振り返る。 (・・・・・・・・・・・やっぱり気になる。) というか、気にならないほうがおかしい。 ・・・・・・怪我は大丈夫なんだろうか。 かごめは少し考えこんだ後、空を見た。 今から行くと夕暮れまでには帰ることはできない。 けれど・・・・・・・・・・。 (ひどい怪我してたよね。) 赤い血で犬夜叉の服は汚れていた。 かごめは今来た道を戻る。珊瑚の母達は心配するかもしれないが、 今のかごめには犬夜叉をほっとくことはできなかった。 「っくそ。」 (あの魔物・・・・・やっかいなのをっ。) 犬夜叉はベッドに座っている。 体が熱い。間違いなく毒だ。 おそらくあの魔物の爪にでも塗り込まれていたのだろう。 あんな雑魚に毒をやられるとは自分も落ちたものだ。 (そういや、あいつはもう家に行ったんだろうな。) 先程来た記憶喪失の娘。あの少女を見つけた時は本当に驚いたものだ。 (あんな奴、関係ねえ。) そう、関係ない。けれど、何故か1度聞いたあの歌を今でも覚えている。 歌を歌っている時の眼差しが少し、母に似ていた。 「!?・・・・・この匂い・・・。」 鼻がだんだん利かなくなっているのに届くこの匂い。かなり近くからだ。 どんどん近付いてくるこの匂いは・・・・・・・・。 「犬夜叉!」 かごめは扉を開けてきた。息が少し荒い上、足が少し痛かった。 何度も転んだせいだ。 「なっ・・・・・・・・・お前、何でここに・・・帰れって言っただろうが!」 「嫌よっ。帰らない!ほっとけないわよっ。 あんたみたいな意地っ張りはほっとくと危ないんだから!」 「そういう問題じゃねえ!今日は・・・・・・・・。」 犬夜叉は窓に目を移す。日が傾いて夜になっていく。 そしてかごめもそれに気付き、不思議に思い犬夜叉に問い掛けようとした。 「?犬夜・・・・・・え!?」 犬夜叉の白銀の髪が黒になっていく。 そしてその瞳の色も黒になるのをかごめは、はっきりと見た。 「い、ぬ・・・・・夜叉?」 「ったく、だから帰れって・・・・・。弥勒達だって知らねえんだぞ。」 「え?それって・・・・・・・。」 かごめは犬夜叉の突然の変化に驚きを隠せない。 「俺みてえな半魔は月に1度その魔力を失って・・・・・・人間になる。そ れが今日。月の出ない朔の夜だ。」 「!?」 (そうだったんだ・・・・・。だからさっきあんなに・・・・。) かごめは窓の外を見る。 その空に月の姿はなく、輝いているのは星だけだ。 「とにかくもう帰れ。このことは誰にも言うな・・・よ。」 「犬夜叉、あんたすごい汗・・・・・。まさか毒にやられたの?」 犬夜叉は何も言わない。答えは肯だ。 「ちょ、ちょっとすごい熱じゃない! 早く横になって休まなきゃダメじゃないの!。」 「こんなのっ・・・・何ともねえから、お前、はとっとと・・・。」 プッツン。 何かが・・・・・・切れた。 「っこのバカ!」 「は?」 一瞬何を言われたか分からず唖然とした犬夜叉を無視し、かごめは続ける。 「バッカじゃないの!どこが大丈夫なのよ! こんなに熱があるじゃないっ。どうして何でも、1人で背負うのよっ。 ・・・・・・・何で、そんなに心を閉ざすのよ!?」 犬夜叉に目線を合わせるため、かごめは床に両膝を付けた 。犬夜叉は目を見開いた。 かごめの瞳には・・・涙が溜まっていた。 涙がどうして出たかはかごめ自身よく分からない。けれど、悲しかった。 何故かとても痛かった。 かごめは犬夜叉の右手を取り、握り締めた。 「・・・・・・あんたはどうして、信じられないの? 過去に何があったとしても、珊瑚ちゃんや弥勒君・・・・・・・ それに七宝ちゃんもあんたのことを友達だって、仲間だって思ってる。 ちゃんと信じられる人達じゃないっ。」 「うるせえ!お前に何が分かるって言うんだ!」 