砂漠の女王様 第3章 もしかして、魔法?

第3章 もしかして、魔法?


 やがて天幕の中に叫びとも悲鳴ともつかない声が響き渡る。

「あ! あ! あ! あ! ああ! ん……んん……」

 横目で見るとマウーナがイルドの上でくったりとしている。

 その横ではアラーニャが恍惚の表情でアルマーザとしっかりと抱き合って深い口づけを交わしている最中だ。

「えっと……次、アラーニャちゃんだっけ?」

 ティアの下からアーシャがとろんとした声で尋ねる。

「ええ。そうよ」

「じゃ、まだまだよね」

「そう。まだまだよ?」

 そう言ってティアは彼女の中にするっと指を差し込むと、その敏感な部分を内側から愛撫した。

「あ!」

 アーシャがびくんとして体をこわばらせる。彼女は本当にここが弱いのだ。

 そのときイルドが体を起こすと、彼の上で果てているマウーナにやさしくキスをしてから、側のマットレスにそっと寝かせてやった。

 それから大きく深呼吸をすると、体がむくむくと波打ち始める。

 それに気づいてアラーニャとアルマーザが体を起こした。

「ほら、アラーニャちゃん

「うん……」

 二人の目の前でイルドの体が少しほっそりと変わっていき、その顔には知恵の光が宿り始める。

 しばらくしてそこに現れたのはキールだった。

 女達の間から低いどよめきが上がる。何度見てもこれはミラクルだ。

 実際、初めてのときにはさすがにみんなどん引きだった。びっくりして泣き出しそうになった娘もいたくらいだ。

 だがそれが彼女達にとって途轍もなく有用だということが分かった瞬間、すなわち変身によって何度でもできるし何人でも相手できると分かった途端に、彼は彼女達のヒーローとなっていた。

 もはや一つの体に二人が同居していることなどはもはや“ちょっとした個性”であった。

《いや、まあ、実際そうなんだけどね……》

 北のオアシスにいた頃はともかく、砂漠の旅以降はティアもそんな彼/奴に依存しっぱなしだ。そうでなければあの砂漠の横断が成功していたかどうかさえ不確かなわけで、あれ以来もう二人を分けて考えることの方が不自然になっていた。

「アラーニャ。おいで」

 キールが彼女に手招きする。

 アラーニャは全身真っ赤になって「はい」と小声で答えると、おずおずとキールに寄り添ってキスをする。

 そんな彼女をキールはきゅっと抱きしめると、もう慣れた様子で口から胸、そしてお臍、更にはもっと下の敏感な場所にまで唇を這わせ始める。

「あん!」

 アラーニャはしっかりと目を閉じてキールの愛撫に身を任せる。

《はあ……》

 いつ見てもこの二人は初々しいが―――彼らがこんな風に愛し合っている姿を見ていると、何か色々感慨深い物がある。

 そうなのだ。

 ティアが北のオアシスに来る遙か前からこの二人はずっと好きあっていた。

 だがアラーニャがその能力で彼を傷つけてしまうのではないかという恐れと、キールがヘタレだったという二重苦によって二人はそれ以上接近できずにいた。

《あの頃はちょっと顔を見合わせては、すぐ目を反らしたりしてたのに……》

 その二人が今ではこうして衆人環視の前で睦み合っているのだから―――いや、ここまでできなくても本当はいいのだろうが……

 このヴェーヌスベルグでは当然なのだが、情交とはほとんど一生に一度の晴れ舞台であって、そこに恥ずべき事柄など微塵だに存在しない。

 だからここに来た当初、アラーニャがキール/イルドとそうすることに妙に抵抗するのを見て、女達は不思議に思ったものだ。

 そして彼女達はアラーニャの悩みを聞いて深く同情した。

 何年も連れ添っていたキール/イルドと喜びを分かち合えないなんて、彼女達にはもはや想像もできない不幸だったのだ。

 そこで彼女達は二人が愛し合えるようにと色々尽力してくれたのだ。

 記念すべき二人の初めての夜……


 ―――もう冬が近くなっていて外の空気は結構冷たかったのだが、ティアが天幕の入り口をくぐると、ほわっと暖かな空気に包まれた。見ると中にはいくつも火鉢が置かれている。

