プロローグ 最悪のメンバー
《ファラがいなくなった?》
フィンとアウラがパミーナと共に来迎殿のロビーに駆けつけると、そこにはエルミーラ王女以下ベラトリキスのメンバーと白亜御殿の警備担当責任者が勢ぞろいしていた。
全員が顔面蒼白だ。
「あ、フィンさん!」
やってきた二人に気づいたメイが手を振ると、視線がすべて二人に集まる。
「リーブラ様。いったいこれは?」
いきなり王女が尋ねてくるが……
「いや、こちらも全く心当たりはありませんが……」
フィンはただ首を振るしかない。
だがメルファラは彼の名で呼び出されているのだ。ここでいきなりそのことを追及されたらどうしようかと内心ガクブル状態だったのだが―――王女ははあっとため息をついた。
「でしょうね。リーブラ様がそのようなことをなさる必要などございませんし」
それを聞いた他の一同―――主にベラトリキスの連中がうんうんとうなずくが、その様子を
見ていたフォレスとサルトスの警備兵はかなり訝しげな表情だ。
そんな彼らにメイが説明する。
「あ、だから大皇后様とリーブラ様は昔なじみの間柄なので、別に会いに行くためにあんな変な手紙を書く必要なんてないんですよ。普通にパミーナさんとかに声をかければいいだけで」
「夜の九時に二人だけでですか?」
サルトスの警備隊長が不審そうだが……
「あー、だからそうなんです。アキーラの開放作戦中なんかはもう、みんな一緒に雑魚寝だったりしてまして……」
どうやらフィンがそんなことをするわけがないということは、彼女たちがいろいろ説明してくれていたらしい。
おかげでいきなり糾弾されるようなことはなくなったが、しかし問題はここからだ。
フィンは尋ねた。
「それで、一体どういう状況なのですか?」
そこでメイがそのときのことを説明し始めた。
「あ、それが私、リモンさんがまた遅くまでやってるみたいなんでお菓子とかを持っていってあげたんですが、いつも練習してるところに彼女の姿がなくって」
「いつも練習する場所って、あそこよね?」
アウラが口を挟む。
「はい。ここの裏庭の、あの広くなってるところですけど」
フィンもときどき目にしていたが、その場所では暇があればアウラとリモン、それにサフィーナとガリーナが薙刀の練習をしていた。
「今日はリモン一人で?」
「あ、はい。サフィーナも今日は私と一緒だったんで……ほら、裁判ってやっぱり疲れるじゃないですかー。あはは
」
メイがちょっと赤い顔で答える。
《いや、まあそうだけど……》
そのせいで今日はアウラもフィンの部屋に入り浸っていたのだが……
「で、ほら、行ってもリモンさんいないし。キョロキョロしてたらパミーナさんがやってきて、ファラ様は来てないかと……」
パミーナがうなずく。メイは続けた。
「でもこんな時間にこんなところにいるわけないじゃないですか。だからそう答えたら、パミーナさんがあの手紙を見せてくれて……でもおかしいでしょ? フィンさんがそんなことするわけないし。だからパミーナさんに確認しに行ってもらったんですけど」
そこでまた一同の視線がフィンに向かう。
「ともかく私には全く心当たりのないことで……何なら見てもらったって構いませんが」
そう言って警備についている都の魔道士たちを見る。彼らは困惑した様子で顔を見合わせるが、そこにエルミーラ王女が言った。
「まあ、リーブラ様が逃亡なさるようなことはないでしょうから、そのようなことは後で必要になったらということで……で、ともかくいま明らかなのは、何者かが偽手紙を用いてファラ様をあの裏庭まで呼び出したということですね」
一同の顔が真剣になる。
《そうなんだよ!……これってすなわち……》
フィンは背筋が冷たくなった。
「やはり何者かに拉致された……と?」
サルトスの警備隊長が尋ねる。それに王女はうなずいた。
「私達をからかうためにどこかに隠れている、というのでなければ……」
………………
…………
……
そういう結論にならざるを得ないわけだが……
「ええっ?! いったい誰が!」
アウラが叫ぶ。
「そういうことを企む者がいるとすれば、アロザールかシルヴェストということになるのでしょうが……」
………………
…………
……
王女の答えに重い沈黙があたりを包み込む。
《確かに奴らにとって一発逆転しようと思えば、こういった方法になりそうなんだが……》
いま現在の戦況は圧倒的にこちら側の有利と言っていい。
