アメリア産業社会の盛衰、鈴木直次、岩波新書、1995年5月22日、640円
90円古本コーナーで見つけた「アメリア産業社会の盛衰」という本、20世紀は米国の時代でそれが衰えて次の世紀にとは簡単に行きそうではないことについて「国際的な技術」という小節で、米国から日本に技術移転、現在はその日本の技術が米国に移転してIT革命と結び付いて優位にたったという説明をしています。著者はソフト産業を軽視しているのですがIT革命については、かなり正しく認識していると思われます。95年時点でこのように書いているところは立派です。
○国際的な技術移転
産業革命に英国で生まれた工業生産の原理は、資源は豊富だが労働力が質量ともに不足し、標準化された製品への巨大な需要が存在した米国で大量生産方式の完成に結び付いた。それが戦後の日欧の工業発展を支える技術的なベー
スとなったが、同時に資源不足と均質な労働力という条件のなかで多様な消費ニーズを充たさねばならなかった日本では、よりフレキシブルで、省資源、人間と技術を等しく重視した生産システムへと作り替えられた。
石油危機に代表される資源節約と、標準化製品に対する需要の飽和という世界的な環境のなかで、このシステムは抜群の効率を発揮し、再生をめざす米国の製造業に伝播していったのである。
日本で生まれた生産システムが米国でどのように発展し、定着して行くのか、これは今後の興味ある問題である。現状では、米国は自らの強みであるコンピュータなど情報技術の徹底的な利用をてこに、その高度化をはかっているかの感がある。
最近大きな話題となっているマルチメディアは極めて細分され個別化された需要に敏感に対応しうる財とサービスの供給を可能にするものである。コンピュータはまた、コミュニケーションの緊密化にも絶大な威力を発揮している。日本であれば、会社内の柔軟な職務の分担と人材配置、チームワーク、会社間の長期の取引き関係によって達成されているフェース・トゥ・フェースの関係は、米国では技術を媒介にしなければ実現不可能だった。設計と製造、販売との間のセクショナリズムという垣根を取り払うためにも、また製品開発の初期からサプライヤーを参加させ、彼らとの間に機動的な部品調達を実現するためにもまず新しい技術が日本以上に必要だった。
米国企業はこうした無限の可能性を秘めているかに見える新技術をいち早く採用し、伝統的な米国的経営の強みをよみがえらせて、日本企業を遥かに上回る業績の改善に成功した。それゆえ、今度は本家の日本
企業がこの技術と経営手法を取り入れようとしているのである。
鈴木直次;1947年東京生れ、1970年上智大経済卒、1976年東大経済博士、現在;専修大学経済学部教授
プロローグ
I.大量生産方式
1.米国的製造方式
ロンドン万博、なぜ米国に、互換性生産の完成、米国経済社会の特質
2.科学的管理の確立
内部請負制、体系的管理運動、ティラーの科学的管理、ティラー主義の普及と限界
3.大量生産方式の完成
自動車産業による完成、フォードの生産方式、スローンの製品・販売戦略、スローンの組織改革
II.超大国を支えた産業
1.多彩な工業生産力
成熟産業と新産業、鋼鉄業、自動車産業、家電産業
2.新産業の発展
ハイテク産業の急成長、半導体産業、コンピュータ産業、航空機産業、化学産業
3.サービス産業の成長
サービス経済化、サービス経済化の原因、サービス経済化と米国経済
III.製造業の国際競争力の低下
1.国際競争力とは
ヤング委員会報告
2.国際競争力の低下を示すもの
3.国際競争力低下のミクロ的な背景
主要産業の実態、大量生産システムの限界
IV.米国産業社会の特質
1.政府の経済的役割
大きな政府から小さな政府へ、福祉国家、国防国家、規制国家
2.企業経営
揺れ動く米国的経営への評価、米国的経営の特徴、短期的経営とその弊害、短期的経営の背景
3.労働問題と労使関係
敵対的な労使関係、労働市場の変貌、労使関係
V.米国製造業の回復
1.戦略的産業の復活
自動車産業、半導体産業
2.米国製造業の現状
製造業の国際的地位の改善、生産・販売・貿易、生産性上昇と雇用、賃金、企業の業績
3.産業社会の変貌
経済を動かす主役たち、政府行動の積極化、企業経営の変化、労使関係の変貌
エピローグ
国際的な技術移転、世界経済のなかでの米国産業、「第三次産業革命」の光と影