LOVELY、LOVELY、HAPPY ! - autumn wind -
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"伊集院は?"
これまで竜くんが私のことを訊いてくるなんて、なかった。
竜くんは私に興味がなかったから。
"やりたいことがないから、だな"
こんなふうに私の質問に真剣に答えてくれることもなかった。
『 関係ないだろ 』
いつもその一言で終わりで。
いつからだろう。
竜くんの真っ直ぐな目が、冷たい光を見せなくなったのは。
いつから?
やわらかな表情。やさしい目。
「あーーー、わからん」
竜くんが登校中の車の中でいつものように問題集と格闘している。
「これがアレで・・・なんでこうなるんだ」
唸っている。
「俺にはこんな根暗男の感性は分からん」
さっぱりだ、と現代小説の問題を見ながら不満そうにしているのは、いつもの竜くんの横顔。
「『このときどう思ったか20字で書け』・・・"根暗で根性のない男の思考に興味はない。"・・・と書きたい」
「問題に喧嘩を売ってどうするんですか」
「『ソイツの考えていることなんてどうでもいいです。』」
国語という教科そのものを敵に回したいらしい。
「もう・・・」
私が呆れた声を出すと竜くんは、
「いや絶対、伊集院もそう思うって」
と言って問題集を見せてきた。
「ほら、これ読んでみろって」
「・・・まぁ、確かに」
「な?な?」
そう思うだろ?と竜くんが嬉しそうに私の顔を見る。
「やっぱりなー」
全開の笑顔。
「・・・・・!!!」
カーーッと頬に血が上るのが分かった。
顔を背けて、頬の赤さを自分の読んでいた本で隠す。
「りゅっ、竜くんの考えも私の考えもっ、問題は求めてないんですよ?」
声まで上手く出せない。
「主人公がどう思ったか、だけの質問で・・・」
竜くんの顔が見られない。
いつも、いつもこんなに近くに座っていたっけ?
車の中、隣の席。
こんなにも体温が感じられるほどだった?
車が狭く感じられて、息苦しい。
いつもは楽しみな朝の時間。
それを早く過ぎるように願ってしまうほどに。