ベラトリキス最後の作戦 第6章 アルマーザ&アラーニャ、練習する

第6章 アルマーザ&アラーニャ、練習する


 その夜、月虹の間ではまた夜のお茶会が開かれていた。

 今日は水月宮のメンバーだけでなく、メルファラ大皇后とティア様も参加している。

「それにしてもあの鴨は本当に美味しかったですね」

 大皇后がニコニコしながら話している。

「ま、ちょっと最初は驚くかもしれないけど。アカラのローストは絶品なのよ?」

 ティアが答えると、メイもうなずいた。

「ですよねー。でもちょっとあれは真似できませんが……」

 先日、マジャーラとシャアラが鴨打ちに行って、獲物をたくさん仕留めてきたのだ。

 もちろんそれを厨房に渡せばそれなりに絶品のディナーに仕立ててくれただろう。ところがそこで唐突にティア様が、ヴェーヌスベルグ風ローストが食べたいと言い出したのだ。

「まったくいきなり庭に穴を掘り出したときには……」

 エルミーラ王女が呆れ気味に語る。

「あれって怒られないのかしら?」

 パミーナも少々心配そうだが……

「ちゃんと埋めたから大丈夫でしょ。イルドが」

 ―――ヴェーヌスベルグ風ローストとは、中に香草や芋などを入れた鴨をまるごと地面に穴を掘って作った炉に埋めて、その上でたき火をして蒸し焼きにするのであるが……

「この時期の鴨は脂がのってるから美味しいのよ

 ティアは今にも舌なめずりしそうな様子だが、そんなワイルドな料理を屋外で―――といっても辰星宮の温室の中でだったが、そこでみんなで食べるというのはまた格別であった。

 二月に入って連合軍がバシリカを包囲したという知らせが入っていた。しかしそうなってもアロザール軍は出てこず、戦闘は発生していないらしい。まあ、そこで激戦になることはないだろうというのが大方の予測であったのだが……

 ともかくそのためこちらは完全に手が空いてしまったので、再びこんなパーティーを開いていたのだが……

《うふっ 計画は万全よね?》

 アルマーザは気もそぞろだった。

 と、メイがサフィーナに尋ねた。

「でもみんなの中じゃマウーナが一番弓が上手なのよね? でも彼女って狩りしないのはどうしてなの?」

「あ、あいつ、辛抱が効かないんだ」

「辛抱?」

「ん。鴨打ちは獲物が寄ってくるまでじっと待たないといけないんだが、あいつすぐに飽きるんだ」

「あー、何となく分かるー……でもマウーナなら遠くにいるのだって当てられるんじゃ?」

「ん。でも仕留めた奴を取りに行けないし。岸辺近くにいるやつじゃないと」

「あ、なるほどー……」

 そんな会話の横で、アウラが王女に話している。

「みんなで一緒に食べると、戦ってたときを思い出すわよね」

「そうね。あの頃はいつもみんな一緒だったものね」

 解放作戦中、特に夕食はみんなで集まってわいわい食べたものだ。しかしこちらに来てからというもの、普段は離宮単位で別々に食べることが多い。

 全員集まっての会食も多いのだが、そういう場合は城でフォーマルに行われるのが常だ。すると大抵は客人も一緒なので、あまり羽目を外すことができない。なのでこういう機会はなかなか貴重なのだが……

《あ~と~は♪ 実行に~♫ 移すだけ~♩》

 ついつい節付きになってしまうが……

「あ、そうそう。それであの付け払いツアーっていつから始めるんです?」

 パミーナが言った。

「あー、そうですよねえ。けっこうな箇所がありますから、始めるならそろそろ始めないと」

 メイがエルミーラ王女に尋ねると、彼女もうなずいた。

「そうですねえ。では来週早々にでも始めますか?」

 メルファラ大皇后がにっこりうなずく。

「いいですね。またみんな揃っての旅になりますね」

 ところがそれを聞いたティアが……

「あー、来週から?」

 と、何やら不満そうな様子だ。

「来週からじゃまずいの? ティア」

 大皇后が尋ねると彼女はうなずいた。

「あー、えっとそれがね、ロマンゾ劇団のこけら落としがあるって聞いたの。来週の末に」

 それを聞いた大皇后の表情が変わる。

「ロマンゾ劇団? って、確かバシリカの?」

「そうなの。ウィルガ王国のときからある伝統のある劇団なのよ。それがバシリカからこっちに避難してきてたんだけど、この機会にここで公演をしたいんだって」

「どんな演目なんです?」

「双星双樹とか」

 ティアがそう答えた瞬間だ。

「えーっ! 双星双樹⁉」

 叫んだのはメイだ。

「あなた、知ってるの?」

 パミーナの問いにメイは大きくうなずいた。

「うん。コルネがガチハマりしてた奴なんだけど……」

「どんな話なの?」

「えっと、二組の双子が出てくるの。一組は王子様で、もう一組は女魔法使いで……だから双星双樹ってタイトルなんだけど、双子はそれぞれが光と闇の宿命を背負ってるの」

「へえ……」

「それで元々は光の子同士、闇の子同士が結ばれる運命だったのが、双子が入れ替わっちゃったりしたおかげで、光の子と闇の子が恋に落ちちゃって……って感じで」

「まあ、おもしろそう!」

 パミーナも興味を引かれたようだが……

「でもあれって、すごい大作じゃないですか?」

 メイの問いにティアがうなずいた。

「そうなの。それを三幕劇にアレンジしたらしいんだけど……見てみたくない?」

「見たいですーっ!」

 しかしそこでパミーナが尋ねる。

「でも……そうしたらツアーの出発はそれ以降に?」

「え? あー、そうなるけど……」

「べつに一週間ぐらいずれても構わないんじゃないの?」

 そう答えたのはアウラだが、パミーナが少々心配そうに言った。

「でも結構行く箇所は多いでしょ? それに三月になるとこのあたり、あまり天気が良くないんじゃ?」

「あー、それもそうですよねー……でもツアーが終わるまで劇、やってるんですか?」

 メイの問いに……

「それは……大丈夫じゃないかしら?」

 とは言いつつ、ティアは自信なさげだ。

「双星双樹かあ……でもやっぱり早く見たいですよねえ……」

 メイも何だかすごく乗り気だ。しかし……

「でも、あんま雨の中って嬉しくないよな」

 サフィーナがぽつっとつぶやく。

「この時期、雨は嫌よねえ……」

 リモンも同様だ―――などとみんなが話しているようだが……

《でも、やっぱりもう一度 手順確認しちゃおかなっ?》

 ここで焦って失敗したら元も子もないわけで―――うふっ!

「アルマーザはどう思う?」

 ………………

 …………

 ……

「ねえ、アルマーザ!」

 えっ? と顔を上げるとパミーナが不思議そうに彼女を見つめているが……

「はい? 何か言いました?」

「言ったわよ。あなたはどう思うかって」

「思うかって……何が?」

 パミーナの目が丸くなる。

「だから、付け払いのツアーと観劇とどっちが先がいいかって!」

 しまった! 全然話を聞いてなかった!

