メルファラ救出作戦 第1章怪しい占い師

メルファラ救出作戦


第1章怪しい占い師


 そろそろ深夜になる。

 雪がちらついている。

 今の時期はサルトスでも一番寒い時期だ。だからここでも雪が降ることはあるが、今年はあまり積もってはいない。

《フォレスに比べたら全然よね……》

 アウラは思った。

 あそこの冬といったら一面の銀世界で、春になるまでずっと地面や草花を拝むことはできない。でもここではまだ晩秋といった光景だ。

《あのときはすごく積もっていたのに……》

 思わずそう考えてしまって―――胸の古傷がずきっと痛む。

 ここサルトスは彼女にとっては辛い記憶の場所だ。一人ではとてもこの地に足を向ける気にはならなかっただろう。

 しかし今、彼女は一人ではない。

 横を歩いている黒髪の娘はかなりの美人でスタイルも良く、特に身のこなしがしなやかだ。そんな姿を見れば彼女が大皇様の心を掴んでしまったことは頷けないことはないのだが……

《でも大丈夫なのかしら?》

 そのちょっと変てこな人柄を知っていると、アウラでも少しばかり心配になってしまうのだが……

 彼女たちの前には若い娘二人と大きな荷物を担いだ男が一人並んで歩いている。

 右側を行く真っ黒なつややかな髪を飾り紐で結んだ娘はアウラより四つ年下だが、驚くべき魔法の才能を秘めている。

《あいつなんかもう比べ物にもならないのよね……》

 フィンも一応は魔法使いの端くれなのだが、彼が使える魔法はささやかな三種類のみ。それに対して彼女は既に念動の魔法や飛行の魔法、精神魔法に熱や冷気を操る魔法ができるだけでなく、今でも成長を遂げ続けているのだ。

 中央を行く大荷物の男はわりとしっかりした体つきではあるが、その歩みはちょっと自信なさげだ。結構端正な顔立ちなので実は意外に女官の間では噂になっていたりもするのだが……

《とっても……安全なのよね》

 アウラは今でもあまり男は好きではない。どういう男でもたいてい彼女たちを見ると妙な目つきで全身を眺め回して来るものなのだが―――彼にはそのような心配はまったく無く、数少ないホワイトリストに入っている男なのだった。

 ただそのもう片割れときたら……

《あれって……何なのかしら?》

 まあ、あまり度を越したことをしてきたのならぶった斬るだけの話なのだが。どうせ簡単には死なないし。その許可も得ているし。

 そしてその左側を歩く茶色のくるくる巻き毛のやや太めの娘は……

《ほんとうにあいつの妹なのかしら?》

 別に疑いたいわけではないのだが、どうしてもそんな思いが心をよぎってしまう。

 今回も彼女のたっての願いということで、巻き毛の間から覗く大きな瞳に懇願された結果、つい押し切られてしまったのだが……

《フィンだったらもうちょっと安心できたんだけどな……》

 彼とは一緒に、いま思えばかなりヤバめの案件に首を突っ込んできたのだが―――例えば国王をぶった斬りに行ったときとか―――しかしそんな状況でも彼と一緒だと何故か不思議な安心感があった。

 だが彼女の場合は……

《うーん……》

 そこはかとない不安が心から離れないのだが―――と、そこで横を歩いていた娘が巻き毛の娘に業を煮やしたように言った。

「ティア様~。ちょっとそろそろ寝る場所を確保しないとまずいですよ~」

 娘は振り向かずに答える。

「何を言ってるの? ミアさん! ここにはティアなんて人、いませんからねっ!」

 “ミアさん”がはあっとため息をつく。

「あー、だからリアンさん? でしたっけ? そろそろ雪も本降りみたいだし~」

「そうだよ。ティ……リアン。このままだとみんな凍えてしまうぞ」

「あのー、どこか宿屋を探しては?」

 それを聞いた男と反対側の娘も“リアン”に抗弁するが、彼女はちっちっちと指を振る。

「だめよ? リブラちゃん。そんなことしたら見つかっちゃうじゃないの」

「でもそれじゃどーするんですか?」

 ”ミアさん”が少々いらついた様子で尋ねる。

《確かにちょっとまずいかも……》

 フィンと出会う前にはこんな状況にもわりとよく出くわしたような気もするが―――そんな場合アウラなら単に朝まで眠らずに頑張っていれば良かった。だが彼女たち、特に“リブラちゃん”にはそれは少々酷なように思われる。

