第4章 危険な川遊び
メイはハビタルの町をとぼとぼと足取りも重く歩いていた。
「はあ……」
先ほどから何回ため息が出て来ただろうか?
《うー……毎回断ってばかりで……愛想尽かされちゃうかな、もう……》
思わずそう思って、ぷるぷると首をふる。
《だーかーら、愛想も何もまだ始まってもないじゃないのっ!》
リザールとの関係は魔導大学で親切にしてもらった以上でも以下でもない。一度彼の家までドライブしたというだけで、確かに今度二人でじっくり過ごそうって話にはなっているが、いつまで経ってもその機会がやってこないわけで……
《うー……こっちに来たら暇になるって思ったのに……》
確かに大学のような時間割はなくなった。しかしこちらに帰ればエルミーラ王女の侍女という役割があるわけで、王女が忙しければ彼女もまた忙しいのだ。
王女自身もぼやいていたのだが、彼女が冬の間は視察で不在だったため、面会を希望する多種多様な人々が引きも切らせずやってくるのだ。
《それにアウラ様までお忙しいし……》
王女だけでなく、彼女に対する面会希望者も多かった。いつもの様子を見ているとすぐ忘れてしまうのだが、彼女は建前上は王女の従姉妹に当たり、ベラのフェレントム一族の一員なのだ。
しかも彼女の養い親ガルブレスはロムルースの伯父であり、もし位を返上しなければベラの国長となっていた人物だ。
するとベラ国長の継承ルールでは、彼女が長の血族の誰かと結婚して男子を産んだとしたら、その子には長の継承権が生じるのだ。しかもその順位はロムルースの息子の次だったりする。
そんなわけでアウラの元にもどうかすると下心見え見えでやってくる者が多かったのだ。
だが彼女はケンカには強くても、そういった策謀にはからきし弱い。だからオブザーバーとして王女やナーザがついていなければならなかった。
もちろんそんなときにも侍女の仕事はいろいろあるわけで……
《なんかお昼にちょこっと会えただけなのよね……》
大学のときにはとりあえず昼休みになら会えていたのだが、そのときより遙かに会える頻度は減ってしまっていた。
だがストレスが貯まっていたのはメイだけではなかった。
―――その夜、退屈な会見から戻ってきた王女が宣言した。
「行くわよーっ。今週末は!」
「行かれるって、どちらにですか?」
グルナの問いに王女がキリッと答える。
「マルデアモールよっ!」
その場には王女の他に、アウラ、グルナ、リモン、コルネ、そしてメイがいたのだが、さすがに聞いた全員が言葉を失った。
「……あの、こちらでいらっしゃるのですか?」
グルナの問いももっともだ。フォレスならともかく、ここはベラだ。色々と差し支えがあったりはしないのだろうか?
だが王女は平然としている。
「もちろん! それにそこってアウラのお友達がいるんでしょ? 会いたくない?」
言われたアウラも驚いた表情だが……
「パサデラ? うん、会いたいけど……でも予約入ってないかしら?」
何だか微妙に論点が違わないか?
「だったら割りこんででも! じゃなきゃこっちが干上がっちゃうわ!」
そういうことをしていいのだろうか? ってか、干上がるって……
などと問題点は山積なのだが―――ともかくそんな調子で王女は強引に息抜きに行くことを決めてしまったのだった。
「でもそうすると私たちはいつもどおり、お休みってことでいいんですか?」
コルネが尋ねた。王女が息抜きで外泊される夜は、侍女達は全員ゆっくり休んでいいことになっている。
「もちろんそうだけど?」
王女は当然とうなずいた。
「うわー」
王女付き侍女というものはその性質上、全員が同時に休めることは滅多にない。だからその日は彼女たちにとっても秘かな楽しみであった。
「それじゃね」
「はい。おやすみなさい」
王女とアウラが自室に戻っていった後、残された侍女四人が顔をつきあわせていた。
「じゃ、みんなどうする? この間メイが言ってた美味しいお店、行ってみない?」
コルネのそんな言葉に……
「あ、いいわね」
リモンが即座にうなずいた。
「もちろんメイは来るとして、グルナさんは?」
「……まあ、どうしましょう……でも、やっぱりみんなで行ってらっしゃいな」
「え? どうしてですか?」
メイが思わず尋ねるが、そこにコルネが耳打ちする。
『ダメよ。邪魔しちゃ』
『え?』
『だからグルナさん、セリウスさんと一緒にいたいのよ』
「えーっ?」
思わずメイは声をあげてしまったが……
「なーに?」
グルナがニコニコしながらメイを見る。
「いえ、何でもないです。どうぞごゆっくりー」
何と―――こちらもこんなことになっていたのか……
「えっと、そこって三人くらいなら行ってすぐ入れる? 予約しといた方がいいかしら?」
コルネはメイも一緒に来ると信じているようだが―――メイは少し考えてから首をふった。
「あ、あたしもちょっと今回は……」
「は?」
「だから、行けないかなーって」
………………
…………
……
何よ? その間は? と、思った瞬間だ。
「もしかしてメイちゃんも……お泊まり?」
コルネが目尻を垂らしながら言った。
ぷはっ!