彼らが中原で孤立していたときには、それを打開するためまさに決死の作戦が必要だった。
だがあの大中央突破の成功でサルトス王国が味方に付いてくれたおかげで、今では逆にこちらが相手を包囲している状況だ。
その後セイルズとクルーゼは相手方に奪還されてしまったが、それも想定のうちだ。
とすれば今後こちらから危ない橋を渡る必要はなく、じわじわと圧力をかけていけばいい。むしろそういった奇策に出なければならないのはあちら方で……
《だから軍勢の入れ替えの際が危ないと思っていたんだが……》
現状の友軍の配置はサルトス王国の主力軍がアイフィロスに展開しており、本国にレイモン騎馬軍団と都の魔導軍が駐留しているというねじれた状況だ。これでは両軍の力が発揮できないので、まずは配置の交換をしなければならない。
しかしその際にはシルヴェストの領域を通る必要があるが、そこはアラン王のホームグラウンドだ。どんな罠が仕掛けられているとも限らない。
さらにその際にはカロンデュール大皇とメルファラ大皇后、エルミーラ王女など白銀・レイモン・サルトス連合軍の中枢となる人物の移動が関わってくる。
《狙うんなら絶対そこだって思ってたんだが……》
だが結果から言えば完全に出し抜かれてしまったということなのだ。
「でも一体どうやって?」
思わずフィンはそう口にしていた。
彼らがいま滞在しているガルデニア城はまさに難攻不落と言っていい。
ここに潜入してメルファラ大皇后をさらって脱出するなど、どう考えても不可能なのだ。
《ってことは内通者が?》
偽手紙を利用したということは、城内にそういう者がいることを示しているわけだが……
「えっと……その手紙って誰が持ってきたんです?」
フィンの問いに警備隊長が答える。
「いま調べているところですが」
「あと、その時間帯に白亜御殿を出入りした者は?」
「ございません」
「え? 誰も?」
「はい」
フィンはぽかんとして一同を見渡すが、みんなも同様に首をかしげるばかりだ。
《内通者なら当たり障りのない姿で出入りするはずなんだが……?》
この白亜御殿は山の中腹の絶壁の上に建っており、側面も崖になっていて正面玄関を経由しない限りは出入りができない構造になっている。
その内部も何重にもなっており、メルファラ大皇后が大観殿から出ていこうとすればまず警備の都の魔道士たちの間を通り、その外にはレイモンの、更にその外にはフォレスの警備兵が出入り口を監視しているのだ。さらにその外側にはもちろんサルトスの衛兵も大量にいる。
以前エルミーラ王女が消えてしまったときは、彼女自身が遊女のふりをしてガルサ・ブランカを脱出してしまったわけだが、そもそも出入りした者が誰もいなければそれも不可能だ。
「えっと、それでリモンもいなくなってると?」
「はい」
再び警備隊長はうなずいたが……
《リモンまでが?!》
アロザールやシルヴェストにとってメルファラ大皇后をさらう理由はあっても、彼女をさらう理由などないはずだ。確かにベラトリキスの一員という意味では彼女も既に有名人だ。この間の試合でも名を挙げていたし……
《だからといって……?》
考えられるのは彼女がメルファラ拉致の現場に行き当たって、そこでついでにさらわれたという状況だが……
《ついでって……?》
彼女はそれこそ“暴風のリモン”の字を持つ、開放作戦ではアウラと並ぶ斬り込み隊長だったのだ。そう間単に捕らえられたりはしないはずだが……?
「えっと……現場で戦いの形跡は?」
「リモン様が練習されていた先に少し……」
「どんな?」
「裏庭の中央の広場から奥の木立の方にお二人のものと思われる足跡が残されておりまして、その先で少し地面が乱れておりましたが、しかし激しい戦いがあったとは……血痕などもございませんでしたし」
「奥の木立の方に?」
裏庭は中央が広場になっていてその周囲の何箇所かにこんもりとした木立がある。
「奥の方って、あの崖っぷちの?」
「はい。その先が見晴台になっている場所ですが」
その場所はアウラと何度かデートしたからよく覚えているが、とても静かで見事なガルデニア市街の夜景が望める、逢い引きにはまさにうってつけの場所ではあるのだが……
「そこって行き止まりだよね?」
「はあ……」
兵士はうなずいた。
《あそこから二人は消えたって?》
どこかに行こうと思ったら崖から飛び降りるしかない場所なのだが??