 ―――と、もちろんこれは彼女たちが人目を避けるためにつけた偽名である。

 “リアン”というのはもちろんティアだが、何でも都の頃の悪友の名前なんだそうだ。

 “ミア”はアルマーザ、“リブラ”はアラーニャで、共にヴェーヌスベルグの姉妹たちの名前だという。

 男の方は別に名が知れているわけではないので、それぞれキールとイルドだ。

 そして……

「ディーネさーん、何かいいアイデアない?」

 ティアがいきなり振ってくるが―――“ディーネ”はいつかエルミーラ王女を救出しにベラに潜入したときに名乗っていた名前だが……

「いいアイデアって言われても……」

 それこそ朝まで我慢するとしか―――と、口ごもっていると……

「どーしてこんなに分かりにくいのよっ! この街はっ!」

 ティアが地団駄を踏む。

 当初の予定ではとっとと町を出てどこか途中の宿に泊まることになっていた。そこならば彼女たちの顔も知れていないだろうということで……

《えっと、本当かしら?》

 アウラはちょっと心配だったのだが、ティアが自信有りげだったのでとりあえずは信用しておいたのだが、彼女たちはそれ以前の段階で頓挫していた。

 ―――そう。城でフィン達が慌てていたとき、彼女たちはまだガルデニアの町中で迷子になっていたのだ。

「ともかくここでこうしていても始まりませんよね?」

「まあ、そうなんだけど……」

 アルマーザの言葉にティアが渋々答えるが……

 山で遭難した場合は無駄に動き回って体力を消耗しないほうがいいのだが、ここでそれというのもちょっと間が抜けている気がするし……

「でもどっちに行ったらいいのよっ!」

 何だかもう方向もよく分からない。

 と、そのときだ。

「んじゃ、こっちに行ってみよう」

 そう言ってキールがすたすたと暗い路地裏を歩き出したのだ。

「えっ? こっちで大丈夫なの?」

「あそこでじっとしてるよりいいだろ?」

 ティアの問いに彼がそう答えるが……

「だけど……」

 普通なら歩いていればどこかに行き着くものなのだが、この街はその点では極めて意地悪な作りになっていた。

《また行き止まりじゃないといいけど……》

 もう何回目だろうか?

 おかげで先程……

『何よ! これ! どうなってるの? もうアラー……じゃなくってリブラちゃん。みんなを抱えて飛んでってよ!』

 と、ティアがぶち切れていたのだが……

『あー、ダメですよ。ティア様。飛行魔法なんか使ったらすぐ見つかっちゃいますって』

 と、アルマーザにダメ出しされていたのだ。

 確かに今では彼女の魔法の知識は人並み外れているから、その助言には従うべきだ。

 アウラがそんなことを考えていると……


「いたか?」

「いや、こっちにはいなかったが」

「どこに行きやがったんだ?」


 前方からそんな会話が聞こえてきたのだ。

 !

 一同は顔を見合わせる。

《追っ手かしら?》

 だが言葉の様子からはアウラたちを追っているようにも思えないのだが―――でもあまりそんな奴らとは鉢合わせはしたくない。

「みんな! こっちに!」

 そこでキールが横にあった細い脇道に駆け込んでいく。

《そんなとこ行って……大丈夫なの?》

 と思っても仕方ない。一行はともかく彼の後について細道に入っていった。

 その道は大きな屋敷と屋敷の間を縫うように続いている。両側は高い石壁だ。そして……

「あーっ! 行き止まりじゃないですか!」

 やはり細道はちょっとした空き地で行き止まりになっていた。入ってきたところ以外はすべて高い壁だ。

《あー……また?》

 何度目だろうか? こんなことは―――と思った瞬間だ。


「うわっ! ったったった……」

                          ずでーん!


 振り返るとキールが何かにつまづいてすっ転んでいるのだが……


「いやあああああっ!」


 ―――その「何か」が大声で悲鳴を上げたのだ。

《ええっ⁉》

 薄暗い中で目を凝らして見ると、そこには若い女性らしき人が地面にうずくまっていた。黒っぽいローブですっぽりと身を覆っていたのですぐには気づかなかったのだ。

「申し訳ない。大丈夫ですか?」

 慌ててキールが立ち上がって彼女に手を貸すが……

「あっ、しーっ!」

「え?」

 女性が指を口に当てて耳をそばだてている。


「こっちから声がしたぞ!」

「あの女、見つけたらただじゃすまねえ!」


 そんな声が近づいてくる。

「ああああっ……」

 女性が真っ青になった様子だ。

「えっと……もしかして追われてるんですか?」

 アルマーザが尋ねると彼女はうなずいた。

「あ、はい……その……」

 見るからにオロオロした様子だ。

 アルマーザがどうする? といった表情で見つめるのでアウラは小さくうなずいた。まあこんな場合は仕方ないとはいえ……

《あー……薙刀、また汚れちゃうな……》

 あれは血が付いたらすぐ錆びてしまうので、なるべくなら無駄な殺生は避けたいのだが―――そんなことを思いながら彼女とアルマーザは広場の入口に向かって並んで立った。

 すぐにそこから三人の男が現れた。

 一人がランプを持っていたのでその姿はよく見えるが、どうみてもあまり素性の良い奴らとは思えない。

 男たちはアウラたちの姿を見て驚いたようだが、すぐにその後ろに隠れていた女性に目を留めるとわめいた。

「こんなところにいやがったぜ!」

 別の男がアウラたちに向かって言う。

「ほら、とっととそいつをこっちに渡しな。痛い目を見ないうちにな」

 どう見ても初対面の、しかも若い女性に対する礼儀がなっていない。

「嫌よ!」

 アウラはにべもなく答える。

「あんたたちこそ死にたくなかったらとっとと消えなさいよ!」

 彼女にとってはこの男たちがここのサルトス兵はおろか、アロザール兵にさえ比べるべくもないただのチンピラというのは一目瞭然だった。

 だがそれを聞いた男たちは当然激高して剣を抜く。

《はあ……》

 こうやっていつも親切に言ってやっているというのに、どうしてこいつらは揃いも揃って人の言葉を聞かないのだろうか?