「えっとー、何ですか? それって」

「あー、もう。どうしたの?」

 パミーナだけでなく、一同の視線が集まってしまったが……

「あ、いや、ちょっと眠かったもんで……」

 アルマーザがそうごまかすと……

「あ、そうだったの?」

 一同は納得したようにうなずいた。

「お二人ともずっと魔法の練習でしたか?」

 メルファラ大皇后の問いにアルマーザは慌ててうなずいた。

「はいぃ! そんな感じでー!」

「シアナ様もリディール様も今日は早めにお休みになられましたが……練習は大変なんですか?」

 エルミーラ王女も尋ねてくる。

「え? そうですね。ほら、何て言うか結構頭が疲れるんですよー」

 王女はうなずいた。

「そうなの。まあいいわ。それじゃメイ、ともかくツアーがどれくらいの長さになりそうか見積もってもらえる。それを見て考えましょう」

「あー、分かりましたー」

「それじゃあ今日はそろそろお開きにしましょうか。お二人も疲れてるみたいだし」

「ですねー」

 そんな感じでお茶会は終わり、一同は三々五々と散っていった。

《あはー。ちょと悪いことしちゃったかな?》

 そんなことを思いながら振り返ると、アラーニャがにっこり笑っている。

「だめですよー。嘘ついちゃー」

「だってしょうがないでしょう? ちょっと練習の手順を考えてたんで……」

「あはーっ

 アラーニャがぽっと赤くなる。

「それじゃ……やりますか?」

「うん

 アラーニャが恥ずかしそうにうなずいた―――というように、二人が少々舞い上がっていたのは次のような理由があった。



 今を遡る二日前のこと、アルマーザは水月宮の屋根の上にいた。

《まったくシアナ様は……》

 彼女が高い所が好きなのは前々から分かっていたが、この後宮にある建物はみんな平屋だ。一番高い場所は以前サフィーナが登った噴水脇のケヤキの上だが、今回の彼女の巣はこの水月宮の屋根の上であった。

《でも暖かいんですよねー。眺めもいいし》

 ここは日当たりが良く、屋根がくぼんでいる所なので風もあまり当たらない。

 そのうえファシアーナが付近の瓦を暖めているため、今は真冬なのだがこの空間だけがほかほかと春のようだ。

 そんなわけで時々彼女と一緒にお昼寝をしていることもあったのだが、今日はそういうわけではない。

「さーて、今日からの訓練だが」

「やっとですね!」

 ファシアーナはうなずいた。

 アラーニャに精神魔法を教えてくれるという話は前々から出ていたのだが、何だかんだで先送りになっていた。それがついに今日から始まるのである。

 そしてアルマーザは彼女から“道しるべ”の心構えに関して、最後の講釈を受けようとしていた。

「ああ、何か無駄に忙しかったからなあ。でもま、やっとリディールも暇になったんでな」

 連合軍の出陣まで大魔導師は二人とも都の魔道軍がらみとかで、どちらかの手が空かなかったのだが……

「これって二人がかりじゃないと教えられない物なんですか?」

 これまでの魔法はどちらか片方がいれば十分だったのだが?

「この精神魔法っていうのはなあ、教えるのに細心の注意がいるんだよ」

「そんなもんなんですか?」

 これまでもそれなりに魔法の講義は受けていたのだが、アルマーザの一番の役割である“道しるべ”に関しては、何だかふわっとした説明しか受けていなかった。

《要するにアラーニャちゃんの魔法の練習台なんですよね?》

 精神魔法とは心を読んだり心話をしたりする魔法だが、それには当然ながら相手が必要だ。そのために魔法使いではない一般の人の協力が必須なのだというが……

 いまいちピンときていない様子のアルマーザに、ファシアーナは眉を顰める。

「あのな? 人の心ってのはそれだけ繊細なんだよ? だからいいか? 道しるべのお前がしっかりしてないと、アラーニャが壊れちまうことだってあるんだぞ?」

「はい。それは聞きましたが……」

 ファシアーナやニフレディルの言うことには、その練習台の善し悪しでアラーニャの今後が決まるのだという。だからその練習相手の一般人のことを“道しるべ”と呼ぶのだと。

 だが、はっきり言って彼女にはよく分かっていなかった。なぜなら……

「えっと、それで失敗しないためには何を注意しておかなければならないんですか?」

 アルマーザが尋ねると……

「まあ何というか、普通にしてるんだな」

「はあ?」

「こっちがああしろこうしろと指示できるようなもんじゃないんだ。これは」

「はあ……」

 そんな返事が返ってきてしまうためだ。

《まあ、普通にしておけって言うのなら、普通にしてますが……》

 アラーニャちゃんのおっぱいをふにふにするのは普通でいいんだろうか?―――そんなことを考えていると……

「でもま、ちょっとは覚悟しとけよ」

 ファシアーナがにやりと笑う。

「覚悟ですか?」

 彼女はうなずいた。

「ああ。お前はなあ、これから“見習い”の練習台になるってことだからな? ほら、いつかフィンがひどい目に遭ってただろ? あんな事故もあったりするからな?」

 あはははは! 確かにあれは大変に可哀想な事故だったが……

「でも、飛行魔法が危ないのは分かりますけど、精神魔法の事故ってどんなのがあるんですか?」

「まあ、そりゃいろいろあるが……まずよくあるのが、うっかり秘密にしときたいことがぽろっとバレちゃったりするやつだな」

「あはは、それはそうですね!」

「お前、そういうのはあるか?」

「アラーニャちゃんにですか? そんなのありませんよ?」

「うん。そうならいいんだがなあ。ふふふ……」

 うーむ。何だか引っかかるのだが……

「ま、ともかく落とし穴ってのは至る所に開いてたりするからな。で、少しくらいハマるのも仕方ないわけで」

「はあ……」

「でもま、そういう危機を切り抜けられたらちょっとしたご褒美もあったりする」

 再びファシアーナがにやりと笑う。

「え? ご褒美ですか? どんな?」

 そんな物があるとは聞いていなかったが―――ファシアーナはうなずいた。

「まずアラーニャと心話ができるようになる」

「え? でもあたし魔法が使えないんじゃ?」

「確かにな。でも、実は心話には大きく二通りの方法があるんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、このあたりはあまり詳しく教えてなかったが、心話には互いに“読心”をし合う方法と、互いに相手に“伝心”する方法があるんだ」

 ファシアーナは説明を始める。

「読心と伝心ですか?」

「ああ。“読心”っていうのはまんま、相手の心を読む魔法だと思えばいい。それを互いに掛け合えば、その二人の間で心で会話ができるよな?」

「あ、はい。そうですね」

「でもな、この読心っていうのは、心を読むって言うよりは、相手と意識を一体化すると言った方がいい」

「意識の一体化って……相手の見てる物も見えるってことですか」

 ファシアーナはうなずく。

「そう。見るだけじゃなくて五感の全てを感じ取ることができる。言葉だけ伝えるっていうのがむしろ難しい」

「へえぇ」

「んで、このやり方で心話をすると、うっかりと伝えたくないことまで伝えてしまうことが良くあるんだ」

「あー、そうでしょうねえ」

 都合の悪いことをつい思い浮かべただけでも相手にバレてしまうのだから……

「だから普通はもう一つのやり方、“伝心”を使う。これも単に言葉を送るような物ではなく、五感を含めた話者の意識そのものを相手に送り込むもんだが……でも必要なことを伝えたら魔法を解けばいいわけだから、うっかり知られたくないことを知られる可能性はずっと低くなるわけだ」

「あー、そうなんですね」

「これも魔法使い同士でないとできないわけだが、ここでアラーニャが読心でお前の心を読んで、伝心で自分の意識をお前に送ればどうなる?」

 え? あ!

