莫迦だなあ、とつくづく思った。
何もエリートが、こんなどこにでもいる女に執着しなくてもいいでしょうに。
あんたの資産だとか綺麗な顔だとか、…まぁ、性格だとか。
惚れてくれる女はいくらでもいるじゃない。
最初は、からかっているのだろうと疑った。
しかもそれを本人に告げた。遠慮なく。ずばっと。
「……逆差別だよ、それ」
男がむっつり憤慨した顔で怒るので、私も確かに、金持ち+将来性あり+顔良し+頭も良し+etc……=もてる=遊び人とは、さすがに短絡的だったかと反省して、素直に謝った。
実は私の発想を裏付けるような噂もあったのだが、それも真実かどうかは判らない。
面倒臭いなぁ、というのが次の感想。
やっかみを食らうのは目に見えているし、生活が違う人(お金の使い方とか)と付き合うのは
結構つかれるのだ。そしてなにより相手を好きか嫌いかと評価できるほど意識したことがない。
これはゴメンナサイ、だ。どうやって断ろう。困って視線を彷徨わせた。
これが、第一の失敗だった。
「…あ……」
握り締められた拳に血管が浮んでいるのを見て、しまった、と思った。
…弱いのだ。私はこういう虚勢を張った人間に弱い。
平常心です、なんて顔をしておきながら
その緊張した震えた手は何。思わず腕を伸ばして指で触れてしまった。
これが、第二の失敗。
三人の弟を持って君臨してきた私だったが、でも、だから本当に弱った様子をされると助けずにいられない。
お姉ちゃんが守ってあげなくては、と気合まで入ってしまう。
彼の手は予想外の接触にびくりと逃げた。見上げると戸惑った、怯え半分、抑えた期待半分の隠れた表情を垣間見ることとなり、逃げた手をぎゅうと掴んでいた。
…はっきりいって、OKサイン。そう受け取られても仕方がない。
無意識だったけど。
あっという間に抱き込まれて男にキスされていた。自分が了承したという認識もないまま、
なにしろ、あ、と言う間だったもので私の口は阿呆みたいに開いていて、角度を変えて深く重ねたと思ったら舌が侵入してきた。
いきなりべろちゅーかよコノヤローと腹が立ったけれど、頬にある手の平はじっとりと汗ばんでいて、やっぱり、と予測通りの温度に半ば諦めの境地で彼の手首に指を添えた。
埃っぽい資料室の壁に押し付けられながら、
そのうち飽きるんだろうなあとか仕方ないからそれまで付き合ってやるか、
などと後々まで友人達に「非道」と罵られる羽目になることを考えて、
キス上手い、やっぱり遊び人めと悔しまぎれに舌を絡ませた。
余裕のなくなっていく男の息遣いに満足して、こういうのって、ホラあれ、ほだされたっていうんじゃないのかなぁと
空いた左手を首に回した。
あいとじょうとあいじょう 2004/05/31 改稿 2004/07/07
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