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2000-10-28 「パリふんじゃった、花の都の奇人たち」尾嶋彰、1995
本日、古本屋の90円本コーナーで奇書を見つけました。尾嶋彰(あきら)氏の著作、1年ぐらい前か日本の週刊誌等で話題になった、パリで複雑な殺人事件にからんで自殺(獄中で?)した人、おぼろげな記憶ですが、パリの不動産の取得に関して日本人女性が騙されたとしてその復讐をする、殺し屋もからむ謎の事件であったと思います。建築家で本を出したことがあると書かれていたので、間違いなくこの人の本でしょう。
内容は9篇のオムニバスの実話形式で、名作というものではないですが、日本人の在仏の建築家からみたパリのシステムの複雑さが描かれて、文芸春秋が本として出すだけの内容はあります。奇人に対して思いいれというか、暖かい視点で書かれているのが特徴でした。
「サンタンヌ通りは、今でこそ東京銀行の支店があり日本レストランや旅行代理店が立ち並ぶ、日本人租界であるが70年代初頭は世界に名だたるゲイの街で日が落ちる頃になると通りには男娼が出没し、それを求める中年の紳士が行列をなした。パリ生活に慣れない人間にとってはちょっと足を踏み入れ難い場所でもあり、少々恐いところであった。」
との記述は、へえと驚くばかり。現在は日本人通りそのものです。サンタン通(rue
Sainte-Anne)りはかなり細長く、先は中心部から離れていますからよくわかりません。この通り、当方もよく知っている通りです。しかし、東京三菱銀行支店もいまはないとかですから世はかわりました。この謎の人、尾嶋氏の生涯も気にはなります。後書きに、「一通り一時雨(ひとしぐれ)一村雨(ひとむらさめ)の雨宿り、百生の機縁。人と人の出会いとはまた楽しいものです。」とは風流人らしい表現です。
「パリふんじゃった、花の都の奇人たち」
尾嶋彰、1995年11.30第一刷、文芸春秋、1700円
著者略歴(本での紹介);1941年東京生れ、70年渡仏、82年フランス国立芸術大学(ボザール)で公認建築士のディプロマを取得。現在、パリ市においてOJIMA建築設計事務所を主宰している。
1.金貨甘いか酸っぱいか
2.ガレの家具に秘めた恋
3.いざ歩め!泥棒の王道を
4.フリーメイソンよ、おまえもか
5.ボンベちゃん、かわいい
6.赤ん坊は国家の所有物
7.男爵様が夜逃げした
8.ある日、うが突然に
9.さらば屋根裏の賢人
10.浴槽は子羊の丸焼きのために
11.一週間で億万長者になる方法
12.哀れなり女富豪
あとがき
これらの体験をした当時まだ30代半ばだった。毎日、目のあたりにする仏国人の生活は過去の何処の記憶の引き出しにもない現象で滑稽で奇妙でそれは新鮮だった。そして、そのひとつひとつをどう無理なく自然に処理してゆくか。この手腕の上達が仏国での新米建築家としての足跡を残すことにつながると信じ、真剣に取り組んだ。
(略)ご紹介した主人公たちを「奇人」と呼んでよいものか。人は生きる為にいろんな手練手管を尽くしている。しかし人のホンネはかわいいし、愛すべきものではないかと思う。ある人の行動がたまたま非常識であったり非社交的であったりすると人々は誤解する。しかし彼らには彼らの生き方の自由があり、真理がある。
(略)
一通り一時雨(ひとしぐれ)一村雨(ひとむらさめ)の雨宿り
百生の機縁。人と人の出会いとはまた楽しいものです。
1995年10月 尾嶋彰