 アウラは横のアルマーザをちらりと見る。彼女が小さくうなずいた。

 そこで彼女は愛用の薙刀をカチリと継ぎ合わせると―――次の瞬間ぼとりと手前にいた男の手が剣ごと地面に落ちていた。

「あ?」

 残った二人が目を見張るが、その次にはもう一人の腕も地面に落ちており、最後の一人はアルマーザに太ももを貫かれて地面に這いつくばっていた。

「ひぃぃぃぃっ!」

 後ろから女性のひきつった声がする。

 振り返るとあの女性が顔を覆って震えているが―――まあ普通はあんまりこんな修羅場には慣れていないだろうから仕方がない。

 ともかくこんな場所に長居はしたくない。一同は顔を見合わせると大急ぎでその場を離れた。

 しばらくして安全な場所までやってくると、女性がほっとした様子で頭を下げた。

「あの……ありがとうございます。いや、みなさんお強いんですねえ」

 それに答えたのはティアだ。

「いや、それほどでもないのよ? でもまあ、ちょっとは腕に自信があったりして ……主にこの二人はだけど」

「本当に凄かったです!」

 彼女は二人にぺこぺこ頭を下げた。

「でもまたどうしてあんな奴らに追われてたんです?」

 アルマーザが尋ねると、その女性がちょっとそっぽをっ向いて答える。

「あ、いえ、それがちょっとイカサマがバレちゃってですね……」

 ………………

 …………

「はいぃ?」

 アルマーザがぽかんとした顔で訊き返す。

《イカサマって……》

 もしかして―――あいつら、態度は確かに悪かったが実は悪いやつではなかったのか?

 一同のそんな表情に気づいて、女性は慌てて早口でまくしたてた。

「違うんですよ? 最初にやったのはあいつらなんですからね? なのにやり返したら怒りだしちゃって。いっつもあいつら組んでカタギの人をカモにしてるから、こっちもちょろっと本気を出してやったら因縁つけてくるんですよ? そんなカード持ってなかっただろーとか。どーしてそれが分かるんですか? んなのあんた達が通してなきゃ分かんないでしょう? そもそもその場を押さえられない方が間抜けなんですよ。この世界じゃ。それなのに……」

