考察 ~無名巫女達の肖像~ 4. 戦い終わって

4. 戦い終わって


戦っていた巫女達も視聴者もびっくりの、唐突の平和がやって来ました。


§和平式典


アルクス・プリーマの甲板上に古代シムーンが6機、宮国シムーンと共に駐まっています。



和平式典では両国の巫女が並んでいます。

嶺国巫女は5人じゃ少ない気はしますが……



互いに相手の神の象徴である十字架? を供えあっています。

十字架を持っているのは巫女AさんとBさんでしょうか。



§ネヴィリルの祝福


和平式典から数日以内のこと、礁国の兵士達に喧嘩を売っているフロエとネヴィリルの所に嶺国の巫女達が通りかかります。


やって来たのは空中補給基地にいた巫女A,B,Cさんだと思われます。

彼女達の一言で礁国兵士が引き下がる所を見ると、やはり彼女達は相当の影響力があるようです。



彼女達はそこにネヴィリルがいることを認めると、いきなり彼女の前に跪きます。



C「お許しください。シヴュラ・アウレア・ネヴィリル」

A「私たちは恐ろしい大罪を」

少なくともマミーナを撃ったことを悔いているのは間違いないようです。



それに対してただ祝福を返すネヴィリル。

戦いは終わったから、憎しみ合うのも終わりにしましょうという無言の意志が感じられます。



このエピソードは嶺国巫女達がネヴィリルとアーエルの旅立ちに協力する大きな動機となったのは間違いないでしょう。


§旅立ち~朝凪のリ・マージョン


和平の後、コール・テンペストはいきなり解散し、巫女達は泉に行くようにという決定がなされます。彼女達は大人の都合で翻弄されまくりですが、そこでネヴィリルとアーエルが重大な決意をします。それに協力したのが直前まで敵として戦っていた嶺国の巫女達でした。


嶺国巫女達は会議の通訳で大忙しです。彼女がシムーン・シビュラであるかどうかは不明です。ここは「待てません」と言ったところ。

(この人が作品中ではフィアルカ)



その頃グラギエフと巫女Aさんが聖堂で密会中。

当然ここでネヴィリルとアーエル逃亡の手助けの約束を取り付けたのでしょう。



ネヴィリルとアーエルは捕まって、強制的に泉に行かされることになります。

そこで最後の挨拶をするために、マージュプールのある広間にみんなが集まりますが……しれっと巫女CさんとDさんがその場にいます。



そこに現れるシムーン。

アウリーガが巫女Aさん。



サジッタが巫女Bさん。



精悍なAさん。



同じくかっこいいBさん。

最高の見せ場です。



兵士達に銃を突きつけて叫ぶCさん。



大人の兵士を取り押さえるDさん。



ネヴィリルとアーエルの後ろで地味に仕事をしている、無名巫女さん。

降参しているおっさんはパラ様を殴った奴のようです。



アーエルと一言だけ会話するAさん。

「ありがとう」

「お急ぎください」



そして二人は天井をぶち破って出て行きます。



その後関係者は嶺国代表の下に連行されます。


そこで通訳をしている嶺国巫女。

国家元首に付いているくらいなので、巫女の中でもエリートなのかもしれません。

先ほど「待てません」と通訳していた子とはまた別人のようです(作品中ではプリマヴェーラ)



アヌビトゥーフ、グラギエフと共に、被告側に並ぶAさんとBさん。

ここでアヌビトゥーフがいろいろ抗弁しますが、結局聞いてはもらえません。



「我々のシムーンで、シヴュラ・アウレアのシムーンを追えと」



飛び立つ古代シムーン4機。



「リ・マージョンをやる気だ。あたし達も早く!」

ここでネヴィリルとアーエルの命運も尽きたかと思われましたが……



「違う。あれは……」

「何? あれ。あんなリ・マージョン見たことない」

「朝凪のリ・マージョン」

「朝凪の?」

「古い文献で読んだことがある。旅立つ仲間を送るための……」



「あれは?」

「朝凪のリ・マージョン!」

アヌビトゥーフさんも知らなかったようです。



それを見たこのおっさん(嶺国代表)がこんなことを言います。



「私にもその時があった」



「みな、少女だった」



「しよう」

「ええ。やりましょう」



「行きましょう。アーエル。自由になれる場所へ」

「うん。行こう。ネヴィリル」

そして二人は旅立ちます。



このようにクライマックスシーンの裏で嶺国巫女達が色々と大活躍していたのは誰もが認めるところでしょう。

しかし考えてみるとここで結構大きな疑問点が浮かび上がってきます。


◆彼女達はどうして朝凪のリ・マージョンを“行った”か


まず彼女達がネヴィリルとアーエルの逃亡を手伝った理由・動機です。


まずシムーンというのは見方を変えれば大量破壊兵器以外の何物でもなく、嶺国の代表が危惧したのも当然で、常識的にはそちらの方が正しいでしょう。従ってそれにも関わらず逃亡を手伝ったということは、ネヴィリルとアーエルに対して相当な共感を覚えていたからだと考えないと、理由が分かりません。


これが空中補給基地の四名だけであれば色々な負い目もあるし、協力しても特に不自然ではありません。しかしシムーンで追って行って朝凪のリ・マージョンを行ったのは、ネヴィリル達とは全く接点のない、本編では顔も見せていない8名です。しかもこの発進の状況では示し合わせている余裕はあまりなさそうなので、朝凪のリ・マージョンは彼女達の独自判断だと思われます。すなわちこの時点では嶺国巫女はほぼ全員が自発的に協力していたと考えられます。


しかし宮国の巫女はほんの直前まで戦っていた敵で、つい最近も仲間を殺されています。

一体どうして彼女達は敵国に巫女にそこまでの肩入れするようになったのでしょうか?


