「満月ですね」
「そーだな」
「・・・がおー」
「狼人間？」
「狼男。 に、竜くんがならないかなーって」
「あほ。」

「え？」
「駄目ですか？」
「いーけど」
竜くんが私にヘルメットを渡す。
先に跨って、
「乗れよ」
「はい」
「落ちるからしっかり掴まれ」
グイッと私の手を自分の腰に引いた。

このスピードで、この振動で。

走るのは 世界でふたりだけ。

「形あるものは、いつか壊れる」
「『 諸行無常の響きあり 』？」
「そう、それだ」
「形のないものは？」
「さあな〜。 形が無いのは、元々無いようなものじゃねぇ？」
「気持ちとか、心とか」
「脳の信号だろ」
「地球も宇宙も」
「そ、いずれ無くなる」

　　わかっている。

　　知っている。　　け　ど 。

「竜くん、重くない？」
「重かねぇけど。 猫なんか適当に食わせればいーじゃん」
キャットフード３キロで、この値段。
ちっ、贅沢な。

「…竜くんって、薔薇みたい」
「ぶっ！！ …な、何の冗談だ？」
「トゲトゲ」
「あ〜ん？」
「綺麗」
「美的感覚 おかしいぞ」
「私は？」
「あー…たんぽぽ？」
「え…///」
「それくらいしか花の名前 知らん」
「なーんだ…」
「すげー根っこが深くって、どこにでも生える」
「…どーゆー意味ですか？」
「わはは」

「絶対 開けるなって、もらったんだろ？」
「はい」
「開けられないなら意味ないじゃん」
「まあ…確かに」
「つまりは、場所だけ取る『ゴミ』。　 いらねぇって返すよな」

「初恋の思い出で、終わらせておけば良かったのに」
そう、貴方は嘲笑った。

思い出より、ずっと。

ずっと。

鮮やかに。

「ただいま。 あー疲れた」
「お帰りなさい！」
「・・・？ なんだよ、ニヤニヤして」
「なにも。 ・・・おかえりなさい」
「？　ただいま」