 一同は呆気にとられてそれを聞いていたが……

「で、まあ、そいつらから逃げてたと?」

 ティアが苦笑しながら尋ねる。

「はい、まあそういうことで……いやー、本当に助かりましたー」

 ともかく無実の人をやっつけてしまったというのでなければいいだろう。

 それはそうとこれからどうすれば?―――とアウラが思ったときだ。

「えっと、それで皆様はどうしてあんなところに?」

 一同がうっと言葉に詰まる。

 冬のこんな時間にあのような場所で遭遇するなど、確かに少々不思議に思われても仕方ない。

「いや、ちょっと今晩泊まる場所を探してて……」

 ティアが答える。

「ええ? 今晩って……まだ泊まる場所がないんですか?」

「あ、ちょっとね」

 女性が大きくうなずいた。

「えっと……お金がないんですか? だったらお礼に差し上げますよ? 幸い懐はちょっと暖かかったりしますので……」

「いや、別にお金には困ってないんだけど……」

 女性の目が丸くなる。

「ってことは……皆様もその、なにか訳ありと?」

「いや、別に悪い事してるんじゃないのよ? ただちょっと隠密に動かなきゃならないわけがあってね……」

 それを聞いた女性はしばらくぽかんと彼女の顔を見ていたが……

「あー、それじゃ、私の所にいらっしゃいます?」

「え?」

「このちょっと先に下宿してるんですよ。狭いところですけどこれなら何とか入ると思いますけど?」

「え?」

 一同は顔を見合わせるが―――間違いなくこの申し出を断ったら一晩中町中を彷徨うことになってしまいそうだ。

「あの、本当にいいの?」

 女性がにっこり笑った。

「もちろんですよ! 皆様、命の恩人なんですし」


 ―――というわけで、その晩一行はその女性の下宿に泊まることになった。



 下宿に向かう道すがら女性が言った。

「あ、それで申し遅れましたが、私、ジェニーと申します。皆様は?」

 そういえば自己紹介もまだだったが、そこでティアがみんなの紹介を始める。

「あ、私はリアン。こっちがリブラちゃん。こいつがキールっていって、彼女がミア、隣がディーネっていうのよ」

 ジェニーが一同の顔を見渡す。

「そうなんですか。なかなか良いお名前ですねえ。で、これからどうなさるおつもりで?」

「え? あ、ちょっとシフラまで行きたいんだけど……」

 ………………

 …………

 それを聞いたジェニーがまたぽかんとした顔でティアを見つめる。

「シフラ⁉ までですか?」

「え? あ、まあそうなんだけど……」

「思いっきり敵国じゃないですか……ああ、でもこうなったのは最近だから……もしかしてあちらにお知り合いでも?」

「え? そうよ! そうなの!」

 確かに間違いではないはずだが―――ジェニーはなにかそれで納得したようだった。

「でもこれから行くとなると……大変なんじゃないですか?」

 そのまさに正論に一同がうーっと言葉に詰まる。

《そうなのよね……》

 彼女たちは早急にそこまで行かなければならないというのに、いまだガルデニアから出る方法さえ分かっていなかったりするわけで……

「えっと……本当に行かなきゃならないので?」

 ジェニーが不思議そうに尋ねるが……

「それはそうなの」

 ―――ティアがきっぱりと答えた。

「へえぇ……」

 それから彼女は何やら考え込んでいたが、しばらくして顔を上げる。

「あ、こちらですよ」

 そう言って下町の下宿屋に入っていった。

 そこは確かにあまり広くはなかった。

 部屋はちょっと細長い長方形で、ベッドの他にはクローゼットと小さなテーブルセットがあるだけだ。

「あ、ちょっとみなさん、手伝って下さいな」

「手伝うって?」

 ティアが尋ねるが……

「マットレスを借りてくるんですけど。この床じゃ凍えますよ?」

「あ、はい……」

 当然だった。そこで一行は大家のところにマットレスと毛布を借りに行く。

 こんな夜中に大勢で行って大丈夫かとも思ったが、大家は特に文句も言わずに貸してくれた。

 借りてきたマットレスを敷けば床には四人、ベッドに二人入れば何とか寝られる状況になった。

「狭いのは我慢してくださいね」

「いえいえ、全然大丈夫ですから」

 レイモンにいた頃はこんな感じで雑魚寝していたこともよくあったし……

「あと、あんまり騒ぐと叩き出されたりするんで」

「それはそうよね」

 ともかくねぐらが確保できたのは幸運だった。今それを手放すわけにはいかない。

 一息ついて、それではもう寝ようかと思ったときだ。

「あの……あれって何なんですか?」

 アルマーザがテーブル上の、綺麗な刺繍入りのビロード布で包まれた何か場違いな四角い物体を指差した。

 それはアウラもちょっと気になっていたのだが―――するとジェニーがにこやかに答える。

「あ、これは商売道具なんですよ?」

「商売道具?」

「あ、はい。実は私、占い師をやっておりまして」

 一同は顔を見合わせる。

「え? そうなの? てっきり勝負師か何かと……」

 思わずティアが尋ねると、彼女はまたにこやかに笑う。

「いえいえ、そっちは副業で、本業はこちらなんですよ

 それを聞いていたアルマーザが目を輝かせた。

「へえ……実はうちのお母さんにも占いの得意な人がいたんですけど……どんな占いするんです?」

 ジェニーがちょっと不思議そうに首をかしげるが……

「色々できますけど……」

 そう言って彼女が箱を包んでいた布を開くと、中から細かく象眼された漆塗りの箱が現れた。

 蓋を取ると中に拳くらいの大きさの水晶玉が入っていて、その横には模様のついた木の棒や占い用のカードも何種類か入っている。

 それを見てアウラはヴィニエーラにフラシカという占いの得意なプリマがいたことを思い出す。

《みんな好きだったのよね……》

 遊女達は何かあると彼女に占ってもらって、その結果に一喜一憂していたものだが―――彼女自身は占いよりも薙刀の方を信頼していたのだが……

 と、そのときだ。

「あれ? それって?」

 アルマーザがカードの一つを指差すと……

「あ、これですね。結構いま流行ってるんですよ?」

 ジェニーがまたにこやかに答える。

 一同は顔を見合わせた。

「でも……それってベラトリキスのブロマイドカードですよね?」

「はい。そうですけど?」

 彼女がさも当然と答えるが―――再び一同は顔を見合わせた。

 大皇后とその女戦士たち(ベラトリキス)がアキーラ解放を成し遂げた後、その肖像が描かれたブロマイドカードが何セットも発売されて人気商品になっていたことは知っていたが……

「それがどうかしましたか?」

「いや、その……それで占いなんかできるんですか?」

 アルマーザが首を傾げながら尋ねると―――ジェニーは真顔でうなずいた。

「もちろんですよ。むしろ今だと一番霊験あらたかだと言っても過言ではありませんよ?」

 ………………

 …………

「そーなんですか?」

 彼女はまた真顔でうなずく。

「だってあんな奇跡を起こしてくださった方々なんですよ? そもそも大皇后様は白の女王の直系のお方ですし、他の皆様も女王の守護天使の加護のある方々ですし」

 ………………

 …………

 そんな戯言を聞いて笑わずにいるのは少々大変だったが―――ジェニーは一同の様子にちょっとむっとしたようだった。

「それじゃ占ってさしあげましょうか?」

 一同はまた顔を見合わせるが、ここで断る理由もあまりない。

「ああ、それじゃ……」

 ティアが曖昧に答えると……

「それでは何を占いましょうか? やっぱり恋占いですか?」

「えっ?」

 思わず全員が顔を見合わせる。

《恋占いって……》

 アウラだとフィンとの間が今後どうなるかということになるんだろうか?