◆彼女達はどうして朝凪のリ・マージョンを“行えた”か


次に嶺国の巫女達が朝凪のリ・マージョンを行う技術をどこで覚えたか? ということですが、実はこの問題が一番困った問題です。これはこのシーンだけの問題ではなく、遺跡でいきなりリ・マージョンをして見せた所から全体に関わってくるのですが……


まず第一に本編の開始時点ではシムーンに関する技術・情報は宮国が独占している、すなわち、他国はシムーンに関しては何も知らないということになっています。当然操縦法も知られていません。

第4話「近い戦争」では礁国兵士はシムーンが巫女二人揃わないと動かせないことも知りません。少なくとも一般的にはシムーンは宮国の悪魔としてしか知られていませんでした。


第二に、特にリ・マージョンを行うのはかなり高等な技術であることが何度も描写されています。

宮国にはシヴュラの訓練学校や大聖廟でのシヴュラ選抜というのがあるようです。前者はリモネがそこで数々の年少記録を塗り替えて、後者ではマミーナがトップで抜けてきたものです。

そういった学校や選抜で優秀な者が初めてシムーン・シビュラになれるようですが、そうやってやって来ても第4話でアーエルとパルを組んだモリナスが「ごちゃごちゃして分からない」と、エイのリ・マージョンを失敗するなど、リ・マージョンは慣れた者でも相当に難しい行為だということが明らかです。

実際あの軌道を自分で操縦して飛んでいるのなら、ブルーインパルスも真っ青の操縦技術だと思われますが……


ここで嶺国が古代シムーンをいつ入手したかですが、やはりあの遺跡エピソード時点と考えるのが自然でしょう。従って嶺国巫女が実機での操縦を行ったのはそれ以降ということになりますが……遺跡以後の時系列は以下のようになっています。

  1. 遺跡から古代シムーンが逃走
  2. アングラス葬儀
  3. 空中補給基地
  4. マミーナの棺の撃墜
  5. アルクス・ニゲル撃沈
  6. 第1波攻撃
  7. 第2波攻撃
  8. 和平調停

本編中に日付などが出てこないので会話などを元に推定するしかありませんが、1~3の間が長くて数週間。3~4の間が長くて数日。4~6は2日。6~7は長くて数日程度。7~8は数日と、全部合わせて長く見積もっても一ヶ月強という短期間です。


しかし彼女達は少なくとも鮫のリ・マージョン、隼のリ・マージョン、そして朝凪のリ・マージョンを行ったわけで、こんな短期間で一体どうやってそんな技術を得たのでしょうか? しかも遺跡ではぶっつけ本番に近い状態で鮫のリ・マージョンを成功させていることになります。


更に朝凪のリ・マージョンですが、これは少なくとも現役シヴュラのアーエルが知らなかった古い文献にしか載っていないリ・マージョンですが、それを4機で整然と行った嶺国巫女は一体そんな代物をどこで知ったのでしょうか?


§数年後


こうして宮国でのシムーン・シビュラの歴史は終わりますが、シムーン・シビュラがいなくなったわけではありません。


それから数年後、かつてのアルクス・プリーマの沈む湖の畔にひっそりと住んでいる少年の上を飛んでいった古代シムーン。



この「銀嶺の巫女」という作品はこういった疑問点に対して、こちらなりの回答を考えていたら出来上がってしまったものです。具体的にどういう回答を考えたのかは作品を読んでもらうこととして―――もちろんそもそも正解などという物はないので、まあこんなことを考えた奴がいるのだな、程度に思っておいて下さい。


ちなみにその回答に関する言い訳的な物を何点か……


まず上記の疑問点の中にはとても簡単にはつじつまが合わせられない物もあります。

例えば嶺国巫女がどうやってシムーン操縦を覚えたかですが、シムーンの操縦法を教えられる教師なら、例えばコール・デクストラの人が記憶を失って云々とかいったネタを考えることも可能です。でもやはり現物がないと練習にはならないし、大体リ・マージョンというのは滅茶苦茶目立つ行為で、それを全く秘密裏に訓練するのはどうだろうとか、そんな理由で結局作品内では嶺国式という、シムーンの非常に本質的な部分にオリジナルの追加設定を加えていて、その追加設定が話の肝になっています。それが色々な所に上手く符合してくれたのもありますが。


また、古代シムーンの数は撃墜分も含めると少なくとも8機ありますが、最初の遺跡では3機なので、残りはいつ持ってきたかという問題があります。


これについてはあのあと司兵院が古代シムーンはほとんど持って行かれてしまったと言っているので、実はあの3機の前に既に何機か持って行かれた後だと考えるのが、むしろ普通かもしれません。

ただその場合遺跡の所の疑問にも書いたように、彼女達がどうやって遺跡までやって来たかという問題があって、20人近くの巫女と兵士達がわいわいやってきて古代シムーンを持ち出して、輸送機とシムーン数機が先に帰った後、何故か中でぐずぐずしていた3機が後からやって来たコール・テンペストと鉢合わせというシナリオも考えられますが……何かいろいろ間抜けなのと、あとその場合はどうしてアングラスの遺体を回収していかなかったのかとかぐだぐだ考えた結果、まあドラマティックにもなることだしと本作のようなネタになっております。