 そこには既にリサーンとサフィーナ―――彼女達も家族の一員だ―――が待ち構えていた。

 二人ともゆったりとした薄衣の夜着を身につけているが、ヴェーヌスベルグの娘らしく引き締まった体がその下にあることが見てとれる。

 リサーンの方はわりと平均的な体つきだが、サフィーナは小柄でちょっと男の子みたいだ。

「どう?」

 リサーンの問いにティアは親指を立てる。

「ばっちりよ。もうすぐ来るから」

 その二人の間に挟まれるようにキールがひどく居心地が悪そうに座っている。

「えっと……ティア、いいのかな?」

「ちょっと。今更怖じ気づいたの?」

「でも、やはりその、こういうやり方ってどうかと思うんだが……」

「じゃあどういうやり方が良かったのよ?」

「………………」

 正直彼らに任せていたらアラーニャはおばあちゃんになっても乙女のままだ。

 ここに来てから数ヶ月が経過しているが、その間イルドは喜んでやりまくっていたのに、キールはずっと自分は参加せず、ひたすら体力回復役に徹していた。

《ここまで奥手だと、ちょっとびっくりよね……》

 目の前には毎日毎日綺麗どころが勢揃いで、彼女達は心から彼を望んでいる。しかもイルドがハッスルしているときには、その感覚さえある程度共有できるという話なのに……

「キールさ~ん」

 そのとき彼の後ろに座っていたリサーンが、背中に胸を押しつけて耳元に息を吹きかける。

「うわわわわ!」

 それでキールが慌てて飛び離れたのだが―――そこで火鉢を引っかけてひっくり返しそうになったのだ。

《うぎゃっ!》

 こんな所で火事なんて出してしまったら最悪なんて物じゃないが……

「んわっ!」

 ぐらぐらしている火鉢をサフィーナが横っ飛びして押さえた。

《今の……彼女じゃなきゃヤバかった?》

 サフィーナは体は小さいけれどとてもすばしっこいのだ。全員が安堵のため息をつく。

 一安心したところで、リサーンがまた甘えた声を出す。

「もう、キールさんったら~!」

「すみません……」

 そのやりとりを見ながらティアは心の底からため息をついた。

《はあ……》

 ティアは目を白黒させているキールの前に座る。

「ちょっと。そろそろ腹を決めなさいよね? あんたがそういう調子だとアラーニャちゃんがああしちゃった意味ないでしょ?」

「ううう……」

「逃げるんじゃないわよ? イルドになったりしたら、頭をそん中に突っ込むからね?」

 ティアは近くの火鉢を指さした。

「うう……でも」

 そのときだ。外から誰かがやってくる気配がすると、次いでふわっと天幕の入り口が開かれる。

 入ってきたのは、アラーニャとアルマーザだ。

 アラーニャはきらきらとビーズの輝く黒いドレスを身に纏っている。

 その髪型とお化粧はティア渾身の力作だ。

 キールの目がアラーニャに釘付けになる。

《ふふ。正直なんだから……》

 アラーニャも思わずそこにいたキールをじっと見て、それから二人は赤くなって顔を背けた。

 女達がくすくす声を上げて笑う。

「ほら~、そこに座って~。一番乗りなんですよ~?」

 アルマーザがアラーニャに囁くように言う。

 アラーニャは真っ赤になってうなずいた。まあ確かにここでは“一番乗り”という言葉には特別の意味があるわけだが……

 アラーニャはそのままへたり込むようにキールの前の座布団に座る。

「あの……」

 アラーニャが顔を上げるとキールと目が合ってしまって―――また二人は目を背ける。

《うーむ……ちょっと、大丈夫なんだろうか?》

 何か前とそんなに変わらないような……

 だが、そのとき彼女に付き添っていたアルマーザが囁いた。

「あれ、もう痛くなかったでしょ~?」

 アラーニャがそれを聞いてまた真っ赤になる。

「じゃ、ほら、力抜きましょうね~?」

 そう言ってアルマーザはアラーニャのドレスの袖口から手を入れると、彼女の胸を愛撫し始めた。

「あ!」

 アラーニャが可愛い声を上げる。

 それを見たキールは明らかに挙動不審になった。

「えっと……」

 それを見てティアは彼の腕をしっかりと掴むと小声で言った。

「だめでしょ? あんたのために彼女が頑張ってるんだから。見てあげないと」

「………………」

 明らかに彼の中で、アルマーザの愛撫を受けるアラーニャの姿を見つめるべきか目を反らすべきか、恐るべき葛藤が起こっていた。

「そろそろいいですか?」

 アルマーザの言葉にアラーニャが軽くうなずくと、アルマーザは黙ってアラーニャのドレスのボタンを外し始める。

 やがてはらりと彼女の着ていたドレスが床に落ちると、キールの目の前にアラーニャの裸身が現れた。

「ああ……」

 キールの口から訳の分からないうめき声があがる。

 アラーニャは恥ずかしそうにうつむいて手を組んだが、それ以上前を隠そうとはしない。

 アルマーザの指がするっとアラーニャの股間に伸びた。途端にアラーニャがぴくっとしてのけぞる。それからアルマーザはにこっと笑って言った。

「もう十分みたいですよ?」

 アラーニャは思わずぺたんと座り込んでしまった。

「じゃ、こっちも始める?」