思わずメイは吹きだした。気づくと全員の視線が彼女に集まっている。
「ど、どーしてそうなるかなあ?」
だがコルネはさらに目尻を垂らして続ける。
「だって……メイちゃん、帰ってからお茶飲んでるじゃない」
ぷはっ!
「お茶って……女の子の?」
思わずリモンが尋ねるが……
「そうなんですよ?」
コルネの答えに、再び全員の視線がメイに集まった。
女の子のお茶―――正式名称は黄緑茶というのだが、これを飲んでいるとHなことをしても子供ができないという効果があって……
「これまで不味いからって飲んでなかったのに……」
人のやることをコソコソのぞき見していたのか? こいつは……
「別に、そんなの乙女のたしなみでしょっ。あんただって前から飲んでるくせに」
「そりゃお仕事中にお腹が痛くなったら困るからでーす」
「へえ? 闇のプリンス様がいつ来られてもいいように、じゃなかったの?」
「な、な、なによ! それ。知らない」
コルネはごまかそうとしたが……
「あ、覚えてる。それ」
リモンがしれっと口を挟んだ。
「リモンさーん」
あはははは。
この小娘は自爆ネタならいくらでも持っているのだ。だがリモンは……
「それで、お相手ってリザールさん?」
こちらはいきなり核心を突いてくるのだった。
ぷはっ!
「だったらなんでしょう?」
「まあ、この子ったら開き直ったわ」
コルネがまた勢いづきやがる。
「だから別に構わないじゃないの」
侍女だって人間だ。フリーの時に異性と付きあうのは自由である。だがその立場上、当然の節度というものが求められるのも否めない。
城に出入りする以上色々な重要人物とも接触するし、王女付きともなればもっと責任重大だ。だから付きあうにしても身元不詳の男などは論外である。
だがその点リザールなら文句なしだ。血筋でいえば王女の再従兄弟に当たる上、留学時代にもお世話になっているし、彼は今こちらに来ていてメイが時々会ってることも周知の事実だ。
だが……
「よくないわーっ! そんなの変よーっ!」
コルネはブルブル首をふる。
「何がよー?」
「だって、メイなのよ?」
「あたしがなによ?」
「もしかしてリザールさんって……どんなに大きくなっても子供のままの子がいいとか?」
「はあああ?」
「女の子ができたらパパに注意しないとだめになっちゃうの?」
あのなあ……
「リザールさんを変態みたいに言わないで下さい!」
「ええ? でもだったらどうして?」
このガキは……
「だから……ありのままのあたしを見てくれたとか」
………………
…………
言ってて自分もちょっと恥ずかしかったが―――みんなその間は何なのよ?
「じゃなきゃ、お料理が上手だからとか」
途端にコルネが大きくうなずいた。
「あああ! それかあ!」
ってか、何でみんなまで納得してるんですか?
「メイったら厨房に入ったのは実はそういうわけだったんだ」
「はあ?」
「正攻法じゃ無理だから、お料理で玉の輿に乗ろうって思ったのね? なんて悪賢い……」
こいつ、言うに事欠いてなんて事を。玉の輿だ? 誰がそんな―――と言い返そうとして、はたと思いあたる。
リザールの実家は小領主とはいえ、メイの家なんかよりも遙かに金持ちだ。しかもフォレス王家の血筋にあたるのだが、何の取り柄もない娘がそんな家に嫁ぐということを、玉の輿に乗ると言うのではないだろうか?
《でえええええ、気づいてなかった……》
いや、さすがに自分でも、なんだかこれは迂闊すぎだったのではないか?