 だが―――何だかピンとこない。

 確かに彼が彼女を置いてレイモンに潜入してしまったときには少々カッときて都に乱入してしまったりもしたが、彼はもうそんなことはしないと言っているし……

《ファラのことが好きなのだって最初っからなんだし……》

 彼女と接してみればフィンがあれほど必死だったというのもよく分かるし。それに何より彼女もファラのことは大好きだし……

 他のメンバーも首を傾げている。

《ティアとアラーニャはもうあの二人で決まりだし……》

 何しろティアはそのせいでカロンデュール大皇の求婚を断ったくらいなのだから。彼らの絆というのはちょっとやそっとではどうにかなりそうもない。

《それにアルマーザだって……》

 彼女はその大皇様の妾姫となることが内定しているのだ。結婚相手としてそれ以上を望むことなど“無い物ねだり”にも程があるということはアウラにだって分かる。

《何か相性も抜群みたいだし……》

 しかもそのせいでカロンデュール大皇とメルファラ大皇后の間のわだかまりが溶けたりもしているし……

 というわけで、全員恋の悩みで切羽詰まっているというわけではないのだが……

 と、そこでアルマーザがティアに言った。

「それじゃ今度のがうまく行くかどうか、とかはどうです?」

「え? 今度のって?……今度の?」

「そうですけど」

 それを聞いていたジェニーが尋ねた。

「えっと……もしかしてみなさんの今度の旅がうまく行くかどうか、とかですか?」

「あ、そんな感じですけど……そんなのも占えるんですか?」

「もちろんですよ」

 彼女はうなずいた。だがそれから一同の顔を見る。

「でも……でしたらもう少し詳しく今度のことを教えていただけます? どなたに会いに行くのかとか、どうしてそんなに急いでいるのかとか……」

 一同は顔を見合わせた。

《それって……》

 さらわれたメルファラ大皇后を救出しに行くなどとはさすがに言えない気がするのだが?

「えっと……やっぱり詳しく話さないと?」

 ティアが尋ねるとジェニーはあっさり首を振る。

「いえ、無理ならば全然構いませんよ? ただ結果も曖昧になってしまいますけど……」

「それで構わないけど? って、いいわよね?」

 もちろん他の一同に異存はない。

「わかりました」

 ジェニーはうなずくと箱を包んでいたビロードの布を取り上げて、平らにマットレスの上に広げる。そしてその奥に座って言った。

「それでは皆様、そちらに座ってください」

 そこで布を挟んで正面にティアが座り、その右側ににアラーニャとキール、左にアルマーザとアウラが座った。

 それからジェニーは漆塗りの箱からうやうやしくベラトリキスカードを取り出すと、念を込めるようなしぐさをしてから裏返しに布の上に広げていった。

「それではこれを皆さんで混ぜて下さい。その際には今回の旅のことをしっかりと念じていて下さいね」

 一同はちょっと顔を見合わせるが、笑いをこらえながら全員でカードを混ぜ始める。

「こんな感じでいい?」

「皆さんがいいと思うのならばそれで構いませんよ? 大丈夫ですか?」

 全員がうなずく。そこでジェニーはカードを一つに集めて積み重ね始めた。

 その姿を見ながらアウラは思った。

《この人……何歳なんだろう?》

 どこにでもいそうな普通の女性だ。

 だが、これまではアウラたちと同じか少し歳上ぐらいだと思っていたのだが、ロウソクの明かりに照らされたその横顔にはなにかとても老成した趣が感じられるのだが……

《占い師だからなのかしら?》

 そういえばヴィニエーラで占いが得意だったフラシカも年齢よりはずっと大人びて見えた気がするが……

 カードを積み終えるとジェニーが言った。

「それでは代表の方、カットしてくださいますか?」

 そこでティアが慎重にカードを二つに分けて、上下を入れ替える。

 そのカードを前にしてジェニーはしばらく精神集中すると、カードを一枚ずつ左、右、上、下とダイヤモンド型に置く。

 それからもう一枚、その中央に置いて十文字型を形作ると一同の顔を見渡した。

「それでは始めましょう」

 そう言って目を閉じてはあっと息を吐くと……

「このカードはあなた方の現在の状況を表します」

 ―――そう言いながらまず左のカードをめくった。

 そこには王冠を抱き王尺を持った凛とした女性が描かれていた。

「あ、エルミーラ様じゃないですか!」

 アルマーザが言った。

 間違いない。実際カードの下に“暁の女王エルミーラ”と記されている。

 一同がちょっと顔を見合わせると頬が緩む。

「これって……もしかしてわりといいってこと?」

 ティアが尋ねる。

 アウラも出たのが王女ならそんな気がしたのだが……

「いやその……」

 ―――ところがジェニーが残念そうな声を上げた。

 それから一同の顔を見ると言った。

「これって逆位置なので……」

 確かにカードはジェニーから見たら上下逆さまだ。

「逆だとどうなるの?」

「意味が反対になってしまうんですよ。すなわち……暁の女王エルミーラ様は強い意志や責任感、行動力などを意味するお方なんですが、それが逆なので……」

 彼女は残念そうに一同を見渡す。

「何というか……その、確かに行動力はあっても、無責任に思いつきで突っ走っているといったような意味になってしまいまして……」

 一同は顔を見合わせた。

《もしかして……当たってる?》

 アウラはこうなったときのことを思い出した。それは昨夜のことだったが……


 ―――それを聞いたアウラもさすがに驚いた。

「ファラを……助けに行くの?」

「そうなの。お姉ちゃん」

 彼女とは確かにやがてはそういう関係になる間柄だった。しかし、あのルンゴの村で出会ってからというもの、事態が急転し続けていて彼女とゆっくり話している余裕があまりなかった。