「ええ?」

 ティア達は今度はキールの上着を脱がせ始めた。

「えっと、あの……」

「いい加減に観念しなさいよ!」

 ティアがキールに引導を渡している間に、リサーンとサフィーナがキールの服の前を開いた。

 キールもその下には何も着ていない。

 そして彼の股間は正直に、既にはち切れんばかりに膨らんでいた。

「え?」

 それを見てアラーニャが少し動揺する。

 だがアルマーザが後ろから頬を寄せながら囁いた。

「どうしたの? あれ、良かったんですよね?」

「でも……」

「あれよりもっと大きな物が入ったらって思いませんでしたか~?」

「でも……」

「ほら、あれってどう?」

「う……あ……」

 アラーニャの口からよく分からないうめきがあがる。

 それから彼女は振り返ってアルマーザの方を見るが―――アルマーザがその唇を自分の唇で塞いだ。

「うふ で? どうしますか~?」

 アラーニャはちらっと横目でキールの方を見て、それから目を閉じてじっと考え込むようにしていたが、次に目を開けたときには彼女の顔には決意の表情があった。

 アラーニャはキールの方ににじり寄った。

「あの……」

「ああ」

「あの……」

「ああ」

「あの、私、どうでしょう?」

 キールはしばらくぱくぱくと口を開閉していたが、やがて答えた。

「綺麗だ」

 既に赤くなっていたアラーニャが、更に赤くなる。

《やっぱり……変わるのね》

 あの喜びを知ってしまったら、もう娘ではいられない。

 まあ、ちょっと変わった手順ではあったのだが……

 ―――というのは、こうなる以前に今付き添いをしているアルマーザがアラーニャに、女の喜びというのが一体どういう物なのかを実地でじっくりと教え込んでくれていたのだ。

 それはヴェーヌスベルグでは普通のことだった。

 なぜならここでは男と女は一期一会なのだ。それ故に“その一回”は彼女達にとって最高の思い出でなければならなかった。

 もしそれが単に痛かっただけで終わってしまったとしたら、それはあまりにも悲しすぎることではないか。

 だからここヴェーヌスベルグでは予め年配の女が若い娘に女の喜びを教えておいて、男とは初めてでも十分な快楽が得られるようにしていたのだ。

《しかし……》

 キールは呆然としてそんなアラーニャの姿を見つめるばかりだ。

《こいつがこれじゃ進まないんじゃないかしら?》

 そのことは他の女達も感じているようだった。こんな可愛い娘が抱いてくださいと言っているのだ。普通ならどんな男だってケダモノと化すはずなのだが……

《じゃあしょうがない。プランBということで》

 ティア達は互いに目配せをすると、みんなでいきなりわっとキールに取り付いた。

「お、おい!」

 キールが慌てるが多勢に無勢だ。すぐに彼は両手両足を大の字状態で押さえつけられてしまった。

「あんた、彼女の初めての人になってあげるんでしょ?」

 ティアがキールの左手を押さえながら言った。

「でも……ちょっと!」

「えっと……」

 アラーニャがおろおろしている。

「ここよ。ここ!」

 アルマーザが大きく開かれたキールの股の間を指さして言う。

 アラーニャはおずおずとそれに従うと、キールの前に座って―――かちかちになっているキールの物を怖々と見つめた。

「ほら、触ってご覧なさいな」

「え?」

 アラーニャが困ったように四方を見るが―――みんな微笑みながらうなずくばかりだ。

「あの、キール様?」

 キールはまた口をぱくぱくさせたが、やがてうなずいた。

「ああ」

 それを聞いてアラーニャは怖々とキールの物に手を伸ばし―――それから目を閉じるとぎゅっとそれを握りしめた。

「うわああああ!」

 途端にキールが悲鳴を上げた。

「きゃああああ!」

 アラーニャが思わず飛び下がる。

《やば! まさか……》

 だが魔法の暴走は起こらなかった。今までの訓練が効いていたのだろう。

 そんな彼女にアルマーザが言う。

「だめじゃないですか~。あなたのあそこと同じでデリケートなんだから~。もっと優しくしてあげないと~」

「はい……」

 そして今度はそうっと、小さな小鳥を扱うような調子でキールの物を手にしてゆっくりと愛撫し始めた―――


 なんて展開だったわけだが……

「あ、キール様! キール様! キール様! キール様ぁぁ!」

 キールの上でアラーニャが腰を振っている。

「アラーニャ!」

 その言葉と共にキールが果てると、アラーニャは幸せそうにその胸の上に倒れ込んだ。

 キールはそんな彼女のお尻を撫でながら囁く。

「もう一回行くかい?」

「はい」

 それから今度はキールの方が上になると優しく交わり始めた……



「って感じでねえ、もう今じゃあのヘタレだったキールも、女の子の扱いは堂々たるものでね。うふっ」

「………………」

「それにねえ、やっぱ同一人物だけあって、キールも結構すごいのよ。いっぺん一皮むけちゃったら……きゃっ、それって変な意味じゃなくって、それまではもう引っ込み思案で何もできなかったのに、すぐにとっても上手になってね」

 いや、やっぱそれって変な意味だろ?