「それとまた別人の足跡もございましたが」
「別人?」
「はい。ただいま警備の物でないかどうか確認中ですが……」
「それもそこからは出ていってないってことか?」
「はあ……」
警備隊長がきまり悪そうにうなずくが……
《んな、バカな?》
フィンは思わずそこにいた都の魔導師の一団を見る。
だが彼らは一様に首を振った。彼にはそれで十分だったが、そこでハフラが口を挟んだ。
「えっと……それって魔法使いが飛んできたってことはないんですか?」
その疑問は一般人であれば当然の物かもしれない。
それに答えたのはアルマーザだった。
「あー、そりゃまずないでしょ。そうですよね?」
そう言って魔導師たちの顔を見る。
「はい」
一同はうなずく。
「そうなの? でも確か以前フィンさんが捕まったとき、アロザールの魔導師に助けられたって言ってたけど」
ハフラの問いにフィンが答えた。
「ああ、あのときはレイモンには魔導師がいなかったから」
「いたらダメなんですか?」
「うん。魔法使いってのは遠くからでも魔法使いを感知できるんだ。いろいろ条件はあるけど。ほら、シアナ様がリディール様を見つけるみたいに」
「ああ、じゃあ魔法使いがやって来たのならすぐ分かると?」
フィンはうなずいた。
「ああ。しかも魔法を使ったらもっとよく目立つから。そして飛行魔法ってのはずっと魔法を使い続けなければならないんで、中でも特に分かりやすいんだよ」
「ああ、そうなんですね」
「ま、俺みたいのはともかく、こちらの都の一流の方々なら絶対見落としたりはしないって」
一同はうなずいた。
「ってことは……」
そう言ってハフラは黙り込んだ。
「てことは?」
アウラが促すと彼女は何やら辛そうな顔で答えた。
「誰か手引した人がいるってことになりますよね?」
一同が沈黙する。
確かに外からさらいに来ることができないのであれば、内通者がいるということになるわけだが……
と、そこで警備兵の一人がつぶやいた。
「えっと……リモン殿も何故か姿を消しているのですよね?」
その途端だ。
「あり得ませんっ!」
エルミーラ王女のきつい声が響き渡った。兵士は真っ青になって黙り込む。
《いや、確かにその気持ちはよく分かるんだけど……》
彼女は今では王女の最古参の侍女だった。
王女が例の事件で孤立した後、グルナに次いでやってきたのが彼女だ。
そしてもう全く疑いようがないのだが、彼女はエルミーラ王女のためならば間違いなく死をも厭わないだろう。
《普通ならあんなケガをしたら辞めちゃうもんなんだが……》
王女が誘拐されたときに彼女は大怪我をした。普通ならそれで終わりなのだが彼女は全く怯むことなく更に鍛錬を重ねて、ついにはアウラと肩を並べる王女の護衛官となったのだ。
エルミーラ王女がここにいる中で最も信頼しているのが誰かと問われれば、間違いなく彼女―――リモンだと答えたことだろう。
《そんな彼女が裏切りなんて……》
全く考えられないことなのだが……
《ただ……嵌められたとかなら……》
忠誠心がいくら高くともそんな陰謀に嵌ってしまう可能性はあるのだが―――だが今はそんな憶測を言って揉めている場合ではない。
フィンは言った。
「ともかく内通者がいる可能性が高いということですが、だとしたらやはりこれはアラン王の仕業の可能性が高いように思われますが……」
「やはりそう思われますか?」
王女がフィンを見る。
「はい。このガルデニア城から誰かを拉致するとか、多分前々から仕込んでいなければ難しいことだと思いますし。しかしアラン王ならばそういった工作をすることは可能だったんじゃないかと……」
シルヴェストとサルトスは非常に親しい間柄であったが、アラン王ならば味方だからといって油断したりはしないだろうし―――実際こうやって袂を分かってしまったわけで……
と、それを聞いたサルトスの警備隊長が尋ねる。