「あっ! 確かに! 心話になりますね! うわあ、アラーニャちゃんと心話ができるのか……」

「ただし、これだとお前だけが丸裸みたいなもんなんだが」

「え? あっ! あはははは」

 迂闊なことを考えたらみんなあっちに筒抜けということか……

「それでも遠く離れていてもアラーニャちゃんとお話しできたら嬉しいじゃないですか!」

 だがファシアーナは首を振る。

「いや、まあ、そう簡単でもないんだがな」

「そうなんですか?」

 ファシアーナはうなずく。

「ああ。実はその、遠くにいる相手を発見するというのが一筋縄ではいかなくってな、むしろこれが難しい」

「そうなんですか? でもシアナ様はリディール様とどこでも心話してますよね?」

「あいつとならな。あいつは魔法の力は凄まじいし、よく分かってるから見つけやすいんだよ」

「それじゃ……魔法が使えないあたしは見つけにくいってことですか?」

「ああ。そうだな。例えて言うと……ものすごく広い河原があって、そこに石ころが一面に落ちてるとするだろ?」

「はい」

「その中から特定の一つの石ころを探し出すみたいなもんだ。石ころってのはどれ一つ同じ物はないんだが、その中からその一つを探し出すのはまあ至難の業だ」

 確かにそれはそうだ。

「でもその中でリディール様は分かるんですよね?」

「ああ。魔法使いなら、何ていうかな、光ってるように見えたりするわけだ。あいつの場合は特に光が強い。だから見つけやすい。しかしお前はただの石ころだから、足下から離れたらもう簡単には見つけられないんだよ」

 えっと、それって……

「あー……じゃあ遠く離れて心話するのは無理なんですか?」

 だがファシアーナは首を振る。

「いや、居場所がきっちり分かってるんなら何とかなる。ただその辺にいる別人とか、別な生き物と区別がつけばだが」

「別な生き物⁉」

 またファシアーナが笑う。

「ああ。命っていうのは別に人間にだけあるわけじゃないからな。生き物なら何でもその石ころに含まれてるんだよ」

「えっと……それじゃシアナ様は動物と話ができるんですか?」

 彼女は笑って首を振った。

「いや、あたしにはできないが、できる奴もいるぞ。都には」

「へえ……それって楽しそうですねえ」

 アルマーザの頭の中に、辺りの小鳥たちとおしゃべりしているアラーニャの姿が彷彿とするが……

「あはは。お前は気楽でいいな。確かに鳥になって空を飛ぶってのは気分がいいらしいが、色々問題もあってな」

「問題?」

「やり過ぎるとだんだん人間じゃなくなっていくんだ」

「あはははは!」

 うむ。何となく分かるような気がする。

「でだ、何の話だったっけ……あ、そうそう。だから遠く離れていても、お前の居場所をアラーニャが知っていて、お前のことがよーく分かってるのなら、お前を見つけられるってことだ。これから訓練で散々お前は心を読まれることになるわけだから、アラーニャにとってまずは一番よく分かった人間となるわけだし」

「ってことは、あたしの居場所が分かってればアラーニャちゃんと心話ができるんですね?」

「ま、そういうことだ。もちろんお前からアラーニャを呼び出すことはできないぞ?」

「そりゃそうですよね。でも向こうから呼べるだけでも色々役立ちますね」

「ま、そうだな」

 うむ。条件は少々厳しいが、これなら間違いなく楽しめそうだ。

「あと、今後の訓練次第なんだが、この読心と伝心の応用に“憑依”というのがあって、これを使えばアラーニャがお前の体に乗り移れるようにもなる」

「え? そんなことも?」

「ああ」

 しかし……

「でもそれって、体が乗っ取られちゃうってことですか?」

 そうなったらちょっと困るかもだが―――ファシアーナは首を振った。

「そうしようと思えばそれも可能だが、お前が拒否してればそうは簡単には乗っ取れないよ。ま、大体はお前の心の中にアラーニャが同居してる、みたいな感じになるかな」

「へえ……何かキールとイルドみたいな?」

「あれはまたちょっと違うと思うが、まあそんな感じと思ってればいいか」

「へえ……」

 それはそれで楽しそうだが……

「そしてこれで面白いのが、お前に乗り移ったアラーニャが魔法を使うと、外から見たらお前が魔法を使ってるみたいに見えるんだな」

「おおっ!」

「これを使って術者から遠く離れた所で魔法を使うことが可能になるわけだが……」

「いいですねえ!」

 思わず頬が緩んでしまうが―――ファシアーナがまたにやりと笑う。

「ま。確かに。アラーニャがずっといい子ならな」

「えっ?」

 彼女は真剣な表情になる。

「とにかく何度も言ってる思うが、魔法ってのはただの力だ。良いことに使うも悪いことに使うも、術者次第だってことだ」

「あ……まあ……」

 それについてはこれまで何度も説明を受けてきた。

「だからな、この憑依を使えば例のマグナフレイムが簡単にできる」

「え? どうして?」

 あれは瞬間移動ができなければ爆発に巻き込まれて術者も一緒に……

「え? ってことは……」

「ふふ。分かった?」

 ファシアーナがニターリと笑う。

「あのー、例えば憑依してる人が死んじゃったりした場合、魔法使いまで一緒に死んでしまうなんてことは……」

「もちろんないさ」

 要するにそこらの誰かを使い捨てにするつもりだったとしたら……

 ………………

 …………

「えーっ! アラーニャちゃん、そんなことしませんよね?」

「んなもん、誰にも分からんよ?」

「…………」

 絶句するアルマーザにファシアーナが言った。

「だからな、アラーニャが悪い魔法使いにならないように導いてやるのもお前の役割なんだ」

「えーっ⁉」

「驚くなって。お前がアラーニャを虐めたりしなければいいだけだよ」

「もちろんですよー」

「ま、そんなわけでお前の心構えについてはこんなもんかな」

「えっ? これで?」

「ああ。ともかくお前はいつも通り普通にしてろ、ってことだ。おっぱいふにふにも含めてな」

 ………………

 …………

 って、これって……

「あのー、人の心を勝手に覗いたりしたらダメなんじゃないんですか?」

 そういうのは女王の禁忌とやらで禁止されているはずなのだが!

 しかしまたファシアーナはニヤリと笑う。

「あのな? これからお前が相手にするのは駆け出しの見習いなんだよ?」

「そりゃそうですが……」

「だからちゃんとコントロールできるまでは、いつうっかり心が読まれちゃうかなんて分かんないでしょ? だからま、そのつもりでいろってことだ」

 あー、それは確かにそうだが―――でも注意ったってどうやってやれば?

