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2001-03-02 「寒い国から帰ってきたスパイ」、ジョン・ル・カレ著、宇野利泰訳、1963年

タイムの3月5日号の特集はFBIの防諜counterinteligence workの専門家が15年間、ソ連・ロシアのスパイであったことについてでした。動機ですが、ソ連に情報提供をもし出た1985年当時のFBI職員の給与はかなり低かったとのことで金銭目的と、ダブルスパイに憧れていたらしい(親はシカゴの警官で30年間反共産党情報活動に従事)ことです。
著名な小説家、ジョン・ル・カレが、自らスパイであったと昨年、告白しています。
古本屋で見つけた「寒い国から帰ってきたスパイ,1963年」を読んだところ、これは面白い小説でした。人間が類型的ではなく、なまなましく描かれているし、時代や街が浮かび上がっていました。そもそも本業がスパイであったのですから、実体験に根づいているのでしょう。あらすじはかなり複雑で読者におもねるところがないのが英国的に見えました。

Time, 2001.3.5 The FBI Spy (Robert Hanssen)
Hanssen claimed that what he really wanted was to be a double agent, like the British intellectual turned mole Kim Philby.
Paid some $600,000 in cash, plus three diamonds, and had been told an additional $800,000 lay banked for him in a Moscow account(though he scoffed that he knew the account was a typical spymaster's ficition).

寒い国から帰ってきたスパイ、早川書房、1978年初版 ジョン・ル・カレ、訳者宇野利泰、520円 The Spy Who Came in from the Cold, by John le Carre, 1963.

1965年映画化、パラマウント、監督マーティン・リット、主演;リチャード・バートン、クレア・ブルーム

1.検問所、2.ケンブリッジ・サーカス、3.転落、4.リズ、5.かけ売り、6.スパイ、7.キーヴァ、8.ル・ミラージェ荘、9.2日目、10.3日目、11.アレックの友人たち、12.東ドイツ、13.ピンと紙ばさみ、14.銀行の返事、15.舞踏会への知らせ、16.逮捕、17.ムント、18.フィドラー、19.支部会、20.査問会、21.証人、22.議長、23.告白、24.地区委員、25.壁、26.寒い国から帰る、訳者あとがき

1.検問所;リーマスが東西ベルリン検問所において逃亡してくる、カルル・リーメックを迎えるが、射殺される。リーメックは東独社会主義統一党最高会議のメンバーで英国のスパイであった。

2.ケンブリッジ・サーカス;リーマスは、東独諜報部副長官42歳のハンス・ムントにスパイ合戦で敗北。東独に送ったスパイが次々と摘発・殺害される。リーマスは外観から評価が困難であるが、ロンドンのクラブでは会員のひとりと受け取ってもらえないが、ベルリンのナイト・クラブだといつも決まって最上のテーブルをあてがわれた。

3.転落;リーマスがくびになると聞いても驚くものはいなかった。諜報部員としての彼はすでに歳をとりすぎていた、この仕事には、プロのテニス選手に匹敵する反射神経を必要とした。勤続年限に中断があったため、わずか400ポンドの年金しか支給されない。リーマスの任用期間はなお数ヶ月残存していたので銀行課へまわされた(東独のスパイになるためのカモフラージュ)。

4.リズ;リーマスはベイズウォター心霊研究図書館に職を得る。22,3歳のリズ・ゴールドと出会う。リズに夕食に誘われ、何度となく彼女の部屋で食事をするようになる。
「リズ、君は何を信じている?」「私は、そう簡単に信じられないのよ、アレック」「宗教心はあるのか」「まるっきり誤解よ。わたし、神なんか信じない」「では、何を信じている?」「歴史」「リズ、驚いたよ。まさか君がコミュニストとは」その夜、彼女は彼を泊まらせて二人は愛人となった。

5.かけ売り;リーマスが図書館を欠勤して、リズはアレック・リーマスの部屋に看病に向かう。リーマスは食品屋の主人とかけ売りをめぐって喧嘩して相手を負傷させる(わざと監獄に入るようにする)。

6.スパイ;リーマスの3ヶ月の刑務所生活。出所すると、アッシュ(東独スパイ)という男がつきまとう。その後、イギリス情報部管理官と打合わせ。「これが君の最後の仕事になる。片づきさえすれば、今後は二度と寒い場所に出ないでもすむようにする」

