考察 ~無名巫女達の肖像~
1. 遺跡まで
この“銀嶺の巫女”はアニメ「シムーン」に登場する嶺国の無名巫女達を主役としたファン創作です。無名巫女達は複数いますが、その中の空中補給基地エピソード以降に登場する下記の4名が中心人物となっています(以下A~Dは説明の便宜上の記号です)
巫女Aさんアウリーガ(作品内ではグレイス)
彼女が主人公になります。
右前の巫女Bさんアウリーガ(作品内ではヴォルケ)
左前が巫女CさんでBさんのパルでサジッタ(同じくアリエス)
奥が巫女DさんでAさんのパルでサジッタ(同じくアントレーネ)
どういった作品であっても無名の登場人物は一人や二人は必ず登場します。しかしキャラが無名なのは普通は、そのキャラの重要性が低かったりそのシーンだけの一発キャラだったりするためです。例えば前者で言えばメッシスの食堂のおばちゃん達、後者では「近い戦争」に出てきた礁国兵士などがいますが、彼らが無名であることに異論がある人はあまりいないでしょう。
ところが、振り返って嶺国の巫女達に関してはどうでしょうか?
彼女達はシムーン本編で相当に重要な役回りで登場しています。少なくとも偽装和平会談のアングラス、空中補給基地でのマミーナとのエピソード、そしてネヴィリルとアーエル逃亡の手助けと朝凪のリ・マージョンなど、物語の節目やクライマックスで実に重要な役割を果たしています。
しかし、それでも彼女達には名前がありません。唯一名前が付いているのがアングラスで、その他のキャラはただ巫女としか表記が無く声優も使い回しで、おかげでファン投票とかにも登場できずWikiにも載せてもらえないという有様です。正直不思議なことだと言えます。
そこでまずこれから本編での彼女達の登場シーンを振り返ってみて、彼女達がどんな背景を持っているのか、それから彼女達がどうして無名なのか、いや無名でなければならなかったのかについての考察をしてみようと思います。
§嶺国の環境
まず彼女達の故郷であるプルンブム嶺国ですが、その本土は本編中には出てきません。どういう場所かはアングラスの「嶺国はとても寒い国で、神の恩寵はあるが、毎年寒波で多数の死者が出る」というセリフや以下のシーンから推定するしかありません。
第5話「白い孤独」ではリモネ達が北から来た機甲軍団を銀のリ・マージョンで吹き飛ばしますが、多分ここの光景が冬の嶺国の光景に近いと思われます。
しかし第20話「嘆きの詩」でマミーナが眠った場所ですが、そこは彼女の故郷の近く、すなわち嶺国との国境付近だと考えれば、短い夏の間は別天地のような光景になるのも確かでしょう。
§偽装和平会談
嶺国の巫女達が本格的に登場するのは第7~8話の偽装和平会談のエピソードになります。
ここは嶺国巫女の性格を知るためには非常に重要なところです。
これは最初にアルクス・プリーマに巫女達が来るところですが、まず嶺国は戦車軍団を作ることはできても、飛行技術はないことが分かります。
マジ天使な感じのアングラスちゃん。
額と顎に特殊な化粧があります。元巫女の嶺国代表の額にマークがないことから、入れ墨ではないようです。
嶺国では冬に寒さで多数の死者が出て「私は巫女ですからそうした死者が神の元で幸せに暮らせるように祈ります」という優しい一面が間違いなくあるのですが……
しかし、やるときはやります。
彼女だけでなく他の嶺国巫女もほぼ例外なく拳銃の扱いに慣れているようです。しかも彼女はシロート相手ですが、後に別な巫女が自分よりも図体のでかい礁国の兵士を取り押さえたりと、何か相当の訓練を受けているのではないかと推察できます。
でもやはり、迷います。
迷っていても結論は出ないという言葉を思い出して、 彼女は引き金を引きます。
その頃他の巫女様達もこのような姿に……
ここで視聴者は間違いなく、こいつらヤバい! と思ったに違いありません。実際どう見ても宗教的理由で人を殺すことを厭わない人達=狂信者であることは間違いありません。
- ちなみにここで宮国の神、テンプス・パテュームと嶺国の神アニムスは元は同じだったのではないかという学説があると言及されます。
§遺跡
次に彼女達が登場するのは第17話「遺跡」になります。
つい忘れがちになるのが、古代シムーン登場シーンでは常にその中には嶺国巫女の誰かが乗っているという事実です。宮国のシムーンの場合時々風防越しに中のキャラが描かれることもありますが、古代シムーンの場合一貫して風防は不透明に描かれています。そのため無機質な敵役という印象になっていますが……
まず出てきたのは3機。すなわちここに嶺国巫女が6名いたことになります。
3機のうち1機をパライエッタ=カイム機が、もう1機をアルティ=フロエ機が、最後の1機をマミーナ=ユン機とモリナス=ロードレアモン機が追ったようです。
パラ様達に追われた1機は、鮫のリ・マージョンをして見せます。この後彼女達は何とか逃げ切れたようです。
2機に追われた1機は果敢にも逆襲しますが……
あえなく返り討ちにあってしまいました。嶺国巫女2名戦死です。
これでロードレアモンに撃墜マークが一つ付きました。もしアーエル=ネヴィリル機が勝手に戦線離脱していなければ、彼女達は誰も帰れなかったかもしれません。
ちなみに最後の一機を取り逃がしたのもモリナス=ロードレアモンです。
「追いつけない。一体誰があれを操縦してるの?」
「そうよね。ここ、何かおかしいし」
「戻ろう」
ここで疑問に思える点が何点か湧いてくると思います。
- どうやって彼女達は遺跡までやって来たのか? 遺跡には礁国と嶺国の連合軍が向かっているはずだったがそんな敵部隊は出てこないし、輸送機などで来たならどこかに乗ってきた機体がありそうな物だがそんな物もなかった。
- 彼女達は6名だけだったのか?
- シムーンの技術は宮国が独占していたはずだが、シムーン操縦方法は一体誰に習ったのか?
- モリナス=ロードレアモン機は1機撃墜後、更にもう1機も追って残念ながら取り逃がすという八面六臂の活躍だったが、取り逃がしたもう1機は確かアルティ=フロエ機が追っていたはず。一体どうなっているのか?
まあ、最後のはともかく、最初の3つについては結構シビアな問題だと言うことが分かります。もちろん様々な回答が考えられるわけですが“銀嶺の巫女”という作品を書くきっかけはまずこれらの疑問でした。
初めて見ていたときなどは「うわ! 何か凄い凶悪そうな敵が出てきた!」としか思っていなかったんですが、後からここの嶺国巫女達ってもしかしたら一生懸命、下手すれば徒歩で遺跡までやってきて、慣れない古代シムーンに乗ったらいきなり敵に襲われて、いきなり仲間が殺されて、もう涙目で逃げ惑っていたんじゃないの? とか思ってしまった瞬間、この人達はいったいどんな人達なんだろうという興味が抑えられなくなって、結果こんな話ができてしまった訳なのですが……
あともう1点、古代シムーンは最終的に少なくとも6機が嶺国・礁国側に渡るようですが(和平会談時にアルクス・プリーマ甲板上に駐まっている)ここでは結局2機だけなので、残りはいつ持ち出されたかという問題もあります。これも結構重要なところなのですが、これについては後述します。