「しかし、アロザールにもそれは可能だったのでは? 長い間我が国とは同盟関係でしたし」
フィンはうなずいた。当然の質問だが……
「まあ、そうなんですが、でもちょっとやり口が違うように思うんです。こういう緻密な下工作とか……むしろあっちなら何らかの未知の魔法でこちらの魔導師を出し抜くとか、そういった方向になりそうなんですが……」
「そういうことが可能だと?」
フィンは首を振る。
「いえ、分かりません。仮定の話ですから。ただ、もしアロザールにそんな力があったとしたなら、私達がアキーラにいた頃のほうがずっと容易だったと思うんですが」
エルミーラ王女もうなずいた。
「そうですわね。あの頃のアキーラには高位の魔導師といったらシアナ様とリディール様しかいらっしゃいませんでしたし」
今ここはあの二人と匹敵するクラスの魔導師が十人以上でがっつりと固めているのだ。
「ということはやはりシルヴェストが?」
警備隊長の問いにフィンは首を振る。
「まだ分かりませんよ。ともかくもっと調査しないと……ただ……」
フィンはパミーナの顔を見る。
それに気づいたエルミーラ王女もうなずいた。
「そうですわね。パミーナさん。また少々ファラ様の代わりをお願いしなければならないみたいですね」
「え? あ、はい……」
彼女は一瞬言葉を呑んだが、すぐにうなずいた。
ともかく今メルファラ大皇后が拉致されたなどと公表するわけにはいかない。
―――となれば彼女には影武者を頑張ってもらって、その間にどうにかして大皇后を見つけ出さなければならないわけだが……
それから数日が経過したが、メルファラ大皇后の行方は杳として知れなかった。
憔悴したフィンは自室に戻るとベッドに倒れ込む。
《どこ行っちまったんだよ……》
あれから内密に調査は行われたが、彼女がどのように拉致されたかも未だに不明だ。
メルファラに手紙を持ってきた侍女は見つかったのだが、彼女は魔法で操られていてどこで誰に頼まれたのかも定かではなかった。
内通者がいたなら偽装して彼女を運び出さなければならないわけだが、城の出入りの記録をどれだけ精査しても怪しい兆候は見つからなかった。
《それ以外の方法で!?》
本当に空を飛んでいったとでも言うのだろうか? だが前述の理由でそれもほぼあり得ないのだが……
《それよりも……どうして奴らは黙ってるんだ?》
これが誘拐事件ならばそろそろ犯人からコンタクトがあって然るべきだ。
敵がシルヴェストにしてもアロザールにしても彼女の身柄を盾にすれば今の劣勢をひっくり返すことだって可能なのだが……
《あー……でも、簡単にとはいかないか?》
メルファラ大皇后はレイモンの国民には心から慕われている。
このことはアコールのアリオール将軍とその側近にだけは伝えているが、それ以外の兵士たちはまだ知らない。そんなことになったら彼らがどうブチ切れることか……
《下手なことをしたら藪蛇になるのは分かってるだろうけど……》
だが、さらってしまった以上はそのカードを切らなければ意味がない。
またそうしてもらえないとこちらにしても動きようがないわけで……
「はあ……」
フィンは大きくため息を付いた。
《ともかく少し眠るしかないか……》
ここ数日ほとんど寝ていない。寝ようとしても目が冴えてしまう。このままでは早晩潰れてしまうかも知れないし……
そう思ってフィンは目を閉じた―――と、そのときだ。
トントントン……
ノックの音がする。
《誰だ? こんな時間に……》
それからがばっと跳ね起きると扉に向かって走った。
《何か分かったのか?》
こんな時間に来るということは―――そして扉をバタンと開けると……
「ひゃっ!」
驚き声で飛び下がったのはメイだった。
「あ?」
思わずフィンも絶句する。言伝をするのならサルトスの侍女で十分だ。なのにどうして彼女が自らやってくるのだ?