7.キーヴァ;リーマスはアッシュと食事。サム・キーヴァと3人で話す。情報提供で15000ポンドの謝金の提案。

8.ル・ミラージェ荘;キーヴァと共にハーグ空港に到着、ピーターズに訊問を受ける。15000ポンドと引き換えに情報を売る。
リーマス「1939年に技術将校として招集を受ける。語学が得意なので海外の特殊任務に応募。1949年から情報部に復帰、ジョージ・スマイリーらと仕事。1951年5月にベルリンに派遣、カルル・リーメックの活動について詳しく話す」

9.2日目;ピーターズの質問

10.3日目;ピーターズから英国で指名手配されているとのニュースをリーマスは聞く。

11.アレックの友人たち;リズ・ゴールドの下宿はベイズウオターの北外れにあった。アレックス・リーマスの友人、ジョージ・スマイリーであった。

12.東ドイツ;リーマスとピーターズはテンペルホーフ空港に着陸。東独情報部の幹部フィドラー(ムントの敵対者、ムントがイギリスの二重スパイを見破る)に出会う。

13.ピンと紙ばさみ;フィドラー「いまごろスターリンを引用するのは時代おくれと言われるかもしれないが、これはこんなふうに言ったことがある。"50万の人間が清算されるのを統計上の問題で片付け、一人の男が交通事故で死亡するのを国家的な悲劇とさわぎ立てる"とだ。かれはつまり大衆におけるブルジュワジー的感傷を笑っているのだ。偉大な皮肉やだったからな。」

14.銀行の返事;フィドラーに対して、リーマスは、1年ほど前にベルリンで管理官とカルル・リーメックが3人で打合わせをしたことを話す。フィドラーはムントがイギリス諜報部の逆スパイと疑う。

15.舞踏会への知らせ;リズが共産党東ドイツ支部の研究会に列席するよう招請される。

16.逮捕;フィドラーとリーマスはロッジに入った。護衛を打ちのめす。リーマスは逮捕される。

17.ムント;ムントは完全に非情の男なのだ。

18.フィドラー;査問会はフィドラーがムントの罪を立証する検事の立場、カルデンが彼の弁護士。

19.支部会;リズはライプチッヒで幸福であった。特別会議に列席するよう命令を受ける。

20.査問会;フィドラー の証言、同志ムントは42歳、人民防衛省の副長官、28歳のときに諜報部に加入、1956年にムントは東ドイツ鉄鋼調査団の一員としてロンドンに赴任。イギリスで逮捕状が出されたが、脱出、1959年東ドイツに帰国。1960年に東ドイツ諜報部の対敵スパイ部門を主宰する地位につく。アレックス・リーマス、年齢50歳、職業は図書館員、1年前はイギリス諜報部員。ケンブリッジ・サーカスに本部あり。

21.証人;同志ムントの主張を要約、英国がムントのおいおとしを狙った。

22.議長;エリザベス・ゴールドの訊問、ライプチッヒ在住のイギリス共産党員。チェルシーに住む、ジョージ・スマイリーに電話するように言われる。

23.告白;査問委員会は同志フィドラーを解職する。リーマスの拘禁は継続する。

24.地区委員;女看守の言葉;リーマスはフィドラー と手を組んでムントを失脚させる計画をたてた。最高会議はフィドラーの裁判に踏み切るらしいとのこと。
ムントにより、リーマスとリズは釈放される。ムントはロンドンのスパイ、ムントの命を救うことに今回の作戦の目的があることにリーマスは初めて気づく。

25.壁;フィドラーが破れムントが勝った。ベルリンの壁を超える手筈を教えられる。リーマスとリズの逃亡。

26.寒い国から帰る;リーマスとリズが壁で越境中に射殺される。
その時、一斉射撃が開始された。彼の手に彼女の痙攣が伝わった。「飛び降りろ、アレック、飛び降りるんだ!」いまやだれもかまわず叫び立てた。すぐ近くにスマイリーの声も聞こえた。「女は?女はどこにいる?」彼はゆっくり梯子を降りていった。女は死んでいた。横にした頬に黒い髪がかかっている。降り注ぐ雨から、彼女を守るかのように。
つぎの射撃は一瞬、躊躇したかに見えた。号令をかける者はいたが、だれひとり発射しない。最後に銃弾が彼を捉えた。二発か三発。リーマスは突っ立ったまま、闘技場の盲いた牡牛のように周囲を見回した。倒れるとき、彼は見た。大型トラック二台におしつぶされた小型車を。うれしそうに窓から手をふっていた子供たちの姿を。