「キールってね、ほら、すごく研究熱心だから、イルドとはまたいろいろ違ってて……だからあの日だってすぐに手足を押さえてあげてなくてもよくなって……そうそう。縄が一ヶ月取れなかった人と違って

 ティアは意味ありげな笑みを浮かべた。

《縄? いきなり何の話だ?》

 こいつの話の脈絡がよく分からないのはいつものことだが―――フィンは一瞬ぽかんとしてからその意味に思い当たって真っ赤になった。

「何の話だよっ!」

「へっへー! 何だろうね?」

「ありゃアウラが怖がるからああしてただけで、俺はいつだって……だからどうでもいいだろ!」

「お兄ちゃん、優しいんだ!」

「だ・か・ら・どうでもいいだろっ!」

 フィンはそう叫びながらエルセティアの髪の毛をぐしゃぐしゃかき回した。

「きゃーなにするのよ! ひどーい!」

「いいからとっとと続きを話せ!」

 そんなことをしたのは子供のとき以来だが、夜更かししている上に話している内容も内容なので、二人とも妙なテンションになっていた。



「どうしたのよ~。ティア~」

 そんな風にちょっと感慨深げにキールとアラーニャが睦み合うのを見ていると、アーシャが拗ねたような声で囁いた。

「ううん。なんでも」

 ちょっと感慨のあまり、少々手の方がお留守になっていたようだ。

「焼けるの?」

「違うって」

 ティアは再びアーシャの中をくりくりっとまさぐる。

「あん!」

 アーシャは喘ぎながら、今度はお返しとばかりにティアの茂みに指を伸ばす。

「あ!」

 敏感なところを触られて思わず声が出てしまう。

 ティアももう色々と体が火照ってきていて、ちょっとした刺激でも感じてしまうようになっている。

 アーシャはそんなティアを見て、体を起こすと再びじっくりと唇を重ねてきた。肌と肌の触れあう感触が心地よい……

 そうやってしばらくぼうっと抱き合っていると、アラーニャとキールの喘ぎ声が急に断続的になってきて、やがて二人は同時に叫ぶとくったりしてしまった。

「いつも一緒ね」

 アーシャがちょっと羨ましそうに言う。

「そうね」

 本当にこの二人は、何だかんだで息がぴったりというか……

 やがてキールが体を起こすと、アラーニャに優しくキスをしてからあたりを見回した。

「次は?」

「あたしよ」

 そう言ってアーシャがティアから離れてキールににじり寄る。

 うーむ。もうちょっと彼女と色々していたかったが、ここでさすがにそういう我が儘を言うわけにはいかない。

「じゃあ……」

 そういうとキールの体がむくむくと動き始めて―――再びイルドが現れた。

 体が落ち着くとすぐにアーシャはぴったりとイルドに抱きついてキスを交わした。

《うーむ。これまた長いのよね》

 ティアは一人取り残されて手持ちぶさたになってしまった。

 少し離れたところではマウーナとアルマーザが絡み合っているが、邪魔しても悪かろうし……

 そこでティアは幸せそうに横たわっているアラーニャにすり寄っていった。

「何ですかあ?」

 とろんとした目でアラーニャが言う。

 うむ。幸せそうな顔をしおって!