すると彼女が小声でささやいた。
「あ、フィンさん。実はちょっと困ったことが起こってしまいまして……」
「困った?」
フィンは凄まじく嫌な予感がした。
「はい。それが……」
彼女が立ち聞きを恐れるかのようにあたりを見回す。
「んじゃ中に」
フィンは部屋に彼女を招き入れた。扉を閉めると彼女に小声で尋ねる。
「いったいどうしたんだ?」
「それが……ティア様たちが、ファラ様を助けに行ってしまわれたんです」
………………
…………
……
「はあ!?」
彼女の言葉の意味がフィンの脳髄に染み渡るまでしばしの時間が必要だった。
「いま……何て?」
「だからエルセティア様たちが、ファラ様を助けに行くって出ていってしまわれたんです」
………………
…………
……
「はあぁぁ!?」
ぽかんとしているフィンにメイが説明する。
「それが今日、夕食の場にティア様が現れないんで見に行かせたら、書き置きが残されてて、いつまでたっても埒が明かないから自分でファラ様を助けに行くって書かれてあって……」
「はあぁぁぁぁぁ!?」
いや、確かにメルファラ大皇后の行方は皆目検討がつかないので誰もが焦っている状況ではあったが―――ってか、エルセティア“たち”?
「たちって、あいつの他に誰か一緒に行ったってことか?」
メイがうなずいた。
「はい。彼女の他にアラーニャさんとキールさん、それにアルマーザさんとあと……」
「あと?」
「アウラ様が……」
………………
…………
……
「ア ウ ラ !?」
メイがまたうなずいた。
「はい……ともかくそれで内密にリーブラ様をお連れしろと王女様が……」
フィンは茫然自失となった。
《なに?……そのメンツ……》
忘れられがちだが、ティアとメルファラはここにいる中では最も古くからその秘密を共有していた、まさに特別な間柄だった。
《あのバカ……ファラのこととなったら見境がなくなるし……》
ある意味このすべてが彼女と「メルフロウ皇太子」の結婚から始まるのだ。
そして彼女が今ここにいるのは、中原でのファラの危機を知ってヴェーヌスベルグの仲間たちと共に駆けつけてきたためで……
だとすれば―――かような親友の危機にあのバカが暴走するというのはむしろ必然で……
「うわあああああっ!」
ってか、それに……
「えー……それでどうしてアウラが?」
アラーニャやキール/イルド、それにアルマーザが行ったというのはまだ分かるのだが……
メイは首を振る。
「さあ、分かりません」
どうせアウラのことだ。あのバカの根拠のない自信に溢れた態度に騙されたということは十分あり得るが……
《でも……何だって?》
ずっと一緒に旅していたからよく分かるが、アウラというのはそもそも考えるより先に刃物が出るタイプだ。ここしばらく大人しいように見えたのは、ベラトリキスの一員として仲間と一緒に行動していたからで……
それが解き放たれたりしたら?
「うわああああ!」
しかもそれにブレーキをかけられるとしたら―――あのバカはむしろ煽ってそうだし、アラーニャはあいつの言いなりだろうし、キールは冷静な判断はできても押しが弱すぎるし、イルドは……
「あははははっ!」
とすれば残りは……
《アルマーザだけ?》
彼女も何だかよく分からない奴らの一員なのだが……
「あああ?」
頭を抱えながら呻いたり笑ったりしているフィンにメイが言った。
「あの、それで王女様がとりあえずいらして欲しいと……」
「あ、分かった」
フィンはともかくも準備を始める。その横でメイが苦笑しながら言った。
「リサさんなんかは、お腹が減ったら帰ってくるんじゃ? とか言ってましたけど……」
「ぶはっ!」
フィンは吹き出す。確かにあのバカならそれもあり得る話だが……
「でもそれに賭けるわけにもいかないだろうとのことで……」
あははははっ!
「既に城門などには連絡を入れましたが……」
「そうか」
フィンは大きくため息を付いた。
《あのバカ……余計な手間を増やしやがって……》
ともかく迅速に動いてくれているのなら、すぐにこっちは片が付くことだろう。
だが、フィンの脳裏にそこはかとない不安がよぎった。
《大丈夫だよな?》
なにしろ―――あのバカは“悪運”にだけは人並み外れて恵まれていたりするわけで……