訳者あとがき。

朝日12/27 00:46 ◇英作家ル・カレ氏、大学時代からのスパイ告白◇
 「寒い国から帰ってきたスパイ」などスパイ小説で知られる英国の作家ジョン・ル・カレ氏が、オックスフォード大学在学中から学友たちに対するスパイ活動に手を染めていたことを告白した。26日放映されるBBCのドキュメンタリー番組でル・カレ氏は、「1940年代後半のオックスフォード大学は、学生をスパイに勧誘しようとするソ連など東側世界の草刈り場だった。私の任務は、だれが勧誘者かを割り出すことだった」と述べた。ル・カレ氏は作家デビューするまで英情報機関のスパイだったことを認めている。今回、家宅侵入や謀略活動など自らのスパイ手口に初めて触れ、「相手を欺く行為は官能的だった」と、スパイの身分に大きな喜びを感じていた心境を語った。[2000-12-27-00:46]

ル・カレ John le Carre (1931― )
イギリスのスパイ小説作家。南イングランドのプールに生まれる。第二次世界大戦中は情報部に勤め、1956年にはイートン校の教師となり、59年からは外務書記官となって旧西ドイツに駐在した。63年に発表した『寒い国から帰ってきたスパイ』は大成功を収め、数々の賞を得た。ほかに『死者にかかって来た電話』(1960)、『高貴なる殺人』(1962)、『鏡の国の戦争』(1965)、スマイリー・シリーズ三部作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』『スマイリーと仲間たち』(1974〜80)、『リトル・ドラマー・ガール』(1983)などがある。セックスと冒険にあふれたジェームズ・ボンド物のようなものではなく、グレアム・グリーンやエリック・アンブラー系統をよりいっそう突き詰めて、悲劇的な末路をたどるスパイを描き、新境地を開拓した。〈梶 龍雄〉【本】宇野利泰訳『寒い国から帰ってきたスパイ』(ハヤカワ文庫)

毎日02/21 20:55 <FBIスパイ事件>6人の子持つ「良き隣人」として質素に=替
 【ワシントン20日布施広】米連邦捜査局(FBI)のベテラン捜査官、ロバート・ハンセン容疑者(56)が旧ソ連・ロシアのスパイとして逮捕された事件は、冷戦終結後も続く米露のし烈な諜報戦を浮き彫りにした。同容疑者は1985年から米国の機密情報を流す一方、バージニア州の自宅では6人の子供の父として、一見「普通の生活」を続けていた。FBIの調査などによると、同容疑者が計22回にわたって流した情報には、米国の核開発の極秘文書も含まれる。当初は現金受領を危険と見たのか「子供の安全のため報酬はダイヤモンドにしてほしい」という書簡も出していた。
 同容疑者は76年にFBI入り。防諜の専門家で、無口な性格のため同僚は「ドクター・デス(死)」とも呼んだ。95年から国務省で勤務したが、不審な言動のため昨年暮れにFBI本部に呼び戻され、ひそかな身辺調査が続いていた。FBIは今月、同容疑者のパソコンを調べ、ロシア情報機関への連絡とみられる文書類を入手。18日夜、ゴミ袋に詰めた機密文書を自宅近くの公園の橋の下に置いて戻ってきたところを逮捕した。別の公園にロシア側が報酬の現金を置き、同容疑者はこれを回収する段取りになっていた。
 報酬として計140万ドル(約1億6000万円)を得ていた割には暮らしは質素で、毎週教会に通うなど「良き隣人」として通っていた。ロシア側への書簡で同容疑者は「この道を歩むことを14歳の時、決めていた」と書いているが、祖国を裏切ることを決意した経緯は明らかでない。[2001-02-21-20:55]