付き合い始めると、知人友人たちからは異口同音で疑問が投げ掛けられた。
『あんなイイ男、どうやって落したの』、だ。
そんなのこっちが聞きたい。
なし崩し的に付き合うことになって、いや、きちんと告白されているから、なし崩しというのは失礼かもしれないけれど、だから、なんとなく訊きそびれていた。
私のどこが好きなんだとか、なんで、とか、そんなことを。
いまだに疑問だ。
「瀬名さん」
声を掛けられて顔を上げればつい先ほどまで頭に浮かべていた顔がある。
「この資料だけど…」
ハイハイ何ですか、みんなのあこがれ春田ハルタさん。
嫌味ったらしく脳内で返事をして彼の手の中の資料を覗き込んだ。
ああ、鬱陶しい。
周囲の視線にうんざりしつつも顔に出してたまるかとばかりに笑顔で話す。
友人には内緒にしてもらって、しかしどこからか関係というものはバレるものだ。
一緒に食事をしたり、歩いていたら目撃されることもあるだろう。そして一度だれかに知られてしまったら、あとは待つまでもない。
「…で、どう?」
「いいよ。ありがとう」
ニコリと、ああもうそんな目元を優しくゆるませないの!視線が痛いでしょ!!
それこそ怒られそうな八つ当たりを裏でして、バレたのもこいつのせいなんではないかと思ったりする。別に社内恋愛禁止なわけでもないし隠していたわけでもないんだけれど、予測通りの周囲がひたすら面倒くさい。
『興味なさそうな顔して』
うん、まぁこれはいい。トンビに油揚げだもんね。仕方がない。
『好きじゃないくせに』
う…。
本気だった子ほど判るものなのだろうか。好きでもないのにOKしたことなんてすぐに見破られてしまう。罪悪感がチクチクと刺激されて痛い。
『本気じゃないなら別れてよ』
そんな声が視線から聞こえてきそうだ。トイレにしばらく篭っていたら話も聞けてしまうのではないかと思うくらいだ。
若い女の子たちの反応を恐れるとは、私ももう歳だななんて溜息をつく。
でもねぇ…。
私が優先しなきゃいけないのは貴女たちの気持ち?
彼じゃなくて?
付き合えば、嫌いじゃない。人柄を知れば好きだと思う。
恋愛感情にはまだ届かないけれど。
それとも、恋にならないのなら早く別れた方がいいのだろうか。
その方が彼のためでもあるんだろうか。
じい、と考えながら眺めていると彼は振り向いて、一見冷たく見える綺麗な顔をふわ、と綻ばせた。
(あー…)
だめだ。
がっくりと項垂れた。
きっと、私は、あの手を取ってしまう。
またあの手が動揺していたら。また目に戸惑いを見つけたら。
きっと、手を取らずにいられない。
あいとじょうとあいじょう 2004/08/16 改稿 2004/09/18
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