「だから、何度も言うけど普通にしとけって」

 あ。またもう……

「あー……はい。どうもありがとうございますー」

 普通にしろというのなら普通にするまでだが……

「あと何か質問は?」

 質問? そういえば……

「えーっと……これからアラーニャちゃんに読心魔法を教えてあげるんですよね?」

「ああ」

「それって、魔法の訓練をするときにはこれを知ってたらすごく便利だからなんですよね?」

 ファシアーナはうなずく。

「そうだな。読心ができれば、目の前で魔法をやってみせるだけでそれの真似ができるようになるからな」

「そこでちょっと疑問に思ってたんですが……読心を知らない人にどうやって読心を教えるんでしょう? 心を読めるように意識を集中しろーとか言っても簡単にはできませんよね?」

 ファシアーナはにっこり笑う。

「ふふふ。いい所に気がついたな。たしかに読心ができない者に読心を教えるのは難しい」

「はい」

「でもな。読心魔法を使っているところを伝心魔法で送ってやればどうだ?」

「え?」

 何か少々ややこしいが―――結局読心魔法を使っている所を直接感じることができるわけだから、それを真似することもできるということか?

「でも……異なった魔法を同時に使うって難しいんじゃ?」

 コルヌー平原の戦いのときも飛行魔法と念動魔法を同時に使うのが難しいため、あのような仕儀になったわけだが……

「そうだよ。だからリディールみたいに器用な奴じゃないと無理なんだ」

「シアナ様でも?」

「そういうちまちました魔法は嫌いなんだよ」

 ちまちました魔法って―――リディール様はシアナ様の魔法を品のない魔法ってよく言っていたが……

「うふっ。何を考えてるかな~」

「あー! また読みましたねーっ!」

「あん? 今は読んでないが。お前って顔見りゃ大体分かるし」

「あー、そーですか。はいはい」

 といった調子で事前の講釈は終わったわけだが―――前振りが大変だった割には、アラーニャはその日には基本の読心を、その翌日には伝心も覚えてしまったのだ。

 この速さにはファシアーナもニフレディルも少々びっくりしていた。

「素晴らしい才能ね」

「ああ、あっちの砂漠ってのはこんな奴が一杯いるのか?」

「だとしたら……」

 アラーニャは着々と大魔導師への道を歩んでいる。そして都で訓練した後、ニフレディルもヴェーヌスベルグまで来てくれる。

 彼女たちの前にはまさに見たことのない未来が広がっているのだった。



 ―――というわけで昨日からアラーニャは見習い精神魔導師なのである。

「うふふふふ。アラーニャちゃーん。あたしが何考えてるか分かりますか~

「んなの、魔法使わなくても分かりますよー」

 アラーニャが赤い顔で答える。

「んじゃどうしましょう? まずはお風呂に入りましょうか?」

「うん

 水月宮ではエルミーラ王女とアウラ、それに最近ではメイの部屋にも個別の浴場がついているが、アルマーザとアラーニャの部屋にお風呂はなかった。

 入浴したい場合は共通の大浴場に入るが、この時間なら大抵は貸し切りみたいな物だ。それに部屋付きの風呂とは違って広々としているからこちらの方がゆったりとできる。

 そこで二人は着替えを持って大浴場に向かう。脱衣場で服を脱ぎ捨てて裸になると、湯気で煙った浴場内に足を踏み入れた。

 ざばっと掛かり湯を浴びて湯船につかると……

「ん? お前らもか?」

 奥でファシアーナがのんびりと浸かっている所だった。

「あれ? シアナ様?」

 うわ! いつもなら飲んだくれてるのに……

「あん? たまには休肝日だってあるぞ?」

 あー、また読んでますね? もういいけど……

 そんなアルマーザを見てファシアーナはにやっと笑うと……

「さて、いい湯だった。そんじゃな」

「あ、お休みなさい」

「ああ」

 ファシアーナは入れ替わりに上がっていった。

 というわけで晴れて大浴場はアラーニャと二人で貸しきりだ。

 ヴェーヌスベルグにも風呂くらいはあったが、こんな大きな物はない。寒い日に温かい湯の中でのんびりと手足を伸ばせるというのはまさに格別である。

 アラーニャをちらっと見ると―――彼女ものんびりお風呂を楽しんでいるようだ。

《さて、それでは、うふふふふ……》

 こんな気持ちのいいときは思わず昔のことを思い出してしまうものだ。

《昔といえば……》

 アラーニャがヴェーヌスベルグに来た当初、人々の冷たい目にさらされて彼女は子ネズミのように小さくなっていた。

 そんな彼女と最初に仲良くなったのがアルマーザとサフィーナだったが……

《でもちょっとびっくりしたんだよね……》

 おっぱいで魔法を使えることの他にもう一つ、彼女は童顔なので子供っぽく見えるが、アルマーザとは歳が三つしか離れていない。出会ったときには既に十七才だったのだが―――それなのに彼女の“準備”が全くできていなかったことだ。

 何しろ一目見れば彼女がキールやイルドのことが大好きだということは分かるのに、二人はまだ何もしていないというのだ。

 まあイルドの場合、ケダモノのように襲いかかってはポルターガイストで吹っ飛ばされていたからだが、キールが何もしてないというのはちょっと信じられないレベルのヘタレであった。