 ティアは黙ってアラーニャのお尻を撫でる。ふにふにしていていい感触だ。

「ちょっと、やめてください~」

 アラーニャが恥ずかしそうにお尻を隠す。ティアは微笑みながらアラーニャに覆い被さった。

「アラーニャちゃん。遊ぼうかあ!」

 そう言いながらティアはアラーニャのほっぺたをぺろぺろ舐める。

「もう。ティア様ったら……」

 そのときだ。

 後ろから誰かがティアのお尻をつついたのだ。

「きゃん!」

 ティアは慌てて後ろを見るが―――そこには空中に一本の羽箒が浮かんでいるだけだ。

 見るとアラーニャがちょっと小悪魔的な笑みを浮かべながら自分のおっぱいを触っている。

 羽箒はふわっと動くとティアのお尻をつんつん突つき始めた。

「きゃ! やだ! ああ!」

 ティアがその羽箒から逃れようとすると、今度はそれは前に回ってティアの胸をくすぐり始める。

「ちょっとぉ~!」

 だがいくら追い払ってもそれはしつこくティアの体にまとわりついてくる。

「だから、やめてって……きゃん」

 胸とかお尻だけでなく今度はあの部分にまで―――思わずティアは前を押さえてうずくまった。

「遊ぼって言ったの、ティア様ですよ~?」

 アラーニャも最近は随分悪い子になってきている。

「もう!」

 彼女の技には最近更に磨きがかかってきていた。

 前はもっとぱさぱさとくすぐるだけだったのが、今では敏感なところに触れるか触れないかといった絶妙の距離感を制御できるようになっているのだ。

 それを見て隣で睦み合っていたアルマーザとマウーナがやってきた。

「あ、ティア、一人でなんてずるい! あたし達にも~!」

「三人も一緒なんて無理ですよ~」

 とか言いながらアラーニャは羽箒を三本浮かび上がらせた。

 次の瞬間おのおのの羽箒がティアとアルマーザとマウーナに襲いかかる。

「きゃああああ!」

「やだ!」

 三人がきゃーきゃー言いながら箒から逃げ回る。

 これは最近のみんなのお気に入りの遊びになっていた。

 ひとしきり逃げ回っていい加減疲れてくると第二ラウンドだ。

 ティアはマウーナと目配せすると、がっとアルマーザを両方から捕まえる。そのまま彼女を膝立ちさせると耳元で囁いた。

「ふっふっふ。観念なさい?」

「や~ですよ~」

 そう言いながらアルマーザは明らかに期待のこもった眼差しをアラーニャに向ける。

「ふふ。やっちゃいなさい。アラーニャ」

「はいっ!」

 途端に羽箒が三本浮かび上がるとアルマーザの周囲を、まるで彼女の色々な場所を虎視眈々と狙うかのように飛び回り始める。アルマーザはそれを目で追いながら、それだけで興奮してきている。

 だが羽箒はアルマーザの体に触れそうで触れない距離をキープし続ける。

「あん。焦らさないでくださいって、もう……」

 それを聞いてアラーニャがにっこり笑ったかと思うと、羽箒の二本がおもむろに両乳首を、残りの一本がお尻から割れ目のあたりをくすぐり始めた。

「あ!」

 思わずアルマーザはのけぞるが、ティアとマウーナが両脇をしっかり固めているからそれ以上簡単には動けない。

「やだ、あ、いい!」

「いいの~? 嫌なの~? どっちなの~?」

 ティアがそんなことを囁きながらそっと耳たぶを噛んでやる。マウーナもお臍のあたりをこちょこちょとくすぐっている。

 そこに飛んできた羽箒が前の最も敏感な部分に触れると―――既にもう十分興奮しきっていた体だ。彼女は何度かのけぞるとティアとマウーナを振り切って、大の字に伸びてしまった。

