2. 空中補給基地の悲劇
遺跡のエピソードから多分長くて数週間後、問題の礁国空中補給基地の悲劇が起こります。
ここは重要なので細かく紹介します。
礁国空中補給基地を下から見たところ。
こんな物を空に浮かべられる礁国の科学技術は、大空陸どころか銀河系的にも誇れるものではないでしょうか。
敵シムーン接近の報を受けてスクランブル発進する古代シムーン2機。
この2機が遺跡で逃げ出した2機なのかは本当は不明です。
古代シムーンは先行する礁国の新型機を軽々と追い抜いていきます。
ネヴィリル=マミーナ機の波濤、鮫のリ・マージョンをかわす古代シムーン。
今度は息のあった隼のリ・マージョンで逆襲する古代シムーン。
ネヴィリル=マミーナ機は上のリ・マージョンを避けたところを礁国新型機に撃たれて被弾。空中補給基地に不時着します。
そこに古代シムーン2機が着艦して、中から巫女達が降りてきます。
ちなみにここで嶺国巫女の誰と誰がパルを組んでいるかが分かります(そのあと走っているシーンでは後ろの二人の位置が入れ替わってますが)
誰もがここで万事休すと思ったことでしょう。
目つきの怖い巫女Aさん。
第一印象は大切だと思いますが、これで視聴者の潜在意識にも嶺国の巫女様方は怖い人たちや~という観念が植え付けられたんではないかと思います。
残りの方々も怖い顔です。
しかし彼女達は、戦いは終わったのであなた達を捕まえるつもりはないと言い出します。
当然俄には信じられなかったでしょうが……
ネヴィリルの一言でマミーナも納得。
シムーン球を起動させて微笑み合う、Cさんとマミーナ。
ちなみに嶺国巫女と宮国巫女がシムーンを起動させたのはこれが最初で最後となりました。
一仕事終えたといった様子で満足げな4人。
しかしここでマミーナがとんでもないことを言い出します。
「そういうことなのね? ここで私たちを逃がせば、あなたがたの居場所がなくなる」
そこでAさんが「いえ、捕まればあなた達は確実に殺される」と答えますが……
いきなり突き落とされて呆然とするAさん。
ばっさり髪を切ってシビュラ・アウレアと別れると、こっちに飛んできてしまうマミーナさん。
巫女達は慌てて彼女が落ちないように引き上げますが……
なんだかもう大変なことに。
「あなたがあの者達の手にかかって命を落とすくらいなら、いっそ」
「これでいいのよ。これで。あなたたちの国の言葉、アー・エル」
「「「「アー・エル!」
宮国シムーンが来たのはまさにその直後でした。
そこで宮国のシヴュラ達が見た物は……
ぶち切れる本家アーエル。
慌てて逃げる嶺国巫女達。
と、ざっとこのような展開になったわけですが、ここでまた幾つかの疑問がわくと思います。
◆ 嶺国巫女達はなぜネヴィリルとマミーナを助けようとしたか?
まず、つい最近仲間を二人も殺されて今の今まで戦闘をしてきた相手を、いきなり命がけで助けに走るというのはちょっと不自然に思われます。
その直接的な理由はマミーナが戻ろうとしたときに巫女Aが「いえ、捕まればあなた達は確実に殺される」と言ったように、彼女達が宮国の巫女が捕まったら殺されると信じていたことでしょう。彼女達が巫女である以上、人が殺されるのを看過できないというのは自然です。
ただ一般的にはこういう状況では巫女としての立場よりも、身内への感情の方が先に立ってもおかしくないとは思いますが……
ただし本人達としては自分たちの命がかかっているという意識はなかったかもしれません。
というのは、少なくともこの時点でシムーンを操縦できる巫女というのは極めて貴重な存在だったはずです。更に彼女達が遺跡からシムーンを持ってきたパイロット本人だったとしたら、それこそ彼女達は英雄です。味方の士気にも関わるのでもはや簡単に殺したりはできません。
そういうことであれば彼女達はもっと気軽な気持ちで助けに入っていたと思われます。
ついでに同じような理由で、実は宮国巫女が殺されることもなかったと思われます。
礁国・嶺国としてはそれまで秘密に覆われていたシムーンとシムーン・シヴュラを生きて捕らえられる機会をみすみす逃すはずはなく、またシヴュラ・アウレア・ネヴィリルには捕虜として人質としてそれこそとんでもない価値があったはずだからです。
もし嶺国巫女達がそれに気づいていれば、展開は全く違った物になっていたことでしょう。
◆ マミーナはなぜ飛んできたか
続いて嶺国巫女達に助けてもらったマミーナが、普通に考えればそのまま帰れば良かった物を、なぜか逃げないで単身戻って来てしまった点ですが、これに関しては以下のセリフがすべてでしょう。
「あなた方は私を本当のシヴュラだと認めてくれた。私を逃がせば、あなた方が裏切り者として殺される」
すなわち、ここでマミーナは自分をシヴュラだと認めてくれた嶺国の巫女達の命の方が、シビュラ・アウレアよりも大切だと判断したということです。結局彼女は真の意味でコール・テンペストに馴染むことはできておらず、素直な気持ちで自分をシヴュラと言ってくれた、今出会ったばかりの名も知らぬ敵国の巫女の方をより近い存在だと認識したわけです。この第19話「シヴュラ」というタイトルからしても、多分この回はこのマミーナの悲しい決断を描くのが主題で、この選択を中心に話ができているように思います。
ただ前項で、宮国巫女を逃がしても嶺国巫女達が殺されたりはしないんではないかという考察をしたわけですが、それが正しければマミーナの判断はちょっと早とちりだったという結論になってしまうわけですが……
◆ 嶺国巫女達は何故マミーナを撃ってしまったか
さて、一仕事終えた後ほっと一息といった瞬間に、いきなりちゃぶ台返しを食らった嶺国巫女の面々ですが、内心大パニックだったのは間違いないでしょう。
さてここで彼女達のとった行動というのが「あなたがあの者達の手にかかって命を落とすくらいなら、いっそ」というものでした。マミーナもそれを思いっきり肯定するような素振りを見せていますが、でも普通ならそうするにしたって最後の手段でしょう。
それよりはマミーナを四人で取り囲んで、迫り来る兵隊達から庇うなどが一番ありそうな行動なのですが、彼女達はほとんど躊躇もなくアーエルしてしまいました。
これに関してはもう、何かそういった文化的背景があると想像するしかないのでしょう。アングラスが自爆するときにもその言葉を叫んでいます。そこで作品中ではああいうネタになったわけですが……
こういう風に見ていくと、この回は何か不運の連鎖みたいな物を感じます。もうちょっと相手のことに考えが及んでいれば悲劇は避けられたし……何よりも撃たれた直後に宮国シムーンが到着していることです。すなわちどこかで誰かがもうちょっとだけ悩んだり戸惑ったりして時間を稼いでいれば、彼女達は間に合っていたでしょう。
こう考えると誰とは言いませんが、任務中にどうでもいいことでうじうじ悩んで引き返すのを遅らせちゃったりした人がいたとしたら、その人の責任が一番重いことになるんでしょうか。誰とは言いませんが……