こうなったら……
「は? あんただって人のこと言えないでしょ? 王女様付きになったとき、これで玉の輿に乗れるーって大喜びしてたじゃない」
「なにそれ。知らなーい」
こいつ、とぼけやがって―――あの後、騙されたってびーびー泣いてたくせに……
「ふっ。じゃあまあ、一生闇のプリンス様でも待ってればいいわ。あたしはお先に行かせてもらうから うふふっ」
「あーっ、ひどいーっ! 裏切り者ーっ!」
何を裏切ったってのよ? 本音が出たな? こいつは……
「二人とも、もういい加減にしなさい!」
と、そこに割って入ったのがグルナだった。
「メイ? もちろん分かってると思うけど、私たちは王女様付きです」
「はい」
「だったら節度を持って交際するのを忘れないように。分かりますね」
「はい。もちろんです」
「コルネにもそのうち素敵な人ができますから。今はメイちゃんを祝ってあげなさい」
「うー…………はい……」
グルナにニコニコしながらそう言われては、コルネもそれ以上何も言えなかった―――
というわけでメイはリザールとやっと二人でゆっくりできそうになっていた。
だが彼女には何かの呪いがかかっていたのだろうか? そこに割りこんできたのが……
『まあ、メイ。すごいわよ? イービス王女様からあなたにお手紙が来たわよ?』
と、王女が持ってきたその手紙には、留学中にひとかたならぬお世話になったため、せめてのものお礼として一席設けたいと書かれていた。
《いや、実際確かにお世話したのは間違いないけど……》
そこにはさらにエルミーラ王女やその従姉妹のアウラなどにもお目にかかってみたいと書かれている。
フォレス王国とサルトス王国は遠隔の地ということもあって、あまり関係が深くない。だとすればお互いにとってこれは親交を深める大チャンスである―――のはいいのだが、王女やアウラには抜けられない予定がいろいろあった。するとこのために例の息抜きの日を潰すしかなかったのである。
メイは少々のことなら抜けさせてもらおうと思っていたのだが、今回はメイのお名指し―――主賓である。出ないわけにはいかない。すなわち、またまたリザールとの約束を破らざるを得なくなってしまったのである。
彼女がハビタルの町を鬱々と歩いていたのは、そのことを告げに行く途中だったからだ。
「はああ……」
こんな調子で自分のテンションも上げていたせいで、前以上に断るのが気が重い。
《さすがに……怒るわよねえ……》
これでもう何度目だろう? 分かった。もういいよ、なんてことになってしまったら……
《うわああ……》
おまけにコルネに言われた玉の輿云々の話が、想像以上のダメージとなっていた。
《だってどう考えても釣り合わないんだし……》
メイがリザールに相手してもらえた理由といえばもう、エルミーラ王女の紹介があったからとしか言いようがない。だがリザールと結婚したりしたら、王女との関係は切れてしまう。
だとしたら彼女に何が残る?
正直、容姿なんてのはまさにお話にならないし……
《料理……なんて一般論だし》
考えれば考えるほど落ちこんできてしまう。
だがここで立ち止まるわけにはいかない―――メイは足取り重く歩き続けた。
リザールの伯母さんの家は、住所は聞いていたが来るのは今回が初めてだった。
《この辺かなあ……》
メイはうらさびれた雰囲気の古い家が多い一角にやってきた。
「あ、ここか……」
そこは屋敷と言うほどには大きくはなく、庭は広いが何かちょっと荒れた感じだった。
だが今のメイにそんなことを気にしている余裕はない。
彼女が玄関に来て呼び鈴を鳴らすと、中から三十過ぎくらいの女性が出て来た。
「え? あなたは……」
その女性はメイの姿を見て驚いたようすだ。
「すみません。メイといいますが、リザールさんはいらっしゃいますか?」
「どうしてこちらに?」
「いえ、そのまた、ちょっと……」
「どうぞお入り下さいな」
「ありがとうございます……」
メイが彼女について中に入ると、額のハゲ方にちょっと特徴がある、四十過ぎくらいの男性が通りがかった。伯母さんの旦那さんだろう。
「あ、すみません。お邪魔します」
「あ、いや、いらっしゃい」
旦那さんは何か急いでいる様子で、そそくさと立ち去っていった。
それから彼女が応接間に通されると、すぐに慌てたようすでリザールがやってくる。
「どうしたんだい? メイちゃん」
「それがそのー……」
「もしかして、また?」
「はあ……今度はイービス王女様で……」
「……あはははは!」
リザールも笑うしかないようだ。
「ほら、王女様にお夜食を作って差し上げたって話はしましたよね」
「ああ……」
「そのお礼にってことで、エストラテの川船を用意して下さるそうで……夜はサルトス領事館にも招かれてまして……しかも招待状が私の名指しなんで、どうにも抜けられなくって……」
「お名指し? そりゃ……抜けられないね……ははは。というか、外国の王女様からのお名指しなんて、それこそ名誉じゃないか?」
「まあそうなんですが……」
「じゃあ仕方ないさ」
またリザールは怒らなかった。
だがその優しい答えに、メイの中で何かがぷつんと切れた。
「あの、リザールさん、それでいいんですか?」
「え?」
「もう、ずっとすれ違いばかりだし、秘書官になんかなったらもっと時間が取れないのは間違いないし……」
「え、ああ……」
「だから……だから……」
もしリザールが望むのならば、秘書官になるのを諦めたって構わない―――彼女はそう続けようとしたが……
「………………」
口から言葉が出てこない。
そのことはずっと頭の中をぐるぐる回り続けていた。
だがそうすると今度は彼女がエルミーラ王女の期待を裏切ってしまうことになるのだ。
そもそも彼女が彼と出会えたのは王女がいたからだ。
王女はメイを見込んで秘書官に取りたてたり勉強をさせたりしてくれた。
そのための費用だってずいぶんかかったに違いない。それなら一生懸命働いて返すしかないが―――そんな借金はリザールには関わりあいのない話なのだし……
そして……
《そもそもどうして私を?》
あのときコルネにからかわれた話は、まさに当を得ていた。
メイは王女というバックがなければ、リザールとは全く釣り合わない娘なのだ。
彼女がリザールと結婚するメリットはあっても、その逆のメリットはない。
そんな彼女をどうして彼が望むことがあるのだろう?