 羽箒が残念そうにお腹の上で踊り始める。

「だからもうだめです~!」

 アルマーザがそれを払いのけながら言うが……

「ああ? だめなのか?」

 イルドの声だ。見るとくったりしたアーシャの横でイルドがにやにやしながらこちらを見ている。

「だめじゃないですって~」

 アルマーザはそう叫ぶが、息も絶え絶えだ。

「いや~、体は大事にしろよ」

 イルドがにやにや笑いで言う。そんな顔で大事にしろとか言われても何の説得力もないが……

「とにかく変わってやんなさいよ」

「へいへい」

 ティアの言葉にイルドは一見不承不承そうに変身を始めた。

「おーい! アルマーザ!」

 マウーナが彼女を呼ぶが、

「いま行きます~」

 と言いつつアルマーザは動かない。

「大丈夫ですか~?」

 アラーニャもちょっと心配そうだ。

「大丈夫ですって~」

 そうは言うが―――結構腰が抜けてないか? アラーニャちゃん、ちょっとやりすぎかも……

 そこでティアはアラーニャに言った。

「しょうがない。手伝ってあげよっか」

「はい」

 これでできなかったとか言ったら可哀相すぎる。

 アラーニャはぺたんと座り込むと、おっぱいを支えて意識を集中した。

 するとふわっとアルマーザの体が浮かび上がった。

「ちょっと! なんですか? あれ? やだ……」

 アルマーザが青くなる。

「あれ? 初めてだったっけ?」

 ティアの言葉にアルマーザはますます慌てた。

「初めて? 初めてってなに?」

 色々な子にしてあげているから、誰にしてあげたかなんて一々思い出せない。彼女はアラーニャの大の仲良しだから、とっくの昔にしてあげてたと思っていたが……

「大丈夫だって。だめよ。暴れたら」

「でもこれって……」

「いいから……あ、ほら、マウーナ、そっちを」

「分かったわ

 マウーナはアラーニャの意図を把握しているようで、彼女はキールをマットレスの上に寝かせると彼のモノを愛撫して大きくしてやった。

 次いで彼女はそれが垂直に上を向くように根っこを持って固定する。

「あ、だから……」

 アルマーザの体が空中でくるっと回転すると、見えない力でMの字型に脚が開かれた。

「だから~」

 アルマーザの体はすうっとキールのそそり立っているモノの真上に漂っていくと、そこからゆっくりと降下を始めた。

「あ、えっと、あの、あ~っ!」

 一部がアルマーザの中に入ってしまえば、もうマウーナが押さえている必要はない。

「え? ちょっと……」

 半分くらい入ってしまったところで彼女の降下が止まると、今度はゆっくりと上下を始める。

「あん、だから……」

 更に今度は彼女の体がそのまま回転し始めた。

「あーっ、なに~? これ~……」

 こればっかりはアラーニャがいないとちょっと無理なプレイで―――いやあ、何度見ても驚きだ。というか笑えてくるが―――いやしかし、前は回り始めたら上下運動は止まっていたと思うが、今回は止まってないし……

 見るとアラーニャは真剣な面持ちでアルマーザの動きを―――おっぱいで操作している。

 その様子を見ながらマウーナが言った。

「あー、アラーニャちゃんの魔法のおっぱい、あたしも欲しいな」

 そう言いながら彼女のいつもの癖でアラーニャの脇を突っつくが……

「きゃはうっ!」

 途端にアルマーザが落下しておかしな悲鳴を上げた。

「あ、大丈夫ですか」

「だめでしょ! 危ないじゃない」

「ああ、ごめーん」

 ―――という感じで彼女はもうヴェーヌスベルグの人気者なのだった。



「………………」

「いや~、アラーニャちゃんって本当に努力家でね。しかも向上心もすごくてね。ニフレディル様にも褒められてたし」

 いや、確かに本当にすごいのだが……

 魔法というのは対象をきっちりと認識していないとうまくいかないが、それはすなわち、複数の物を同時に扱うのは非常に難しいことを意味している。

 例えば二つの物を同時に動かそうとすると、両方に同じように意識を集中しなければならないわけだが、当然そうしようとしてもたいていはどちらかに意識が行ってしまって、もう片方がおろそかになる。