《そんなの……大丈夫なのかしら?》

 さすがに今回のはちょっと誘拐団のアジトを突き止めるとかいった話とは訳が違う。

「でも、助けに行くっていったいどこへ?」

「それはもちろんシフラよ?」

 ティアは自信有りげに答えるが……

「本当にシフラにファラがいるの?」

「そりゃもちろんよ。こんなことをするのはアラン王しかいないんだし」

「でも、アロザールのアルクス王子だっているし……」

 だがまた彼女は自信有りげに首を振る。

「ふふっ! それはないって!」

「そうなの?」

「そうよ? だってお兄ちゃんも言ってたじゃない。このガルデニア城に潜入するならあらかじめ工作をしてないとダメだって。そういうことができるのはアラン王だし、それにもしアルクス王子がやったのなら、どうしてあたしたちがアキーラにいたときにさらわなかったのかって」

 彼女がペラペラと説明するが……

《確かにフィンもそんなこと言ってたけど……》

 でもまだそれで決まりじゃないって話だったと思うんだけど……

 ―――だが一刻も早く彼女を救い出したいという気持ちは同じだった。

 彼女にとってはエルミーラ王女と共にメルファラ大皇后の警護もまた重要な使命だった。

 確かにアキーラの解放後は大皇后の警護はレイモン軍や都の魔導軍が主体になっているが、何か公式の行事があったような場合はベラトリキスの彼女たちが大皇后の周囲を固めていたのだ。

 しかも……

《リモンまで……》

 個人的にはある意味こちらの方が痛かった。

 彼女はアウラの一番弟子だった。

 それまで彼女は一人ぼっちだった―――いや、ヴィニエーラの遊女たちのような娘たちはいた。

 しかしこの薙刀の業という物はもはやアウラの全てであり、彼女を育ててくれたブレスとの唯一の接点だった。彼亡き後、それを分かち合える相手は誰もいなかった。

 そこに現れたのが彼女なのだ。

 最初は完全な初心者だった。

 だが二人で共に研鑽していった結果、今では彼女の背中を任せることだってできる、まさに自慢の弟子なのだ。

《ファラと一緒にさらわれたのよね?》

 だったら助けないわけにはいかないではないか?