「分かんないわよ!あたしはこっちに来たばかりだし、 あんたとも知り合ったばかりだもの! でも、1つだけ分かるのはっ・・・・・ あんたが大バカだってことよっ!・・・・・・ もう少し目を開いて、周りを見てみなさいよ。 珊瑚ちゃん達はあんたのことを心配してる。 みんながどういう人達なのか、あんたはよく知っている筈でしょ? ・・・・・・あんたは独りじゃないじゃないっ。」 「!?」 かごめはただ犬夜叉の漆黒の瞳を見つめた。 「・・・・・あんたは独りじゃない。いつかそれを実感する時が来るわ。 ・・・・ううん。あんたはもう気付いている筈よ。 珊瑚ちゃん達は絶対あんたを半魔とかそ ういう理由で拒んだりしない。 あんた自身をみんなちゃんと受け入れてる。受け入れてるから、 あんたに話しかけたりするんじゃないっ。」 かごめの言葉に反論もできず、黙り込んでいる。 かごめの言葉は確かに犬夜叉の心に響いていた。 そんな犬夜叉にかごめは自分の思いをそのままぶつける。 「みんな・・・・犬夜叉のことを半魔とかそういう意味じゃなくて ・・・・・犬夜叉だって見てる。 半魔っていう存在でも、あんたがあんたであることは変わらない。 誰がなんて言ったてあんたの代わりはどこにもいないのよ。 だから・・・・・もう少し自分の心配しなさいよっ・・・・・。」 (どんな人でも、代わりなんていない。) 本当に独りなら、心配する人なんていないのだ。 「・・・・・・・魔物なら、大丈夫だから・・・・今は、ゆっくり眠って?」 かごめはハンカチを取り出し、犬夜叉の汗をぬぐった。 犬夜叉は何も言わず、ベッドに横になった。 かごめは犬夜叉の額に側にあった水で濡らしたタオルを置いた。 この間の琥珀の看病がこんな形で役立つとは思わなかった。 その時犬夜叉はかごめに手を伸ばし、その涙をぬぐってかごめの頬に触れた。 「え・・・犬、夜叉?」 少し触れられた頬が熱かった。 見たこともない犬夜叉の様子にかごめは胸の奥がざわめいている気がした。 「お前・・・・・変な奴だな。」 この少女に初めて会って凝視された時、またか、と思った。 魔物のように恐がられるか、 嫌悪される。 そんなことには慣れてはいたが、嫌な気分がするのに変わりはない。 けれど、この少女はそんな顔もせずに不思議そうに見てくるだけだった。 記憶喪失だからとも思ったが、 説明をした後も少女は態度を変えず、普通に接してきた。 ――本当に・・・・・・・変な女だ。 「犬夜叉?」 犬夜叉の手が離れて、かごめが犬夜叉の顔を覗き込むと犬夜叉は眠っていた。 かごめはそれを見て、犬夜叉のベッドの側に椅子を運んで腰掛けた。 (・・・・・・珊瑚ちゃん達、心配してるかな。) かごめは手紙を書くと窓辺にいる伝書鳩の足にくくりつけて飛ばした。 何か連絡をしとかないとまずいと思ったからだ。 こんな暗闇の中、帰るのは危ないし、犬夜叉をかごめはほっとけなかった。 かごめは椅子に座り、犬夜叉の顔を見つめて言った。 「おやすみなさい、犬夜叉。」 かごめはあたたかな眼差しを窓に移した。 空に月はない。けれど月の光がない分、星々は闇を照らし、 この地上の全てに光を与えていた・・・・・・。  
〜続く〜
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 あとがき
なんか始めに予定していたのよりも遥かに遅い展開でした。 『人魚姫』かなり長編になりそうです。 書いててなんか楽しかったというか、 この第2話は個人的にかなり気に入っています。 かごめは優しく、それでいて強いイメージが私にはあります。 犬夜叉キャラの中でかごめが1番好きなんです! かごめにはいろいろ言ってもらいました。 では次回もぜひ見てください。