2001-01-03 「解決!フェルマーの最終定理、現代数論の軌跡」加藤和也,1995年
21世紀を迎え本屋を覗くと、以前、識者よりお教えいただいたフェルマー(Pierre
de Fermat, 1601-65)の最終定理について書かれたものがありました。数学業界というと別世界という感じがしていましたが、著者がわかりやすく書くようにつとめており、楽しめました。日本人がこの分野で大活躍していること、数学そのものが人間的なものに関わりを持つことがわかりました。
すると全く偶然なのですが、別の識者より、にた本を読まれたとの以下のE-mailを貰いました。
<識者より>
「天才数学者たちが挑んだ最大の難問 フェルマーの最終定理が解けるまで」、早川書房 アミール著作 ¥1800です。5章 日本人数学者の早すぎた夢 137ページが圧巻です。かの有名な、フランスのヴェイユのアカハラが記されています。聖女・ソモーヌ・ヴェイユの血縁ですが。志村・谷山予想というのがあるのですが(あるらしいが、本当でしょう。私は数学は門外漢ですから)、その谷山さんは、次のように書かれています。「多くの若い数学の天才たちが同じ道を歩んだように・・・・31才の誕生日から5日後だったが・・・谷山豊はアパートでしんでいるのを発見された。机の上には遺書があり、自殺であった」
「解決!フェルマーの最終定理、現代数論の軌跡」加藤和也
○まえがき
今から350年程前( 1630年代といわれる)仏国の数学者ピエール・ド・フェルマーが古代の数学者ディオフィントスの書物「数論」の余白に書いた一文が、後の数学に波紋を投げかげることになりました。nが3以上の時、x(n)+y(n)=z(n)をみたす自然数x,y,zは存在しない。そのことの真に驚嘆すべき証明を発見したが、余白が狭すぎて書けない、という意味のことでした。後に多くの人が証明を与えようと試みましたが、成功せず、フェルマーの言明は「フェルマーの最終定理」「フェルマー
予想」等と呼ばれるようになりました。ところが、1994年アンドリュー・ワイルスによってついに証明が与えられたのです。
○青春の夢・中年の夢・ゼータの統一の夢
<数学のときわ荘時代−類体論をこえて>
佐藤文広さんは、数学セミナー、1994年2月号において後にすぐれた漫画家となった人達が、漫画への情熱を抱いて「ときわ荘」というアパートに集まった青春時代を「ときわ荘時代」と呼んで懐かしがっていることを述べ、日本の数学の「ときわ荘時代」は、1950年代の、小野孝、久賀道郎・佐武一郎・志村五郎・谷山豊・・・・などの若く活動的な人々が輩出した時期であろうと述べています。
○クンマーの定理
ζ(s)=1 +1/2(s) +1/3(s) +1/4(s) +1/5(s)+
これをリーマン・ゼータ関数と呼ばれます。オイラーはζ(2)=1/6
Π(2)であることや、γが2以上の偶数のとき、ζ(γ)=有理数xΠ(γ)であることを証明しその事実のふしぎさに非常に感激しました。
保型形式のこと
1.保型形式と宇宙
2.保型形式とナマギーリ女神
ラマヌジャンは不思議な直観力を持つ数学者でした。「ナマギーリ女神が夢の中で啓示を与えてくれる」と言っていました。1887年にインドに生れ、15歳ごろ「純粋及び応用数学の初等的結果一覧」(カー著)という本を読んでそのとりことなり、自分で次々に深い定理を発見してゆきました。1914年に英国の数学者ハーディに招かれ英国に渡り共同研究をしましたが、1917年に病気になり、1919年にインドに帰り、翌年32歳で死去しました。ラマヌジャンの残したたくさんの不思議な、無限和や無限積についての等式を見ると、ラマヌジャンのような直観の全くない私などにも、「無限というものの持つ香り」のようなものが感じられます。(一例)
(n=1〜∞)Σn[{e(2Πn)-1}](-1) =(1/24)-{1/(8Π)}
は、保型形式論に属することです。たとえば(n=1〜
∞)Σ1/{n(2)}={Π(2)}/6という香り高い等式はその発見者オイラーを喜ばせましたが、オイラーもラマヌジャンも無限和や無限積が好きでした。こういう人たちのことを思うと、数学は、有限の場所にいる私達人間と無限との間の、通い道のように思えます。
3.保型形式と雪やこんこあられやこんこ
4.保型形式と二次形式
5.ヘッケ作用素
6.フェルマー予想と楕円曲線
7.論文
今回の解決法
岩沢理論山
↓尾根づたい
谷山・志村予想山(楕円曲線+保型形式)
↓
フェルマー予想の大木
セルマー群の元の個数=ゼータの値(岩沢理論の一般化)
→谷山・志村予想→フェルマー予想
ワイルスさんは、この等式をセルマー群とゼータ関数について証明したのです。
○セルマー群とゼータの値
谷山・志村予測はいろいろの述べ方があるものです。
「有理数体上の楕円曲線のゼータ関数は、その収束域からすべての複素数に対して定義された正則関数に延長され、或る自然な関数等式みたす」
「有理数体上の楕円曲線は保型形式でとりおさえられる」
「楕円曲線が半安定であり、かつ、その判別式がある整数のn乗になることはありえない。」
○数論の現在 1992年4月号
ガウス「どのような美しい天文学上の発見も、高等整数論が与える喜びには及ばない」
ヒルベルト「数体論は驚くべき美と調和の建造物である」
日本が高木貞治氏の存在の影響もあり(小野孝さんから、岩沢健吉さんが高木貞治さんの写真を机の上に置いて数学の研究をされたことをうかがった)、また数論がおそらく日本人の趣向に合っているのであろう、数論のレベルが高い。
<脚注>黒川信重氏のご意見では、日本人が数に強いことの原因にその風呂好き、温泉好きがあるという。風呂から出るとき百まで数えることで数の神髄にふれることができ、これはシャワーでは得にくいという。
「解決!フェルマーの最終定理、現代数論の軌跡」
1995.10.15初版、日本評論社、定価2575円
著者(加藤和也);
1952年 和歌山県生れ、1977年東大大学院修士課程終了、現在、東工大教授
まえがき
6月23日ニュートン研究所でのワイルスの講演
フェルマーからワイルス
ローレライの谷のもくずと
青春の夢・中年の夢・ゼータの統一の夢
楕円曲線のふしぎ
フェルマー予想の谷山−志村予想への帰着
ワイルスさんの取り組んでいること
困難の打開法をさぐる
鶴さんはゼータのすみかで
ガロア理論と数論
素数の笛の音・・・類体論
非アーベルの渓谷と楕円曲線
不抜のフェルマー城陥落す
ついに来るべき時が・・・
保型形式のこと
はるかな夢を
付録
数論の現在
補足