 そこでヴェーヌスベルグの方式で彼女の“準備”をしてあげることになったのだ。


 ―――話を聞いたティアの目が丸くなった。

「えーっ⁉ こっちじゃそんなことするの?」

 その問いにアーシャがあっさりと答える。

「そうだけど?」

「それって……痛くないの?」

「全然痛くないわよ? 鋭いカミソリだから。ちょっとチクッとするだけよ?」

「えー……でも……」

 何やら腰の引けているティアにリサーンがやれやれといった表情で尋ねる。

「ってか、外の人って初めてのときって、男のあれで突き破っちゃうんでしょ? それこそ痛くないの?」

「ん……まあ。でもそのうち良くなるし……」

「あのねえ。こっちじゃ“そのうち”なんて、もしかしたら二度とないかもしれないの。だから最初っからすごく良くなきゃ!」

「あー、そうなんだ……あはははは!」

 ティアは思いっきり複雑な表情だったが―――


《横で聞いていたアラーニャちゃんはもう終始目が点だったけど……》

 アルマーザは湯船に浸かっているアラーニャをチラリと見る。

《でもそんなのって序の口だったのよね

 その“施術”はもちろんあっという間に終わった。二三日休んでおけば傷はもう全然OKだ。

 だがそれだけではまだダメで、その前に体をしっかりほぐしてやらなければならないのだが……


 ―――その話を聞いたティアがまた目を丸くした。

「体を……ほぐす?」

 答えたのはアルマーザだ。

「そりゃそうですよ。入口を広げるだけじゃなくって、中までほぐして体を慣らしておかないとやっぱり痛いですからね」

「ほぐすって……どうやって?」

「そりゃまず、指とかでやさしくしてあげるんですよ。あ、みんな上手ですから任しといてください

「みんな上手って……みんなそんなことやってるの?」

「だってそりゃ、生まれたときからずっと一緒だし、お互いに手伝ってあげるんですよ? 一人じゃ手が足りないでしょ?」

「手が足りない?」

「だってほら、乳首とかを両手でくりくりしてたら、下がお留守じゃないですか。でもそっちを弄ってたら、おっぱいが片方空いちゃうし……」

「あは……あは……あははははっ!」

 ティアが呆然と笑っている一方、アラーニャは終始目が点で―――


《……とかびっくりしてた割にはティア様、あっという間にハマっちゃったんですけどね

 あの方の環境順応能力というのは何だか半端でない気がするが……

 そしてアラーニャも最初は抵抗していたのだが、ティアがアーシャなどと絡んで喘いでいるのを見てだんだんその気になってきたのだ。

 そして彼女の体を実際にほぐしてあげたのがアルマーザとサフィーナだ。

《あの子はあの頃から舌使いが上手でしたが……》

 今では何やらアウラの薫陶を受けて魔性の舌となっているとか何とか……

 アラーニャをちらっと見ると―――背中を向けて何やらぷるぷるしているようにも見えるが……

 そうして女の快楽に体が慣れてくれば、今度は男と交合する準備だ。

 ヴェーヌスベルグの女が実際に男とできるのは一生に何度もない。そのときに後悔しないようにと、そのための“予行演習”もしっかり行われるのだ!

《ま、キールとイルドが来てからはそうでもなくなったんですけどね

 アラーニャにその演習を行ったのは秋の風が心地よい夜だった……


 ―――柔らかなマットレスの上にアラーニャが一糸まとわぬ姿で横たわっている。

 胸のかわいいおっぱいが今は大きく上下している。

「どーでしたか?」

 今までアルマーザがじっくりと彼女の中を指で愛撫してやっていたのだが……

「ふえーん」

 どうやらすごく良かったらしい。

「さて、それじゃ今度はこれでやってみましょうね

 アルマーザはポーチから木で作られた張り型を取り出した。

 それを見たアラーニャの目が丸くなる。

「大丈夫ですよ。まずは一番小さいのですから」

「それで?」

「ほら、キールのを思い出してご覧なさい? これよりもっと大きかったでしょう?」

「えーっ、でも……」

「うふ。大丈夫ですよ。じゃあ力を抜いてみて」

 アラーニャはしばらく逡巡していたが、やがておずおずと股を開いていく。

「ほら、最初は先っぽの方から……」

 だが既に彼女の秘部はとっぷりと汁で溢れていて、軽く押したつもりがするっと中に入ってしまって―――


 ばしゃーん!


 いきなりお湯を引っかけられた。

「ちょっとー! 何思い出してるのよー」

 両おっぱいを支えたアラーニャが湯気の中、体中を真っ赤にして立っている。

「え? あ、そっかー。お風呂だもんねー。見られちゃったー

 彼女は覚え立てなので精神魔法を使うにはまだ“魔道具”が必要なのだった。

 すると普通の場所ではそれが使えないので、うっかり心を読まれてしまうという失敗はありえない。

 しかしことお風呂場ではそれが成り立たず、こうしてうっかり読まれてしまうという可能性を失念していたわけで……

「何がうっかりよー! わざとじゃないのー!」

「あれー? それもバレちゃうのかなー?」

「もうーっ!」

 かように心話というのは便利というのか何なのか……

 しかしアラーニャが体中真っ赤なのは、どういう状況にあるかは一目瞭然だったりするわけで……

「んじゃ、部屋に戻る?」

「うん

 彼女は素直にうなずいた。

 そこで二人はお風呂から上がると、寝衣に着替えて部屋に向かった。

《あははは。久々にドキドキしちゃいますねえ……》

 アラーニャとこうして戯れ合うことは必ずしも多くはない。彼女はやっぱりキールが好きだし、アルマーザもキールやイルドとするのが好きだ。

 だが今日はまた特別な日だ。

《アラーニャちゃんが大魔法使いになるためには避けて通れない道なんですよね きっと……》

 その部屋はアルマーザとアラーニャ二人で使用しているが、ベッドは別々で普段は単に部屋をシェアしているだけだ。

 しかし、アラーニャとはかように初めてのときからの間柄なので、こういうことがあるときはあるのである

「さーてー、んじゃ、いいですよ?」

 ベッドに腰を下ろしたアラーニャに、アルマーザはそう話しかけた。

 それを聞いたアラーニャはまた真っ赤になるが―――やがて寝衣を脱ぎ捨てて彼女のかわいいおっぱいを露わにすると、それを両手で支えるように持った。

「じゃ……行きますよー?」

「うん……」

 彼女がそう答えた途端、アルマーザは何となくアラーニャの存在を身近に感じた。

《あはっ! 来たかな?》

 心を読まれているときというのは注意していれば意外に分かる物なのだ。ファシアーナとかニフレディルの場合はそういうところをしれっと入ってくるので分かりにくいが、アラーニャの場合はまさに見られているという気分になるのである。

《んじゃ、目を閉じてくださいね

 アルマーザがそう思った瞬間、アラーニャはピクッとして、それから目を閉じる。

 それを確認するとアルマーザは立ち上がり、両おっぱいを手で支えながら下履き一枚で座っているアラーニャをじーっと見つめた。

《うふ。アラーニャちゃん! カワイいですよ

 途端にまた彼女がぴくっと身じろぎする。

 次いでアルマーザはアラーニャの周りをゆっくりと回る。

 アラーニャが読心できているのならば、その光景が彼女には見えているはずだ。

《ほら、アラーニャちゃんの背中!》

 普段なら絶対見ることができないものが、アルマーザを経由して彼女には見えている筈で……

「あーん……」

 この反応は間違いなく彼女がアルマーザの目を通して見ているということだ。

《ふふっ。完璧ですね

 ここまでは先日既にできていたことなので、作戦は次の段階に入る―――今日の本番第一段階だ。

《さーて……》

 アルマーザはおもむろに自分の著ていた寝衣を脱いでいった。

 その一挙一投足にアラーニャがピクリピクリと反応する。

《ふふっ! 見えてますね?》

 ついに彼女は一糸まとわぬ裸となった。

 アラーニャはずっと目を閉じたままだが、何だかひどくどぎまぎしている様子だ。

《んじゃ……》

 そこでおもむろにアルマーザは自分の右乳首を軽く愛撫すると―――びん! といった快感が背筋に走る。

「あんっ!」

 同時にアラーニャが呻いた。

《あはっ! ビンゴ!》

 まさに予想通りの結果だ!

