LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - autumn wind -
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と、は、いうものの。
「あー? まだ起きてんの? 早く便所に行って寝たら?」
これが好きな女の子に対する発言?
「なんでトイレなんですか!」
「え、寝る前には行くだろ?」
平然と言う竜くん。
「女の子に『便所』なんて言わないで下さい」
「あ? 人間はみんな出すもん出すだろ」
そういう問題じゃないの!もう!!
「竜くんにはデリカシーがないんですか?」
「え?あると思ってたの?」
むしろ驚き? みたいな顔して!
・・・恋愛に慣れていない、とか、そういう次元の話じゃない気がしてきた・・・
「んもう・・」
「お、なんかクッキーあった」
私の呆れ顔には頓着せず、竜くんはお菓子の棚を漁る。
小腹がすいた、と口に頬張った。
「食べる?」
「要りません」
竜くんがひょいと差し出したアーモンドクッキーを断る。
最近どうも身長が伸びなくなっていて、食べた分は横に伸びてしまっている気がする。
こんな時間に食べたら、ますます横にいってしまいそう。
しかも胸は大きくならないのに・・・
がっくり。
「さて、もう少しやるかー!」
気合を入れるように竜くんが立ち上がった。
松葉杖の使い方もすっかり慣れたようだ。
「まだ勉強するんですか?」
「まあ、あと少し頭に押し込んでから寝るかな」
押し込むって・・・
竜くんは筋肉で脳を回転させているって由希先輩が言っていたけど、確かに・・・
脳トレというか、脳筋トレーニングって感じ。
「無理しないで下さいね」
「いやー、受験生だからなー、夏も終わったし、今無理しないで いつするんだって話だからな」
わはははと笑う。
竜くんって勉強が好きそうには見えないけど、なんでそんなに勉強するんだろう?
「どこか行きたいところがあるんですか?」
ずっと疑問だったことを聞いてみる。
「いや、別にないけど」
あっさりと竜くんが答えた。
「そうなんですか?」
「将来の夢とか、別になりたいものがあるわけでもないしなあー」
「じゃあ何で・・・」
聞きかけて、止める。
・・・あれ?
何か違和感が・・・
おかしな感覚を覚えて竜くんを見るが、そんな私の様子には気づかず、竜くんが話し続ける。
「なんでって・・・決まってないから、逆に、他にできることないから、だな」
うーん、と言いながらも私の疑問に答えた。
「なにかしたくなったときに、勉強不足だったり学歴がないと進めない道もあるだろ?
とりあえずソコを押さえておけば、何かやりたくなったときに役に立つっていうか無駄にはならないかなーと」
竜くんが真剣な顔をして言う。
「って、まぁ、昔、マスターに言われたことなんだけど」
完全に受け売り、と笑った。
「もしかして今の高校もそれで?」
「そう、ここら辺でトップだからな。中学途中から猛勉強した。大変だったなー」
やれやれと首をふる。
「で、伊集院は? 何かやりたいことないの?」
「え?!」
聞かれてビックリする。
「なんだよ、お前だって俺と一学年しか違わないんだから、そろそろ進路の話が出るだろー」
私の驚き具合に呆れたように竜くんが言う。
「え、ええ、そうなんですけど・・・」
あれ?
何かおかしい??
「えっと、いろいろ、考えていることもあるんですけど・・・」
違和感を感じながら、しどろもどろになって答える。
「色々って」
それを聞いてんのに、と竜くんが笑った。
「まぁ、伊集院のことだから、けっこう壮大なこと色々思ってそうだな」
私の頭をポンポンと軽く撫でて、顔を覗き込む。
その目が・・・
「っっ!!!」
「〜〜〜〜〜〜!!!」
「おわっ!なんだよ伊集院!」
竜くんの顔にお菓子の缶を押し付けて、私から引き剥がす。
顔が燃えるように熱い。
「もう寝ます!!」
叫んで、逃げるように部屋を出た。
「なんなんだー?」
と竜くんがぼやくのが後ろで聞こえた。
なにって。
何って、だって。
だって竜くんが。
竜くんが、そんな優しい目で私を見るなんて。
え? いつから?
いつから竜くん?
そんなに優しい顔で。
そんなに優しい声で。
そんなに優しい目で?
全然、気がついていなかった。
知らなかった。
混乱する。