―――そのときだった。
「もしかしてメイちゃん、僕のことを本気で?」
途端にかっと顔が熱くなる。
「えっと……だから……」
そんなメイを見てリザールは微笑んだ。
「僕も君と一緒にいれればいいなって思うんだけど……でもそうなったら秘書官なんてやってられないってことだよね?」
「……え?」
一緒にいれればいい?
だがリザールはメイをじっと見て言った。
「でも、秘書官を諦めるなんてだめだよ? 誰にでもやってくる機会じゃないんだから」
「え?」
「だからやってみて……それでもだめなら、うちに来ればいいさ」
やってみて―――それでもだめならうちに来ればいい?
……だめならうちに来ればいい?
来ればいい?
……
「ありがと!」
反射的に体が動いていた。
気づいたら―――彼女はリザールの首に手を巻いて、思い切り伸び上がって唇を会わせていたのだ。
そして……
ぼしゅっ!
自分がやってしまったことに気がついて、顔から火が噴き出す。
「えとえとえと……」
リザールもびっくりしてメイを見つめている。
「あははは! ども。ごめんなさい。あはは。ともかく、今回は、ちょっとそういうわけなんですけど、でも王女様だからまた息抜きすることもあると思いますから、えっと、あはははは。それじゃーっ!」
メイは逃げるように伯母さんの家を後にした。
川遊びの日は暖かく、とてもいい陽気だった。
《うわー、四月にこんな日があるなんてー……》
山国生まれにとってはほとんど衝撃である。
《まあ、だから夏には半端なく暑くなるんだけど……》
昨夏にフィン達と一緒に魚の買い付けに来たときの思い出が脳裏に浮かびあがる。
《あははー。お水はちゃんと飲まないとねー!》
あれはいろんな意味でひどい体験だった。一応彼女だって年頃の娘なんだから、もうちょっと配慮というものがあっても良かったと思うのだが―――などと考えたらまた色々と落ちこんできそうなので、メイは目の前の光景に意識を集中させた。
一行の乗った屋形船はエストラテの川面を滑るように進んでいる。
船の窓は取り払われていて周囲の景色がよく見える。
このあたりはかなり川幅も広くなっていて、まるで湖の上のようだ。遠くの岸辺には並木が植わっていて、白い花が満開になっている。
《でも、あの船団はちょっと興ざめだけど……》
一行の周囲には武装した兵士や魔導師の乗った護衛船が何隻も浮かんでいるのだ。普段なら王女も大げさだと文句を言うところなのだが、つい最近襲撃を受けたばかりとあっては致し方ない。
そこでメイは船の中を見た。
《うん……やっぱりこれって壮観よね……》
彼女の正面にはテーブルを挟んでエルミーラ王女が、右斜め横のホステスの座にはイービス王女が、左前方には同じくアウラが盛装して並んでいるのだ。王女二人は勿論のこと、アウラも黙って座っていれば二人と全く遜色のない優雅さだ。
しかもその間のテーブル上には、文字通りに見たことのない料理が所狭しと並んでいる。
それもそのはず。この料理はサルトスの王宮から呼び寄せた料理人が特別に作ったものだった。ベラやフォレスではまず滅多に食べられる物ではない。
「メイさんメイさん、どんどん召し上がって下さいな」
左に並んでいるアスリーナが食事を勧めてくる。
「ありがとうございますー」
何というかあちらの料理はこちらよりかなりスパイシーだが、食べているうちに結構癖になってくる。おかげでついつい食べ過ぎそうになってしまうのだが、これはまだまだオードブルだ。メインディッシュまでお腹を空けておかなければ絶対損をする。それだけでなく……
《うーむ……どうやって作るんだろう?》
長年の料理人としての習性がむくむくと頭をもたげてくるのだが、今日はこの宴の主賓だったりする。王女やアスリーナを放置して料理のことばかり尋ねるわけにもいかない。
「でもよかったですねー。昇格できて」
「あは。ありがとございます。本当にメイさんのおかげです。メイさんがいなかったらどうなってたことか……」
今日の彼女は明るい灰色の真新しいローブを身に纏っているが、今までの物と違って襟元に白い縁取りがついている。それが二級魔導師の証なのだ。
「だから大げさですってー」
アスリーナは何だかつやつやしている。試験前のストレスでげっそりしている彼女しか見ていなかったからだろうが、何だかもう別人みたいだ。
そこにイービス王女が口を挟む。
「いえいえ~、リーナさんたら本当にメイさんがいなければ、あと一年かかったかもしれないんですよ~?」
いや、だからそれは王女様があまり彼女の所に出入りしなければ良かったんじゃないかと思うのですが……
それを聞いてエルミーラ王女がうなずいた。
「本当にこの子がお役に立てて良かったですわね」
「そーなんですよ~」
まあともかく結果オーライということで。その辺はあまり突っこまないようにしよう。
そこでメイはアスリーナに尋ねた。
「それはそうとラグーナさんはどうなったんでしょう?」