 ―――もう彼女たちが何をやっているのかはお分かりだとは思うが、読心の魔法とは心を読むというよりも、相手と意識を一体化すると言った方がいい物であった。

 先日の訓練で既にアラーニャはアルマーザの見ている物をそのまま見るという体験をしていたが、それは別に視覚だけに限定されるわけではなく、五感を含めて今感じている全ての感覚が伝わってしまうのである。

 ということはすなわち―――エッチな快感というのも伝わってしまうのではないだろうか? ということが、どうしようもない必然性を持って推論できてしまうわけであるっ

 アルマーザは自身の両乳首を優しく愛撫し始めた。

 これまでの妄想やら何やらで彼女自身の体も熱く火照って敏感になっていた。

 なのでそのたびに甘い快感が背中から子宮に向かってびんびん走って行く。

 それに合わせて目を閉じたアラーニャがぴくん、ぴくんと動いている。

 その反応具合を見ていると、まるでアルマーザがアラーニャを愛撫しているかのようだ。

 しかし普段直接に愛撫してやるときには、アラーニャは反応してもアルマーザ自身が気持ちよいわけではないが、これを見ていると逆にアラーニャがピクンとすると自分も気持ちよいかのような錯覚に陥っていく。

《うわ……これって……》

 何だか一人でオナニーしているときよりも、興奮度が五割増しくらいになっている気がするのだが……

《それじゃ……うふふ

 今までは乳首だけを愛撫してきたわけだが、今度は―――と、アルマーザがこれからやろうとしていることをイメージした瞬間……

「あーん!」

 まだ始める前にアラーニャが呻いた。

「どしたの? まだ始めてませんよー?」

「いやーん」

 うふ。カワイいなあ……

 そして―――アルマーザは自身の秘部の谷間に指を滑らせた。

 乳首の愛撫で体は既に思いっきり興奮していて、そこはもうトロトロに濡れぼそっている。そして指が一番敏感な突起にたどり着いた瞬間……


「あん!」


 思わず喉から声が出てしまう。

《うひゃあ! すごくきたー!》

 何かアソコの感度がいつもよりすごく上がっているみたいで、いきなりビビビンッ! とやってきたので思わず体が反応してしまったが……


「やーん!」


 アラーニャも同時にのけぞっていた。

 彼女が驚いてこちらを見ている。

「感じた?」

「う、うん……」

「ふふっ。それじゃ……」

 アルマーザが連続して自分のクリを指で愛撫し始めると……

「あん、あん、あん……」

 アラーニャがおっぱいを両手で支えながら悶え始める。

 もちろんアルマーザ本人ももう我慢がならない状況で、指の動きがだんだん高速になっていって……

《あ、指がもう……止まんないーっ!》

 体の中に断続的な快感がうごめき始めるが、それに合わせてアラーニャが身もだえするのを見ていると、それがますます増幅されてくるような気がして……

「あ、あーっ」

「いやーん!」

 アルマーザが絶頂に達して腰がびくびくしてしまったと同時に、アラーニャもまたピクピクしながらベッドに倒れ込んだ。

「うふ

「あはっ

 二人はしばらくそうやってとろんとした目で見つめ合っていた。

 そしてお互いの体の火照りが少し収まった所で、アルマーザが彼女に言った。

「じゃあ次の練習に行きましょうか?」

「うん

 アラーニャが恥ずかしそうにうなずいた。

 さて、今のプレイ―――ではなく練習では、アルマーザが自分で慰めている所をアラーニャが読心するという物であった。

 読心を利用した練習にはもう一つ、アラーニャがアルマーザの心を読みながらアルマーザを愛撫してやるという手段も存在する。するとそれはあたかもアルマーザの体でアラーニャがオナニーしている といった感じになるはずだ。

 しかし彼女はまだ駆け出しなので、魔法を使うためには一番得意な魔道具―――すなわちおっぱいを両手で支えていなければならないのだが、これでは手を使ってアルマーザを愛撫することが不可能だ。

