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2001-03-03 「20世紀は人間を幸福にしたか」、1998年1月16日初版、柳田邦男、講談社、1600円

古本屋で見つけた、柳田邦男が8人の識者と雑誌・現代で対談したものをまとめたもの。著者は真面目に種々の問題に取り組んでいるがNHK的で面白くないと、思っている人です。8人の話のなかでは、河合隼雄と村上陽一郎が、新しい方向について述べているように思えました。いずれも具体的ではないのですが。

20世紀は人間を幸福にしたか、1998年1月16日初版、柳田邦男、講談社、1600円

著者;1936年栃木県生まれ,NHK記者をへてノンフィクション作家に。
1.科学の世紀とたましい、河合隼雄
2.私のいのちは私のもの、星野一正
3.知の組み替えの時代、中村雄二郎
4.五つの終わりのあとに、高坂正尭
5.民族・宗教・文化の脱異境へ、樺山紘一
6.能力主義からデモクラシーへ、伊東光晴
7.第三世界文学登場で真の世界文学へ、加賀乙彦
8.安全こそ科学技術の中心課題、村上陽一郎
9.子供の危機からの警鐘、河合隼雄

1.科学の世紀とたましい、河合隼雄
河合「仏教というのは、関係性から出発しているですから。仏教では私というのはないわけです。私はないけれどもあらゆる関係性のなかで私が存在しているかのごとく見えると。西洋だと全く逆で、個人があって個との関係を見るわけである。しかし、仏教は関係が先行しているわけですから、その関係が刻々と変わっていくなかで自分と周囲の人との関係が、別の形になるかもしれない。全部がそれこそ「たましい」の次元ですね。だから仏教というのはすごい。ところが、そんな考えをしていると、自然科学は出て来るはずがないわけですよ。」

2.私のいのちは私のもの、星野一正
星野「細分化した臓器や細胞を集めても人間にはならない。心が入っていないから。そのことを医学者は忘れてしまった。そこで私は生命倫理に力を入れるようになった」

3.知の組み替えの時代、中村雄二郎
中村「あまり古い話はしたくないけれど中江兆民が晩年にかいた、続1年有半で、日本に哲学なし、と言い放っています。徹底して考え自分なりに突き詰めたことに責任を持つという態度が日本にはない、と。私は30年ぐらい前から何とかそれを覆したいと思っているんです。」

4.五つの終わりのあとに、高坂正尭
「戦争で決着をつけた昔と違い、いまの時代は決着がつきにくくなった。最近の世界政治は、選挙なしに国会をやっている日本のようなもので」

5.民族・宗教・文化の脱異境へ、樺山紘一
樺山「古代ギリシャのポリスで作られたデモクラシーという言葉の意味は「民の力」。もちろん古代のギリシャ人にも素っ頓狂な人間やわがままな人間もいれば、進歩的な人間や保守的な人間もいた。そんな人間たちがアゴラという広場に集まり、決まった課題について徹底的に議論しながら一定の時間内に結論 を出して折り合う形を追い求めた。
現代はみんながアゴラ広場には行けないが、それを担保する手段として高度化したメディアがあって、全世界がひとつのネットワークに乗る事ができます。そのなかで多様な価値観なり利害関係をどうやって調整できるかが、これから一番の問題になるでしょうね。」

6.能力主義(メリトクラシー)からデモクラシーへ、伊東光晴
伊東「発展途上国の所得が20%上がったら資源問題や環境問題は無視できなくなるし、生活水準が先進国並みになったときは地球規模の汚染問題になります。その場合、現実的な対処の仕方としては、先進国の所得水準を下げてバランスを取る以外に手はない。
この問題が1992年のリオデジャネイロの、環境と開発に関する国連会議で議せられた時、アメリカは賛成しなかった。国内で反発を買い、政権が維持できないという深刻な政治的判断です。日本の代表はその場で賛成している、真剣にやる気がないから」

7.第三世界文学登場で真の世界文学へ、加賀乙彦
柳田「日本が貧しかった時代、情報化以前の時代に、東北地方でひとり書いていた宮沢賢治の作品はラテンアメリカやアフリカの文学と今日点があるような気がします。」
加賀「20世紀は、二種類の小説家を作り出してしまったんです。一方でふるさとを目指せという小説家、また一歩でふるさとを喪失した小説家。これからは、両方あいまってこれからの文学を担っていくだろうし、20世紀はそういう運命を持つ世紀です」

8.安全こそ科学技術の中心課題、村上陽一郎
柳田「村上は、西欧近代文明の普遍主義を批判した上で結論として寛容を導入した相対主義をこれからの共通理念ととして成立させねばならないと提言している」
村上「20世紀が自らの独創によって創り出したものは、2つの核科学技術といわれる原子核と細胞核。それにコンピュータを加えた3つであるとよく言われます。
...発展史観というか啓蒙史観的な科学史の書き方が、まがいものに見えちゃった。その時期にパラダイム理論で有名なトーマス・クーン、私がのちに紹介したハンソンやファインアーベントなど、米国で新進の科学史家がでてきた。彼らは、従来の啓蒙史観にはっきりノーという歴史感を提案した。...科学者と呼ばれる人たちの相当部分は依然として自分たちは絶対不変の真理の探究をやっているんだ、複数主義とか...多元主義とか相対主義といっても認めないかんがえがある。...科学・技術が科学技術に変わったわけで、それが20世紀の大きな変化だろうといえる。...21世紀のキーワードの一つに安全があると思っています。

9.子供の危機からの警鐘、河合隼雄
河合「ふたつよいこと、さてないものよ、という僕の好きな言葉を持ち出してくるとピッタリですが、それですますのはよくないことで、何がよくて何が悪かったかをしっかり認識する必要があると思います。端的な言い方をすると計量し計測することの出来るものについては、急激に豊かになったのだが、それに気をとられて計測できないものの価値のほうを忘れがちになったことが大きい問題だったと思います。目に見えないもの、測れないものの価値をよく考えながら進歩を考えていかないと、人間の幸福はなかなか得られないと思うのです。