 当然おろそかになった方は魔法の対象からはずれてしまう。

 ニフレディル様は都でもトップクラスの大魔導師なのだが、彼女は七つの物体を独立して操作できるとして尊敬を受けているのだ。

 もちろんフィンはそもそも念動の魔法が使えないし、火の玉も一度に一つしか出せない。

《それを先輩魔導師の誘導もなしに自力でそこまで?》

 本当に感服すべき才能だ。

 だが……

「あの絶妙のくすぐり方って、もう神業の域なのよね。えへへっ

「………………」

 まさに才能の無駄遣いだった。



 やがてキールの上でアルマーザも逝ってしまった。

 これで四人。残るはティア一人だ。

 キールはぐったりしているアルマーザをアラーニャに託すと、またむくむくと変身を始める。その面立ちからまた知性のかけらがなくなると……

「へっへっへ」

 イルドが嫌らしい笑いを浮かべながらティアににじり寄ってきた。

「なによ」

「後はお前だけなんだろ? な?」

「だったらどうなのよ?」

 イルドはそれには答えず、いきなりティアをがばっと抱きしめると、いきなり強烈なキスをかましてきた。

「んあおおんんんあ!」

 ティアはイルドから体を引き離そうとするが、こいつは馬鹿なだけに力は強い。

「おあ! いいあえいあい!」

 イルドはばたばたするティアをそのままマットレスの上に押し倒すと、ぐいとティアの両足を広げてそのまま一気に割り込んできた。

「こらあ!」

 ティアはその背中をがんがん叩くがイルドは全く気にもとめずに、次の瞬間にはずぶりと刺し貫かれていた。

「あああ!」

 これまでの色々な絡みでティアの体ももう十分準備はできているとはいえ……

「だから……あ! あ! あ!」

 イルドはいきなりパワー全開でティアを突き上げてくる。

「もっと……あ! あ! やさ……しく……あ! あ! なん……あ!」

 などと言っても全く聞く耳持たずだ。

《どうしてあたしのときだけこんなケダモノに……》

 などと思いつつも、もう体の方がいろいろと反応してしまっていて、下半身は溶けてしまったみたいだし、頭の中は真っ白だし。

「ほら、あ! あ!」

 そんな叫び声と共に熱い物が注ぎ込まれるのを感じて―――同時に哮り狂う快感のあまり一瞬意識が飛んでしまったようだ。

 気づくとイルドが覆い被さって彼女の頬を舐めている。

「んーっ!」

 ティアは荒い息をしながらイルドの背中を引っ掻いた。

「いててて!」

 さっき逝ったとき思いっきり爪を立てたらしくて、既に背中は血だらけだが―――ざまをみろ。まあ、こいつの場合すぐ治るからどうでも良いが。

「だから、どうしてもっと優しくしないのよ。いつもいつも……」

 だがイルドはそんなことは聞いてはいない。

「まだいくよな?」

「だから……」

 イルドはティアの意見には全くお構いなしに、今度は彼女をうつぶせにして腰を持ち上げると、やにわに後ろから貫いてきた。

「ああああ!」

 腰から背中に電気みたいな物が走って、反射的に体がのけぞってしまう。

「だから……どうして……って!」

 もうその先は意識が朦朧としていて今ひとつ記憶が定かでないが……

 気づいたら汗びっしょりでイルドぎゅっと抱き合っていた。

「どうだったよ?」

「だから、どうしていつも言うこと聞かないのよ……」

「お前は俺の女だからな」

「勝手なこと、いうな!」

 そう言ってティアはイルドの背中をつねる。

「いて! このやろ」

 イルドがティアのおっぱいをつねり返す。

「痛いじゃないのよ!」

 そう言った口がイルドの口で塞がれる。

「ん! ん……」

 ティアは目を閉じた。イルドが耳元にキスしてくる感触が……

《この……バカが……》

 一体彼女を何だと思っているんだ? 一時は皇太子妃だったんだぞ?

 今だって大皇后の一番の親友で、ジアーナ屋敷の当主で―――それがこんな所で、こんな奴に、こんな風におもちゃみたいに扱われて……

 それなのにどうしてこんな得も言われぬ幸せを感じるのだろうか?

 相手はこんなケダモノだというのに……


《もしかして、これって……魔法?》



《こいつ、いっぺん殺した方がいいか?》

 フィンはそろそろ殺意が湧いてきていた。

 それまでの部分であれば、一応ヴェーヌスベルグの風俗習慣とかアラーニャの成長とかそんなテーマを見いだすことも可能だったが、最後のこりゃ何だ? 身も蓋もないただのノロケ話だろうが!

 確かにだ。そんな環境にいれば羞恥心という物をどこかに置き忘れて来るかもしれないが―――いくら何でもちょっと度を超してないか? それともフィンは女に幻想を見過ぎてるのだろうか?

「あのさ」

 フィンはじっとりとした目でエルセティアを見ながら言った。

「なによ?」

「お前、ヴェーヌスベルグでそういうことばっかしてたの?」

「だって、田舎だし。他にすることないし」

 ………………

 …………

 ……

 ってか、フィンがレイモンからアロザールにまで流されてリアルな生命の危機に必死で立ち向かっていた間、おっぱいまみれでやりまくってたのはこいつの方じゃないか!