 サフィーナのように舌を使ってというのも考えたが、アラーニャはそれはちょっと恥ずかしいみたいだし、何よりもやっぱり体勢がよろしくない。

 というわけでこれは今後の課題として残しておくことにして、次は伝心でアラーニャの快楽をアルマーザに送れるかのテストなのである

「それじゃ昨日のおさらいをしよっか」

「うん」

 アラーニャが両おっぱいを支えながら意識を集中する。

 アルマーザ目を閉じて待った。

 最初は当然真っ黒で何も見えないが―――やがてふっと視界が開けると、ベッドに裸で座っているアルマーザ自身の姿が見えた。

「上手くいきましたよ!」

『うん』

 肯定のイメージが頭の中に湧き出してくる。

 ここまでは昨日も成功している―――ただしアルマーザは服を着ていたが……

『アルマーザ、立ってみて?』

「え? うん」

 彼女が言われたとおりに立つと、アラーニャの視点が彼女の周りを回り始めた。

 そして後ろまで来ると、アルマーザのお尻を凝視し始める。

『うふっ アルマーザのお尻っ

 リアルな視界であるが、当然これはアラーニャの視点なのでアルマーザが別な所を見ることはできない。

「あはっ!」

 鏡を使っても自分のお尻をこんな風に眺めることはできないわけで、何だか自分の体を見て興奮してきてしまう―――のではなく……

《あは これってアラーニャちゃんの気分かなっ?》

 何だか我慢ができないみたいなのだが、でも言い出すのがちょっと恥ずかしい、みたいな……

「うふっ! それじゃしちゃう?」

 途端に何やらドギマギした感情がアルマーザの中に溢れる。

《やっぱりそうなんだ

 これまでの練習で伝えていたのは言葉や視界だったのであまり気がつかなかったが、その背後にある言葉にならない気持ちというのもこうやって伝わってきているのだ。

 その気持ちを言葉にするのなら―――全力OKということで

「じゃあほら、アラーニャちゃん。ベッドに寝てみようか?」

「ふえーん」

 そうは言いつつも彼女はおずおずと自分のベッドに横たわり―――視界が消えた。彼女が目を閉じたのだ。

 さてこれからアラーニャの快感をアルマーザに伝心で送れるか、というテストになるわけだが……

《読心が上手くいったわけだから、こちらも上手くいきますよね?》

 じゃなきゃアルマーザがちょっと寂しいわけで……

「じゃ、行きますよ?」

「ふえーん」

 アルマーザの目の前に、全裸のアラーニャが両おっぱいを手で支えて横たわっている。

《うふ カワイい……》

 彼女の緊張した気分がそのまま伝わってくる。

 そしてアルマーザが彼女のお臍のあたりを軽くなでてみると―――自分のお臍のあたりがくすぐられたような感触がして……

「あはん!」

「あんっ!」

 思わず二人で声を上げてしまうが……

「来ましたよ!」

「ふえーん!」

 さて、これでくすぐったいという感触が伝わることは分かった。

 ならば次はもちろん……

《うふふっ

 敏感な場所を愛撫してやったときの快感が伝わってくるかどうかのテストとなるっ

 本来なら彼女がオナニーしているときの快感をアルマーザに伝達するというのが形なのだが、今の彼女は両手が塞がっているのでそれができない。

 だからこうやって横たわっているアラーニャをアルマーザが愛撫してやって、その結果を伝えられるかどうかの練習となるわけだっ

 もちろん彼女とは長い付き合いだからどのあたりが弱いかとかは分かっている。

 しかし……


「ほーら、どーこをどうしてほしいかな~?」


 確実を期すのであれば本人に尋ねてみるのが一番正確だったりするわけで

 途端に何やら体が熱くなってくる。

『やーん! メイさんじゃないんだからー!』

「うふーっ でもー、あたしには分からないしー

 更に体が熱くなってくる。

《こないだサフィーナが散々のろけていきましたからねえ……》

 それはまあともかく―――アラーニャからは明確な言葉は伝わってこない。

 だがどくんどくんする心臓の鼓動とともに、とある体の一点に意識が集中するのが分かる。

《あはっ⁉》

 そこでアルマーザはその場所―――既に濡れててらてらと光っている彼女の秘部の谷間からちろっと顔を出したお豆を撫でてみると……

「ああ~ん!」

「うわっ!」

 途端にアルマーザの股間にびんっ! と快楽の刺激が走る。

 ………………

 …………

「来ちゃいましたよ!」

「ふえーん」

 伝わってくるのは言葉にはならない意識だが―――それでもその意味が喜びと、そして期待感だということが感じ取れる。

《それって……もっとして欲しいんですね?》

 そこで続けて彼女の秘部の谷間に指を滑らせると―――途端にぞぞぞっと下半身全体に甘い快楽が満ちた。

《うわっ! アラーニャちゃんってこんなに感じるんだ!》

 それからアルマーザは伝わってくる快感を頼りに、アラーニャの秘部をまさぐり始めた。

 今までも何度もこうしてあげてきたのだが、それは彼女の身じろぎや呻きなどが頼りだった。

 しかしこうやって直接に彼女の感覚が分かってみると……

《うわあ……結構痛かったりしてたんですか?》

 前にしてあげていたときと同じくらいの強さだと、ちょっと痛みも感じてしまう。それよりも少し力を抜くくらいが一番気持ちよかったりするわけで……

 しかし今なら愛撫してあげた結果がどうだったかが分かるため、それに合わせて強さや速度を調整していけば……


「ああっ! ああっ! ああああっ!」


 アラーニャがのけぞった。

 と、同時にアルマーザの体の底からも甘い快楽のうねりが湧き上がってきて、彼女もまた同時にのけぞっていた。

 ………………

 …………

 二人はしばらく呆然としていた。

《いや……凄いなんて物じゃないですよ?》

 今までこんな簡単に彼女を逝かせてあげられたことはないのに……

 しかも一人でやっている時ともまた違っていて―――そのときは気持ちいい場所は分かる物の、感じている自分とそれを観察して調整している自分が両方必要で、完全に感覚だけに没入することはできない。

 しかしアラーニャは全てがアルマーザ任せで、ただただ悦びに身を任せていればよく、それが伝心でアルマーザにフィードバックされる形になっていたのだ。

《あは アウラ様とか最近のサフィーナとかにしてもらうのって、こんな感じなんですかねえ……》

 彼女たちはそれこそ微妙な身じろぎを見て取ることができるようで、それに合わせて愛撫してやっているそうだが……

「アルマーザ……」

 とろんとした目でアラーニャが見つめている。

 もう彼女は相当の興奮状態だ。

 そして次に何をして欲しいのかが伝わってくる。

 そこでアルマーザは彼女のポーチの奥を探ると……

「ふふっ これかなー?」

 と、愛用の張り型を取り出した。

「ふえーん」

 アラーニャはさっきからずっと「ふえーん」しか言ってないが、その意味することはもう明快だ。

 アルマーザはペロリと張り型の先を舐める―――ちなみにこれ、実はみんな隠し持っていたりするが、こちらに来てからはあまり使う機会がなかった。必要があればキールやイルドがいるし、それ以前に開放作戦中は大抵は昼間の激務に疲れて、みんな熟睡しているのが普通だったからだ。

 しかし今はこれが役に立つ。

「ほらー、もうちょっと足を広げてね

「ふえーん」

 そう言いながらもアラーニャ両足ががおずおずと広がって、既にしとどに濡れた谷間が露わになった。

 アルマーザは溢れかえってた愛液を張り型に塗りつけていく。

「あ、あーん!」

 その作業だけでアラーニャは、そしてアルマーザも軽く逝きそうだ。

《入れちゃったらどうなるのかなー?》

 何だかもう初めての時のように興奮してくる。

「それじゃ入れちゃいますよ?」

「ふえーん」

 それからアルマーザが張り型をアラーニャのその場所に当てて、少し力を込めると……


「あ、あーん!」

「うわっ!」


 自分が貫かれるような感覚とともに、張り型が奥に当たると腹の底に甘い快感が湧き上がった。

 ずん、ずん、ずん、と張り型を動かすにつれて快感の波が広がってくる。

 同様に突く先を微妙に変えていくと、それに合わせて異なった快感がやって来る。

《うわ……あたしとはまたちょっと違うんだ……》

 女同士だからよく分かっているとは言っても、やはり一人一人ツボというのは違うのだ。

「うふっ キールにしてもらってるときもこんなだったんですか~?」

「やーん

 途端にアルマーザの視界にキールが飛び込んできたが、この視点は……

「あは そのときの記憶なんですね?」

 先ほどまで見えていた明快な視界とは違って何だか非常に曖昧だが、でもそこで起こっていることはよく分かる。

「やーん!」

 大きく広げられた両足の間にキールが見えていて、その腰でずんずんを彼女を貫いているのだ。

 アルマーザはその記憶のリズムに合わせて張り型を操った。

「あ、いやっ! いやーん!」

 それはまさにアルマーザ自身も返ってくる。あたかも彼女が彼にしてもらっているかのように。

 これはもうアラーニャを楽しませてやっているのか、自身でオナニーしているのか、それともキールにしてもらっているのかもう訳が分からない。

「ああ! ああ! ああ!」

 アラーニャのが断続的に呻き始めるが、それはアルマーザも同じだ。

『アラーニャ! アラーニャ!』

『キール! キール』

 そんな心の声が飛び込んでくる。そして……

『今度はこっちに!』

 思わずそんな意識が飛んでくるが―――思わずアルマーザは尋ねていた。

「え? お尻に?」

 ………………

 …………

 ……

 途端にかっと体が熱くなって……


「違うのーーーーーっ!!!」


 いきなり世界がひっくり返ると、そのまま何度かぐるんぐるん回って天井に激突し、続いて今度は壁に叩きつけられると、腰がぐきっといった。


 バッターン!