「ああ、彼女もちゃんと昇格して魔導軍に入れましたよ」
「あ、そうだったんですか」
もう一人の下宿人のラグーナとはほとんど数回しか顔を合わせられなかったが、アスリーナの話の中にはよく出て来ていたので、わりと行く末が気になっていたのだ。
《まあともかく、みんな行く先が決まってよかったわねえ……》
メイの短期留学も優等の修了証をもらえたりして、一応エルミーラ王女の秘書官としての道を着々と進みつつある。のだが……
《本当にいいのかなあ……》
その疑問の雲はいまだに晴れることはない。
リザールもああは言ってくれた。だがこの短期留学というのは、自分の未熟さをただ認識したという結果でしかないのだ。確かに滅多に得られない機会なのだから、やってみたいという気はするのだが……
「ところでメイさんメイさん」
アスリーナが妙な笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「なんでしょう?」
「メイさんには恋人とかはいらっしゃいますか?」
………………
ぷはっ!
「え? いえ、いきなりなんですかーっ?」
「いえ、ほら大学ではお昼休みなんかによく、同じ人とご一緒でしたよね? すごく仲よさそうでしたけど」
え? あれ、見られてたの?
「いえ、あの人はただの知り合いで、大学の中を色々案内してくれてただけなんですけど」
などと言ってごまかせるだろうか? と思ったのだが……
「ああ、やっぱりそうだったんですか。多分そうなんだろうなーと」
アスリーナはあっさりと納得した。
「あの人、他で見かけるときはいつも違った女の人と一緒だったから。わりとモテるみたいで」
えっ?
違った女の人と一緒? いつも?
《それって……》
一瞬、胸がぎゅっと締め付けられるような気がした―――のだが、すぐにその気持ちは消えていった。
《そりゃそうよね……まあ私なんかに本気ってはずないし……》
だからこそ秘書官をやれって勧めてくれたに違いない。メイを失望させずに励ますために……
だとすれば……?
「あはははは。そーなんですよ。色々忙しい中、私に付きあってくれて、本当に感謝してるんですがー」
アスリーナはメイにそんな葛藤があるとも気づかず、にっこり笑う。
「それではメイさんは今、フリーということで?」
「え? まあそういうことになりますが……」
「だったら実は、そんなメイさんに素晴らしい縁談があるのです」
………………
…………
……
「ぶはーっ」
さすがにここは吹きださざるを得なかった。
「ああっ、大丈夫ですか?」
「げほっ、いえ、ってか、いきなり何ですかーっ?」
「いえ、それがですねえ、王女様がメイさんへのお礼はそれがいいんじゃないかなどと言いだされまして……実は王女様には弟君がお二人おられまして、そちらなどはいかがかと」
王女様の弟君?
………………
…………
―――って“王子様”ってことじゃないですかーっ‼
「上のカサドール様は今年十八歳におなりで、お人柄は悪くないんですが、少々脳筋でマッチョといいますか、メイさん、ちょっと華奢ですからねー」
華奢だと何が問題に?
「えっと、あの……」
「下のハラン様はまだ十三歳なんでちょっとお姉さんになってしまうんですが、その分好きなように仕込み放題だ、などと申しておりまして……」
仕込むっていったい何を?
メイは慌てて首をふる。
「あの、ちょっとほら、私、ただの庶民ですから、いくらなんでも釣り合わないでしょう?」
だがアスリーナは首をふった。
「その点に関しては王家がバックにあれば何とでもロンダリング可能ですので。ちょっとそこらの貴族の家に養女に入って頂ければ……」
ロンダリングって……
「でもそれってサルトスに行くって事ですよね?」
「もちろんそれは仕方ありませんが……」
「一度行ったら滅多に帰れませんよねえ?」
「まあ、そこは遠隔の地ですし……」
「あはは。やっぱりそのー、お気持ちだけ受け取っておくということでは……」
断ったら角が立たたないかと少々心配だったが―――アスリーナはまたあっさりとうなずいた。
「ですよねー。ほら、王女様、私が言ったとおりじゃありませんか」
「え~? いいアイデアだって思ったんだけど~」
この人のいいアイデアって……
そこにニヤニヤしながらエルミーラ王女が口を挟む。
「あら~? メイちゃん、いいお話しじゃないの? これぞ絵に描いたような玉の輿よ?」
「茶化さないで下さいって。それじゃせっかく勉強したのが無駄になってしまうじゃないですか」
「あら、学費とか下宿代なら後から請求するから大丈夫よ?」
あー、やっぱりそういうつもりだったんだ……
「ともかく私はまだそんなつもりはありませんから」
メイは断言した。すると……
「そう。ありがとう」
エルミーラ王女がにっこりと笑った。
《え?》
その笑顔、どういう意味なんだろう? メイの決意を聞けて嬉しかったということなのだろうか?