《ここは怒っていいよな? いいところなんだよな?》

 と、もう少しでわめき立てそうになったところを、フィンは最後の精神力で押さえ込んだ。

 そう。そんなことしたら、それは間違いなくこいつと同レベルに降りることなのだ。

 人間、誇りを失ったら終わりなのだから……

 そしてフィンは大きくため息をつくと尋ねた。

「でさ、この話って、ヴェーヌスベルグの呪いとなんか関係あるのか?」

「もちろんよ! だからこれから話そうとしてたんじゃない」

 本当かよ? と思ったが、もう今ので気力をほとんど使い果たしていたので、フィンは黙って話を聞いた。



 一夜明けて天幕には朝日が差し込んでいる。

 すがすがしい朝だが、まだ昨夜の余韻が残っている感じで体がだるい。

《ん~、もうちょっと寝ようかな……》

 そのとき彼女との隣でもぞもぞと誰かが動く感触がした。

「ん?」

 薄目を開けてみると、彼女の横でキールが上半身を起こしている。

「おはよ!」

「ああ。起こしちゃったか」

 キールはティアの髪を撫でた。

「どうしたの?」

「いや、ちょっと考えててね」

「考える? 何を?」

「いや、ほら、もうすぐ二周目だろ?」

「ああ? そうね」

「だから、ちょっと一段落してもいいかなって思ってね」

「え? どういうこと?」

「いつまでもこんなこと、続けてられないだろ?」

 そう言ってキールは辺りを見回した。

 反対側にはアラーニャがすやすや眠っている。

 その向こうにはアーシャ、アルマーザ、マウーナが三角形になって寝ている。

 みんなもちろん素っ裸だ。

「え? まあ、そうだけど……」

 うーむ。決してティア的にはこういうことは嫌いではなかったりするのだが―――まあ、確かに、一般的にはこれって少々特異な風俗習慣と言えるだろうか? でも……

「だからこの機会にほら、前言ってたあそこに行ってみようかと」

「え? 前言っていたあそこって、あの……呪われた山?」

「ああ」

「でも……」

「あそこが全ての始まりなんだろ?」

「うん……みんなそう言うけど……」

 呪われた山―――そこがヴェーヌスベルグの呪いの発祥の地だという。

 女達はその場所をひどく怖がっていて、詳しい話はあまり聞けていないのだが……

「確かに危険はあるかもしれない。でも君もいいのか? ここでずっとこうやって暮らしてくので? 僕たちはこんなことをするためにオアシスを出てきたんじゃないだろ?」

 それを言われるとさすがに反論はできないが……

「え? まあ、そりゃそうよ。でも……そこに行けば本当に何とかなるの?」

「分からない。でもまずは行ってみないと始まらないだろ?」

「ええ、まあ……」

 この件についてはキールと何度か話したことがあったが……

「それにこれは帰って来られないような旅でもないし。とりあえず行くだけ行って、それでダメならそのときにまた考えればいいだろ?」

 何かそういう考え方って結構イルドっぽいところがあるが。

 いずれにしてティアに特に反対すべき理由はなかった。

「そうよね。分かったわ。でも……」

 アラーニャの意見も聞かなければと言おうとしたときだ。キールの背後から声がした。

「私も賛成です」

 アラーニャが体を起こしていた。

「起きてたの?」

「うとうとしてたんで……でも私も賛成です」

「じゃ、まあ、決まりね」

「でも詳しい道とか分かるんですか?」

 アラーニャに尋ねられてキールは首を振る。

「いや、それはもうちょっと聞き出さないと……」

「そうよね。結構みんな口堅いし」

 そんなことを話していると、他の女達も目を覚ましたようだ。

「どうしたの?」

 マウーナの問いにティアは答えた。

「あ、ちょっとみんなで話してて。二周目が終わったら、ちょっと呪われた山まで行ってみようかな~って」

 途端にヴェーヌスベルグの女達は飛び上がった。

「えええ?」

「本当?」

「ちょっと、本気?」

 そう言ってアーシャがにじり寄ってくる。

 彼女の手を取るとティアはうなずいた。

「だって呪い、どうにかしたいんでしょ?」

「それはそうだけど……」

 アーシャはうなずいた。

「で、呪いの始まりがそこなんでしょ?」

「ん、まあ……」

「じゃあまず行ってみないと分からないじゃない」

「そうだけど……」

「それにみんな怖い怖いっていうけど、じゃあ何が怖いって聞いたら誰も知らないし」

 そう言ってティアは女達の顔を見る。

 彼女達は顔を見合わせた。

「そうだけど……」

「だからね、ちょっと見てくるだけだって」

 女達はまた互いに顔を見合わせる。

 それを見てキールが尋ねた。

「別に行ってはならないという掟があるわけじゃないんだろ?」

「それは、まあ、そうだけど……」

 女達は口々に引き留めようとし出したが、ティア達の心は決まっていた。

 呪われた山はヴェーヌスベルグから西へ数日ほどの所にあるらしい。しかも道もはっきりしているという。

《それであの砂漠の旅よりひどいことになるなんて、考えられないし!》

 最悪の体験というのは二度としたくない物であるが、逆にあれよりひどいことなんてないだろうと勇気を与えてくれることもあるのだ。



 ……

 …………

 えーっと……

「で、その“呪われた山”に行ったんだな?」

「うん」

「でさ、その話にこんだけの前振り、どういう意味があったんだ?」

「だ~か~ら、順番に話すって言ったじゃない」

「順番って……」

「順番でしょ?」

 ………………

 あ、あ、あのなあ。このガキは……

《順番に話すって言葉の意味分かってるのか?》

 普通はな、順番に話すって言ったらな、あることを理解するために必要な前提から順番に話すことを言うんだろ? これって単に前夜からの時系列になってるだけじゃないか!

「何よ? 結構喜んで聞いてたくせに!」

「そりゃ興味ない話じゃないが……」

「じゃあいいじゃない!」

 良くないだろ!

「だからそれとこれとは……」

「うるさいわねえ。いちいちいちいち細かいことをぐちゃぐちゃと。あたしが命がけで呪われた山に行こうとしてるときに、人の揚げ足取りながら、メイド奴隷さんといちゃつける生活って本当に天国よね!」

 ああ、もう意味分かんないんだが―――大体細かくないだろ? こいつのアホなノロケ話で何時間ロスしてると思ってんだ? もう朝方が近いだろ?―――ってか、未だにメイド奴隷で突っ込めるこいつの神経、一体何でできてるんだよ……