 そんなわけで結局OKしてしまったのだが―――


 アウラがそんな回想に浸っている間にも占いは進行していった。

「次にこちらのカードは今この状況に立ちふさがる障害を示しています」

 そう言ってジェニーが右側のカードをめくった。

 そこには魔法使いのローブに身を包んだ賢そうな女性が描かれていた。

「あ? リディール様ですね?」

 アルマーザが嬉しそうに言うが……

「リディール様?」

 ジェニーが不思議そうに彼女を見た。確かにこういう略称は親密な間柄でないとあまり使わないものだったのだが……

「あ、いや、仲間内ではそんな風に呼んでたりして」

「へえ。すごく怖そうなお方なんですけど……」

 実際ニフレディルとファシアーナの二人は都の一流の魔道士たちにさえ畏れられているのは確かなのだが……

「いやいや、そういうお方こそ本当はお優しかったりするんですよ。きっと」

 慌ててアルマーザが手を振るが……

「かもしれませんが……」

 ジェニーは納得いかない様子だ―――どうやら一般人にはかなり不可解なことらしい。

「それはそうと……ニフレディル様も逆さまよね?」

 ティアが指摘するとジェニーもうなずいた。

「そうですね……」

「ってことは?」

 逆位置だと何やら反対の意味になるというが……

「はい……審判師ニフレディル様は正義とか正しさとか真実などを示しておられるのですが……それが逆位置なので……」

 ジェニーが何やら辛そうな表情で答える。

「何というか、今の状況はそもそもからして間違っていた……といいますか……」

 一同が再び顔を見合わせる。

《そもそもって……》

 アウラはあまり難しいことを考えるのは苦手だった。だからフィンと一緒に旅をしていたときは気楽で良かったのだが……


 ―――そんな彼女でもさすがに今回の計画はちょっと無謀な気がした。

 数名の敵が出てくるくらいなら彼女でもあしらえるだろう。しかしシフラにはシルヴェスト軍がいて―――すなわちあたりに敵がうようよいるということだ。

 かつてエルミーラ王女を救出するためにベラに行ったときも似たような状況だったが、そのときはナーザが一緒だった。おかげで荒事は最小限で済んだと思われるのだが……

「えっと……それで他には誰が行くの?」

 さすがに彼女とティアだけでは心許ないが……

「あ、アラーニャちゃんは来てくれるし、あとイルドの奴もね」

 イルドはともかく、彼女の魔法が頼りになることはもう間違いない。

「他には?」

「後は……アルマーザとかにも頼もうかと思ってるんだけど」

 彼女もわりと腕は立つし、注意力も優れているが……

「ハフラとかリサーンには?」

 こういった場合にはこの二人のどちらかがいてくれると頼もしいと思うのだが―――ところがティアは首を振る。

「あ、あの二人はちょっと……」

「え? どうして?」

「だって言ったら止められそうだし」

「………………」

 いや、それってどうなんだ? と思ったのだが……

「あとあんまり大人数になっても困るし。いざとなったらアラーニャちゃんが飛んで移動できるくらいの数じゃないとまずいし」

 確かに小鳥組作戦を行う必要は出てくるかもしれないが……

「ともかくね。こういうのって時間が経てば経つほど状況は悪くなっていくものなのよ? だから私達が行かないとだめなの。いいでしょ? お姉ちゃん!」

 といった調子で押し切られてしまったわけだが―――


《もしかして、やっぱりまずかったのかしら?》

 一同の顔を見回しても何やらみんな渋面なのだが―――ティアを除いては……

「あ、それで続きは?」

「はい。次のカードはこのまま行くとどういうことになってしまうのかを示していますが……」

 そう言ってジェニーが上のカードを開く。

 そこには再び魔法使いのローブを身にまとった、ちょっと怖そうな表情の女性が描かれていた。

「あ? シアナ様……ってか、ファシアーナ様ですか?」

 それを見たアルマーザがまた嬉しそうな声を上げるが……

《けっこう馬が合ってるのよね?》

 彼女はアラーニャの道しるべとかで彼女に魔法のことを色々教わっていた。そのためいつの間にやら彼女の小間使みたいなことにもなっていたわけだが……

「しかも今回は逆じゃないですよね?」

 アルマーザがジェニーに嬉しそうに尋ねるが……

「あ、まあ……」

 今後の行く末が彼女だとしたなら、なにか凄いパワーで何とかなってしまうということか?―――アウラはそう思ったのだが、ジェニーはなぜか絶句している。

「えっと、これってどういうことなの?」

 ティアが促すと彼女はまた残念そうに答える。

「それが……紅蓮のファシアーナ様は……その破滅を意味するお方なので……」

「えーっ?」

 アルマーザがそう言って口ごもり……

「でも……まあ、確かに……」

 彼女がよくこぼしていたのだが、ファシアーナの部屋は掃除しても掃除しても瞬時にぐちゃぐちゃにされてしまうとかで……

《実際に見たけど……》

 うん。あれはひどかった。

「えっと……それって要するに?」

 ティアが恐る恐る尋ねる。

「文字通り……このまま行ったら破滅してしまうだろう……ということで……」

「えーっ? そんな……」

 ティアが少々青くなるが、そこで慌ててジェニーがフォローする。

「いえ、あくまで“このまま行ったら”ということなんですよ? 運命っていうのは変えられるんですからね?」

「そ、そうよね? それで?」

「はい。カードはその運命にどう対抗できるか、ってことも教えてくれるんですから」

 そう言ってジェニーが下のカードをめくるが……


「「「んえええっ⁉」」」


 一同全員が思わずうめき声をあげた。

 描かれていたのは頭に毛皮の帽子を被ったちょっとした美人が、両手で◯を作っている姿だったが……

《アルマーザ⁉》

 カードには間違いなく“カワウソのアルマーザ”と記されている。

 思わず全員が彼女を見た。

 その本人も大きくため息をつくと言った。

「ティ……リアンさーん。これってもうダメなんじゃないですか?」

「んな……あなた、もう少し自信を持ってもいいんじゃない?」

「でもそんなこと言われたって……」

 確かにこのままでは破滅と言われているところに彼女が出てどうなるというのだ?