 いきなり部屋の扉が乱暴に開いた。

「おいこら!」

 飛び込んで来たのはファシアーナだ。

 彼女は暴走しているアラーニャを魔法で引き寄せるとがばっと抱きしめた。アラーニャは一瞬もがいたが、すぐにこてっと気を失う。

 続いてニフレディルが同様に飛び込んでくると、アルマーザの側にやってきた。

「動かないで!」

「はわ?」

 頭の中で星が飛んでいるが―――思わず体を動かそうとすると腰に激痛が走った。

「だから動かないで! 背骨にひびが入ってるから」

「ひぃぃ!」

 それから二人の治療を受けてアルマーザもベッドに寝かされたが、幅広い包帯でガチガチに巻かれてほとんど身動きが取れなくなってしまった。

 その作業を終えてファシアーナとニフレディルがほっと一息ついた。

「全く……こいつが自爆するとはなあ」

 眠っているアラーニャを見ながらファシアーナがつぶやく。

 ニフレディルもうなずいた。

「普通は反対なんですが……でもあの状態で伝心が途切れなかったのも、ある意味驚きましたね」

「だよな。全くすごいよ……で、そいつは?」

 今度は彼女はアルマーザを見た。

「大丈夫ですよ。すぐに処置できましたから。しかし一歩間違えていたら、一生半身不随でしたね」

「あははは! そうか……にしても、何だか最近戦ってるときよりもけが人が多くね?」

「全く」

 何やら二人ともあきれ果てたという表情だ。

「えっと、あのー」

 そんな二人におずおずとアルマーザは尋ねた。

「あのー……どうしてお二人が?」

 何だかあれを食らった次の瞬間には飛び込んできていたようなのだが……

 それを聞いたファシアーナがにやっと笑った。

「は? そりゃずっと見てたからだが?」

「えーっ⁉」

 あれを? 全部見られてた⁈

「当たり前だろ! あたし達を誰だと思ってんだ? お前らの教官だぞ?」

「いや、でも、だからといって……」

 ファシアーナがちっちっちと指を振る。

「だからなんだよ。あのな? 心話を覚えた奴ってのはな? もう絶対にコソコソ隠れてこういうことやるの。そしてそういうときに限ってまた、事故ったりするの」

 あはははは!

「だからな、最初はもう四六時中見張ってなきゃならないんだが、んなの一人じゃ無理だろ?」

「え?……じゃあ二人必要だって言ってたのは……」

「ああ。これからしばらく交代でお前らを見張らなきゃならなかったからだが……」

「まさか翌日の晩にねえ……」

 ニフレディルが呆れたようにつぶやく。

「まったく普通は一週間は我慢するもんなんだがな……」

 あはははははははは!

「んで……」

 ファシアーナが眠っているアラーニャの側に行く。

「おいこら! 起きろ!」

 途端にアラーニャが目を開いた。

「え? あれ? あたし……」

「いいからまず服を着ろ」

 アラーニャは自分の格好に気づいて真っ赤になると、慌ててナイトガウンを羽織った。

「えっと、あの……」

「まずほら、こいつに謝りな」

「え?」

 それから彼女はぐるぐる巻きにされたアルマーザに気がつくと、目がまん丸になった。

「アルマーザ⁉」

 彼女がよろよろと近づいてきて、ベッドの脇に跪く。

「あの、あたし……」

 言葉はそれ以上出てこず、目からぽろぽろ涙がこぼれ始める。

「大丈夫ですよ。リディール様が治療してくれましたから」

「ごめんなさいぃぃ」

 アラーニャの顔がくしゃくしゃだ。

 そんな彼女にニフレディルがハンカチを手渡す。

 アラーニャが何とか涙を拭くと、ファシアーナが二人に向かって言った。

「ともかくこれで精神魔法の練習には危険が伴うってのが分かっただろ?」

 あははははははははははははははははは!

「ってわけで、今後こういう“練習”がしたかったら、ちゃんと申告してからにしろよ?」

 ………………

 …………

 ……

 申告⁉

「え? あの……怒ってるんじゃ?」

 思わずアルマーザが尋ねると……

「あん? どうしてだ? これはまさに精神魔法における基本技の一つで、特にきっちり訓練しとかなきゃならないもんなんだからな」

「そうなんですか?」

「そりゃそうだ。一々あの程度で暴発するとか、危なくて外に出せないだろ?」

 ファシアーナがアラーニャにニコッと笑いかける。

「ふえーん……」

 アラーニャがまた真っ赤になる。

《あ、そういえば……》

 こうなったきっかけというのが、アラーニャがキールにお尻でしてもらっていたためで……

 途端にファシアーナが言った。

「おいおい。アラーニャ。何だか誤解されてるみたいだぞ?」

 あー、また心を読むんだからー……

 ―――ところがアラーニャがぽかんとする。

「え?」

「え? って、あのー、違うの?」

「違うって、何が?」

 アラーニャが不思議そうに首をかしげる。

「だからアラーニャちゃん、キールにお尻でしてもらってたんじゃ……」

 ………………

 …………

 ……

「違うのーっ!」

 彼女がまた暴発―――しそうになった所をファシアーナがまたぎゅっと抱きしめる。

「落ち着けって! そんなこと考えながら一人でやってただけだろ?」

 アラーニャはしばらく絶句していたが、それからうなずいた。

「うー……だってマウーナ、気持ちよさそうだったから……」

「ありゃ入ってなかったんだがなあ、ま、あいつそういう振りは上手かったからな……でも慣れれば良かったりするぞ?」

「えーっ!」

「でもやり方間違えると怪我するからな?」

「あー……」

 目を白黒させているアラーニャにファシアーナが言った。

「ともかくお前は精神魔法を覚えた以上、今後も必ずこのようなことがある。そんなときに常に平静を保ってられるようにこれから訓練していかなきゃならないんだ」

「うー……はい」

「特に今後お前は必ず、真実審判師として呼ばれることがあるんだが、そうすると色んな意味でもっととんでもない物に遭遇するんだ。そんなときにお前が暴発してたら話にならないからな?」

「うー……はい……」

「それから、これやるときは当面はこいつとだけにしとけよ」

 ファシアーナがアルマーザに笑いかけた。

「え? あたしだけ?」

「練習相手は必要だからな? そしてその後も相手は慎重に選ぶんだぞ?」

「あ、はい……」

 アラーニャがうなずくが、アルマーザは思わず尋ねていた。

「えー、でもあたしだけってもったいなくないですか? みんなも喜ぶと思うんだけど」

 それを聞いたファシアーナがはあっとため息をつく。

「全く……お前らって何てか、羞恥心ってのがないよなあ。ま、そこがいいとこでもあるんだが……」

 貶されているのだろうか? 褒められているのだろうか?

 そんな彼女にファシアーナがニヤリと笑いかける。

「あのな? 今日アラーニャは晴れて魔性の女になったんだよ?」

「へ?」

 魔性の女? って、アラーニャちゃんが?

「だって彼女がその気になれば相手が男だろうが女だろうが愛欲の虜にできるんだからな?」

 ………………

 …………

 ……

 あははははっ!

「そんな女で国が滅んだことだってあるし、東の帝国を支配していた魔導師は力で押さえつけるだけでなく、こんな飴も利用していたと言われているしな」

 あはははははははははっ!

「そしてアルマーザ。お前はそれに加担しちゃったわけだ。だから今後アラーニャの歩む道にも責任があるんだぞ?」

「………………」

「というわけで、どうしてお前が“道しるべ”と呼ばれるのか、その意味をじっくり考えておけよ?」

「はあ……」

 アルマーザとアラーニャは呆然と顔を見合わせた。


 ―――かくしてアルマーザとアラーニャは劇は見に行けず、付け払いツアーにも参加できなかったのだった。