メイの胸にちょっと熱い物がこみあげてきた。
《王女様、期待してくれているのかしら……?》
だとすれば……?
そのとき屋形船の開けはなたれた窓の間を、ふわりと爽やかな風が吹きぬけていった。
「いい風ですわねえ」
エルミーラ王女の言葉にイービス王女がうなずきながらアウラの方を見る。
「そ~ですね~……こんな風を~、確か古い言葉で“アウラ”って言うんでしたっけ~?」
それを聞いたアウラがちょっと上気する。
「え? うん。そうみたい」
王女はアウラに微笑んだ。
「アウラ様って~、あのガルブレス様に育てていただいたんですって~?」
「え? あ、はい」
「ガルブレス様って~、こちらでも有名でしたのよ~?」
アウラが驚いたようすで顔を上げる。
「そうなんですか?」
「ええ。御前試合で一度優勝なさってるし~」
「え?」
それを聞いたエルミーラ王女が驚きの声をあげる。
イービス王女は斜め後ろに控えていた護衛の兵士に尋ねた。
「そうよね~?」
護衛はうなずいた。
「はい。あのときは私の師匠と決勝を争いまして、見事にお勝ちになりました。私はまだ幼少でしたが、その試合は目に焼きついております」
「へえ、そうだったんだ」
アウラが目を丸くして答える。
「お聞きになってらっしゃらないのですか~?」
イービス王女の問いに、アウラはうなずいた。
「うん。拾われる前じゃないかな? ブレス、昔のことあまり話さなかったし」
「あのー、御前試合ってあのサルトス御前試合ですか?」
思わずメイは王女に尋ねていた。
「そーですよ~」
「へええ……」
サルトス王国とは強い剣士を輩出することで知られた国だ。そこでは年一回サルトス国王の御前試合が行われる伝統があり、その優勝者はまさに世界一の剣客としての名声が得られるということは、メイでも知っていた。
「まあ、では伯父上って本当に優勝していたのですか……」
「エルミーラ様もご存じなかったんですか~?」
イービス王女がちょっと驚いて尋ねる。
「何しろ母の元にも手紙とかを全く寄こさなかったそうで……私は知りませんでしたわ」
「変わったお方だったんですよね~。優勝とかならもう、あのあたりならどこにでも雇ってもらえたはずなんですが~」
「そういうのが性に合わないから出奔されたのだと思いますが……」
そのときまたイービス王女が先ほどの護衛に尋ねた。
「ああ、でもお師匠の元に手紙が来ていたそうですね~?」
「はい……何年か前、今度の御前試合にはまた行きたいから、しばらく逗留させて欲しいと。おもしろい物を見せてやれるぞ、といった内容で……」
「おもしろいもの?」
エルミーラ王女が軽く首をかしげる。
「それが……結局ガルブレス様はいらっしゃらなかったため……」
「あ……」
アウラが歯を噛みしめてうつむいてしまった。
《それって、ガルブレス様が亡くなる直前ってこと?》
メイもアウラの胸にあるものすごい傷がそのときに付けられたことを知っていた。
そこにイービス王女が言った。
「私が思うに~、それってアウラ様のことだったんじゃないでしょうか~?」
「え?」
「アウラ様って~、ものすごくお強いってお聞きしましたが~?」
「えっと……」
「ええ。本当にフォレスではもう相手をできる人がいないくらいで」
エルミーラ王女の答えにアウラがちょっと顔を赤らめる。
「ミーラったら……」
「本当じゃないの」
それを聞いたイービス王女がまたにこっと笑った。
「まあ~、それでしたらそこのディアリオと一勝負してみませんか~? 御前試合で準決勝まで行ったんですよ~?」
ええ? 御前試合で準決勝?―――ってもう、滅茶苦茶に強いってことなのでは?
ところがアウラはあっさりと答えた。
「え? いいけど? いつ?」
「夕刻に~、領事館の庭とかでどうでしょう~?」
「うん。わかった」
その躊躇の無さにさすがのエルミーラ王女も驚いた。
「え? アウラ、いいの?」
「いいけど?」
………………
アウラの顔には何か見たことのない不思議な笑みが浮かんでいた。ディアリオと呼ばれた護衛も、何やら楽しげな笑みを浮かべている。これって―――二人の間には既に見えない火花が飛んでいるということか?