 いや、別に誰が出たって何もできなさそうな気がするのだが……

 ところがジェニーは目を見張ってそのカードを見つめていた。

「えっと……ジェニーさん?」

 ティアが声をかけると……

「え? いえ、ここでアルマーザ様が出るとか……」

「えっと、そのカワウソ様に何ができるんです?」

 と、アルマーザが尋ねる。

 ジェニーは一同の顔を見渡した。

「このお方は何か重大な変化の兆しとかチャンスの到来を意味しておりまして……」

「チャンス? ですか?」

「はい。だから確かに今このままでは破滅なんですが、それを回避できるチャンスがある……かもしれないということを示しておりまして……」

「ええっ? そうなんですか?」

「カードはそう語っています」

 一同は顔を見合わせた。

「それで……結局どういうことに?」

 ジェニーはこれまで左右上下の四枚のカードを開示していて、中央に最後の一枚が残っている。

「これは最終的にどうなるかを示しているのですが……」

 そして彼女が恐る恐るといった様子で最後のカードを開くが……


「「「あーっ!」」」


 再び一同からそんな悲鳴ともつかない声が漏れる。

 カードには見慣れぬ衣服をまとい、王冠を頂いた無駄にきりっとした女性が描かれていたが……

 一同は何もかも終わった―――という表情になった。

「あはは……それでこれは?」

 ティアが苦笑しながらジェニーに尋ねるが―――だが彼女は呆然と出てきたカードを見つめていた。

「あのー……それでこれは?」

 再度尋ねられて彼女は慌てて我に返る。

「あ、すみません……いや、あまりにも意外な結果だったもので……」

 一同はまた顔を見合わせる。

「そんなにも意外な結果が?」

「はい」

 そう言って彼女はまだ首を振っている。

「えっと……どういう風に意外なの?」

「それが……その、結果オーライ……といいますか……」

 ………………

 …………

「はい?」

 全員がぽかんとした表情でジェニーを見つめる。

 そんな一同に彼女が説明する。

「このお方は成就とか成功を意味するお方で、すなわち皆さんの旅は完全なる成功裏に終わるということなのですが……」

 ………………

 …………

「えーっ⁉ ティア様がですか?」

 思わずアラーニャが尋ねる。

 そう。出てきたカードにははっきりと“黄昏の女王ティア”と記されていた。

「はい。このお方はまさに大皇后様が危機に陥られた際にいずこからともなく現れて、絶望と思われた戦いを勝利に導かれたわけで……」

 一同はまたまた顔を見合わせる。

《まあ、そういう解釈も成り立つのかしら?》

 全員がそう考えているのが丸わかりなのだが―――これはいったいどう考えたらいいのだろうか?

「えっと……これって本当なんですか?」

 思わずアルマーザが尋ねるが……

「私は出てきたカードを読むだけですので……」

 ジェニーも何やら目を白黒させている。

「私もこのような結果はあまり見たことはございませんが……カードがこのように語っているのならばそうだとしか……」

 ………………

 …………

 ……

 一同の表情に現れているのは……


《この占いって大丈夫なのかしら?》


 ―――ということだった。

 そもそもベラトリキスカードで占いができるという時点で眉唾ものなのに、考えてみたらこの人はカードでイカサマがバレて逃げていたのではなかったか?

「あはは! ともかく全然ダメってのよりはいいんじゃない?」

 ティアがやけくそと言った表情であたりを見回す。

「それはそうですけど……」

 アルマーザが渋い表情だが―――そこにジェニーが言った。

「そうですよ? どんな場合でも希望を失ったらそこで終わりですから。多分皆様の前にはたくさんの障害が出てくるのかも知れませんが、それを克服できるチャンスは絶対あって、それを逃さなければきっと何とかなるということなんですよ」

 まあ確かにある意味それはその通りではある。

「あ、ともかくどうもありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」

 ―――そんなわけでその場はお開きになった。

 そこでめいめい毛布に潜り込んで横になったのだが……

「しかし、どうしましょうねえ? 明日から」

 ジェニーがお手洗いに行った隙にアルマーザが尋ねる。

「そりゃ、ともかくここを出る方法を探さないと……」

 ティアが答えているが……

《まさに前途多難よね……》

 ガルデニアの城門でチェックされているのは間違いない。

 そこが何とかできてもその後がまた不透明だ。

「アコールは経由しないほうがいいのよね?」

 アウラが尋ねるとアルマーザが答えた。

「ですよねー。あそこじゃ完全に顔が割れてるし……」

 アコールには現在大草原の中央突破をしてきたレイモン軍が駐留しているが、彼らはみんなベラトリキスの顔を知っている。しかも特にアルマーザはクルーゼの公演もあって人気者の一人なのだ。

《見つかったら連れ戻されそうだし……》

 少なくとも連絡が行っているのは間違いない。

 しかし、だとしたらどうやってシフラまで行くのだ?

 彼女たちがそんなことを考えていると、ジェニーが戻ってくる音がした。

「もう今日は寝ましょ。夜も遅いし」

 いいアイデアがない以上無駄に夜ふかししても仕方がない。

 と、そこに部屋の扉が開いてジェニーが入ってきたのだが……

「みなさん、寝ちゃいましたか?」

 彼女が話しかけてきたのだ。

「え? まだ起きてるけど?」

「でしたらちょっとその、お話できません?」

「話って?」

 ジェニーはベッドに座った。

「えっとですね、あたし考えたんですけど……みなさん何だかすごく運が強そうなんで、それで途中までご一緒できないかなーって思って……」

「え?」

 一同が思わず彼女の顔を見る。

「みなさま、シフラまで行かれるんですよね?」

「うん。そうなんだけど……」

 彼女がにっこり笑った。

「でしたら途中まで連れてってもらえませんか? ほら、今年はガルデニアで冬越ししようって思ってたんですけど、あんなケチが付いちゃって。ここにいたら何だか危なそうだし……」

 一同は顔を見合わせた。

「あ、やっぱダメですか?」

「いや、ダメってことはないんだけど……でも、ちょっとどうやって行くか考えてたところなんで……」

 ティアの答えにジェニーが少々驚愕する。

「えっ⁉ 行くコース……決まってなかったんですか?」

「ん、まあ、ね?」

「とりあえずアコールまでとかも?」

「あ、ちょっとそれもまずくて……」

 ジェニーはしばらく絶句する。

《まあ、普通は呆れるわよね……》

 確かに今回の作戦は計画性という意味では少々難があった。

 別に彼女一人が増えるくらいならどうということはないが、そもそもの行動計画が立っていない以上、どうしようもない。

 というわけで彼女には残念だが―――と思ったときだ。

「あのー、それじゃ……私の知り合いに頼んでみましょうか?」

 ………………

 …………

「えっ? 今なんて?」

「実は知り合いにちょっと案内してくれそうな人がいるんですけど……」

 ………………

 …………

 ……

「えっ? そんな人がいるの?」

「ええ、まあ……」

 ティアの問いにジェニーが意味有りげに微笑んだ。