「あー、分かったわ。存分にやってらっしゃい」
エルミーラ王女が呆れたように言う。
もしかしてこれってすごい試合が見られるということか?
メイはともかく、リモンやロパスが聞いたら大興奮間違いなしだ。
ロパスは護衛船に乗っているが、リモンの方は船首の別卓でグルナやコルネ、ナーザなどと一緒にいる。これは早々に教えてやらねば―――と、メイがふり向いたときだ。
「あれ?」
左前方から向かってくる船の舳先に人が立っているのだが……
《あの額の後退具合って……》
どこかで見た覚えがあるような?―――そう思ってもっとその人をよく見ようとしたときだ。
いきなり船の中から何人かの男が立ちあがった。
途端にアウラが叫ぶ。
「みんな! 伏せて!」
え?
見ると―――立ちあがった男たちはみんな弓を構えていて……
《うわぁ!》
メイが反射的に身を伏せた途端、ひゅんひゅんと風切り音がして上空を矢がかすめて行った。
《えええええ?》
これってもしかして―――襲撃?
だがさすがにこれだけの護衛がいるところを襲撃なんて無謀だろう。
護衛船の方から怒号が聞こえてくる。多分ここでじっとしていれば大丈夫なはずだ―――メイがそう思ったときだった。
向う側の船縁を外から掴む手が見えたのだ。
「えっ?」
次の瞬間、ガバッとそこから上半身裸の男が乗りこんできたのだ。男は船縁を乗りこえると腰に差していたショートソードを抜こうとしたのだが―――乗り込んだ場所が悪かった。
「ウガーッ!」
そこは何とアウラのすぐそばだった。その時には男の片眼にフォークが突きたてられていて、そのままもんどり打って水中に落ちていった―――それとほぼ同時に……
「アギャアアア!」
声の方に目を遣ると、そちらからもう一人入ってこようとした刺客が、イービス王女の護衛ディアリオに一刀両断されていた。
まさに二人とも、アウラなどはあんなドレスを身に纏っていたというのに、目にも留まらぬ早業だった。
《ひいいい……》
メイは腰を抜かしそうになるが……
「あっ!」
アウラの表情が変わる―――と、同時に左の方でがたっと音がした。見ると……
《えええ?》
アスリーナの向こうから、同じように刺客が船縁を乗りこえてくる。
「ひっ!」
それに気づいたアスリーナが驚いて硬直する。だが……
「グアッ」
男がそんな悲鳴を上げてのけぞった。見ると首筋にナイフが刺さっている。投げたのは―――ナーザだ!
「とどめを!」
ディアリオがアウラに自分の剣を投げ渡すと、アウラがそれを華麗にキャッチして、男の胸に深々と突きたてる。
まさに嵐のような一瞬だった―――と思ったときだ。
メイの背後でガタッと音がした。アウラとディアリオの顔色が変わる。
ふり返ると―――何とすぐ後ろから四人目の刺客が入って来たのだ!
ここからだとテーブルを乗りこえたら王女まで一直線だ!
アウラはテーブルの向こうで、ディアリオは今は丸腰で、しかもすぐ側にはイービス王女がいる。
それ以外に近くにいるのは、サルトスの侍女たちだけで……
だとすると?
「だめーっ!」
メイはまさに無我夢中で男の腕にしがみついた。
だが丸太ん棒のようなごっつい腕だ。一振りされただけでメイは床から引っこ抜かれると―――視界がぐるんと反転して、どぼんと冷たい水の中に頭から突っこんでいった。
「……さん、メイさん!」
「メイ! 大丈夫?」
どこかから声が聞こえる。
《えーっと……なんだっけ?》
メイが薄目を開けると、大勢が彼女を見下ろしている。王女にコルネに、アスリーナさんに……
「気がついたみたいですね」
これはナーザの声か?
「メイは?」
エルミーラ王女が尋ねる。
「大丈夫です。すぐに気絶したみたいで、ほとんど水も飲んでいませんでしたから」
えっと……
えっと……?
それからだんだん先ほど起こったことが思い出されてきた。
「えっ……げほっ!」
「無理しちゃダメよ。あなた船から落ちて溺れたんだから」
エルミーラ王女が心配そうに言う。
そうそう。そうだった! だが少なくとも今は息はできる。
「げほっ、だいじょうぶ……です」
「よかったあ」
コルネがメイに抱きついてくるが―――なぜか彼女の服も髪もびしょ濡れだ。
??
「なんであんたまで……」
と、そこでなぜか他のメンバーも、みんな同様に濡れ鼠になっていることに気がついた。
《え?》
さらにやたらと上が明るいことにも気がついた。見ると屋形船の屋根が破れてそこから青空が見えているのだが?
………………
…………
「えと、あの、みなさん……?」
メイの疑問に気づいたエルミーラ王女がおかしそうに笑う。
「アスリーナさんが大活躍なされたんですよ」
「もう、やめてください」
彼女はなぜか真っ赤だ。
「だめですよ~。メイさんにはちゃんとお話ししておかないと~」
そしてイービス王女が今起こったことを話しはじめた。
―――四人目の刺客が乗りこんできた場所からだと、テーブルの向こうのエルミーラ王女がすぐに捉えられてしまう。アウラは位置的にもう間に合わない。そこでディアリオが間に割って入ろうとしたのだが、彼は剣をアウラに渡してしまっていた。
そこで身を呈して刺客の剣を受けようとしたのだが、そのときだ。
「だめーっ!」
メイが勇敢にも刺客の腕にしがみついたのだ。
だがまさに体格的には大人と子供。次の瞬間、彼女は振り飛ばされてエストラテの川面に沈んで行ったのだが―――人々は息を呑んでいる暇もなかった。
刺客がそこからふり返って王女に襲いかかろうとしたときだ。
「なんしょっとかーーーーーっ!」
そんな叫び声と共に、アスリーナが男を突きとばしたのだ。
彼女もそれほど大きな体ではない。そんなことではまさに焼け石に水―――と、誰しもが思っただろう。
ところが次の瞬間……
「ヌアァァァーッ!」
そんな叫び声と共に男はものすごい勢いで吹っ飛んでいくと、ぐるぐる縦に回りながら川面に二回ほどバウンドして、そのままプッカリと浮かんだのである。
一瞬場が沈黙する。
だがアスリーナは真っ青な顔で船縁から上体を乗り出して叫んだ。
「メイさん!」
慌ててナーザやリモンもメイが落ちていった川面を見るが、そこには彼女の姿はなく、小さなあぶくが浮かんでくるだけで……
「メイさん‼」
それはもう絶叫だったが、次の瞬間人々は我が目を疑った。
彼女が両手で何かを持ち上げるような仕草をした途端に―――メイが沈んだあたりの川の水が、ガバーッとまとめて上空に放り上げられたのだ!
その中に人影が見える!
「メイィィ!」
コルネが安堵の叫びを上げた瞬間だ。今度は船がガクッと大きく揺れて、テーブルの上の皿がガシャガシャッと落ちていった。
見るとアスリーナが放り上げた後の水面が大穴になっていて、そこに周囲の水が一挙に流れ込んで大波が起こっている。
「きゃあああ!」
アスリーナがバランスを崩して船縁から落ちそうになるが……
「リーナ! 上! 上!」
イービス王女が金切り声を上げる。
見ると魔法が切れたせいか、放り上げられた水塊が上空で砕けて無数の水滴状になり、メイと一緒に落ちて来ようとしているのだ。
「わーっ!」
アスリーナはそのまま船から飛び上がると、メイを抱きとめて上空に出たが―――その間に残りの水が、屋形船の上にまともに落ちてしまったのだ。
どわっっしゃーんとものすごい水しぶきが上がる。
アスリーナが放り上げた水塊は差し渡し数メートルほどもあって、上空で細かく分かれたものの―――細かいと言ってもまだまだ水滴の一つが二~三十センチはあっただろう。そして屋形船の屋根というものはそれほど丈夫にはできていない。
そんなわけで屋根がぶち破れて、その下のみんなはこのようにびしょ濡れになってしまったのである―――
「いやー、沈まなくてよかったわね~」
「すみません。ほんとうにすみません」
「最後のが一番怖かったわ~」
「すみませんすみません」
「でもお城の壁を飛ばしたときよりはずっと良かったわよ~。あのときはほんとに死ぬかと思ったから~」
あはははは。
イービス王女が怒っているのか褒めているのか今一つよく分からないが、ともかくアスリーナは平謝りだ。
「でも、この急場に見事でしたわ」
ナーザも彼女を褒めるが、その顔は少々引きつりぎみだ。
「リーナさん、パワーだけなら一級クラスなんですよ~? でも扱うのが下手くそで~、すぐやり過ぎちゃうんです~」
彼女が一瞬のうちにメイごと持ち上げた水塊は、多分数十トンにも達するだろう。
「本当にすみません……」
知らない間に何だかすごいことになっていたようだが―――いや正直、気絶していて本当によかった……
「ともかくこれでは帰ってお風呂に入るしかありませんね~」
イービス王女の言葉にエルミーラ王女もうなずいた。
「そうですわねえ……食べるものもこれでは……」
見るとメイが寝かせられていたのはテーブルの上で、その上に乗っていた食事はみんな床に散乱していた。
《うわー……もったいない……》
これだったら最初にぱくぱく食べていた方が良かったか?―――なんてのはともかく……
《でもあの人……》
メイはひどく気になっていた。
襲撃してきた船の舳先に立っていた人だが、何だかリザールの伯母さんの旦那さんに似ていたように思うのだが……?